ドナルド・トランプ大統領は2月11日、メキシコとの国境にほど近いアメリカ・テキサス州のエルパソで演説をした。トランプ大統領がメディアへの批判を口にした数分後、会場では「Make America Great Again(アメリカ合衆国を再び偉大に)」という言葉を冠したキャップをかぶった男性が、報道陣のエリアに侵入。「Fuck the media. (メディアなんかクソくらえ)」と叫びながら機材を倒し、レポーターを押しのけた。
演説が半ばに差し掛かったタイミングで、トランプ大統領はメディアが彼の成功を「認めることを拒んでいる」とあざ笑った。聴衆たちはトランプ支持の声を張り上げる。
「世の中で報じられている93%はネガティブなものだ。何をしても、彼らは常にどうやって(ネガティブに)報じるかを模索している」と指摘をした上で、北朝鮮との交渉や経済状況、そして製造業などについて不当にゆがめられていると強調した。
自身の成功に触れながらメディアを批判したタイミングで、「Make Ameria Great Again」というトランプ大統領支持者お馴染みのキャップをかぶった男性が報道陣のもとへ詰め寄る。報道機材にぶつかって「Fuck the media(メディアなんかクソくらえ)」と叫び続けた。
現場でトランプ大統領のスピーチの模様を取材していたトルコのメディア・TRT World所属のヤスミン・エル=サバウィは「大統領のスピーチを見て、ツイートしようとしていたタイミングで突然、報道陣エリアが揺れ始めて、目の前にあった三脚が次々と倒れたり、人が私の上に落ちそうになったりしたんです」と当時の状況をBuzzFeed Newsに語った。
撮影をしていたスタッフの手元からカメラが落下。混乱した状況の中でエル=サヴァウィと数人のレポーターたちは何が起きたのかを把握しようとした。
「ここにいるべきでない人間がいたということに気付きました。目の前の赤い帽子をかぶった男性を見つけたときに、ようやく状況を理解することができたんです」
彼女によると、突撃してきた男性は「真っ直ぐBBCのカメラマンへと迫っていった」という。
現地で報道していたBBCの取材クルーの数人も、この模様を自身のTwitterアカウントで発信している。
トランプ大統領の演壇の目の前に設置されていたBBCのカメラ。撮影中に突如つまづき、映像が不鮮明になる。取材クルーの1人でワシントン担当のエディター、エレノア・モンタギューは、一連のトラブルは「トランプ大統領支持者に攻撃されたため」と説明した。
「トランプ大統領はじめ、そこで繰り広げられる演説によって人々はメディアに対する敵対心を煽られていた」と彼女はその異様な様子を伝えている。
ホワイトハウス記者協会は今回の一連の騒動に対して、声明を発表した。
「我々は今回の出来事で怪我をした人がいないことに、胸をなで下ろしています」
「大統領は彼の支持者に対して、報道陣に対する暴力は許されるものでないと明確に伝えるべきです」
またホワイトハウスも「すべての暴力的行為」を批判する声明を発表している。
サラ・サンダース報道官は「トランプ大統領はあらゆる個人、集団に対する暴力的行為を非難する」とコメント。
「イベントに参加するすべての人に、平和的にマナーを守ることを望みます」
演説での一連の様子をTwitterで最初に発信した一人のThe Washington Examinerレポーター、アナ・ジャルテリによると、報道陣の多くが「警察に警備をするよう叫んでいた」という。
数人のレポーターたちがBuzzFeed Newsの取材に対して、カメラマンが突き落とされるまで、警備員や警察は報道陣エリアにいなかったと明かしている。
一部始終をカメラに収めていたホルヘ・サルガドは「(警備が)男を退席させるためにとった対応は、ありえない」。報道陣を攻撃した男性は「攻撃的で、どこからともなくやってきた」と語っている。
アニバル・アルモドバル・カルロスは「トラブルが発生した際、警備は全くなかった」という。
「暴れる男性を捕らえて、警察のもとへ連れて行かなくてはいけませんでした」とカルロスは状況を説明する。
「以前も同じような状況に遭遇したことがあります。だから、これは決して目新しいことではありません。でも、10人のシークレットサービスや警察官がすぐさま彼を捕らえなかったことには驚きました」
アメリカのスペイン語テレビ局・Telemundo 48のプロデューサー、レナ・デルガディジョは男性に「殴られるかと思った」とコメントしている。
デルガディジョとTelemundo 48のレポーターは当時の状況をメモに書き留めていた。彼は男性の叫び声を聞き、他のレポーターたちを押しのけて「メディア専用の通路へ侵入していった」。
「みんな動揺していました」と周囲の混乱した状況を振り返る。
彼はInstagramにその状況を撮影した動画を投稿している。そこには「Fuck the media(メディアなんかクソくらえ)」と叫ぶ男性と、彼を抑えて連れて帰ろうとするトランプ支持者の男性が
「誰か、セキュリティーを」と叫ぶ声も収められている。
男性は2人の警備員に取り押さえられるまで、キャップを手に「Make America great again」と声を張り上げていた。トラブルの最中も、報道陣を取り囲む群衆は「トランプ!トランプ!」と叫び続けていた。
警備員が男性を取り押さえている間、トランプ大統領はスピーチを一旦中断し、「大丈夫か?問題ないか?」と呼びかけた。その後、親指を立てたすぐ後に、スピーチを再開している。
BuzzFeed Newsはホワイトハウスに今回の件についてコメントを求めたが、解答を得られていない。
この一連の騒動がありながら、トランプはその後もメディアを批判する旨のスピーチを続け、彼の言葉はそこに集まった群衆たちを煽動し続けた。
「メディアの中で最も不誠実な者たち、それがファクトチェックをする者たちだ」という彼の言葉に群衆が沸いた。
2月12日、BBCは男性に攻撃されたカメラマンのロン・スキーンズは、無事だと声明を発表した。同時に、BBCの北米担当エディターはホワイトハウスの広報官に演説中の警備体制の見直しを求めている。
「彼らが職務を遂行する段階で、危険に晒されるのは到底受け入れられることではありません」
トランプ大統領の演説中に、メディアが身体的に標的になったケースは今回が初めてだ。しかし、2018年4月ミシガン州の演説など、メディアに攻撃的な言葉を浴びせる様子が度々目撃され、10月にはCNNヘ不審な荷物を届けた男性が逮捕されている。
デルガディジョはこの日、初めてトランプ大統領の演説を取材した。この経験は貴重だったと話す。
「メディアが持つ責任について理解するために‥この体験は貴重なものです」
この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:千葉雄登