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同性愛であるとほのめかしただけで私は罰せられた ある寄宿学校で起きていたこと

リバー・ビュー・クリスチャン・アカデミーの元生徒や元従業員によれば、同性愛であることをほのめかしただけで、少女たちは罰を与えられた。「そのため、私は10年間、クィアであることを誰にも明かしませんでした」

午前5時ごろ、エミリー・バカラックの寝室に、見知らぬ女性と大柄の男性が突然入ってきた。彼らはバカラックに、服を着替えて一緒に来るようにと言った。

バカラックは家を出るとき、ダイニングルームのテーブルで母親からの手紙を見つけた。「あなたを特別プログラムに送るのは本当につらい」と書かれていた。

バカラックは当時15歳で、カリフォルニア州ロサンゼルス郊外の自宅に住んでいた。見知らぬ2人は彼女を車に乗せ、山奥にある私立の寄宿学校に連れていった。バカラックは、2005年8月から2007年3月までそこで暮らした。

寄宿学校に到着すると、裸にされて所持品を調べられた。そして制服を渡され、最初の1週間は誰とも話さないように言われたと、バカラックは振り返る。生徒は40人いたが、誰にも話しかけられず、誰とも視線すら合わなかった。

寄宿学校で暮らす少女たちはバカラックと同様、両親には手が負えないため、介入が必要な「問題児」と見なされていた。厳しく管理された環境で、聖書の教えに従いながら、少女たちの問題を解決することが寄宿学校の任務だった。

バカラックは孤独で、ショック状態にあったが、当時17歳だったローズマリー・ドナヒューと、なんとか友達になった。「ローズマリーは、そこでできた唯一の友達でした」

しかしほどなく、2人の親密な関係が学校職員の目に留まった。バカラックとドナヒューによれば、2人は口をきかないよう命じられたという。このルールは「ノートーク」と呼ばれていた。たとえ目を合わせただけでも、2人はポイントを失うことになっていた。学校はこのポイントに基づき、生徒がさまざまな特典を受ける資格、最終的には卒業資格に関する決定を下していた。

ドナヒューは学校職員から、2人の関係は互いにとって「プログラムの妨げ」になるため、「ノートーク」ルールは必要だと言われた。しかしドナヒューは、学校は同性愛に偏見を持っており、同性愛を阻止しようとしてノートーク・ルールを課したのだと考えている。「そのため、私は10年間、クィアであることを誰にも明かしませんでした」

かつてジュリアン・ユース・アカデミーと呼ばれていたリバー・ビュー・クリスチャン・アカデミーにいた元生徒たちはBuzzFeed Newsに対して、自分たちは同性愛または両性愛だと言ったことで罰せられたと話している。そのうち3人は「ノータッチ」ルールを課され、他者との身体的接触を禁じられた。

さらに、そのうち1人は「同性愛者は地獄に堕ち、永遠に身を焼かれるだろう」と言われた。8カ月にわたって「ノータッチ」ルールを課された結果、家に帰ってしばらくは、誰かにハグされるたびに叫んでいた、と彼女は語る。別の1人は、「バイセクシュアルかもしれない」と告げ口され、罰として校庭を走らされたという。

ある女性は「同性愛者は地獄に堕ちて、永遠に身を焼かれる」と言われた。

「カリフォルニア子ども家庭サービス同盟」の事務局長で、危険にさらされている若者の居住型療養プログラムを運営するソーシャルワーカー、キャロル・シュローダーは「何もかもが、全くもって許されることではありません」と断じる。BuzzFeed Newsが「ノートーク」や「ノータッチ」ルールについて説明すると、シュローダー事務局長は、「広く認められている治療的介入に、それら2つのいずれかを含むものは存在しません」と述べた。彼女に言わせれば、それは一種の支配であり、「卑劣なやり方」だ。

元生徒や元従業員によれば、これらのルールは以前からほとんど変わっていないようだ。ただし、リバー・ビューのルールは違法ではなかった。LGBTが広く受け入れられ、「子どもの性的アイデンティティを変えるためのプログラム」が拒絶される時代になっても、リバー・ビューのような施設は、驚くほどの独立性を維持している。あらゆる性的指向の子どもに悪影響を及ぼす恐れがあると批判されている「矯正療法」といった、論議を呼ぶ行為を合法的に試すことができるのだ。

カリフォルニア州を拠点に、問題を抱えた子のための施設に入った人々を支援している団体「サバイバーズ・オブ・インスティテューショナル・アビューズ(Survivors of Institutional Abuse)」を運営するジョディ・ホッブスは、「子どもが異性愛者か同性愛者であるかにかかわらず、こうしたプログラムは反抗的な子どもに対して同じ手法を用います」と話す。「私たちが社会として施設の運営を認めたのであれば、そうした施設は規制の対象にすべきです」

カリフォルニア州では2年前、LGBTの権利を擁護する人々が、ある法案の成立を後押しした。連邦政府の規制の対象とならない「『問題を抱えた子のための施設」を州が監視するための法律だ。民主党のリカルド・ララ州上院議員は、レベッカ・ロペスというリバー・ビューの元生徒に会った後、この法案を提出することに決めた。ロペスは2011年、14歳でリバー・ビューに送られた。

同性愛者を自称するロペスは、数カ月にわたって校内での身体的接触を一切禁じられたと振り返る。ハグやハイファイブはもちろん、つまずいたときに手を差し伸べてもらうこともなかった。

