「米国原発で起き続けた男性セクハラ事件」は、なぜ解決されなかったのか

    連邦法は、わずか20年前まで、男性が他の男性に嫌がらせを受けることがあることを認めてさえいなかった。以下に紹介する男性たちの話は、この問題が解決するまでの道のりがまだ長いことを示している。

    ジェームズ・テッパーウィーンは、同僚のヴィト・メッシーナに尻をつかまれる事件が起きる前にも、少なくとも3回、彼からセクハラ行為を受けたと語った。

    大抵それは、2人が警備の仕事をしていた、ニューヨーク州にあるインディアンポイント原子力発電所での射撃訓練中に起こった。テッパーウィーンは自分を男らしい男だと思っている。メッシーナを殴ってやりたかったが、弾を込めた銃を持った2人が殴り合いのケンカをすれば、とんでもないことになるだろうと考えて、堪えた。

    テッパーウィーンによると、2004年11月10日、背後から近寄ってきたメッシーナは、爪を立てて強引にテッパーウィーンの尻をつかんだ。別の同僚にこのことを打ち明けると、その同僚も、メッシーナに机の上に押し倒されそうになったことがあるとわかった。2007年の証言録取(審理開始前に、証人による宣誓供述を記録する手続き)でテッパーウィーンは、「それを聞いた翌日、人事部に話をしました」と語っている。

    証言録取の記録には、テッパーウィーンが「私が望んでいるのは、毎日ここにきて自分の仕事をし、無事に家に帰ることだけです」と人事部に語ったと書かれている。

    「メッシーナから被害を受けた男は、私だけではないことは知っています。私で最後にしたいのです」

    しかし翌年、メッシーナはまたしても迷惑なセクハラ行為をしてきた。そしてその後、少なくともさらに8人の男性が、最近では2016年まで、メッシーナに触られたり嫌がらせをされたりしたと申し立てている。

    同僚の中には、メッシーナに体を触られたり、股間をつかまれたり、「セクシーだね」と言われたりしたが、信じてもらえないだろうと思って報告しなかった、とテッパーウィーンに語る者も数人いた。また、メッシーナは1989年からインディアンポイントでずっと働いている古参だから、セクハラをやめさせようとする人はいないだろう、という考えもあった。

    テッパーウィーンは、「敵対的な職場環境」と「さらなる嫌がらせと暴行の可能性」を理由に、2006年に退職。翌年、原発を所有するエンタジー・コーポレーション(Entergy Corporation)を提訴した。

    2017年には、さらに3人男性が、会社側が彼らのセクハラ問題を真剣に受け取らず、メッシーナに関する苦情を取り合わなかったとして、エンタジーを告訴している。

    エンタジーは過ちを認めず、テッパーウィーン5年間にわたる係争の末に手にしたのは、結局敗訴だった。上訴裁判所の判決は、エンタジーは法の下で最低限の要求に応えるように、というものだった。エンタジーに対する最近の3件の訴訟はまだ審議が続いている。

    3件の訴訟では、エンタジーにおいて性差別があった証拠が挙げられている。2017年6月に、2人の女性従業員に対して性的に不適切な発言をした男性警備員が、女性たちが提訴しなかったにもかかわらず、すぐさま解雇されたのだ。

    対してメッシーナは、テッパーウィーンによる2度目の訴えのあと、2005年に10週間の有給の休職処分となり、もしこのような不品行が続くのであれば、解雇もありうるという戒告状を受け取った。しかし苦情が増えていっても、メッシーナはクビになることはなかった。

    会社側が対応策に失敗したため、彼は「アンタッチャブル(手の届かないもの)」として見られていたということが、2017年の訴訟で明らかになっている。2015年、エンタジーの職員は、150人の人員をボディチェックする仕事をメッシーナに割り当てた。

    原子力発電所を狙ったテロを想定した警備員訓練の前に行われたものだ。複数の民事申し立てによると、当時メッシーナの振る舞いは広く知られていたため、ある請負業者は、「"ヴィトのハッピーな手"がどんなふうにあてられるか、みんながわかることになるな」と軽口をたたいた。そして彼自身がボディチェックを受けたあと、「タバコを一服吸うべきか、レイプされたと相談すべきか」と言ったという。

