アマゾンプライムの高速な無料配送に、隠れた環境コスト

    アマゾンが開催する年に一度のビッグセール「プライムデー」で、高速な無料配送を利用して買いまくった人も多いだろう。だがそこには、支払画面には表示されない隠れた環境コストがかかっている、と専門家は指摘する。

    アマゾンは、人々の買い物方法を変えてきた。eコマース最大手の同社は2018年、年に一度のプライムデーのセールが「アマゾン史上最大のセールイベント」となったと発表した。36時間にわたったこのセールでは、1億点以上の商品が購入され、サイトがクラッシュし、プライム会員の新規登録数は過去最多となった。

    人々のこうした行動は、アマゾンが創り出した購買文化を表している。手軽でスピーディでお得な同社のサービス、つまり、無料のお急ぎ便や、簡単な返品手続きといった非常に魅力的な特典によって、ますます多くの人が頻繁にオンラインで買い物をするようになっている。

    だが、こうした無料の特典には、支払画面には表示されない隠れた環境コストがかかっていると、専門家は指摘する。お急ぎ便は、できるだけまとめて配送されるわけではなく、配送に余計な車両やトラックが必要となるうえに、包装ごみが増加する。研究者によると、都市部の渋滞や大気汚染、それにゴミ埋立地の段ボールがますます増加しているという。

    無料で速い配送は、プライム会員にとっての人気特典だ。その魅力に引き込まれた1億人を超える会員が、119ドルの年会費を支払っている。配送会社UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)が2017年に実施した調査によると、アメリカの顧客のほぼ全員(96%)が、アマゾンもしくはウォルマートで買い物をしたことがあり、半数以上(55%)が、無料配送や割引配送を一番の理由に挙げた。

    ボストンを拠点に活動するアーティストであるリディ・サンヴィも、その1人だ。彼女は雑用に割く時間がほとんどなく、アマゾンプライムに頼っている。「ほとんど何を買うにもプライムを利用しています」と彼女はBuzzFeed Newsに語ってくれた。

    しかし、最近サンヴィは、アマゾンの配送が環境に及ぼす影響を気にかけるようになった。先日彼女が注文した児童書は、まだ十分入る余地のある大きな箱に入っていたし、アマゾン傘下のホールフーズ・マーケットからの配送は、捨てられる運命にあるリサイクル不可の保冷シート付き買い物袋に、ほんの少ししか入っていなかった。「正直迷っています」と彼女は言った。「便利なことは素晴らしいのですが、ごみが出るのは残念です」

    人々は、こうした便利さを提供されることで、もっと買うよう、そして、複数商品を1度にまとめて注文するより、個々で買うよう促されている。調査会社NPDグループでチーフ・インダストリー・アドバイザーを務めるマーシャル・コーエンはBuzzFeed Newsに対して、「店舗よりオンラインの方が、低価格商品のセールを頻繁に行なっています」と語る。

    カリフォルニア大学デイビス校土木環境工学科でアシスタント・プロフェッサーを務めるミゲル・ジャラーによると、こうした商取引はすべて地球に悪影響を及ぼしている。「人々は、これまで以上に消費しています。こうした安い製品と安い配送手段によって、需要がさらにつくりだされているのです」

    専門家によれば、eコマースは、最適化されていれば環境にとって有益に働くという。自分の車に乗って店に出かけるのは効率的ではないが、複数の買い物客の配送を1台の車にまとめれば効率が良くなるからだ。ワシントン大学のサプライチェーン輸送ロジスティクス・センターのディレクターであるアン・グッドチャイルドはBuzzFeed Newsに対して、「大まかに言えば、配送サービスは、走行マイル数を大幅に減らせる可能性をもっています」と語った。