ロペスはBuzzFeed Newsの取材に対し、「文字通り、人と触れ合うことができませんでした」と語る。今でも、誰かに触れられそうになると、思わず後ずさりしてしまうという。「悪いことをしている」ような気分になるためだ。

2012年、カリフォルニア州は全米で初めて、医療従事者による未成年向けの矯正療法を禁止した。しかしララ議員によれば、寄宿学校が「怖がらせて同性愛をやめさせようとする」ことを禁止する法律は存在しなかった。

ララ議員はリバー・ビューのような民間施設について、「矯正療法を禁止する法律を回避するための別の試みだ」と表現している。

米国では、問題を抱えた子のための寄宿学校やキャンプのエコシステムが形成されており、リバー・ビューはその一つにすぎない。こうした施設は何百もあり、年間1万~1万4000人の若者を収容しているという試算もある。

この業界に関する調査で最も高く評価されているのは、2007年に発表された米政府監査院(GAO)の報告書だ。この報告書によれば、1990年以降、業界全体で「何千もの虐待疑惑が浮上しており、人の命が奪われたケースもいくつかある」。GAOはその原因として、「効果のない管理」、訓練されていない人材の雇用、「無謀または怠慢な運営」を挙げている。

2012年以降、カリフォルニア州に続いて14州が、医療従事者による未成年者への矯正療法を非合法化してきた。しかし、完全な規制は実現していない。「宗教的理由による免除」を認められ、同性愛者に敵対的なルールを定める施設がしばしば現れているのだ。

ララ議員が2016年に成立させた法案は、宗教的理由による免除を認めていない。ただし、どれくらい効果を発揮するかは不明だ。

「問題を抱えた子のための施設は必要だと思いますが、教員やセラピスト、看護師がいて、合理的な栄養プログラムがあるのが当然だと思います。リバー・ビューにはそのどれもがありません」

この法律は、問題を抱えた子のための施設が生徒の性的指向を変えようとすることを明確に禁止している。具体的には、「性的関心、恋愛感情、同性の他者に対する感情を排除または減少」させるための取り組みが含まれる。法律の対象となる施設の認可規則は2018年1月1日までに起草され、対象となる施設は7月1日までに、カリフォルニア州社会福祉局の認可を取得し、「従業員はLGBT独特の問題や生徒の権利に関する訓練を受けた」と証明する書類を提出することになっていた。

しかし、認可の要件がなかなか定まらず、1月1日の期限が守られなかった。さらに、新法でリバー・ビューをどう定義するか(例えば「代替的寄宿学校」など)すら、まだ定まっていない。

その結果、リバー・ビューは新法から逃れることが可能な状況に置かれている。この状況を見た元生徒、元従業員が立ち上がり、リバー・ビューのような施設に必要な変化について語り始めた。今回初めて声を上げた人もいる。

ドナヒューはリバー・ビューの求人広告に、「経験は不問ですが、考慮します」と書かれていることに気づき、声を上げようと決めた。「問題を抱えた子のための施設は必要だと思いますが、教員やセラピスト、看護師がいて、合理的な栄養プログラムがあるのが当然だと思います。リバー・ビューにはそのどれもがありません」

リバー・ビュー側は自らについて、全く問題はなく、それどころか良好な状態にあると主張している。現職の医療責任者が電話取材で、免許を持つ教員、看護師、精神科医、セラピストはいないと認めているにもかかわらずだ。2016年からリバー・ビューで働くこの医療責任者は匿名を希望しているが、自身も、基本的な応急処置を除いて医療訓練は受けたことがないと話している。

リバー・ビューを運営するNPO「ティーン・レスキュー」のフィル・ラドウィッグCEOは電子メールで取材に応じ、リバー・ビューは「不適切な行為を正式に報告」されたことはないと断言した。ラドウィッグCEOは元警官で、1993年にリバー・ビューを開校。性目的の人身売買の被害者を支援するNPOも運営している。

リバー・ビューに来る少女の多くは、うつ病やドラッグ、家出を経験しており、寄宿学校のプログラムによってその命を救うことができると、ラドウィッグCEOは述べている。同氏はBuzzFeed Newsに対して、「私たちの目標は、子どもたちの軌道修正を手伝い、自信を与えることです」と語った。「私たちは子どもたちを愛しています。彼らの心身を危険にさらすようなことは絶対にしません」

しかし、裁判所の文書や州の記録、カリフォルニア州上院での証言、そして、過去20年間にリバー・ビューにいた元生徒と元従業員22人のインタビューは、異なる姿を描き出している。8人の元生徒はBuzzFeed Newsの取材に対し、両親やほかの大人からの身体的・性的虐待を訴えても、学校職員は当局に報告しなかったと話している。これは州の「報告義務」法に違反している可能性がある。

ジュリアン・ユース・アカデミーと呼ばれた時代に働いていた女性は、ある生徒から、レイプを告白されたと振り返っている。「報告しなければならないことはわかっていました」。この女性は「寮母」として監督責任を負っており、規則に従うことも責任の一つだった。「しかし、職員たちに言われました。彼女はレイプの被害者ではなく、私を操ろうとしているだけだと」

16歳だった2010~2011年にリバー・ビューで暮らしていたK.W.は、血縁者から性的虐待を受けたこと、怒った母親からナイフを投げつけられていたことを職員に話したが、当局には何も報告されなかったと話している。