    被害者男性側の弁護士エイミー・ベラントーニによると、2016年3月に会社がメッシーナ解雇に動いたとき、エンタジーの職員はメッシーナに警告し、自主退職を許したという。

    結局、これらの訴訟から、少なくとも9人の男性が、長年の間にメッシーナの性的嫌がらせの犠牲者となってきたことが明らかになった。

    彼らのほとんどは、マンハッタンの35マイル(約56キロメートル)北にあるハドソン川沿いのインディアンポイント原発で働く警備員であり、労働組合に加入していた。しかし訴訟記録によれば、会社側の職員は彼らの主張を退け、被害者たちに「ヴィトはそういうヤツなんだ」と言うこともしばしばだったという。

    また、被害者たちに対して少なくとも2人の監督者が、「嫌なら、力でメッシーナを脅してセクハラをやめさせればいいだろう」と言ったこともわかっている。

    エンタジーは、裁判申し立て書において、「当社はこの件について、どんな時も適切に行動した」と述べている。そして「今後もこの件において精力的に自社を弁護し、本案で勝訴するつもりだ」と語った。メッシーナは法廷で、セクハラ申し立てのすべてを否定した。本記事取材時のコメントについても、弁護士を通して、拒否した。

    こうした訴訟や証言録取書、連邦裁判所への申し立てで明らかにされているような、インディアンポイント原発でのメッシーナの行動に関するエンタジー職員の対応は、男性、特にブルーカラーの男性がセクハラ被害に遭ったときに直面する問題を端的に示している。

    メッシーナも、メッシーナにセクハラを受けたと言っている男性たちの数人も、女性と結婚していたため、会社側はこの申し立てを、「男同士でバカをやっているだけ」と簡単に片づけてしまったのだ。被害者の中にも、同じように考えた人間がいたようだ。テッパーウィーンと同時期にインディアンポイントで働いていたパトリック・オハラは証言録取で、メッシーナは「私の睾丸を握ろうとした」が、メッシーナとのことをセクハラだとは考えていない、と語っている。

    #MeToo問題は今に始まったわけではない。

    職場でのセクハラを防ぐためのコンサルティングを提供している心理学者クリス・キルマーティンは、「私たちの文化は、男性が虐待されているという状況から目を背けがちです」と語る。

    BuzzFeed Newsが裁判所記録を調べたところ、米国では、「雇用者がセクハラ問題に適切に対処しなかった」と主張する男性による連邦裁判所への訴えが、2017年に少なくとも63件あった。

    こうした訴えは、この問題のほんの一部の例に過ぎない。雇用機会均等委員会(EEOC)では、男性による性的嫌がらせの申し立てを、1年に平均2000件ほど取り扱っている。その申し立てを訴訟に持っていくためには費用がかかる。このような申し立てでは、女性がセクハラの苦情を訴えるケースと同様に、概して加害者は男性だ。

    そして、女性やLGBTの人たちは、職場において、ストレートな男性よりずっと多くの嫌がらせに遭っている。しかし、さまざまな分野で働く女性たちを、セクハラに立ち向かうように促した機運の中でさえ、男性被害者たちは、社会的な思い込みや法的課題、男性からの訴えを軽視しがちな職場など、さまざまな要因に足を引っ張られ、大抵は陰に隠れたままだ。

    男性が被害に遭ったセクハラを調査研究したものはほとんどない。また、自分が被害に遭ったことを公の場で認めたがる男性は稀であり、いざ男性被害者が名乗り出ても、事件を分析し何が起こったかを見極めることは不可能に近い。

    しかし、男性のセクハラ被害は珍しいことではないという証拠が、社会運動家たちによって挙げられている。権利擁護団体「ストップ・ストリート・ハラスメント」が2018年2月に発表した調査結果では、男性の43%が性的嫌がらせを受けたことがあると回答している。また、雇用機会均等委員会に申し立てられた性的嫌がらせの6件に1件は、男性からのものだという。

    雇用機会均等委員会の地域弁護士アナ・パークは、BuzzFeed Newsにこう語る。

    「家族経営の小さな店だけではなく、大企業でも起きている問題です。誰もが『#MeToo運動』のことを話題にしていますが、これは以前から、とても長い間続いてきた問題なのです。それが今も続いているというのは、とても残念なことです」

