コロナ禍で増加するアジア系への差別。「私たちはよそ者としてみられている」

    アジア系アメリカ人に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)の件数が、この1年で3700件を超えた。「間違ったことであり、アメリカらしくない」とバイデン大統領は人種差別を非難したが、死亡事件も複数起きている。

    この1年間、アジア系アメリカ人は、パンデミックを生き抜くだけでなく、新型コロナウイルスをめぐり、言葉や暴力による人種差別にも直面してきた。

    Stop AAPI Hate」は、コロナ禍におけるアメリカのアジア系、または太平洋諸島系住民に対する差別の撲滅を掲げる団体だ。

    同団体が新しく出した報告書によると、2020年3月19日から2021年2月28日までの1年間で、アジア系アメリカ人をターゲットにした差別的な事件が、少なくとも3795件あった。

    この報告書で、今年の件数を過去の年と比べることはできないが、他のデータによると、明らかに件数は増えているという。

    カリフォルニア州立大学・サンバーナーディーノ校の「憎悪・過激主義研究センター(California State University's Center for the Study of Hate and Extremism)」は、2020年にはアメリカの16つの大都市でヘイトクライム(憎悪犯罪)の件数が7%減少したが、アジア系へのヘイトクライムの件数は149%増加し、新型コロナウイルスが流行し始めた2020年3〜4月に、件数が最も多かったと発表している。

    「Stop AAPI Hate」の報告書によると、団体で記録したアジア系への差別的な出来事のうち、68%が言葉によるハラスメントで、11%が暴行だった。

    また、「アジア系アメリカ人を意図的に避ける」事例も20%を占めている。

    他にも職場での差別や、企業からのサービス拒否などの公民権の侵害が8.5%、ネット上での嫌がらせが6.8%となっている。

    被害者のうち、42%以上が中国系アメリカ人だった。また、女性は男性の2倍以上の割合で被害に遭っている。

    この報告書では、自己申告による被害しか分析していないため、実際の件数はさらに多いと思われる。

    報告書には「当センターに報告されたヘイトクライムの件数は、実際に発生したうちのほんの一部に過ぎないが、アジア系アメリカ人がいかに差別を受けやすいか、また、どのような差別を受けているかを示している」とある。

    トランプ元大統領の「チャイナ・ウイルス」発言

    アジア系アメリカ人に対する人種差別は、この1年で民間でも国の最高機関でも、爆発的に増加した。

    トランプ前大統領は、パンデミックの間中、新型コロナウイルスの責任を中国に押し付け、「チャイナ・ウイルス」「カン・フル」(※中国の武術カンフーとインフルエンザを組み合わせた言葉)などの発言を繰り返していた。

    中国系アメリカ人への攻撃が増加していることについて記者が質問した後も、発言を続け、人種差別であることを否定した。

    アメリカ国内で相次ぐアジア系へのヘイトクライム。死亡者も

    「Stop AAPI Hate」の新しい報告書が発表されたのは、カルフォルニア州・サンフランシスコである事件が起きてから数週間後だった。この事件では男が、91歳を含む3人のアジア系アメリカ人を押し倒し、暴行容疑で逮捕された。被害者のひとりの女性(55)は気絶したという。

    これらの暴行事件は、最近全米で報道された数多くの事件の一部に過ぎない。

    1月には、サンフランシスコでタイ人移民男性、ヴィチャ・ラタナパクディーさん(84)が、無差別に攻撃を受け地面に叩きつけられた。その後、脳出血で死亡した。

    コロナ禍のアメリカで、アジア系住民が化学薬品をかけられたり、嘲笑や強盗暴行の対象になったり、といった事件が繰り返し起きている。

    23歳の男が、アジア系アメリカ人男性の背中を刺す事件も起きた。

    3月17日には、アジア系の従業員が多く働くマッサージ店複数を、21歳の男が相次いで銃撃。アジア系6人を含める8人が死亡した。

    ヘイトクライムであるかは、まだ捜査段階で認定されていない。

    アメリカで繰り返される、アジア人差別の歴史

    アジア系アメリカ人であり、「Stop AAPI Hate」の共同設立者のラッセル・ジェン氏は、サンフランシスコ州立大学のアジア系アメリカ人研究の教授である。

    ジェン氏は、現在アジア系アメリカ人が直面している人種差別は、1850年代にアメリカで広まった「黄禍論(イエロー・ペリル)」を痛切に思い起こさせるとBuzzFeed Newsに語った。

