お騒がせカニエ・ウェスト、これまでを振り返る

    MTVビデオ・ミュージック・アワードでのテイラー・スウィフトの受賞スピーチ乱入事件からトランプ大統領との面談に至るまで、カニエ・ウェストお騒がせの歴史を振り返る。

    ラッパーでありファッション・デザイナーであり、自称天才のカニエ・ウェストはここ数年、新たな役割「お騒がせセレブ」を演じて物議を醸し、話題の的となることが多くなってきた。

    ウェストのラッパーとしてのキャリアは、交通事故で顎が粉々になるほどの大けがをした経験から「スルー・ザ・ワイアー」(デビューアルバム『ザ・カレッジ・ドロップアウト』からの1枚目シングル)が生まれたことで始まった。しかし初期の名声は、ものすごい高み(デビュー・アルバムから3枚連続でグラミー賞の最優秀ラップアルバム賞を受賞)と急降下(母親の死や婚約者との破局など)の両方を伴った。

    しかしそれでもウェストは、自分の考えを口にするのを尻込みするような人物ではない。「ブッシュ元米大統領は黒人のことなど考えていない」という発言で、ウェストは音楽界で最も妥協を許さない人物だというイメージを作った。しかし今日に至るまでの重要な場面の中で、ウェストはまるで1番熱心なファンでさえも試すかのような振る舞いをするようになった。それどころか、トランプ大統領の支持を示してさらにパワーアップしたかのような先日の奇行を見て、ウェストのファンをやめる、と固く決意したファンが続出した。

    それでは、物議を醸してきたウェストの軌跡の中でも、特に重要なものを下記にご紹介しよう。

    テイラー・スウィフトのMTVビデオ・ミュージック・アワード受賞に乱入(2009年9月13日)

    ウェストが国際的なレベルで敵対的な姿勢を示すようになった瞬間として多くの人が挙げるのが、2009年9月のMTVビデオ・ミュージック・アワード(VMA)だ。最優秀女性アーティスト・ビデオ賞を受賞したテイラー・スウィフトが受賞スピーチをしていた時にウェストはステージに乱入し、ビヨンセの方が受賞するべきだと発言した。この行動が大批判され、ウェストはジェイ・レノが司会の深夜の人気トーク番組に出演するなど、自分の行動を説明する謝罪行脚を行うことになった。ラジオ・パーソナリティ、シャーラメイン・ザ・ゴッドとの最近のインタビューでウェストは、ラジオ局が自分の曲を急にほとんどかけてくれなくなったのは、このVMA事件がきかっけだと今でも思っていると話した。

    ファッションブランド「DW」がパリ・ファッション・ウィークでデビュー(2011年10月1日)

    いささか唐突に、ウェストは自身初めてとなる女性向け高級ファッション「DWカニエ・ウェスト」(DWは亡くなった母親の名前ドンダ・ウェストのイニシャル)を、フランスでのパリ・ファッション・ウィークでお披露目すると発表した。ウェストは当時からすでに、ファッションのインフルエンサーとして賞賛されていたため、デザイナーのアズディン・アライアや雑誌「ヴォーグ」編集長のアナ・ウィンターといったファッション界の大物のほとんどがショーに出席した。しかしウェストのブランドの評判はあまり芳しくなかった

    ナイキと契約解消してアディダスへ(2013年12月3日)

    2013年はウェストにとって、ビジネス界に認めてもらうための戦いが始まった年だった。アルバム「イーザス」は、「ニュー・スレイヴス」などウェストにとって既得権益層(エスタブリッシュメント)への抵抗を最も表現した曲が含まれていたが、その背後には、ナイキが自分のアイデアではなく名前にしか関心を持ってくれないことへのフラストレーションがあった。同年末までに、ウェストはアディダスへ移った。

    キム・カーダシアンと共にヴォーグの表紙に(2014年3月24日)

    ウェストとキム・カーダシアンが2012年に付き合い始めると、ニュースで話題になるのは必須のカップルとなった。ウェストは、のちに妻となるカーダシアンと自分について「歩くパフォーマンス・アート」と描写した(訳注:パフォーマンス・アートは、体の動きや映像・音楽で表現する芸術の手法)。しかしウェストは高級ファッション界へうまく参入できたが、リアリティ番組出身の恋人カーダシアンはまだ、ファッション・ウィークで除け者だったとされていた。しかしそれも、2人が婚約し、米国版ヴォーグの表紙を飾ることですべて変わった。