    「#MeToo運動」が始まって以来、声を上げてきたのは女性がほとんどだが、ここ数カ月は、カントリー・ミュージシャンモデル俳優らが自身の体験を語り始めた。俳優のアンソニー・ラップが、14歳のときにう有名プロデューサーのケビン・スペイシーから性的な誘惑を受けたことを公にして以来、12人以上の男性が、同氏による不適切な行動があったことを主張した。

    しかし、男性が性的嫌がらせを受けたと訴えると、周囲から「どうして相手をぶん殴らなかったんだ」と聞かれることが頻繁にあるという。そのうちの1人が、49歳の俳優テリー・クルーズだ。身長約190センチ、体重約110キロ、ラインバッカーを務めていた元アメフト選手だが、ステレオタイプの男らしさ疑問を投げかけていることで知られる人物でもある。

    クルーズは、2016年にタレント・エージェントのアダム・ベニットに、「悪意を持ってペニスと睾丸をつかまれた」と語った。「叩きのめしてやればよかったのに」というTwitterでのコメントに対し、クルーズはこう答えた。「貧乏人は道端でケンカする。金持ちは訴訟を起こす。オレは金持ちなんだ」

    冒頭で紹介したテッパーウィーンは空軍の退役軍人で、勤務のほとんどは医療用画像処理の担当だった。同氏は2005年8月にメッシーナの行為について申し立てた時に、自分も「どうして殴らなかったんだ」と周囲から言われたことを明らかにした。

    テッパーウィーンは証言録取で、メッシーナと車に乗った際にまたしても迷惑な性的誘惑を受けたと申し立てたとき、監督者のジョン・チェルビーニから、「どうして殴らなかったんだ」と聞かれたと語っている。

    テッパーウィーンがBuzzFeed Newsに明かしたところによると、同氏はチェルビーニのことを「信頼できる人」だと思っていたが、そのときは、「彼らは全員バカなのか?」と思ったという。

    「悪に悪を返しても、状況は改善しません」とテッパーウィーンは言う。


    エンタジーは、2001年9月11日に起きた同時多発テロの直前にインディアンポイント原子力発電所を購入し、911直後に、同施設の警備に関する内部調査を指示した。ニューヨーク市に近いインディアンポイントに何かあれば、巨大都市が放射線汚染の危機に陥ると懸念されたためだ。

    警備スタッフは当時の調査担当者に対し、十分に裏づけのあるセクハラの苦情であっても、「明確な懲戒処分が下されることはほとんどなく、解雇に至ったケースはなかったと断言できる」と話していた

    調査担当者は、セクハラに関する記録を検証できなかった。当時の警備マネージャーが主要な日誌を保管しておらず、関連書類が見つからなかったからだ。2003年の内部調査では、警備スタッフの3分の1近くが、報復の可能性に対する不安から、警備に関する懸念を経営陣に報告するのをおそれていると回答していた(最近の連邦政府による調査では、警備スタッフは積極的に経営陣に懸念を報告していたものの、ハラスメントに関する懸念はその限りではなかったとの結論が出されている)。

    専門家の見解によれば、企業のセクハラ問題への対応と、それ以外の法規則の遵守状況には、関連性があるという。監視団体「憂慮する科学者同盟」の原子力安全専門家、デイビット・ロックバウムは、「さいわい原子力発電所は、カードでつくった家のような不安定なものではありません。数多くの出来事が重ならなければ、惨事は起きません」と語る。「しかし、人々が問題の報告をためらうと、惨事までの距離が短くなってしまいます」

    テッパーウィーンの提訴後に連邦裁判所に申し立てられた3件の訴訟でも、メッシーナに関する苦情を上司に訴えるべきかを思案していた際に、従業員たちが不安を抱いていたことが裏づけられている。

    ある訴訟の訴状によれば、2015年10月下旬、メッシーナはインディアンポイントの燃料庫に鍵をかけた状態で、警備員のテッド・ゴードンを「抱きしめたり、くすぐったり」し始めたという。

    ゴードンによれば、彼はメッシーナを振り払い、自身の昼食をつかんで腰を下ろしたが、メッシーナは近づいてきて、ゴードンの顔を自分の股間に引き寄せ、こう言ったという。「おまえの頭を冷蔵庫に突っ込んで、血が出るまでケツをファックしてやる」

