Googleのスマホ「Pixel 3」は極上品 ただしスマホは進化し過ぎた

    スマホは我々をとらわれの身にし、社会に悪影響を与えるが、救いの手など誰からも差し伸べられない。ただし、よい面もある。Googleの「Pixel 3」は極上スマホなのだ。

    世界は炎上しているのに、ポケットに入れたGoogle純正スマートフォンの最新モデル「Pixel 3」は冷たい。アップデートは段階的になされるだろうが、なかなか上出来なスマートフォンだ。 Android好きで価格に納得がいくのなら、購入を勧める。

    金属とガラス製の黒みを帯びたこの板切れは、背面の指紋センサーに指をこすりつけられると目覚める。

    すると情報が押し寄せてくる。

    同僚から、暗号化チャット・サービスのSignal(※1)で「もう終わりだ」というメッセージが届く。高評価したニュースサイトから、サウジアラビア人ジャーナリスト殺害事件と犯人らしき人物に関する詳報のプッシュ通知が届く。

    地域限定SNSのNextdoorには、近所の人たちが「飲み水から危険な濃度で農薬が検出された」と投稿している。警察への通報をベースに事故や事件の情報を集めて通知してくれるアプリのCitizenからは、サンフランシスコの街を大混乱に陥れた、怒り狂って暴れている裸の男をビデオで撮影するよう促される。

    Facebookはサイバー攻撃を受け、私たちユーザーの情報が流出したTwitterでは誰もが何かに怒っている。馬鹿だ、アホだ、弱虫だ、短気な変わり者だ、などなど

    Instagramは、気取ったポーズを取る人ばかりだ。みんな私たちより美しいし、あれほどインスタ映えする面白い場所へは行けない。何をやっても悪くなる一方で、落ち込まないはずがない。世界は死にかけている。だから、見においで、見においで。

    スマートフォンがここまでストレスとトラウマのデパートになったのは、いつからだろう。いつだったか正確には思い出せないにしろ、今の状態はストレスだらけだ。

    そうだ、カメラがある。画面もある。「Googleレンズ」という機能は、カメラで捉えているものが何かを教えてくれる。植物や動物の種類を答えるし、名刺の情報を読み取れる。調べものをするのに図書館へ行かなくて済むし、一つ一つ覚える必要すらない。そう、覚えておく必要なんてないのだ。オーケーGoogle、そういうことは考えたくないよ。いいかい。

    いいよね。

    11年か12年ほど昔、サンフランシスコにあるコンベンションセンターのホールで筆者は、シリコンバレーの神になる前のスティーブ・ジョブズを眺めていた。彼はAppleから間もなく発売される新しいデバイスを褒めちぎり、筆者はとりこになった。

    iPhoneはすぐ反応してくれる相棒であり、何時間もいじって見つめることで、退屈な日々の生活から解放された。優れた暇つぶしの道具で、どこにでもカメラを持って行けた。それだけでない。iPhone人気に火がついたきっかけは、10年前に登場したサードパーティ製アプリのTwitterだ(ただし、当時の名前はTweetieだった)。

    そして、メッセージング、地図、YouTube、正真正銘のメール、ウェブブラウジングが利用できた。突如として、常に新鮮な最新情報が入手できる状態になり、ポツポツと届けられていた新情報の流れが、すぐにチョロチョロへと増え、激流に変化した。

    四六時中スマートフォンを見て下を向いているから、首が痛い。見ていないと、とても落ち着かなくなる。そして見ているときは、どっぷり浸かるようになった。そういえば、以前タバコを吸っていたころ同じような感覚に陥っていた。筆者は、精巧に作られたこのコンピューター入り板切れを通して世界を体験しているのだ。間抜けな話だが、みなさんも同様だろう。

    街で周囲を見れば、間抜けばかりだ。下を向いたまま歩き、すれ違っても気付きもしない。スマートフォンを持ったまま運転している人もいる。外で子どもを遊ばしている最中にスマートフォンを見ていると、成長の大切な瞬間を見逃してしまう。スマートフォンをいじってばかりで、話すらしないデートも見かける。

    それにとどまらず、ミャンマーでの集団虐殺インドでのリンチ殺人米国で流布される偽情報の原因でもある。スマートフォンは、我々を愚かにし、ストレスを与え、社会の先鋭化をあおり、分断を進める。暴力的なほど強い喜びは、破壊的な結末を迎えるものだ。

    もちろん、こうした状況の原因はスマートフォンそのものでなく、スマートフォンから与えられるデータにある。ただ、荒し行為や暴言、ハラスメントの道具に使われることがTwitterの責任だとしたら、GoogleやAppleにも責任があるのではないだろうか。

    Facebookがミャンマーの集団虐殺をあおったのなら、社会やFacebook、Facebook上で構築されたサービスに責任はあるのか(正直なところ、筆者には分からない。それでも、現状はこのとおりだ。この記事をスマートフォンで読んでいるだろうか。あなたは幸せか、それとも悩んでいるか。スマートフォンからの通知を止めておく以上に関心があったり、急を要したりすることが何かほかにあるだろうか)。

    さらに、トラッキングも問題だ。もちろん、世の中の話題を大量に得るための交換条件として、こちらの個人情報を差し出しているのだが。ただし、AndroidスマートフォンはiPhoneに比べ要求してくる情報の量が多い

    筆者は週末いっぱいかけてPixel 3をレビューし、その間に取得された筆者の情報を漏れなく紹介しようと考えたものの、あまりにも大量の詳し過ぎる情報がPixel 3に捉えられていた。これを公開すると経済的な損害を被るだろうし、身体も危険にさらされてしまう。そのうえ、取得された情報をすべて把握できているのかや、すべて手元に残されているのかすら確信が持てない。把握していない情報があっても分からない。

    情報収集の点で、我々は後戻りできない所まで来ている。もっとも、状況はさらに悪くなるかもしれない。カメラと画面、マイクとスピーカーもあるのだ。ユーザーの顔と声を記録し、ユーザーの友達の顔と声を記録する。

    どこにいるか、メールに何を書いたか、メールを送ったときどこにいたかなどの情報も、スマートフォンに取得されている。何か話してクリックすると、広告が表示される。どこかへ行ってクリックすると、広告が表示される。誰かと一緒にいても、広告が表示される。何かを読めば広告が、気分に合わせて広告が、孤独を感じていれば次々と広告が表示される。

    Pixel 3の極めて優れた新機能の1つに、スマートフォンの使用を控えるよう手伝ってくれる「Digital Wellbeing(デジタル ウェルビーイング)」という機能がある。これまでのPixelでも利用可能なのだが、この機能をオンにすると、画面が白黒になり、通知がオフに設定される。その日にどれだけ使ったかや、使用したアプリも確認できる。アプリ使用の制限時間も設定可能だ。とても便利で役立つ機能といえる(ただし、容易に出し抜ける)。

    Thank GOD you can get around those app timer settings by going to Twitter's mobile web site.

    「助かった。アプリ用タイマーの設定は、Twitterのモバイル向けウェブサイトを使えばだませるぞ」

    別の手段もある。画面やカメラ、プロセッサーのスペックがPixel 3よりずっと低いスマートフォンを買えば、Pixel 3ほど頻繁には使わないだろう。もしくは、海へ行って投げ捨て、回れ右して後ろを振り返らず戻って来た方がいいかもしれない。※2

    Pixel 3の優れているところ

    ハードウェアの面でGoogleは絶好調だ。同社のビジネスにおいてハードウェアは余技だろうが、これほど良いデバイスは出せずにいた。Pixel 3自体が素晴らしく、搭載されているOSも見事だ。Pixel 3で使えるといいなと思うiPhone用アプリは(たとえばFaceTimeなど)多少あるものの、総合的には新型iPhoneよりPixel 3の方をずっと気に入っている。

    筆者の見立てでは、ほかのAndroidスマートフォンも例外なくゴミ箱行きだ(これについては、こちらの記事で示された見解が当てはまる。つまり、好きなエコシステムを選び、支払い可能な金額を出して最新デバイスを買えばいい。iOSが好きならiPhoneを買うべきだ。サムスン好きならGalaxy Noteとかがいいだろう。Motorolaから素晴らしいスマートフォンが出ているし、何よりもPixel 3に比べ安い)。

