不適切な広告であふれる子ども向けアプリ 甘すぎる政府とGoogleの対応

    子ども向けアプリの問題を指摘する調査結果に動かされ、複数の権利擁護団体が就学前の子どもを標的にするアプリの実態調査を政府に要求した。

    幼い子ども向けとして提供されるアプリ、なかでも「Google Playストア‎」で配信されているアプリは、大量の広告を表示する。そうした広告は、アプリそのもののから子どもの注意をそらし、買い物をさせようとしたり、個人情報を引き出そうとしたりする。

    これは、10月末に公表された調査レポートで明らかになった問題である。子どもの権利を守る多くの団体がこの現状に動かされ、対象アプリの実態調査を米連邦政府に求めた。それによると、教育的ゲームであるとして保護者を欺き、悪質な広告や子どもに購買を促すキャラクターを表示する、といった行為で米連邦取引委員会(FTC)法に違反しているアプリが多いという。

    営利主義から子どもを守る活動をしている団体のCampaign for a Commercial-Free Childhood(CCFC)でエクゼクティブ・ディレクターを務めるジョシュ・ゴリン氏は、BuzzFeed Newsに対し、「我々が望んでいるのは、FTCがこうしたアプリの開発元に罰金を科すことだ。就学前向けアプリ業界に対する明確なメッセージとなるよう、十分な額の罰金を科してもらいたい」と述べた。

    CCFCとその他21団体が署名したFTC宛て書簡には、主に調査レポートで指摘された懸念の概要が記されている。

    テレビ番組の場合、子ども向け広告には明確な規制が存在する。たとえば、商品は紹介できないし、番組内のキャラクターが商品購入を勧める「ホストセリング」という広告手法も使えない。ただし、これらの規制は米連邦通信委員会(FCC)が定めたものであり、インターネットは対象外だ。「FCCはこの分野にかかわろうとしない。規制にすき間が生じている」(ゴリン氏)

    冒頭で紹介した調査レポートは、135種類の子ども向けアプリを調べた。有料アプリもあれば無料のものもあり、iOS用もAndroid用もある。Google Playストアの「5歳以下向け」カテゴリで人気アプリとなっていた、96種類のアプリも含まれる。調査対象となったアプリの約3分の1には、「教育」というタグが付けられていた。ダウンロード回数は、ほとんどの無料アプリがそれぞれ500万回を超えており、有料アプリも5万回以上あった。

    有料アプリの88%、無料アプリの100%、つまり調査対象アプリのほとんどが何らかの広告を表示した。ポップアップやバナー、アプリ内広告が表示されたり、キャラクターによる宣伝が行われたりしたという。

    調査レポートによると、バナー広告のなかには、「知っておくべき正反対の真実10選:治療法を検索」のようなヘルスケア関連広告など、子どもに不適切な内容を表示するものがあった。

    ほかにも、「核」ボタンを押したがるアニメ風トランプ大統領のゲーム「Pocket Politics」や、自動車を銃撃するゲーム「FastLand」、といったアプリの広告も表示された。Pocket PoliticsとFastLandの広告は、デモビデオを見ないと消せなかった。

    ゴリン氏が極めて悪質と感じたのは、購入ボタンを押さないとキャラクターが泣いてしまう「Doctor Kids」というアプリである。同氏は「子どもは、こうした反応をするキャラクターを心から好きになってしまう。キャラクターが泣くことは、子どもにとって非常に強力な感情表現なのだ」と話す(Doctor Kidsの開発元であるBubaduに問い合わせたが、コメントは得られなかった)。

    研究者たちが「カモフラージュ」広告と呼ぶ広告は、調査対象アプリのうち9種類で使われていた。これは、ゲームの構成要素に見えるコンテンツが実は広告で、クリックするとビデオ広告が再生される。

    たとえば、Google Playストアによると5億回以上インストールされたという「My Talking Tom」の場合、ゲーム内で天井からプレゼントが落ちてくるのだが、それをタップすると「ビデオを見てゲットしよう」というメッセージが表示される(My Talking Tomの開発元であるOutfit7に問い合わせたが、コメントは得られなかった)。

    Google Playストアで1000万回以上インストールされたという「Builder Game」は、キャラクターの上に吹き出しが現れ、子どもにさまざまな指示をしてくる。吹き出しによっては、広告を見てからでないとプレイできないゲームを紹介するものがあったそうだ(Builder Gameの開発元もBubaduで、やはりコメントは得られなかった)。

    この調査を主導したミシガン大学の小児科医であるジェニー・ラデスキー氏は、1年前のある冬の朝、当時8歳だった息子が「Masha and the Bear Vet Clinic」というアプリで遊んでいた姿を思い出すという。