    (黄禍論は)西洋がアジア人に征服されるのではという恐怖心から生まれた黄色人種脅威論だ。

    「アジア人が病気を持って押し寄せるのではと、西洋人は(19〜20世紀前半ごろに)恐れていた」とジェン氏は言う。

    「19世紀には、天然痘、コレラ、ハンセン病などの病気でその恐怖が煽られ、中国人が白人労働者の仕事を奪うことを恐れて、中国人排斥法が制定されました」

    このステレオタイプは、約150年前に生きていたアジア系アメリカ人にとって、今と同じように危険なものだったとジェン氏は付け加えた。

    「私の曽祖父母の家は、カルフォルニア州・モントレーの200人ほどの村にありました。家に放火され、人種差別を避けるためにサンフランシスコのチャイナタウンへ引っ越しを余儀なくされました」

    これは、アメリカの歴史で繰り返されている人種差別のひとつのパターンだという。

    「第二次世界大戦中の日系人強制収容や、アメリカ・ワシントンDCで起きた同時多発テロ(9.11)以降のイスラム恐怖症などがありました」

    「何度も何度も、私たちは排除され、投獄され、追放されるべきよそ者として見られてきています」とジェン氏は語る。

    バイデン大統領がアジア人差別を批判。改善の余地はあるか

    Biden calls out the rise in hate crimes against Asian Americans during the pandemic, saying they're "attacked, harassed, blamed and scapegoated" "They are forced to live in fear for their lives just walking down streets in America. It's wrong, it's un-American and it must stop"

    Twitter: @CBSNews

    バイデン大統領は一連の事件について3月11日、「嫌がらせを受け、攻撃され、非難され、迫害されてきたアジア系アメリカ人に対する悪質なヘイトクライム」と非難した。

    「(アジア系アメリカ人は)街を歩いているだけで、命の危険にさらされることを余儀なくされている。これは間違ったことであり、アメリカらしくない。直ちになくなるべきだ」

    ジェン氏は、バイデン大統領がアジア系へのヘイトクライムについて発言したことを嬉しく思うと同時に、大統領の言葉が民俗学の拡大や公民権の保護など、具体的な行動に結びつくことを期待していると述べた。

    「私が座ったら客が離れていった」報告された差別体験談

    「Stop AAPI Hate」の報告書には、公共の場で嫌がらせを受けたり、咳や唾をかけられたり、中傷的な言葉をかけられたり、中国に「帰れ」と言われたりしたなど、他にも被害者の体験が記載されている。

    ニューヨーク州ブルックリンからの報告。

    「白人男性が私に声をかけ、私の後を追いかけてきました。そして、私がアジア系であることに気づくと、私の顔を覗き込んで、差別的な呼び方で叫んだのです。多くの隣人が家の外に立っていましたが、誰も介入しませんでした」

    バージニア州アナンデールからの報告。

    「彼氏と地下鉄に乗ってワシントンDCに向かっていました。乗換駅のエスカレーターに乗っていると、男が私の背中を何度も殴り、私たちを押して通り過ぎました。エスカレーターを降りると、男は私たちを追いかけてきて、私に向かって差別的な言葉を何度も叫んだり、偽の咳をかけたり、身体的な脅迫をしてきました」

    体験談の中には、敬遠されたり、避けられたりするケースもあった。

    フロリダ州ネープルズからの報告。

    「カフェに入ったら、私が座っていた場所から人々が次々と離れていきました 。入店してくる他の客も、私が座っている場所とは反対側に座りました。私はカフェの片側で孤立してしまいました」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。 翻訳:アシュウェル英玲奈