    メッシーナの問題行為はこの件だけではなかったが、上に報告したら報復されるのではないかと不安だった、とゴードンは述べている。2017年7月にようやくエンタジーを提訴したあと、ゴードンは8フィート(約2.5メートル)四方の囲いのなかでする仕事を割り当てられた。彼はこれは懲罰であったととらえている。また、同僚たちから性的な暴言を浴びるようになったという。

    その10年前、テッパーウィーンも不安を抱えていた。仲間の組合員を裏切った咎で、クビになるか、別の形のハラスメントを受けるかもしれないと考えていたのだ。「車のタイヤをパンクさせられたり、妻が卑猥な電話を受けたりする事態には陥りたくありませんでした」と、テッパーウィーンはBuzzFeed Newsに語った。自分の私物に排便されるようなことも、まったくありえない話ではなかった、と同氏は言う。

    勇気を奮い起こして、望ましくない接触に関する苦情を申し立てたテッパーウィーンが受けたのは、支援ではなく反発だった。2005年8月の二度目の事件のあと、メッシーナは別のシフトに移った。テッパーウィーンは、それだけでは十分ではないと訴えた。武器を携えたメッシーナに遭遇する可能性が、まだあったからだ。テッパーウィーンがのちに雇用機会均等委員会に申し立てた苦情によれば、警備マネージャーのテレンス・バリーから、「感情的すぎる」ことを理由に、職務から外される可能性があると警告されたという。

    テッパーウィーンは、自分がメッシーナの件を報告したことは意義のあることだったと思っている。というのも、はじめから皆が行動を起こしていれば、報いを受けないまま何年にもわたって誰かに乱暴できる者は、もっと少なくなっていたはずだと思うからだ。「残念ながら」とテッパーウィーンは自身のケースについて語った。「会社に対してはまったく何の働きかけも行いませんでした」

    2009年、陪審は会社に対して、テッパーウィーンへの懲罰的損害賠償金50万ドルの支払いを命じたが、地方裁判所はその判決を覆し、上訴裁判所もその決定を支持した。会社や裁判所によるこうした扱いは、職場での男性に対するセクハラが軽視されているせいだと、テッパーウィーンは考えずにはいられない。だがいまでは、「(多くの男性へのセクハラが告発された有名プロデューサー)ケビン・スペイシーの一件で、状況が一変したと思う」とテッパーウィーンはBuzzFeed Newsに対して話している。


    ほんの20年前まで、男性が男性からセクハラを受ける可能性があるという事実は、連邦法では認められてさえいなかった。

    それを変えたのが、ジョセフ・オンケールだ。1991年当時、オンケールはルイジアナ州沖合の石油採掘場で働いていた。オンケールがBuzzFeed Newsに語ったところによれば、監督者を含む複数の男性の同僚からいじめを受けていた彼は、それに立ち向かわなかったことを、長年のあいだ恥じていたという。

    同僚たちは日常的に、当時21歳だったオンケールに対して性的な発言をしていた。「ちっちゃなかわいいケツ」をしていると言われたこともあったと、オンケールは1995年に起こした訴訟の際に述べている。同僚たちは、レイプしてやると脅したり、むき出しの性器をオンケールの首に押し当てたり、固形石鹸を肛門に押しこんだりしたという。作業員は7日続けて採掘場で働き、採掘場で眠る。

    そのため、逃げ場はなかった。訴状によれば、採掘事業を手がけていたサンドオーナー・オフショア・サービス社は介入を拒み、「同僚たちがばか騒ぎをしていただけだ」とオンケールに話したという。数カ月のうちに、オンケールは仕事を辞めた。「仕事を辞めなければ、レイプされてしまうと感じていた」とオンケールは提訴後の証言録取で述べている。

    「自分は男らしい人間だと思っています」。現在48歳になるオンケールは、BuzzFeed Newsにそう語った。「父は私を、男らしく、誠実で、勤勉な人間に育ててくれました」。だがオンケールは、セクハラをおおやけにしたら世間にどう見られるかをおそれてもいた。「世間からは、私が許したから、こんなことが起きたと見られるだろうと思っていたのです」とオンケールは言う。「そうした思いが、多くの人の口を塞いでいます——男か女かは関係ありません。そうした状況に置かれたことがなければ、理解できないことです」

    連邦裁判所は当時、男性間のセクハラは法に違反していないと主張していた。オンケールの記憶によれば、ある証言録取の際に、サンドオーナー社の弁護士はこんな態度をとったという。