「私たちの話したことが、あの山の外に伝わることはありませんでした」。現在、K.W.は看護学校に通っている。

2016年にリバー・ビューで働いていた女性はBuzzFeed Newsの取材に対し、生徒が性的または身体的な虐待を受けたと言ったとき、どう対応すべきか教わったことはないと語った。ただし、現職の医療責任者は、関係当局に虐待が報告されたケースもいくつかあると述べている。

元生徒2人と元従業員2人によれば、自殺を図った少女や、自分の体を傷つけた少女は罰せられ、精神科医による治療やセラピーは提供されなかったという。元生徒のオリビア・タントーは「命にかかわる場合、救急医療が必要だと思います」と話す。

タントーは2018年夏、インターンとしてリバー・ビューで過ごし、12月から正式に働き始めた。タントーは、自傷行為にも罰則があることを認めている。「自傷行為に気付いたら、まずは傷の手当てを行います。その後、彼らは罰を受けます。学校の方針に反しているためです」

「自傷行為に気付いたら、まずは傷を手当てします。その後、彼らは罰を受けます。学校の方針に反しているためです」

4人の元生徒によれば、リバー・ビューでは罰則として、数日から数週間にわたって食事を「ピーナッツバターサンドイッチと水」だけに制限することがあったという。

また、信仰に基づき、セクシュアリティに関する厳格なルールが定められており、婚外交渉も禁止されていた。妊婦として学校で暮らしていたある女性は、出生前診断を受けることすらできなかったと話している。

学校に秘密で出産し、赤ん坊の命を奪った職員もいた。裁判所の文書には、赤ん坊がいることを理由に解雇されるのが怖かったという証言が記されている。この女性は殺人罪で刑期を延長され、現在服役している。

リバー・ビューは同性愛の抑圧を重視しているようだが、同性愛者や両性愛者でない元学生たちも、ノートーク・ルールやノータッチ・ルール、何カ月も外の世界から切り離されていたことで傷ついたと話している。

バカラックは学校を出たとき、「途方に暮れてしまいました」と振り返る。

リバー・ビューは、北カリフォルニアの都市レディングの郊外、森林に覆われた山中の孤立した場所にある。筆者が7月にレディングから45分かけて車でキャンパスに向かったときには、行程の大半が狭い一車線の道路で、マツとヒマラヤスギの香りと野火の煙が、気温40度を超える空気に充満していた。

広さ250エーカー(約1平方キロメートル)のキャンパスにはいくつかの建物が建てられ、ランニング用のトラック、大きな池、バレーボールコートがある。正門では、大きな十字架が出迎える。小さな標識が訪問者に対して、録画されていることを警告する。携帯電話の電波は届かない。

この人里離れた立地は、プログラムのある重要な要素に貢献している。生徒たちを外の世界から切り離すという要素だ。

「異性愛的ではないことをほのめかしても、処罰の対象だった」

校則は明文化されていないが、それは即座に変更できるようにするためだと、元生徒や従業員は話している。タントーによれば、基本はいまも同じだが、ポリシーはさまざまな世代の生徒に合わせ、必要に応じて調整されているという。

スタッフは、生徒がいつ親と話していいかを決め、生徒たちが出したり受けとったりする手紙を読んで検閲している。そうした制約は、新法では禁止されるはずのものだ。生徒たちはニュースを読めない。天気予報でさえも読めない。

元生徒によれば、在学中の規則には、魔法や神秘主義に関すること(『ハリー・ポッター』や「ノーム(森の精霊である小人)」などを含む)やPG-13指定映画などについてはいっさい話してはならないというものもあった。また、「冗談だよ(just kidding)」と言うのも禁止されていたという。

1年以上在学した生徒は、家で特定の決まりを守ると約束すれば、週末に帰宅することができた。特定の決まりとは、たとえばケーブルテレビのMTVやVH1を見ないとか、友だちと話をしないとか、「キリスト教の宗教音楽か1960年以前の曲」以外の音楽を聞かない、といった類のものだ。

元生徒たちによれば、自分たちの扱いについて、誰かに――両親にさえ――愚痴をこぼすことは許されていなかったという。これも新法では禁じられるはずのことだ。また、セックスや同性に惹かれる気持ちについて話しあうことも、かたく禁じられていた。

「異性愛的ではないことをほんの少しほのめかしても、処罰の対象でした」。2010年に16歳でリバー・ビューに送られたタリンはそう語る。タリンは取材にあたり、ファーストネームだけを使うことを求めた。

タリンの話によれば、彼女はある晩、ほかの生徒たちに自分は両性愛だと思うと話したという。数日後、タリンはティファニー・モーガン校長から、校長室に呼び出され、2000行を筆写するよう命じられた。これはよくある罰のひとつで、生徒は、文や成句、聖書の節を何百回、ときには何千回もノートに書き写さなければならない。モーガン校長は取材を拒否した。

「それまで、500行よりも多い筆写を命じられた人は見たことがありませんでした」とタリンは言う。「(校長に)その理由を説明されて、唖然としました。私が罰を受けたのは、自分のセクシャリティが理由だったんです」

筆写できるのは夜の数時間だけで、すべて終えるまでは「ノートーク」とされた。「それから1か月を少し過ぎたころ、私は泣きじゃくりました」とタリンは話す。「もう耐えられなかったんです」。タリンによれば、残りの筆写をするかわりに、2マイル(3.2km)を休まず走りとおせば、罰を終えてもいいとスタッフは同意したという。