    しかし現在、人々はオンラインで購入することで、ショッピングモールやスーパーマーケットへの交通量を減らしているわけではない。「問題は、私たちがいまだに両方行なっていることです。つまり、排出量も渋滞も増えているのです」と、カリフォルニア大学デイビス校のジャラーは語る。実際、道路上のトラック台数(配送車だけでなく全種類を含む)は、1995年以降倍増している。アマゾンは1994年に創業され、2005年には無料の2日間配送サービスである「アマゾンプライム」をスタートさせた。

    ワシントン大学のグッドチャイルドは、2013年の調査で、ワシントン州シアトル周辺の食料品配送用トラックの二酸化炭素排出量は、店に自家用車で出かける買い物客の排出量と比べて、顧客一人当たりで平均20~75%少ないことを明らかにした。だがこれは、食料品店が配達時間を指定できて、配送ルートを最適化できる場合だ。顧客が配達時間を指定する場合、二酸化炭素削減量は大幅に少なくなる。「配送が遅くなることにはメリットがあります。企業が、より多くの荷物を、より少ない車両にまとめられることです」とグッドチャイルドは説明する。

    アマゾンは、顧客の選択肢について、スピードアップのみを行なっている。プライム会員向けの無料の2日間配送サービスに加えて、2014年には新サービス「プライムナウ」を追加。こうした配送に対応するため、乗用車を持つ何十万もの独立請負業者にますます頼るようになっている。

    米国50都市で実施されているプログラム「アマゾン・フレックス」は、ウーバーに似たアプリによるプラットフォームだが、フレックスの登録ドライバーは、人を送迎する代わりに、プライム会員向けの荷物や食料品を運搬している。

    こうしたドライバーの車は、ほとんどが商用配達車両より小さいため、多くの荷物を載せたり、一度に多くの配達を完了させたりすることができない。さらに、遠回りになりがちだ。「ドライバーは自宅を拠点にしており、倉庫に行ってから配達先に向かい、また自宅に戻ってきます。しかも、倉庫がある場所は、顧客が買い物に行く店より遠いのです」とグッドチャイルドは語る。

    一方で専門家は、走行マイル数を比較した時、ロジスティックスが最適化されれば、eコマースの方が地球に優しくなることには同意するものの、排出量を比較すると、そのメリットは不明瞭だとも指摘する。「商用トラックには重量があり、1マイル当たりの汚染度が(乗用車よりも)高いのです」とグッドチャイルドは語る。トラックは軽油を燃料とし、ガソリンよりもエネルギー効率が良いが、4倍の二酸化窒素汚染が生じ、ガソリンの22倍の粒子状物質を排出する。

    そして配送トラックは、こうした有毒ガスの多くを低収入世帯が住む地域の近くで排出している。「製品は倉庫から出荷されますが、そうした倉庫の多くは、不利な立場にある地域の近くに位置しています。そうした地域の人々は、走行車両からの大量の排出に耐えているのです」と、カリフォルニア大学デイビス校のジャラーは語る。

    ジャラーが行なった流通センターに関する2015年の調査によれば、倉庫は、街からかなり離れた空き地から、消費者が住む都市部近郊に移動してきているという。

    乗用車やトラックだけではない。急ぎの荷物はしばしば、飛行機で輸送されることも多いが、飛行機輸送は二酸化炭素大量に生成する(二酸化炭素は、急速な気候変動の原因のひとつとされる温室効果ガスだ)。アマゾンは、自社専用の航空機チームに多額を投じている。10億ドルもの大金だ。

    ワシントン大学のサステナブル輸送研究所(Sustainable Transportation Lab)の責任者であるドン・マッケンジーは、「一般的に、遠方から何か届いたら、それは間違いなく飛行機で輸送されていると言っていいでしょう」と語る。陸上輸送は空輸より時間がかかるが、はるかにエネルギー効率が良い。

    アマゾンの広告担当者は、BuzzFeed Newsに電子メールで送ってきた声明の中で、「私たちは常に、流通網と運転効率の最適化に取り組んでいます」と記している。広報担当者は、同社による商業輸送の低炭素化への取り組みを指摘したほか、アマゾンはアメリカで使う自社トレーラーを、燃料消費を最大限に抑えるデザインにしていると述べた。具体的には、トレーラーの空力性能を高めるスカート(下部覆い)のデザインなどを採用しているという。