    物議を醸したこの動きは、同誌のアナ・ウィンター編集長の決断だった。ウィンター編集長は、ウェストの友人ではあったがカーダシアンを忌み嫌っていると噂されていた人物だ。この表紙を受け、同誌の購読をキャンセルすると言い出す動きが起こった。というのも、ファッション界で最も重要な雑誌の表紙にカーダシアンを採用したことで、同誌の信頼性がすべて失われたと批判する人たちがいたのだ

    ウェストのラップトップが盗難被害(2015年3月11日)

    ウェストがいつもコラボレーションをしているマリク・ユセフがツイッターで、ウェストのラップトップがパリで盗まれたと呟いたことですべては始まった。それからまもなくして、ウェストの曲「Awesome」がリークされて盗難は事実らしいことが分かった。また、セックスのビデオがリークされて金銭をゆすられているという噂も流れた。しかしウェストの広報担当者は米紙ニューヨーク・タイムズに対し、ラップトップがウェストの手から離れたことはないと話した。その後2016年、ウェストは曲「Real Friends」の中で、パソコンを持っていたのは自分のいとこで、25万ドル(約2800万円)を支払って返してもらったことを認めた。

    ウィズ・カリファとツイッターで火花(2016年1月27日)

    「イーザス」の発表後、ウェストはツイッターに散発的に、アプリ内課金の話から新作のアルバム・タイトルに至るまで、思いつくままに考えをツイートしていた。しかしそこでアルバム名を「Waves」にしようかなと呟いたところ、ラッパーのウィズ・カリファ(ウェストの元カノ、アンバー・ローズとの間にちょうど子どもが生まれたばかりだった)が、このアイデアに立腹。ラップ界に「Wave」や「Wavy」と呼ばれるスタイルを定着させたのはマックスB(複数の事件で有罪判決を受け現在服役中)であり、ウェストは彼にきちんと敬意を払っていない、と述べた。

    ウェストはその後、カリファが「KK」について話しているツイートを取り上げた。この「KK」が、妻のキム・カーダシアンを指しているのかと誤解したウェストは、カリファとアンバー・ローズとの間にできた子は、先にローズと付き合っていた自分のおかげだとツイッターで攻撃した。

    「KK」は結局、カリファが手がけている大麻ブランド「カリファ・クッシュ」のイニシャルを指したものだった。最終的に、2人は仲直りしたようだ。

    「ビル・コスビーは無実」とツイート(2016年2月9日)

    当時の新作アルバム「The Life Of Pablo」の宣伝活動の一環として、ウェストは2015年大晦日に、「Facts」(事実)という新作シングルをシェアした。この曲の歌詞は、「ビル・コスビーがかわいそうだと思う人はいるか?」「奴はスティーブ・ハーベイみたいに名前を忘れちまったのか?」との疑問を投げかけているものだ。(訳注:スティーブ・ハーベイは2015年のミス・ユニバースで優勝者を間違えて発表して話題になった)

    この歌詞は、コスビー事件に懐疑的な見方をしていることをほのめかしたものだが、ウェストはさらに、「ビル・コスビーは無実だ!!!」と唐突にツイートし、性的暴行疑惑が次々と持ち上がっていたビル・コスビーを擁護したとしてファンからの怒りを買った。

    コスビーは後に、ペンシルベニア州にある自宅で2004年に女性に薬を盛ってレイプしたとして有罪判決を受け3〜10年の禁固刑を言い渡されている。

    新曲「Famous」のお披露目(2016年2月11日)

    ウェスト3回目となるアディダス向けのファッション・ショーは、自身のアルバムの視聴会を兼ねたものだった。ファッション・ウィークの開催期間中にニューヨーク市のマディソン・スクエア・ガーデンで行われたため、多くの著名人が出席し、新曲「Famous」のこんな歌詞を耳にすることになった。「俺をよく知っているサウスサイドの奴らへ/まるでテイラーとまだセックスしているみたいな感じだ/なぜかって?俺があの女を有名にしてやったからさ」

    テイラー・スウィフトの取り巻きメンバーだったモデルのジジ・ハディッドなどの有名人が、この歌詞に不快感を示した。ウェストは、スウィフト本人が歌詞にOKしたとツイートしたが、スウィフト本人は絶対そんなことをOKしてないと主張した。スウィフトはさらに、グラミー賞の最優秀アルバム賞を授与された際の受賞スピーチの中で、自分のおかげでスウィフトが成功したのだとほのめかしたウェストを非難した。

    5300万ドルの負債をツイートで告白(2016年2月15日)