まもなく14歳になる2011年にリバー・ビューに送られたジュリア・モリソンは、は、同性愛者だった少女とコミュニケーションをとりすぎたことを理由に筆写を命じられたという。筆写を拒否すると、2週間にわたり、ピーナッツバターサンドイッチと水しか与えられなかった。「毎日、普通の食事をさせてほしいと懇願しましたが、聞いてもらえませんでした」とモリソンはBuzzFeed Newsに話した。

リバー・ビューは「(生徒の)気持ちを挫くことで、規則に従わせようとするのです」とバカラックは言う。「従順にしようとするんです。扱いやすくなるように」

一方で、2010年から2011年までの2年間、リバー・ビューで寮母を務めたダニエルは、そうした規則の背景には2つの核となる理由づけがあると語る。生徒に「越えてはならない一線」があると教えることと、自分の行動に対する責任を持たせることだ。「私にとっては励みになりました。こうした若者たちは、自分がどんな宝物を得ようとしているかさえ知らないんです」とダニエルはBuzzFeed Newsに語った(なお、ダニエルは、スタッフのなかに資格を持つカウンセラーやセラピストがいなかったことを認めている)。

2013年から2016年までの3年間をリバー・ビューで過ごし、現在は職員となっているタントーは、これらの規則は「日々の自分の行動のなかで、成熟とリーダーシップ、そして思慮深さ」を教えてくれたと話している。

「若者たちは、自分がどんな宝物を得ようとしているかさえ知らない」

リバー・ビューの元生徒であるモーガンは、2010年からキャンパスで事業を経営し、リバー・ビューに批判的な者も含め、複数の女性たちから「思いやりのある人」と称賛されている。そのモーガンが2年前のとあるラジオ番組で語ったところによれば、リバー・ビューのプログラムは生徒たちに対して、「あなたは日々選択をしている。その選択は良い結果も悪い結果ももたらす。私たちがここにいるのは、あなたに良い結果と悪い結果について、やさしく教えるためだ」と絶えず念を押すように設計されているという。

「自分のほうが適応しなければいけないんです」とモーガンは語った。

このプログラムには効果がある、とダニエルは言う。なぜなら、生徒たちは両親や家族、友人、それまで知っていたあらゆるものから離れることになるからだ。「生徒たちは、自分という人間に向き合わざるをえません」とダニエルは言う。「あれほど生々しく、嘘いつわりのない場所は、そうそうないと思いました。なにしろ、逃げ場がありませんから」

生徒たちは規則を守ると点数を与えられ、大小の違反を犯すと減点される。トイレへ行きたいと頻繁に頼みすぎても、減点につながることがある。おもらしも、名札の付け忘れも同様だ。目標は、レベルAからレベルLまで昇進できるだけの点数を稼ぐことだ。このプロセスには通常18カ月を要し、レベルLになった時点でリバー・ビューは生徒を卒業させる。

生徒たちは、クラスメートが規則を破ったら報告するよう求められ、報告しなかったら罰を受ける。筆者が見たコピーによれば、小さな紙にあらかじめ書式が印刷された報告用のカードは、日時、目撃者の名前、優先度を書き込むようになっている。

「本当にひどい道徳的ジレンマです」と元生徒は話す。「ほかの子を攻撃して、自分を守るんです」。別の元生徒は、HuluのドラマになったSF小説『侍女の物語』(邦訳:早川書房)になぞらえた。「私たちはみんな。互いにスパイしあっていました」とその生徒は語った。

親が子をリバー・ビューのようなプログラムに入れるのは、バカラックのように、無断外出や飲酒によって成績に悪影響が出ている子どもに対処するためだ。また、引きこもりやビデオゲームのやりすぎといった理由でリバー・ビューに送られる生徒もいる。不特定多数との性交渉や同性に惹かれることを理由に、親が娘の恋愛生活を不満に思い、そのせいでリバー・ビューに送られたと話す女性も3人いた。

通常、リバー・ビューのようなプログラムに参加している子どもたちは犯罪歴を持っていない。だが、元スタッフの一員によれば、スタッフは疑いを持って生徒たちを扱うように訓練されていたという。その元スタッフはBuzzFeed Newsに、「あの子たちは刑務所に片足を突っこんでいる、と言われました」と話している。「常軌を逸した子たちで、あらゆるひどいことをする、信用してはいけないし、彼らの言うことを真に受けてもいけない、彼らは人を操る達人だから、と。そんなふうに、スタッフとしての訓練を受けました」

それを反映しているのが、リバー・ビューのウェブサイトだ。そこには、こう書かれている。「スタッフは断固たる姿勢で、自分が操作される可能性を認識できなければならない。そうしたスキルは、訓練と経験によって身につく」

一方で、メンタル的な問題を抱えた生徒たちは、そうした問題に伴う行動を理由に罰を受けたと話している。

2014年から2016年までリバー・ビューにいたメリージェーン・コールマンは、鉛筆削りの金属の刃で両腕を切って自殺を図ったときに、500点を減点されたという。当時15歳だったコールマンは、腕から血をしたたらせながらバスルームを出た。10分ほど後でスタッフにつかまり、包帯を巻かれたが、病院には連れて行かれず、精神科医やセラピストと話す機会も与えられなかった。事件が起きてから数週間、スタッフはその話題を持ち出さなかったとコールマンは言う。筆者が2018年にサンディエゴでコールマンと会ったときには、そのときの傷跡を確認できた。

