トランプ大統領に批判的な何人もの人物へパイプ爆弾を送りつけたとして逮捕されたフロリダ州在住の男と、ペンシルベニア州ピッツバーグにあるユダヤ教の礼拝堂(シナゴーク)で米国時間10月27日の朝に銃乱射事件を起こし参拝者11人を死亡させたネオナチ支持者の男について、報道メディアはこの2人が過去にどんなオンライン活動をしていたか嗅ぎ回った。
ネット上に残された足跡は2人とも完全に予想通りの内容で、現代の過激派そのもののプロフィールが掲げられ、高い拡散性と思想性を備えるミームと呼ばれるメッセージがすべて大文字で書かれている。暴力的な空想に関するツイートやいいね、シェアで埋め尽くされ、誰も読んでいなさそうだが、憎しみに満ちたイデオロギーが何度も登場した。
このようなインターネットの歴史をひもとくと、驚くことが判明する。問題は憎しみが渦巻いていることでなく、ネットでほぼ当たり前になっているという悲惨な現実だ。本当に気がかりなのは、彼らのような卑劣な過激派が残すデジタルの足跡を、見慣れたものと感じる状況である。
同じ国で暮らすテロリストたちが記す暴力的な文言は、殴り書きされた何百ページもある決意表明書や、赤い文字とコルクボードでいっぱいのガレージといったような、目に付きにくいものではない。
FacebookやTwitterへの投稿、熱狂的な荒らし行為という形で、我々に毎日届く。そして、何の変哲もない投稿をほんの少し過激にするだけで、デジタルの足跡が非常に不快なものへと変わる。それは見慣れた風景だ。
オンラインの足跡を現実世界の悲劇に関連付けると、否定できない真実も浮かび上がる。オンライン世界と「現実世界」を二分する行為は、間違いなのだ。これは今に始まったことでなく、以前からずっと間違っていた。
インターネットの弱点を説明する憎悪、荒らし、嫌がらせ、陰謀論といったものを、中身のないパフォーマンスとして切り捨ててはならない。単なるゲームのような遊びかもしれないが、重大な結果へ至るゲームだ。そして、現実の世界にあふれ出してきて、その量と頻度は危険なほど増えている。
オンラインと現実世界を仕切る薄膜がどの程度の透過性を備えているかは、パイプ爆弾容疑者の逮捕後に発見された白いバンを見れば一目瞭然だ。バンの窓と後部ドアはトランプ支持のステッカーとネット掲示板からのミームで覆われている。
戦車の上で誇らしげに立つトランプ大統領だったり、狙撃用ライフルの照準が顔に重ねて描かれた民主党の政治家だったり、匿名掲示板「4chan」で見かけるような不気味さを感じさせる。これらの絵が自動車の窓に貼られているのでなく、Twitterに投稿されていたとしたら、「ネット中毒」と呼ばれる人物像の決め手だっただろう。
ワシントン大学でネットの陰謀論と偽情報を研究しているケイト・スターバード氏によると、このバンは「デジタル空間から飛び出し、現実世界へ移動していくミームの争いを可視化する」興味深いメタファーだという。
スターバード氏はBuzzFeed Newsに対し、「容疑者の過激化がオンライン世界で進んだことを、明確に示している。インターネットから現実世界へコピペされた、といえる」と述べた。
同氏にとって容疑者の車は、先鋭化するプロパガンダとオンラインコミュニティによる影響を説明するための、証拠となる事例でもある。
「オンラインでの活動は、メッセージを受け取るだけで済まず、行動と参加も伴う。そんなオンライン世界に組み込まれた人々は、多くがメッセージを自分のものとして吸収し、現実世界で行動するための動機付けに使うようになるだろう」(同氏)
荒らし行為は空虚で迷惑なだけの騒ぎだとして、長いあいだ見過ごされてきた。終わることのない嫌がらせツイート、Gab.comなどのオンライン・コミュニティで出回る反ユダヤ主義アニメのミーム、児童売春組織の拠点とされたピザ・レストランに関するYouTubeビデオなどがこれに相当するものの、紛れもない危険信号だと証明されつつある。
さらに、荒らしを行っている連中の行動が、現実の世界でも見られるようになってきた。
2016年には、児童売春に関する根拠のないピザゲート陰謀論を目にしたノースカロライナ州に住む28歳の男が、ワシントンD.C.にあるピザ・レストランに押し入って銃を3発撃った。これがいわゆるピザゲート事件だ。
「Q」と名乗る人物によって4chanへ投稿される陰謀論の信奉者たちは「QAnon(Qアノン)」と呼ばれ、トランプ大統領が世界規模の小児性愛組織から世界を救おうと密かに活動している、という話を信じ込んでいる。
Qアノンたちは、「Q」の描かれたTシャツを着てトランプ大統領の集会へ参加するようになった。2017年には、トランプ支持の極右ブログを運営していたレイン・デービスという男が、両親を「左翼の小児性愛者」と思ったらしく、父親を刺殺した。2018年4月にはカナダのトロントで、不本意にも独身主義とミソジニー(女性嫌悪)を強いられている男たち(インセル)のオンライン・コミュニティ「Incel Rebellion」へFacebookで忠誠を誓った若い男が、混雑する歩道にワゴン車で突っ込み10人を殺してしまった。
もっぱらオンラインで活動している「西側の熱狂的な愛国主義者」のコミュニティ「Proud Boys」に所属するある人物は10月、ニューヨーク市の歩道にいた見物人に襲いかかって逮捕された。
同様の事件は、2017年にヴァージニア州シャーロッツビルでも起きた。大量の白人が集結して「お前らに居場所はない」とシュプレヒコールをしたのだが、この騒ぎはネット上の過激主義と現実世界の行動主義とを分けていた壁を壊す好機とみなされた。
シャーロッツビルの抗議活動では死者まで出たが、その際ネオナチ系サイト「Daily Stormer」は編集者のロバート・レイ氏を送り込み、報道メディアのVice Newsに対して問題の集会を、白人の国家主義者たちが「インターネットから大きく踏み出した」と解説させた。
オンライン環境は、流されやすい人々をあっという間に先鋭化させる不気味な力を持っている。過激派が「インターネットから踏み出す」行為はオンライン環境で起きる症状だが、この現象が完全なプラットフォーム依存かというと、それは違う。
オンライン・コミュニティは、情報の争いを同族のゲームへ変えるのに一役買った。そして、プレイヤーの多くが現実世界でもプレイできることに気付いている。
筆者は同僚のライアン・ブロデリック氏から、オンライン掲示板の陰謀論が現実世界へ流れ出る状況に関して、「Qアノンには、ゲームの『Pokémon Go(ポケモンGO)』と極めて強い類似性を感じつつある」という意見をもらった。
「Qアノンは拡張現実(AR)ゲームと似ていて、どこへ行っても、どのようなことが起ころうとも、みんながプレイしようとする。しかも、プレイし続けてしまう。結局は、それが楽しいからだと思う」(同氏)
このゲームは、さらに力を与えてくれる。ミームや情報に関する争いがゲームであるなら、勝敗が存在する。争いに勝てば、本物の力を得たかのように感じられる。4chanにおける「ミームで大統領を実現させた」という表現は単なるキャッチフレーズでなく、実際に起きたことなのだ。
ピザゲートの陰謀論と、ピッツバーグで銃撃事件を起こしたとされる反ユダヤ主義の男が抱いた怒りとのあいだには、大きな隔たりが存在する。ただ、それらがインターネットからはみ出した要因には、心当たりがある。
コミュニティと、力の付与だ。ピッツバーグのシナゴーク銃撃犯は、ネットでの憎悪を現実の世界へ持って行くと宣言してソーシャルメディアへの投稿を締めくくったのだが、驚くにあたらない。彼は虐殺を実行するほんの数時間前、「仲間がやられるのに黙ってなんていられない。よく見てろよ。行くぞ」と書いていた。
もちろん、行動を呼びかけるこれほど露骨な投稿はほんの一部だ。過激派たちが事件と同じ週に投稿したものの多くは、ありふれた面白くもない偏見の発露だったり、取るに足らないソーシャルメディアの有象無象だったりする。後知恵で詳細に調べない限り、先鋭化する明確なパターンは現れてこない。
スターバード氏は、多くの荒らし行為の分析から得た平凡な性質に触れ、「真実に目覚めさせてくれる『赤い錠剤』など、転がり込んでこない」と話した。「アリスが不思議の国で自らウサギの穴へ入ったように、自分から無秩序な世界へ落ち込んでいくのだ。穴の底から始まるわけではない。ただし、その穴は、世界を堕落した見方で意味づけようとする道へつながっている」(同氏)
冒頭で取り上げた2人の歪んだ投稿に接した人々は、一時的にぞっとしたり困惑したりするが、すぐに立ち去るようだ。確かに起こした行動は理解の範囲を超えているが、その過程には不気味なほど見覚えがある。彼らの古い投稿を改めて細かく読み直すと、疑問が浮かんでくる。この暴言を読んで、我々は誰かに用心するよう呼びかけるだろうか。
ネットの世界においては、ありきたりな皮肉めいた人種差別で、ショックを受ける荒らし行為だが、具体的に誰が脅され、誰が嫌がらせされているのか、答えることなど不可能だ。おそらく、その相違に今のところ意味はない。以前からずっとそうだったのだ。