    コールスクリーニング:驚くほど素晴らしい機能だ。あるボタンをタップすると、音声アシスタントの「Google Assistant」が電話に出て、かけてきた相手に応対してくれる。相手とのやり取りはスピーカーで聞けるし、テキスト化して画面表示させられる。とても見事だ(この機能もこれまでのPixelで使える)。

    画面とカメラ:画面もカメラも優れている。Pixel 2とPixel 3のもっとも目立つ相違点が画面だ。審美眼などない筆者だが、Pixel 3の画面は美しい。Pixel 3の画面は目立つ黒枠で囲まれているが、上部にノッチ(切欠き)の設けられた大画面モデルのPixel 3 XLほど幅の広い枠でない。さらに繰り返すが、カメラが見事だ。どんな光の下でもよい結果を出してくれる。

    AI:Googleは、Pixel 3のさまざまな用途にAIを活用し、大きな成果を上げている。ある場面で役立った簡単な事例を紹介しよう。日曜の夜、アトランタ空港に到着した筆者はPixel 3の画面下部にある小さなアイコンをタップし、アプリ一覧を見ようとした。

    この操作でGoogleは一覧の上部にいくつかお勧めアプリを表示するのだが、そこにデルタ航空のアプリが含まれていたのだ。Pixel 3には別の航空会社のアプリもインストールしてあったのだが、おそらくGoogleは居場所がアトランタ空港であることと、筆者がデルタ便に搭乗する予定だったことを結びつけ、デルタ航空アプリを出してきたのだろう(搭乗予定は、GoogleカレンダーとGmailに書いてあった)。

    少し便利なだけだが、似たような小さな便利機能がPixel 3の全体に詰め込まれている。嬉しい驚きだ。AIは写真の画質向上にまで使われた。「超解像ズーム(Super Res Zoom)」という機能は、デジタルズームだが写真を鮮明なまま拡大できる。

    Pixel Stand:この79ドル(9504円)するアクセサリは、置いたPixel 3にワイヤレス充電するうえ、Pixel 3をスマートスピーカー「Google Home」的なデバイスに変えてくれる。特に、一連の処理を1つのコマンドで実行するルーチンと組み合わせると最高だ。

    たとえば「オーケー、グーグル。おやすみ」と声をかけると、(スマートホームの)照明を消し、画面を白黒モードに変え、通知をオフに、アラームをセットし、寝付きやすいようホワイトノイズを流してくれる。完璧な動作で、とても感動した。ほかにも、ベッドサイドのテーブルに置くナイトスタンドとして使いたくなるだろう。まったく見事なアイデアだ(もちろん、筆者はそうしている)。

    Pixel 3の劣っているところ

    傷つきやすい背面:背面はサラサラした手触りの加工が施されており、Googleによると指紋の跡が残らないようにするためらしいが、すぐ傷がつくことに気付いた。下の写真で分かる傷のほとんどは故意につけたものだが、とても簡単にこうなった。ただし、傷つきやすいと知った時点では、この状態になりかけていた。

    アンテナ:3GネットワークのままLTEに切り替わらないことを何回か経験した。いずれもLTE接続できるはずの場所で、移動中に発生することがほとんどだった。そのような場合には、機内モードを入り切りすると高速インターネット接続可能なLTEネットワークにつなげられた。奇妙な現象だ。

    ユーザーに対する気遣いそのもの:これはPixel 3に限った話でなく、現代社会の恐ろしい事実である。スマートフォンは素晴らしさと狡猾さを兼ね備えたデバイスであるが、ここまで書いたとおりPixel 3は利用時間の短縮と依存度の低減を手助けしてくれる。

    結論

    Pixel 3は素晴らしいスマートフォンで、強くお勧めする。しかし、我々が日々の生活に助けに使おうとして作り上げてきた情報システムは、本当に社会の役に立っているのだろうか。もはや、まったく分からなくなってしまった。役に立っているとは思うのだが、自信はない。我々はどうなるのだろう。

    ※1:絶えず監視の目が光っている現代は、誰が盗聴しているか、盗聴しようとしているか分かったものでないので、通信が暗号化されるSignalでやり取りしている。

    ※2:よい子は真似しないようにしよう。海が汚れてしまう。


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:佐藤信彦 / 編集:BuzzFeed Japan