    だが、アマゾンが混載を最適化し、燃料効率を高めたとしても、消費者があまりに頻繁に買い物をしているため、効率的で持続可能な配送の実現は難しい。

    マッケンジーは、こう指摘する。「商品単位で、家庭への配送が環境に優しいかどうかは、1度の配送につき、どれだけ多くの商品を購入しているかによって異なります。自家用車による買い物1回は、1回のオンライン配送と置き換えられるのではありません。自家用車による買い物1回と置き換えられるのは、自宅への配送5~6回です」

    また、顧客は寛大な返品規定をうまく利用しているが、これによって車両の走行マイル数がさらに増加している。「多くの会社は無料返品を行なっていて、これが交通渋滞などに拍車をかけています。要らないなら、買わないことです」とジャラーは言う。

    このような、別々の注文、個別配送、無料返品といったあらゆるサービスの結果、さらに多くの車やトラック、飛行機、段ボールが必要になっているのだ。

    都市部では、かつてないほどの量の段ボールが、ゴミとして道路わきから収集されている。サンフランシスコを拠点とするゴミ収集業者、レコロジーSF(Recology SF)のロバート・リードは、「2017年は、サンフランシスコの戸建て住宅の7割に対して、より大型のリサイクル用ごみ容器を配送しました」と言う。同氏はBuzzFeed Newsに、大きなごみ容器が好まれるのは、オンラインショッピングの配送で出る段ボールを入れるためだと語った。

    北米の居住者約2千万人にサービスを提供している廃棄物管理サービス会社、ウエイスト・マネジメントも、道路わきからゴミとして回収される段ボールの増加を確認している。同社リサイクル事業部門のバイス・プレジデントを務めるブレント・ベルは、「新聞紙の減少は把握していますが、eコマース配送の伸びは計り知れません」と語る。この10年間、道路わきのゴミ収集では、新聞が廃れたギャップを埋めるかのように、段ボールが20%増加しているとベルは語った。

    ベルが段ボールの収集を好むのは、比較的リサイクルしやすい素材だからだ。だがこれは、段ボールがリサイクル回収容器にたどり着いた場合だ。「当社にとって、次の大きな目標は啓蒙活動です。段ボール箱を、出来るだけ小さく折り畳んで回収箱に入れよう人々に呼びかける予定です。リサイクル回収容器がいっぱいになれば、残りは埋立地に回されてしまいますから」とベルは言った。

    USAトゥデイの調査によると、消費者が段ボールのリサイクルに非協力的なのは、かつて段ボールがリサイクル対象外だったことが主な要因とされる。アメリカ国内での段ボールの消費は2017年に3.5%増加したが、リサイクルされた段ボールの量は、前年比で30万トンも減少した。

    アマゾンの広報担当者は、製造業者と提携したフラストレーション・フリー・パッケージ(FFF)プログラムを通じて、開けやすく、100%リサイクル可能な包装に取り組んでいると述べた。「これによって、2017年だけで包装ごみを16%削減でき、3億500万個の配送用ボックスを使わずにすみました」

    しかし、たとえ青いリサイクル回収箱にきちんと段ボールを入れたとしても、リサイクル工場までたどり着くとは限らない。2018年に入って、世界のリサイクル可能素材の大半を加工している中国が、輸入段ボール古紙に対する規制を導入したためだ。この規制により、輸入古紙に認められる「不純物」(生ごみやその他の不純物)の割合はわずか0.5となった。その結果、多くのものが埋立地行きとなっている。

