ロシアW杯が幕を閉じたばかりだが、ドイツから衝撃的なニュースが入った。2014年W杯の王者、ドイツ代表の司令塔として活躍していたメスト・エジルが代表からの引退を発表した。その理由は…人種差別。彼はドイツサッカー協会を非難している。
エジルは代表引退の理由をTwitterで明らかにした。彼はまだ29歳、年齢的には4年後のカタールでのW杯への参加も現実的だ。しかし、これまでも国歌斉唱を行わない姿勢などがドイツ国内のメディアから批判されてきた。決め手となったのは今年5月、トルコのレジャップ・エルドアン大統領と一緒に写る写真へ寄せられた批判だった。
エジルはトルコにルーツを持つドイツ生まれの選手。彼は今年5月、ロンドンで大統領選を控えていたトルコのレジャップ・エルドアン大統領と面会。自身がプレーするイングランド・プレミアリーグのアーセナルのユニフォームをプレゼントした。
この写真が公開されると、独メディアはエジルのこの行動を非難。
ドイツサッカー協会のレインハルト・グリンデル会長も「サッカー、そしてドイツサッカー協会はエルドアン氏が軽んじてきたことを大切にしています。そのため、ドイツ代表選手が彼の選挙キャンペーンの一端を担うことを認めることはできません」という声明を発表した。
トルコはこれまでエルドアン大統領のもと、メディアやソーシャルメディアの弾圧、さらには人権侵害を行ってきた。そのためEUやドイツと対立関係にある。
今回の写真は選挙戦を前にしたエルドアン大統領のキャンペーンの一環とドイツ国内では捉えられており、彼の再選のために力を貸したと見なされてしまった。
代表引退を表明したTweetでエジルも問題の写真に言及した。
「エルドアン大統領との写真に政治的な意図はなかった。家族そして僕にとってのルーツである祖国へ敬意を示すための行動だった」と彼は語る。
「相手がトルコの大統領だろうと、ドイツの大統領だろうと僕の行動は変わらない」
さらにエジルは独メディアの「右翼的なプロパガンダ」に利用されたと言及している。ドイツ代表はロシアW杯でグループリーグで敗退している。
ドイツ代表のグループステージ敗退は西ドイツ代表時代を含め、W杯が始まって以来、初めてのことだった。その戦犯として名指しでパフォーマンスを非難されていた。
エジルは彼自身そして家族がどのような脅迫のメール、電話を受けてきたのか、SNSでどのような誹謗中傷を受けてきたのかも明らかにした。
エジルは「グリンデルや彼の支持者たちは、勝ったときにはドイツ人、負けたときには移民として僕を見ていた」とコメントしている。
ドイツサッカー協会はエジルの今回の代表引退とコメントに対して声明を発表した。声明で彼らは、人種差別的意図は存在していないこと、異なるルーツからなるドイツ国民を一つにするため、その多様性に貢献するために努力してきたことを伝えている。
ドイツサッカー協会は彼らがたくさんの移民たちへスポーツを届ける努力してきたことにも触れ、今回のエジルのコメントは看過できないとしている。
彼の代表引退への人々の反応は賛否両論だ。
「彼が敬意を欠いた扱いを受けながらも、ピッチの上で、そしてピッチの外で自分の国へ貢献してきたことは疑いようのない事実だ。お疲れ様、エジル」
一方で、ドイツ・ブンデスリーガの強豪、バイエルンミュンヘンのウリ・ヘーネス会長は「彼の引退は喜ばしいことだ。これ以上、彼の酷いプレーを見る必要はないのだから」とコメント。あまりに辛辣なコメントは波紋を呼んでいる。
ドイツのメルケル首相も今回の騒動に言及。彼の決断を「尊重する」とし、これまでのドイツ代表への貢献へ感謝の意を示した。
ドイツではメルケル首相のもと2015年以降、積極的に難民を受け入れてきた。
しかし、難民の受け入れを巡っては国内でも意見が分かれている。2017年9月24日の連邦議会選挙では反イスラム、反難民、反EUを掲げる極右政党「ドイツのための選択肢」が12.6%の得票率で94議席を獲得した。
閣僚内での対立も激化。難民を「国境で追い返す」ことを主張していたゼーフォーファー内相とメルケル首相は7月2日に難民の流入を抑制することで合意した。
欧州の盟主として難民受け入れをリードしてきたドイツの足元は揺らぎ、欧州各国は次第に難民へと開かれていた扉を閉ざしつつある。
そんな中で起きた今回の一件。これまでもドイツ国内ではトルコ系移民の子孫をどのように社会に受け入れていくかが論点となっていただけに大きな注目を集めている。
この記事は英語から翻訳されました。翻訳:千葉雄登