「うまくいかなくて、本当に良かったと思っています」コールマンは自殺未遂についてそう語った。「でも彼らは、私を助けようとはしませんでした。自分を傷つけたことを理由に、私を罰したんです」

そのほか、タントーと別の元従業員を含む3人が、意図的に自傷行為をした生徒が懲罰の対象になっていたことを認めた。

2012年から2014年までリバー・ビューにいたMは、抗不安薬をやめさせられたあと、皮膚が破れるほど腕を引っ掻くようになったせいでスタッフから罰を受け、食事をピーナッツバターサンドと水だけに制限されたという。

タリンも、薬をやめさせられたあと、幻聴が聞こえるようになったと話している。タリンはスタッフに打ち明けたが、それは神が話しかけているのだと言われた。3週間後、タリンいわく「神経衰弱」に陥るまで、病院には連れて行ってもらえなかったという。タリンと同時期にリバー・ビューにいた別の生徒も、タリンの話を裏づけている。

リバー・ビューのラドウィッグCEOは2016年、自身のラジオ番組のなかで、場合によっては自傷行為のおそれがある子には精神科医を受診させると語ったが、その発言からは、そうした子どもたちを疑う傾向があることがうかがえる。「残念ながら、子どもを相手にしたこの手のプログラムを実施していると、彼らが実際には人を操ろうとしていることがわかります。しかし、法律は私たちを援護してはくれません」とラドウィッグCEOは語っている。


青い瞳とブロンドヘア、小柄だがたくましい体型のラドウィッグCEOは、キャンパスから離れた、ミドルクラスが多く住む南カリフォルニアのレイクエルシノアで暮らしている。リバー・ビューを運営するNPO「ティーン・レスキュー」の住所は、彼の自宅近くにあるUPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)店舗の私書箱になっている。

7月のある日の午後、筆者はラドウィッグCEOの家に立ち寄ってインタビューを申し込んだ(同氏がオフィスを持っていないためだ)。するとラドウィッグCEOは、「妥当性を欠いている」「私を窮地に追い込もうとしている」と言って、筆者を非難した。ラドウィッグCEOは筆者の取材を拒否したが、ラジオ番組で定期的にアカデミーのことを語り、BuzzFeed Newsとも何度かメールのやりとりもしている。

ティーン・レスキューのウェブサイトによれば、ラドウィッグCEOは「愛情に満ちたクリスチャンホーム(家族全員がクリスチャンである家庭)」で育ったという。サンディエゴ警察に採用されたが、5年後の1985年、自動車事故で負ったケガがもとで退職している。

子どものころに受けた宗教教育と、警察官という職歴(本人によれば、人身売買事件のおとり捜査に参加したことがあり、気がつくと、問題を抱えた家族の相談に乗っていることも多かったという)が相まって、彼は現在の天職へと導かれたとのことだ。

このアイデアがラドウィッグCEOの目に魅力的に映った大きな理由は、キリスト教に基づく私立学校なら、グループホームやリハビリセンターとは異なり、特定のカリキュラムに従うことを要求し、査察官の立ち入りもある州法が適用されないからだった。「だから、そうすることにしたんです」と、ラドウィッグCEOは自身のラジオ番組で2015年に語っている。「自身の信仰に基づき、邪魔されることなく子どもたちに福音を教えられるように」

キリスト教徒を雇える自由がほしいと、ラドウィッグCEOは言っている。「イスラム教徒の教師や、キリスト教徒ではない教師を迎え入れたくはないのです」

カリフォルニア州では、私立学校(リバー・ビューはそう自称している)は教育省に登録しなければならないが、ライセンスは必要ない。認証評価や教員資格については、自由裁量にまかせられている。

カリフォルニア州の教育省によれば、州は私立学校に対しては監視・査察を行っておらず、学区にも監視・査察の実行を義務づけていないという。ラドウィッグCEOのアカデミーは、政府から資金提供を受けていないため、連邦規則にも縛られていない。

ラドウィッグCEOのアカデミーは1993年、南カリフォルニアの山中に設立された。その後、山火事で校舎が燃え、現在の場所に移転された。2000年を迎えるころには、ラドウィッグCEOは、子どもを自分の学校に受け入れるなり、他校に紹介するなりすることで、アメリカ全土の5000を超える家族に力を貸していると豪語するようになっていた

6月に放送されたあるラジオ番組で、彼はこんなふうに語っている。「よく聞かれるんです。『そんな情報をどこで手に入れているんですか?』と。『聖書からです』と答えると『本当に?』という反応が返ってきます。だから、言うんです。『ええ、聖書は本当に実用的なのです』と」

ティーン・レスキューが開校した当時、世の中では「トラブルド・ティーン(問題を抱えた10代)」向けのビジネスが活況を呈しており、その規模は500億ドル(約5.6兆円)と評価されていた

精神医学や薬学に基づく主流の解決策を疑問視する1960~70年代のプログラムから、若者に「愛のむち」をふるう施設が相次いで誕生していた。それらのなかでもっとも悪名高いもののひとつが「シナノン(Synanon)」だ。シナノンは薬物更生プログラムとしてカリフォルニア州で産声をあげたが、徐々に暴力カルトへと変わっていった。