    アマゾンが、配送時間を2日間から2時間に短縮したため、欲しいものを欲しいときに入手したいという買い物客の欲求はさらに強まっており、競合他社がその後に続いている。ウォルマート、ターゲット、ホーム・デポなど多くの小売業者も、配送に関する顧客の期待水準を満たすため、無料の2日間配送サービスを提供している。

    また、自社の配送サービスを展開するスーパーマーケットチェーン大手のセーフウェイやヴォンズ(Vons)に加えて、生鮮食品の即日配達を行う「グーグル・エクスプレス」や、自然食品配達の「グッド・エッグズ(Good Eggs)」、ネットスーパーの「フレッシュ・ダイレクト」、レストランからのデリバリーを行う「ポストメイツ(Postmates)」、買い物代行サービス「インスタカート(Instacart)」なども、食料品や雑貨などをオンデマンドで配送している。

    だが、アメリカでは依然として、eコマース市場シェアの49.1%を占めるアマゾンが、この業界の標準を形成し、買い物客がオンライン小売業者に期待するものを決定づけている。

    多くの小売業者は2018年、アマゾンに対抗するため、あえてプライムデーに独自のお買い得商品を提供したり、それぞれが独自のセールデーを設けるなどした

    こういった利便性は、それ自体が悪いわけではない。何かが必要な時に、徒歩や車でどこかに行く代わりに、タップやクリックをしさえすればいいのだから。しかし、こうした手軽さによって、「配送時間はゆっくりだが、地球に優しい選択」をすることがきわめて困難になっている。

    「アマゾンで自分を律するのは困難です」と、ワシントン大学のマッケンジーは語る。彼自身もプライム会員だ。「配送に限って言えば、食べ放題のバイキングのようなものです。すぐに注文しないで、他の配送とまとめて購入するようにしましょう、などと注意喚起されていたとしても、誰も見ていないのです」

    ひょっとすると、最終的にアマゾンのような企業が環境に配慮せざるを得なくなるのは、冒頭で紹介したアーティストのリディ・サンヴィのような買い物客が理由になるかもしれない。彼女は、プライム会員を退会することを検討している。「(配送で出るごみが)とても気になります。保冷バッグで届く商品は、できるだけ注文しないようにしようと思っています。こうしたサービスは便利ですが、ゴミに対する心配のほうが勝ります」


    専門家がアドバイス「地球を破壊せずに買い物する方法」

    1.商品をたくさん買わない。「一番良いのはたくさん買い込まないことです」とグッドチャイルドは助言する。ジャラーも賛成する。「要らないなら買わないことです」

    2.安いからといって、速い配送を選ばない。グッドチャイルドは、「概して、待つのはいいことです。配送時間が長い方を選択すると、効率化が進みます」と語る。

    アメリカとイギリスのアマゾンでは、プライム会員向け商品は「急がない便(free no-rush shipping)」を選択できる。到着を待つ時間に対する報酬として、電子書籍や映画、プライムパントリーの食料品や雑貨類などのクレジットまたは割引が得られる。「お急ぎ便は環境に優しいとはいえません。今すぐ必要でなければ、無料だからといって2日間配送サービスを選ばないことです」とグッドチャイルドは言う。

    3. すぐレジに進まない。至急必要というわけでなければ、必要に応じて商品をカートに追加していく時間をとって、配送をまとめた方がいいと、ジャラーは述べる。

    4.食料品をオンラインで注文しているなら、1週間分を買うようにするか、1度の配送で複数の食事が届く食事セット配送サービスを選んだ方がいい、とグッドチャイルドは言う。

    5.食料品店やモールに行くときは、できるだけ、エンジンを使わない移動手段を利用する。買い物の環境への影響を最小限に抑えることができる。「店へは、歩くか自転車で行くか、公共交通機関を利用しましょう」と、グッドチャイルドは言う。

    6. 1度の外出で複数の用事を済ませる。グッドチャイルドは、1つの用事を済ませる時に複数の店を回るか、会社と家の間の通勤経路に、買い物ができる店を見つけておくことを提案している。

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:古森科子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan