破損したパイプラインから人々が石油を盗もうとするなか、メキシコ兵たちはただその場に立っていた。数時間後、数十人が死亡する事故が起きた。

    メキシコの一部で起きていた石油の窃盗に対し、政府が数週間にわたって摘発を行ってきた中、今回の爆発事故が起きた。

    メキシコ、トラウエリルパン―1月18日午後、めまいと吐き気を感じながら、アドリアナ・ロハスは石油パイプの側から離れようとしていた。パイプは壊され、そこからは石油が漏れ出していた。

    メキシコ中央部に位置するこの場所には、他にも数百人規模の人だかりができていた。ロハスが両手で運んでいたプラスチック製の容器は石油で重かった。

    数時間後、石油の窃盗が行われていたこの場所で爆発が起き、夜空を明るく照らし出した。この事故で、ロハスのいとこの他78人が死亡し、少なくとも81人が負傷した。

    アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領率いる新政権が石油の窃盗に対する摘発を行ってきた中で、今回の爆発事故が起きた。

    パイプラインからの窃盗はメキシコで最も儲かる犯罪行為の一つとなっており、国にとっては年間数十億ドル(約数千億円)規模の損失を生んでいる。その一方で、ダクトの大半を支配する武装ギャングや、盗まれた石油を正規価格の3分の1の価格で購入する住民たちには恩恵をもたらしてきた。

    対策としてロペス・オブラドール大統領は、一時的にメインパイプラインのダクトを封鎖し、製油所からガソリンスタンドまでタンカートラックで石油を輸送した。しかしその結果、この2週間メキシコ中のガソリンスタンドには数時間に及ぶ長蛇の列ができており、ドライバーたちは怒りを顕にしている。

    19日午後、小さい子ども連れの夫婦らが警察の立入禁止テープの周囲に集まり、親族の安否に関する報告を待っていた。現在も数十人が行方不明となっている。

    軍の怠慢を批判する者もいる。爆発の数時間前に撮影された動画には、人々が興奮した様子でアルファルファ畑を横切って石油を汲みに走っていく中、兵士たちはただ黙って立っている様子が映っていた。

    「彼らがしっかり仕事をしていれば、人々が殺到するのを防げたはず」地元住民のホセ・ルイス・エルナンデス(69)は話した。

    ルイス・クレセンシオ・サンドバル国防大臣によると、爆発が起きる前、現場には約25人の兵士と600~800人の一般人がいたという。さらにサンドバル国防大臣は、1人の軍関係者が群衆に引き返すよう説得を試みたが、彼らが「やや攻撃的」になったため、「衝突を回避するため」に引き下がらざるをえなかったと話した。

    18日午後、現場に到着したロハスは、1人の兵士に石油を汲むためにパイプに近づいて良いか聞いた。彼は許可したが、携帯電話は置いていくように言われたそうだ。

    州警察の指揮官(メディアでの発言を許可されていないため匿名を希望した)は、無料で石油を手に入れようとする群衆に対し、当局関係者の数は圧倒的に少なかったと語った。

    さらに同指揮官によると、警官らは無線で応援を要請したものの、他の石油窃盗現場と異なり今回の現場は市街地から非常に近い場所にあったため、一気に群衆の数が膨れ上がってしまったという。

    最近の石油不足により、人々は警察からの命令をより一層受け入れにくくなっていると同指揮官は話した。「また別の場所で石油が流出すれば、彼らは集まってくるでしょう。彼らはやむを得ずそうしているのです」

    石油を汲みに行くことは危険だとロハスは知っていたが、彼女の夫は洗車場で最低賃金で働いており、4人家族の生活費を稼ぐのもぎりぎりという状況なのだと語った。メキシコでは昨年から燃料価格が一定の割合で上昇し続けている。

    今回の爆発事故による死者は今も増加を続けており悲劇的な結果を生んだが、ロペス・オブラドール大統領は19日に行われた記者会見で、石油の窃盗に対する取り締まりを強化すると約束した。

    「我々は黙って立ち尽くしているつもりはありません」と彼は語る。「今回の事故は非常に痛ましいですが、大きな教訓とも言えます。我々は今までどおり一丸となってこの問題の解決に努めていくつもりです」

    19日に行われた記者会見でペメックス社のオクタビオ・ロメロ専務理事は、今回爆発が起きたトラウエリルパンでは過去3カ月間で警察当局が10件の石油窃盗を発見していたと語った。さらに彼は、そのうちの1件では爆発が起き、消防による消火作業は12時間に及んだと語った。

    現地のレポートによると、メキシコ州のアカンバイでは先週、数十人がダクトを破壊し、バケツやドラム缶に石油を汲んでいたという。


    この記事は英語から翻訳・編集しました。