ティーン・レスキューが開校する2年前、反抗的な少女を受け入れる同じような宗教系学校、ビクトリー・クリスチャン・アカデミーが閉校に追い込まれた。カリフォルニア州の社会福祉省が、同校は「行動療法」を行う寄宿舎であり、ライセンスが必要という判断を下したためだ。

同校のオーナーはその後、その宗教的ステータスゆえにライセンスを必要としない同様の学校をフロリダ州に設立。リバー・ビューと同じように「書き取り」などの罰を生徒に科した。しかし、「地面に押しつける」などの、もっと厳しい罰も少女たちに科していた。そして2013年、虐待の疑いを受けて、このフロリダ州の学校は閉鎖に追い込まれた。

トラブルド・ティーン・プログラムがアメリカ国内にいくつあるのかはわかっていない。その理由のひとつは、こうした施設の定義について見解が一致しておらず、多くが州法の規制をかいくぐっているからだ。22の州では、私立学校は州に登録する必要さえない。そのため、不満の声があがったり、惨事が起こったりしないかぎり、これらが州の目にとまることはほとんどない。

あるアラバマ州の施設は、何年も前から査察を受けることなく運営されていたが、2015年に捜査が行われ、同施設運営者のうちの3人が児童虐待で有罪判決を受けた

その後アラバマ州では、トラブルド・ティーン・プログラムを規制する法案が可決され、州に登録することが義務づけられた。ただしその法案から、「性的指向で差別するプログラムの禁止」は削除された

トラブルド・ティーン・ビジネスを長らく研究しており、10年ほど前に連邦議会に調査結果も提出した臨床心理学者のボブ・フリードマンは、「なかには善意から始まったものもあると思います。でもしばらくすると、自分たちが何をしているのかがわからなくなってしまうのです」と語る。「こうしたプログラムの運営は簡単ではありません。これらプログラムは公共的に監視する必要があります。さもないと、大きな危険が伴います」

精神障害患者のサポート活動を全米で行う擁護団体「メンタル・ヘルス・アメリカ」でバイスプレジデントを務めるテリーサ・グエンは、トラブルド・ティーン・プログラムが法の抜け穴を悪用するのは簡単だと指摘する。こうしたプログラムは、ティーンにドラッグをやめさせたり、かっとなって行動に走るのをやめせさせたりといったことに力を貸せると宣伝する。しかし、「居住型の治療センターとして宣伝せず、学校を名乗れば、州の規制を外れることができるのです」とグエンは言う。

アメリカ合衆国保健福祉省にこうした施設を監視させようとする議会の試みは、いまのところ失敗に終わっている。カリフォルニア州選出の下院議員を長らく務めたジョージ・ミラーによる法案は、2008年と2009年に下院を通過したものの、上院は2度とも否決した。

ミラーが2014年に引退してからは、同じくカリフォルニア州選出の下院議員であるアダム・シフが跡を継ぎ、同法案の成立を目指しているが、いまだに共和党の支持は得られていない。この法案を支持してロビー活動を行ってきた人々によれば、連邦議員の多くが、規制は州にまかせるべきという考え方を変えていないことが、成立の足かせになっているという。

親たちはこうした施設にしばしば、数週間や数カ月間で何千ドルものお金を払って子どもを預けている。子どもが問題を起こさなくなることを願ってのことだ。

ティーン・レスキューの2016年度納税申告書を見ると、収入は年間約200万ドルで、その大半はリバー・ビューに払い込まれた授業料だ。支出は、食費が14万3677ドル、光熱費が11万1365ドルで、残りはスタッフへの給与だった。

ラドウィッグCEOの給与額は年によってまちまちだが、2016年は9万ドルで、残りの約100万ドルは従業員65人で分けられている。この従業員数は、同校史上で最も多い数だ。

リバー・ビューはまた、国税庁(IRS)に対して「ボランティア」が50人いると申告している(このボランティアが、固定給月200ドルで働くインターンを指しているかどうかは不明だ)。

同校は、ジュリアン・ユース・アカデミーという名前だった2010年に公式サイトにおいて、「15カ月間の授業料と寮費は合計5万2000ドルで、それ以降は月2800ドル」と知らせたのを最後に、プログラム費用を公表していない。しかし、最近になってキリスト教系のあるメディアグループのウェブサイトに掲載されたリバー・ビューのページには、年間授業料は7万3400ドルと書かれていた

リバー・ビューのキャンパスでは2010年、反抗的な少年に対するプログラムが始まった。しかし、生徒たちは男女別々に分けられている。少女たちは、もし少年を見かけた場合には下を向くか、RVCAという学校のイニシャルが入った学校支給のヨットパーカーを着ているときはフードをかぶるよう言われていたと、元生徒は語っている。

リバー・ビューは、プロテスタント系学校の非営利認定機関「キリスト教学校国際協会(ACSI)」に加盟している。同校はウェブサイトで「正式認定校」だと謳っているが、どこから認定されているのかは不明確だ。ACSIの地域代表を務めるセシル・スウェットランドはBuzzFeed Newsに対し、ACSIは「加盟校に対するガバナンスを有していません」と述べた。