    「テーブルの上に足を乗せ、『たしかに、彼らはやった。だが、それを禁止する法律はない』と発言したのです。あんな肩身の狭い思いは、二度としたくありません。自分が人間でさえないような気がしました。あの光景は、いまだに頭から離れません」

    この訴訟は連邦最高裁判所まで争われ、最高裁は1998年、全員一致で、同性間のセクハラは公民権法第7編に違反するとの判決を下した。最高裁の判決では、セクハラは必ずしも「性欲を動機としない」ことから、オンケールと加害者がすべて異性愛者だという事実は関係ないとされた。

    アントニン・スカリア判事はこの判決に関する意見のなかで、「常識と適切な感受性」があれば、法廷は、「単なるからかいや同性間のばか騒ぎ」と「敵意のある、もしくは虐待にあたる」行為を区別できるはずだと述べた。

    オンケールは不安のあまり最高裁の審理には出席できなかったが、スカリア判事の意見を聞いて勇気づけられた。「それまで声を持たなかった世間のほかの人たちが、これで声を手に入れたような気がしました」とオンケールは言う。「もう、こんなことを我慢する必要はないんです、法律があるんだから」

    オンケールはいまもルイジアナ州南部に暮らし、石油業界で働いている。いまでは、40人近い部下を持つ現場監督になっている。

    「いつも自分に言い聞かせてきました。監督の地位につくことがあれば、自分が抱かざるをえなかった気持ちを誰かに抱かせるようなことは、絶対にするものか、と」とオンケールは言う。「そして、私が否応なく経験したことを、ほかの誰かが経験しなければならないような事態は、絶対に許すまい、と」

    男性たちはいまだに、男性が被害者になるはずがないという文化的偏見に直面している。米国体操連盟の元医師ラリー・ナサールによる性的暴行事件では、200人を超える女性が被害を口にしているが、3月になってからようやく、1人の男性被害者が名乗り出た。被害者のジェイコブ・ムーアによれば、彼が自分の経験をおおやけにしようと思ったのは、ほかの男性たちに「男性は性的に暴行されたり利用されたりするはずがないという呪縛のせいで、被害を訴えるのを恐れて」ほしくないからだという。

    男性は女性に比べて、加害者に責任があると考える傾向が低い

    雇用機会均等委員会は、毎年1万2500件にのぼるセクハラ関連の苦情を受理している。雇用機会均等委員会や同様の州機関に寄せられる苦情のうち、男性からの苦情の割合は、1992年には9.1%だったが、2017年には16.5%に増加した。

    雇用機会均等委員会は2009年、アリゾナ州チャンドラーにある「チーズケーキ・ファクトリー」を相手どって男性間のセクハラを申し立てた男性6名のために、34万5000ドルの和解金を獲得した。この事例では、男性の厨房スタッフから男性たちがハラスメントや攻撃を受けたが、マネージャーは笑いながらそれを見ていたという。

    2014年には、ニューメキシコ州の自動車ディーラー、ピトレが、50名以上に対して200万ドルを支払うことに同意した。被害者の男性たちは、複数の男性マネージャーからしばしばオーラルセックスに誘われ、尻や性器を触る、つかむ、噛むなどの行為を日常的に受けていた。なかには、苦情を訴えたら殺すと脅された被害者もいた。雇用機会均等委員会は現在、観光関連会社のディスカバー・ハワイ・ツアーズを相手に訴訟を起こしている。訴状によれば、同社の男性社長は10年以上にわたり、若い男性に対して、セックス・パーティに誘う、ポルノを見せる、雇用を検討する条件として性器を見せるよう要求するなどのセクハラ行為を繰り返していたという。

    先ごろ、2つの全米調査の結果が発表された。1は、権利擁護団体「ストップ・ストリート・ハラスメント」が2月に発表したもの。もう1つは、キニピアック大学によるものだ。どちらの調査でも、同意のない不適切な形で誰かに性的に触られたことがあると回答した人は、女性では半数にのぼったのに対し、男性では17%だった。被害者のほとんどは、その出来事を通報していない。

    だが、サフォーク大学が12月に実施した調査では、ハラスメントを実際に通報した人のなかでも、男性は女性に比べて、加害者に責任があると考える傾向が低いことが明らかになった。