    アプリのなかで息子は獣医になり、具合の悪いオオカミに刺さった“とげ”を抜いてやろうとしていた。その際、広告ビデオを見るととげを抜くためのピンセットが手に入れられて、ご褒美のキャンディがもらえるのだ。

    ラデスキー氏はBuzzFeed Newsに、「息子に、それだけのために広告ビデオをわざわざ見ようとするの、と尋ねたら、キャンディがもらえるから、だって」と話してくれた(Masha and the Bear Vet Clinicの開発元であるAnimaccordに問い合わせたが、コメントは得られなかった)。

    ラデスキー氏によると、息子やもっと幼い子どもはほとんどの場合、広告が隠している「説得させようという意図」を見破る重要な判断力を持っていない。アプリが広告を見せようとするのは金銭的なメリットがあるからで、「そのような意図など、息子にはとても理解できない」(同氏)

    子どものブランドに対する好みは、アニメやその他メディア内の広告に短時間接触しただけでも大きく影響されるそうだ。スタンフォード大学で小児科教授を務めるトム・ロビンソン氏は、複数の研究がこの結論に至った、と指摘した。

    「あまりにも多くのアプリ開発会社がこの種の狡猾な手法を使おうとするのには、明らかに無防備な子どもを利用してやろうという意図がある。まったく嘆かわしい」(同氏)

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    これまで研究機関による報告と報道はいずれも、5歳以下の子どもたちの平均スマートフォン利用時間は1日約1時間という、アプリの使用時間ばかり槍玉に挙げてきた。

    ところが研究者たちは、スマートフォンで何を見て何をしているのかが重要で、使用時間の長さより内容の方が影響する可能性もある、ということに気付き始めている(ちなみに、ラデスキー氏はアプリ否定派でない。癇癪に手を焼いている保護者に対して、「Daniel Tiger's Neighborhood」というアプリを勧めている。「ストレスを感じているとき、子どもと保護者の両方に何をしたらいいか教えてくれる」そうだ)。

    2016年にラデスキー氏は、子どもとスマートフォンに関するガイドラインの最新版を作るため、米小児科学会に協力した。最新版は以前より制限が緩められたのだが、広告に対しては厳格化され、子ども向けアプリで広告を表示してはならない、となった。「子どもたちは広告を理解できないので、広告表示は倫理に反する。広告が表示されたら、何も考えずにタップしてしまう」(同氏)

    子ども向けアプリに関するもう1つの大きな懸念は、プライバシーの問題だ。米国では児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)により、13歳未満の子どもから集めることのできる個人情報の量と行動追跡の範囲を制限している。

    ところが、2018年に入って公表された調査結果は、Google Playストアで配信されているアプリの多くが違反しているとした。調査対象となった6種類のアプリはユーザーの位置情報を求めており、COPPA違反の可能性がある。

    「未就学児向けアプリの多くが、今まさに“底辺への競争”をしている。こうしたアプリの目標は、とにかくGoogle Playストアのランキング上位に入ることだ」(ゴリン氏)

    ゴリン氏とラデスキー氏は、GoogleやAppleのようなプラットフォーム事業者には門番の役割が課せられている、とした。たとえば、アップルは「App Store」の「子ども向け」カテゴリへ掲載するアプリに対して、(保護者の許可を得ずに使える)アプリ内購入機能の搭載や、ユーザーの行動にもとづく広告の表示を許していない(ただし、広告表示そのものは可能だ)。

    Appleは魅力的なデバイスと管理されたサービスを事業の柱としているため、広告収入を減らす可能性のあるルールをアプリに強いたとしても、驚くにあたらない。これに対し、Googleの中核事業は広告販売である。

    Googleの広報担当者はメールによる声明で、Google Playストアで主に子ども用として配信されるアプリは「ファミリー向け」プログラムの認定を受ける必要がある、とした。COPPAに加え、広告およびコンテンツに関する制限を守らなければならず、「さらに保護者が判断できるようにするため、広告表示やアプリ内購入の有無をGoogle Playストアで開示している」そうだ。

    たとえば、子ども向けアプリは、アプリの構成要素と誤認されかねない広告の表示がルールで禁止される。もっとも、冒頭の調査レポートが取り上げたアプリのなかには、このルールを破っているものが存在するらしい。

    ラデスキー氏の願いは、GoogleやAppleなどのプラットフォームが対策を強化することだ。「良質なアプリを優先して紹介できれば、それだけで状況は大きく改善される」(同氏)

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:佐藤信彦 / 編集:BuzzFeed Japan