ラドウィッグCEOは以前、米国西部地域私立学校大学協会(WASC)の認定校に申し込んでいるとも述べていた。しかし、リバー・ビューはWASCの認定も受けていない。WASCの代表者はBuzzFeed Newsに対し、リバー・ビューからは2011年に認定の申請があったが、却下されたと話している。ただし、その理由は記録に残っていない。

リバー・ビューでは、キリスト教をベースにしたホームスクーリング・ソフトウェアに従って教育が行われている。このソフトウェアは、オンラインコースを提供する福音派教育機関リバティ大学と、アルファ・オメガという会社が開発したものだ。元生徒たちは、進化論は信じるべきではないと教わったと話す。

ラドウィッグCEOは、学校には教育やカウンセリングの修士号を持つ職員がいると話していた。しかし、この記事を書くにあたって話を聞いた女性全員、ならびに元従業員2名は、教員資格を持っている教師も、公認カウンセラーもいなかったと述べている。

リバー・ビューでの仕事に応募するための書類には、「イエス・キリストを自らの救世主として受け入れていますか?」という質問がある。また、信仰と「スピリチュアルな洞察」について答える項目もある。

現在の医療責任者によると、親は子どもをリバー・ビューに預ける際、医療を受けさせる上での決定権を職員に託す書類にサインするのだという。しかし、法的責任は依然として主に親側にある。この医療責任者はBuzzFeed Newsに対し、生徒が痛みを訴えた場合は、「安全第一で対処する」ようにしていると述べた。「治療を受けさせないというリスクは決して冒しません。しかし、対処法を確認するために、親に必ず連絡をします」

ところが、元生徒や元職員たちの話では、生徒が病気だと訴えても、職員たちは信用しなかったという。元寮母はBuzzFeed Newsに対し、1人の少女がお腹のあたりが痛いと訴えたのに、職員はそれを大げさだと決めつけたことがあったと語った。最終的に学校側はその少女を病院に連れて行き、卵巣嚢胞が破裂していたことがわかった。

2001年から2002年にかけての1年半、リバー・ビューにいたキャット・スキャンランは、「プログラムを受けていたあいだ、私は2度、けいれん大発作を起こしました」と話している。のちにてんかんと診断されたが、当時は自分に何が起きているのかわからず、ただ気を失って、痛みで意識が戻ったのだそうだ。彼女は職員に、自ら階段から飛び降りたのだろうと責められ、罰として筆写をさせられたという。

カリは2001年、妊娠していた15歳のときに、母親に言われてリバー・ビューに入った(本人の要望により、生まれた子どものプライバシー保護のため、ラストネームを明かしていない)。カリの話によると、職員は彼女が妊娠しているにもかかわらず、ビタミンの摂取を増やすといった妊婦に必要な措置をとらなかった。食事の量もほかの生徒たちと同じだったという。

「あまりにもお腹が空いて、泣きながらベッドに入ったことを覚えています」と、カリはBuzzFeed Newsに語った。また、「妊婦のようにふるまう」ことも許されなかったという。そして、つわりで具合が悪くなったり、突然トイレに行きたくなったりすると、厄介なことになったと話した。

リバー・ビューにいたカリを何度か訪ねていたカリの継母ジェシカはBuzzFeed Newsに対し、「それは神の愛ではありません」と述べた。「学校側は生徒たちを精神的に追い込もうとしているだけです」

「学校側は生徒たちを精神的に追い込もうとしているだけです」

ラドウィッグCEOはBuzzFeed Newsへのメールのなかで、以前と同じコメントを繰り返し、元生徒たちは信用できないため、リバー・ビューに関する彼らの苦情や不満は割り引いて考えるべきだとほのめかした。「リバー・ビューには、家庭では手に負えなくなったティーンエイジャーたちがやってきます。差し伸べられた支援や心遣いに抵抗を示すのであれば、彼らは言うまでもなく、怒りを抱き、コントロールがきかず、権力を持つ側に対して敵意を抱いているのです」

ラドウィッグCEOはメールでさらに、警察や地方検察、連邦捜査局(FBI)、国土安全保障省、カリフォルニア州社会福祉局などの機関はすべて「すでにキャンパスを定期的に訪れており、リバー・ビューが在校生にとって優れた環境であり、法律に認められた範囲内で適切に運営されていることを知っています」と述べた。

しかし、BuzzFeed Newsが入手した調査報告書から、2015年に同校生徒が年上のティーンエイジャーから暴行を受けたという申し立てを受けて、カリフォルニア州社会福祉局の職員がリバー・ビューを訪ねようとした際、キャンパス内への立ち入りや生徒への接触を拒否されたことが明らかになった。社会福祉局は、リバー・ビューが「無許可でグループホームを運営している」のではないかと懸念を抱いたが、調査では結論が出なかったと報告書には書かれている。

「そういうときこそ、カリフォルニア州は毅然とした態度を示すべきです」と、ララ州上院議員は言った。「最終的には、すべての子どもの健康と安全を守る権限を持っているのは政府です。一線を超えれば、私たちは介入します」

2014年のある夜、ロサンゼルスLGBTセンターの政府対応担当者アーロン・フォックスがドキュメンタリー番組「Kidnapped for Christ(イエスのための誘拐)」をテレビで観なかったら、リバー・ビューはいまだに、カリフォルニア州のあずかり知らぬところで運営を続けていたかもしれない。