    男性を相手にセクハラ訴訟を起こした男性は、ほぼ必ず、性器をつかまれたと訴えている。しかし、企業はしばしばその行為を、新人に対するしごきや悪ふざけと切り捨てる。ミズーリ州のある男性が訴訟で述べたところによれば、そうした行為について苦情を訴えたところ、「そんなふうにタマをつかまれることに慣れるべきだ」と言われ、「ここで働くのなら、ツラの皮を厚くしないといけない」と諭されたという。ニューヨークの砂礫会社で働いていたある機械工の男性は、男性上司に腰をつかまれ、尻に性器をこすりつけられたと訴えたあとに解雇されたと話している

    ペンシルベニア州の鉄道会社で働いていた別の男性は、男性上司に股間をまさぐられ、「おまえを犯してやる、おまえもイかせてやるよ」と言われたことを警察に通報したあとに解雇されたという。カリフォルニア州の掘削会社で働くある男性は、ロッカールームで男性上司に工具を尻に押しつけられ、性器をつかまれているあいだ、別の同僚男性に性器を押しつけられたという。今週には、カリフォルニア州の判事により、同僚の男性ドライバーから性的な写真を送りつけられたり、ヘッドロックをかけられたり、不適切に尻を触られたりしたトラックドライバーに260万ドルの損害賠償を認める判決が下された。

    俳優のテリー・クルーズがツイートしたように、「ある男性にすれば『ばか騒ぎ』でも、別の男性にとっては屈辱」なのだ。


    テッパーウィーンの訴訟後、エンタジーはメッシーナに対して、射撃場インストラクターの役職を割り当てた。同レベルのポジションへの水平異動だ。2017年の民事訴訟によれば、メッシーナは新しいポジションでも、男性同僚へのハラスメントを続けたという。

    マネージャーの面前で起きたある事例では、メッシーナが別の男性警備員の背後に近づき、警備員のズボンの後部に手を突っこみ、尻を触ったとされている。訴えによれば、メッシーナはある男性従業員をエレベーターの壁に押しつけ、別のときには男性の耳元で囁きながら脚をつかんだという。男性がメッシーナの行為に抵抗すると、メッシーナは「話したければ、話せよ」と言ったという。「連中は俺をクビにしない。俺がクビになるまえに、おまえがクビになる」

    雇用問題を専門とする弁護士J・イバン・ギブズは、「法律家でなくても、セクハラが悪いということは理解できます」と話す。「そして、そうした明らかな悪が見過ごされていると感じたら、従業員は当然、これほど明らかな法規を守らない会社なら、ほかの点でもいいかげんなことをするに違いないと考えるでしょう」

    ある時点で、メッシーナは銃器庫に配置転換された。男性警備員たちとの接触が限られる職場だ。訴訟での主張によれば、この配置転換は、人の目から「彼を隠す」ためにおこなわれたものだという。

    複数の訴訟では、それとほぼ同時期に、インディアンポイントでは人事をめぐる多数の問題が起きていたと説明されている。2013年の訴訟で警備チームの元副隊長が述べたところによれば、インディアンポイントの経営陣は、「深刻な個人的および精神的問題」を理由に休職していた警備部門の従業員たちを、休職が「自発的か否か」を問わず復帰させていたという。

    休職理由となった「問題」には、仕事中の薬物使用、薬物検査の不合格、家庭内暴力での逮捕、薬物影響下での運転も含まれていた。2013年に起こされた別の訴訟では、インディアンポイントの警備マネージャーであるダン・ギャニオンが、連邦規則に違反する「休憩なしでの時間外労働」を隠蔽するために、記録の改竄を許可したとされている。エンタジーはどちらの訴訟でも和解している。

    同社は訴訟での申し立てに異議を唱えていたが、2017年に起こされた3件の訴訟によれば、そうした数々の問題のせいで、インディアンポイントの警備部門は人員不足に陥っていたという。2015年春、ギャニオンはメッシーナを異動させ、ほかの警備員と密に連携するシフトに戻した。訴状によれば、それからまもなく、メッシーナは昔の習慣を再開したという。

    メッシーナのシフト復帰後、最初に被害を訴えた人の1人が、組合長のトーマス・サンフラテロだ。訴訟によれば、サンフラテロは2人の内部調査担当者に対し、メッシーナに頭をつかまれてキスをされ、「陰部付近で、不適切かつ不快な性的動作をされた」と話したという。