    アルバムが配信開始となった後、ウェストは5300万ドル(約60億円)の負債を抱えているとソーシャルメディアに投稿した。支払える額よりも多くの金額をクリエイティブな事業につぎ込んでいるためで、自分の才能にもっと多額を投資してくれる誰かが必要だと説明した。Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOに対し、ウェストのクリエイティブ事業へ10億ドル(1120億円)投資するよう呼びかけたが、ウェストはなぜかこれをザッカーバーグの競合企業であるツイッターで行った。

    「Famous」音楽ビデオをリリース(2016年6月24日)

    ウェストは自分の作品を使って、スウィフトとの関係で炎上している火を煽り続けた。「Famous」のミュージック・ビデオは、裸の妻と一緒にベッドに横たわっているウェストの隣に、ろう人形のスウィフト、ジョージ・W・ブッシュ、ドナルド・トランプ、アナ・ウィンター、リアーナ、クリス・ブラウン、レイ・J、アンバー・ローズ、ケイトリン・ジェンナー、ビル・コスビーが横たわっているという内容だ。

    ウェストは、このビデオは名声について説明したものだと話したが、スウィフトレイ・Jなど一部の著名人は、同意なく自分の裸体が描写されたとして反発。一般の人たちの中にも、このビデオに対し同様の反応を示した人がいた。

    カーダシアン、スウィフトが「Famous」の歌詞を承諾する動画をスナップチャットで配信(2016年7月17日)

    男性誌GQの特集記事で、カーダシアンはスウィフトがメディアにウェストについて嘘をついたことで傷ついたと話し、「Famous」で物議を醸したあの歌詞をスウィフトが承諾しているビデオの証拠があると話した。

    スウィフトは、曲の内容を知らなかったと主張した。しかし同じ日の夜、テレビ番組「カーダシアン家のお騒がせセレブライフ」でカーダシアンとウェストの記事についての話を描いたエピソードが放送されると、カーダシアンはスナップチャットにビデオを投稿。ウェストがスウィフトと電話で話しているもので、まだセックスしているようだとか、ウェストがスウィフトを有名にした、などという歌詞に対し、スウィフトから了解を得ているものだった。

    もしスウィフトが反論できるものがまだ残っているとしたら、曲の中で「あの女(bitch)」呼ばわりされるとは知らなかった、ということだけだろう。

    「Yeezy Season 4」のファッション・ショーでの災難(2016年9月7日)

    ウェストが手がける「Yeezy Season 4」(イージー・シーズン4)では、モデルのオーディションが「複数の人種の血を持つ女性のみ」と限定されたことで(つまり色の濃い黒人女性の排除を示唆)、始まる前からすでに多くの人が憤慨していたが、実際のショーでは、別の問題が噴出した。ウェストはショーの会場を、ニューヨーク・ファッション・ウィークの他のイベントが行われているお馴染みの場所から遠く離れたルーズベルト島にしたため、ファッション雑誌の編集者たちはこのショーを見るために移動せざるを得なくなったのだ。つまり、出席者はウェストの競合相手のショーを見られなくなった。

    ショーは結局、猛烈な暑さに見舞われ、ランウェイのモデルたちは焼け付く太陽の下で気力を失ったかのようだった。少なくとも1人のモデルが倒れた。最も酷い時は、ファッション誌の記者たちは、ウェストが自分たちの時間をすべて盗んで、モデルをいたぶっているのを自分たちに無理やり見せているかのようだと感じたという。

    カーダシアン、パリで強盗に遭遇(2016年10月2日)

    すべての始まりは、ウェストがニューヨークで出演中だった大規模なイベント、メドウズ・フェスティバルで、家庭の問題を理由に突然ステージを後にしたことだった。その後、ファッション・ウィークでパリを訪れていた妻のカーダシアンが、ホテルの部屋で銃で脅されて強盗に遭ったという国際ニュースが伝えられた。

    ウェストはすぐにニューヨークでカーダシアンに会い、しばらくおとなしく過ごしたが、その後、セント・パブロ・ツアーを行うために活動を開始した。

    「セント・パブロ・ツアー」を中断、トランプ支持とジェイZ非難(2016年11月19日)

    「セント・パブロ・ツアー」が、音楽というよりも不平をぶちまける場となっているとしてすでに批判を集めていたウェストだが、この批判はピークに達した。というのも、2016年11月に実施された米大統領選でもし自分が投票していたら、トランプ次期大統領に票を投じていただろうと発言したのだ。