その番組は、ドミニカ共和国にある、トラブルド・ティーンのための宗教的理念にもとづいたキャンプと、同性愛のティーンエイジャーに対する虐待疑惑を追った内容だった。番組の最後に出てきた地図を見て、フォックスはびっくりした。カリフォルニア州にも似たような施設があることを示していたからだ。「こともあろうに、カリフォルニア州にもそんなところがあるなんて」とフォックスは思ったという。

「あのころは、そうした行動療法プログラムよりも、ネイルサロンに対する規制のほうが多かったのです」と、フォックスはBuzzFeed Newsに対して述べた。

フォックスはまず、ドキュメンタリーに登場していた、施設内虐待のサバイバーたちを支援するグループ「サバイバーズ・オブ・インスティテューショナル・アビュース」と連携した。そのグループ創設者が、ラドウィッグCEOの学校に在籍していた少女たちのオンラインコミュニティに接触を図った。そこで出会ったのが、ロサンゼルスに住んでいたロペスだった。

フォックスからロペスを紹介されたララ議員は、リバー・ビューでの彼女の体験談に耳を傾けた。そして、トラブルド・ティーン向け施設に州の立ち入り検査受け入れを義務づける州法が存在しないことを知ると、2015年2月に法案を提出した。

ラドウィッグCEOは、リバー・ビューで矯正療法を実施していることや、ティーンエイジャーたちを危険にさらしていることを否定しているが、「同性愛者であることは過ちだ」という自らの信念については隠していない。そしてラジオで、「(同性愛者であることは)聖書で罪だとされている不義やその他の性的な行為と何ら変わりはないと考えています」と発言している。「私は自分の信念に正直なだけです。(親たちが)子どもをこのプログラムに入れるのであれば、それは彼らの責任です」

ロペスは、カリフォルニア州上院議会でララ議員の法案を支持する証言を行ったほか、さまざまなメディアでも発言した。そして、自分もほかの多くの生徒たちと同じで、ある夜、寝室にやってきた2人の見知らぬ人間によって不意に連れ出され、リバー・ビューに連れて行かれたと語った。母親が、ガールフレンドと引き離し、同性愛者としての生活をやめさせたいと考えたためだった。

しかし、リバー・ビューに入って6カ月が過ぎたころ、そこでどんな目に遭っているかを母親に話したところ、母親はリバー・ビューを退学させることを決めた。車の後部座席に娘をこっそり隠して、ロペスをキャンパスから連れ出してくれたのだという。

ラドウィッグCEOは、矯正療法を実施していることや、ティーンエイジャーたちを危険にさらしていることを否定しているが、「同性愛者であることは過ち」という自らの信念を隠していない。

ララ議員が提出した法案は2016年、カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事が署名して、無事に成立した。とはいえ、リバー・ビューの元生徒たちからは、やるべきことはまだあるという声が上がっている。元生徒の何人かは、自宅に戻ってもすぐに親に追い出されたと述べた。リバー・ビューを出たあとに、薬物中毒に苦しむ生徒や、普通の学校になじむのに苦労した生徒もいる。

「日常生活に対処する用意が全然できていないのです」とタリンは述べる。「他人と普通に関係を築く方法がわかりませんでした」。かつての友だちは、すでに新しい友人を作っていた。「コミュニティ・カレッジに入りましたが、2学期目の半分まで通って辞めました。本物の学校でどうやって生活していけばいいのか、ちっともわからなかったのです。勉強の方法も知りませんでした」

適応できずに苦しんでいるのは、リバー・ビューに拒否反応を示した元生徒だけではない。

ティーン・レスキューのある従業員は2011年11月、シマウマ模様の毛布に包まれた女の赤ちゃんの腐乱死体を見つけた。発見現場は、リバー・ビューの元生徒でもある職員ジェシカ・ブラッドフォードが住むキャンパス内の宿舎だった。

当時23歳だったブラッドフォードは警察に対し、数週間前に、隠れて子どもを出産したと自供。妊娠を隠していたのは、職員が未婚で子を持つことが許されていなかったからだと語った。その女児はミルクを飲ませてもらえず、生後数日で亡くなっていた。ブラッドフォードは2014年6月、殺人で有罪となり、懲役25年の判決を受けた。

ラドウィッグCEOは、こうした状況は誰も予測できなかったと述べた。しかし、ブラッドフォードの弁護士ジョナサン・ジョーダンは、ブラッドフォードはリバー・ビューの生徒として生活を送ったあと、どうやって暮らしていけばいいのかわからなかったのだと主張した。だからこそブラッドフォードはリバー・ビューに戻り、住み込みで働き始めたのだし、妊娠が発覚して職を失うことを恐れたのだ、と。

ブラッドフォードは、「母性本能と、リバー・ビューの宗教的原則のあいだで葛藤を抱えていた」と、ジョーダン弁護士は話している。

この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan


BuzzFeed Japanは東京レインボープライドの公式メディアパートナーとして、2019年4月22日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「レインボー・ウィーク」を実施します。

記事や動画コンテンツのほか、オリジナル番組「もくもくニュース」は「もっと日本をカラフルに」をテーマに4月25日(木)午後8時からTwitter上で配信します(配信後はこちらからご視聴いただけます)。また、性のあり方や多様性を取り上げるメディア「Palette」とコラボし、漫画コンテンツも配信します。

4月28日(日)、29日(月・祝)に開催されるプライドフェスティバルでは、プライドパレードのライブ中継なども実施します。