    その年の夏、ジョセフ・グレイコは、10人あまりのほかの新人たちとともに、警備員として働きはじめた。グレイコによれば、研修の際、新規に採用された男性たちは、メッシーナを避けろという非公式の注意を受けたという。

    2015年9月、グレイコは燃料庫で初めてメッシーナに遭遇した。訴状によれば、メッシーナはグレイコと2人の同僚男性に「おまえたちは、新鮮な肉だ」と言ったという。その後、ライフルを持って燃料庫を出る前に、グレイコに「おまえのケツをファックして、耳を精液でいっぱいにしてやりたい」と言ったという。メッシーナは処罰されないと聞いていたグレイコは、苦情を申し立てなかった。それからほどなくして、グレイコはメッシーナと同じ警備チームに配属された。

    訴状によれば、2016年2月16日、インディアンポイントの幹部が放射能漏れに対応していたまさにそのとき、メッシーナはリチャード・ガスティンをロッカーに押しつけ、勃起した性器を性交するかのようにガスティンの脚にこすりつけたという。

    長らく原発警備員として働いているガスティンは、その出来事を、組合の代表者とマネージャーに報告した。訴訟によれば、マネージャーのギャニオンは、笑ってガスティンにこう言ったという。「何年も前に、俺も同じことを経験した。ヴィトはそういう奴なんだよ」

    ギャニオンはガスティンに対し、ハラスメントをやめさせたいのなら、「身体的な危害を加えてやる」とメッシーナを脅せばいいと指示したという。ギャニオンは2018年の証言録取の際に、自分がガスティンの立場だったら、メッシーナと殴りあいの喧嘩をしていただろうと述べたが、暴力による応戦は解雇の理由になる可能性があるとも発言している。

    ガスティンは、複数の内部調査担当者にも事件を報告していた。なかでも、ニコラス・トランチーナは、1年ほど前にサンフラテロがメッシーナに関する苦情を申し立てた社内調査担当者だったことが、ガスティンの訴訟で明らかになっている。

    「憂慮する科学者同盟」のロックバウムは、「同じ苦情が繰り返し出る状況は、職場に建設的な安全文化が存在しないことを示しています」と語る。どこの原発でも、職員間の問題は折に触れて生じる可能性がある。ロックバウムはそれを認めつつも、「だが、そうした問題は解決されるべきものです。毎年のように弁護士を忙しく働かせ、小切手を切らせるべきではありません」と述べる。

    ベラントーニによれば、ガスティンの報告に関する調査後の2016年3月10日、エンタジーの幹部からなる審査委員会は、全会一致でメッシーナの解雇を決定したという。その週末、ギャニオンはメッシーナに電話し、ミーティングがあるから月曜に管理オフィスに来るように伝えたという。メッシーナはそれに対し、2016年3月12日にギャニオンにメールを送り、退職する意思を伝えた。

    「会社が何年も前に対処していれば、とっくに終わっていたはずです。何度も何度も同じことが繰り返されることはなかったはずなのです」とテッパーウィーンはBuzzFeed Newsに語った。

    テッパーウィーンに対して「感情的すぎる」と言ったとされる警備マネージャーのバリーと、メッシーナを殴ればいいと言ったとされる監督者のチェルビーニは、どちらも現在、米原子力規制委員会(NRC)で警備関連の検査を担当している。ギャニオンは当時と同じく、インディアンポイント原子力発電所の管理職にとどまっている。

    インディアンポイントは、2021年4月までに閉鎖されることになっている。2年前この原発は、放射性物質をニューヨーク市近郊の地下水に漏出させた。活動家たちは以前から、津波で破壊され、放射線危機を起こした福島第一原発を引きあいに出し、インディアンポイントの閉鎖を求める運動を展開していた。

    インディアンポイントはNRCの検査を定期的に受けており、常に合格しているが、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は2017年2月、同原発を「カチカチと時を刻む時限爆弾」と表現した。ニューヨーク州は長年にわたり、インディアンポイントの運転許可の更新を拒んできたが、エンタジーが閉鎖に向けた段階的縮小に同意したことで、同州はようやく、許可更新をめぐる争いを停止することに合意した。

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:浅野美抄子、梅田智世/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan

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