    次のコンサートではまたトランプ支持を示唆し、ヒラリー・クリントン氏を批判。さらに、カーダシアンが強盗に遭った際に電話をしてこなかったとして自分の友達であるジェイZのことも非難した。

    「セント・パブロ・ツアー」はその後、中止されることになった。ウェストが精神科に措置入院されることになったのだ。ツアーを中断したことで保険会社から訴えられたが、裁判は2018年2月に終決した。

    トランプ氏と対面(2016年12月13日)

    ウェストは、多文化の問題について話し合うために、当時のトランプ次期大統領とトランプ・タワーで会い、再び物議を醸した。多くの人はこの面談が、トランプ氏が黒人コミュニティにアピールするための見え透いた試みだと感じ、ウェストがその手に陥ったことに対し反感を抱いたのだった。

    今度は哲学をツイート(2018年4月13日)

    ウェストは4月中旬、ナイキが自分のデザインを模倣したと批判するツイートをした。しかし続けて、自分が前に発言していた哲学の「」は、ソーシャルメディア・アカウントがその役割を果たす、とツイートで発表した。

    当初は害のないものに見えたが、黒人ユーチューバーで保守派のキャンディス・オーウェンズを支持するとツイートしたことをきっかけに、再び物議を醸し出すものへと発展した。ウェストはまた、自由思想の利点についてツイートし始め、トランプ支持の理由を結びつけて話した。しかしフォロワーは、ウェストが現在の問題について学ばず、トランプ大統領への反対意見を意図的に無視しているようだと感じた。

    TMZとのインタビューはめちゃくちゃに (2018年5月1日)

    ウェストのツイートはこれまで、2つの大きなインタビューに発展した。1つは、ラジオ司会者のシャーラメイン・ザ・ゴッドとのもので、2016年後半以降のウェストの行動について、どんな考えがあったかをよく説明するものでもある。

    もう1つは芸能ニュースサイトTMZとのライブ・インタビューだが、こちらの方がより多くの話題を集めた。400年続いた奴隷制は選択肢のように思える、と発言したのだ。後に自分のコメントについてツイッターで、奴隷解放運動家だったハリエット・タブマンの名言と見せかけた言葉「アフリカ系米国人には奴隷らしいものの考え方をするのをやめてほしい」と書いて弁明しようとした。

    SNL出演者をステージ上で人質に取り、奇妙な演説(2018年9月29日)

    人気番組「サタデーナイトライブ」(SNL)第44シーズンの最初の回に音楽ゲストとして出演した際、珍しく3曲目を演奏するチャンスを与えられた。しかしそのパフォーマンスに、「Make America Great Again」(MAGA:アメリカを再び偉大に)と書かれた赤い野球帽をかぶって登場し、延々とトランプ大統領支持の演説を続けたが、放送は終わってしまった。コメディアンのクリス・ロックがこの時の様子を撮影した動画には、この回の司会を務めた俳優のアダム・ドライバーと他の出演者が居心地悪そうに背後で立っている中、ウェストが「俺が白人にこのことを話すと、『なんでトランプなんか好きになれるんだ?奴は人種差別主義者じゃないか』って言われることがすごくたくさんある。まぁでも、人種差別を気にしてたら、俺はもうとっくにアメリカを出て行っていたよ」と話している様子が映っている。

    この演説はうまくいかず、俳優のケナン・トンプソンなどSNLの出演者はウェストの行動を非難し、俳優のクリス・エヴァンスや歌手のラナ・デル・レイなどの著名人は、ウェストが出演機会をトランプ大統領支持に活用したとして非難した。

    トランプ大統領と軽い昼食会(2018年10月11日)

    2人が初めて政治的に意見が一致してから2年近く経ち、ウェストは再びトランプ大統領と会うために大統領執務室に乗り込んだ。刑務所の改革、製造、シカゴの一部でのギャングの暴力行為などについて話し合うことになっていたはずが、ウェストとトランプ大統領がお互いの実績について褒め称え合う場に変わっていった。

    トランプ大統領からプレゼントしてもらったMAGA野球帽についてウェストは、「スーパーマンのマント」と表現し、一方のトランプ大統領はウェストが将来、大統領候補になる「可能性も非常に高い」と述べた。2人がハグをして会談を締めくくっている姿を見ながら、世間は、ウェストが次は何をして驚かせてくるのだろうと考えていた。

    写真を使ったイラスト:ベン・コース、ベン・キング/BuzzFeedニュース、ゲッティイメージズ、NBCユニバーサル


    この記事は英語から翻訳・編集しました。
    翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan