溺れている人はとても「静か」かもしれない:現実の溺水を知っておこう

    水中ではないのに溺れる「乾性溺水」は、実際に起こる。溺れているかどうかを知る方法と、水から出た後にチェックすべき症状を紹介する。

    現実世界で溺れるということは、映画のワンシーンとはまったく話が違う。

    誰かが溺れているのがわかるとは限らない。それどころか、静かに溺れてしまうケースも多い。1〜2分足らずで溺れることもある。溺れている者がしぶきを上げたり叫んだりせず、まったく音を立てない場合もある。

    「ハリウッド映画を観ていると、両腕を振り回して水をはね散らし、いかにも助けを必要としているように見えます」とアリソン・トッティ博士は語る。けれども、現実はもっと微妙だ。トッティ博士は、イリノイ州にあるシカゴ大学の小児科専門救急医療医師だ。

    溺れている人は、助けが必要だと知らせることが物理的に不可能と考えたほうがいい。溺れている人は外からどう見えるのか。

    溺れている人は水中で、目には見えない梯子を登ろうとしているように見えることがある。

    米国小児科学会(AAP)によれば、溺れている人は、頭が低い位置、場合によっては水面下にある。そして、空気を求めて頭が上がったり下がったりしがちだという。

    目はおそらく、閉じられているか、生気がなくぼんやりとしている。頭は後ろに傾き、額全体に髪が張り付いていることが多い。息ができないので、溺れている人が助けを呼ぶのは物理的に不可能だ。

    「少し沈んでから水面に浮かび上がり、首を伸ばし、空気を求めて喘いでから、再び水面下に戻ります」とトッティ博士は言う。

    腕は動いているかもしれないが、身体はたいてい、上向きか、直立している。脚は蹴ったり、特定方向に動かしたりできない。水中で梯子を登ろうとしているように見えなくもない。

    「少し水しぶきを上げているかもしれませんが、溺れている人はほとんどの場合、大きな水しぶきを上げられるほど十分に手を水上に出すだけのエネルギーや力がありません。苦しんでいることを示す、かすかな徴候に気づく必要があります」。米国小児科学会の負傷・中毒防止委員会(Committee on Injury and Poison Prevention)のメンバーであるトッティ博士は、こう語る。

    リスクが最も高いのは小さな子どもだが、誰にでも起こりうる。

    米国では毎日、約10人が溺死しており、そのうち約3人は14歳未満の子どもだ。14歳未満の子どもでは、溺死以外に、5人が非致死性の溺水(nonfatal drowning)で救急治療室に搬送されている。

    4歳以下の子どもはリスクが最も高い。実際、この年齢層では、出生異常に次いで多い死因となっている。

    全体では、溺水関連の死者の約80%が男性だ。

    乳幼児は、水深5センチメートルでも溺れる可能性がある。

    これは、子供用プールやバスタブ、モップ掛け後のバケツの水など、あらゆる水辺にも言えることだ。

    「よちよち歩きの子どもや、動き回る1〜2歳の子どもは、重心が上にあり、身体に対して頭が相対的に大きいものです。バケツの中をのぞき込もうと身を乗り出したり、バケツにはまり込んだりする恐れがあります。さらに、はまり込んでしまったバケツから身体を出せる器用さや能力もないのです」とトッティ博士は述べる。

    「バスタブも危険です。たとえ水深5センチの水しかなくても、子どもを放っておいてはいけません。1秒で溺れます」

    まとめると、幼い子どもの場合は目を離さないようにすることが不可欠だ。

    「プールに入り込んで泳げないでいたり、ハイハイしてプールのカバーの下に行ったり、鍵を掛けたはずのゲートから侵入したりする可能性があります。だから、ずっと目を離さないようにする必要があるのです」

    溺れるリスクを減らすのに役立つ行動はたくさんある。

    泳ぎ方を知らない、目が届かないといった理由のほかに、溺れるリスクを高めかねない要因がいくつかある。たとえば、子どもをプールに近づけないための仕切りやフェンスが不十分であったり(家に接した3面のフェンスよりも、プールを完全に取り囲む4面フェンスのほうがいい)、遊泳中のアルコール摂取、特に船遊び中のライフジャケットの不着用などだ。CDCによると、船遊び関連の死者は年間300人を超える。そのうち半数は、ライフジャケットを着用していたら防げた可能性があるという。

    ライフジャケットの代わりに、空気を入れて膨らませた玩具や、発泡体の玩具に頼ることも、すべきではない。

    「子どもの居場所を常に把握し、浮き輪に子どもを乗せたままにしてはいけません。子どもを残して電話に出ないことです。門やフェンスでは、子どもが水に入るのを防げないし、水泳レッスンは万能の解決策ではないといった認識すべてが、子どもが溺れるのを防ぐのに役立ちます」とトッティ博士は述べる。

    10代の若者や成人は、水遊び中のアルコール摂取を避け、海辺に掲示された警告標識に注意を払うべきだ。

    「『高波注意』や『遊泳不可』と書かれた旗が掲げられていたら、注意を払ってください。旗が掲げられているのは理由があるからです。あなたやあなたの子どもたちの安全を守るために、そこに掲げられているのです」とトッティ博士は語る。

    「注意を払ってこうしたルールを守るよう、10代の子どもに指導してください」

    「二次溺水」と呼ばれるものがある。二次溺水は、実際に起こりうる。

    子どもであれ、大人であれ、肺に水を吸い込むと、それが数時間後または1〜2日後に問題を引き起こして、二次溺水が起きる可能性がある。

    「川や湖で泳いだ場合のバクテリアは言うまでもなく、水による化学的刺激の結果、炎症や問題(呼吸困難や咳)が、後から生じることがあります。そうして、二次溺水が24~48時間以内に起きるのです」とトッティ博士は言う。

    二次溺水の症状は、咳の悪化や呼吸困難だ。

    「息をしようと必死になっているように見え、咳が治まりません」とトッティ博士は述べる。

    二次溺水が起きるのは、かなり稀だという。だが、症状が心配であれば、医師を呼ぶか、(医師を呼べない場合は)救急治療室に行くほうがいい。

    「わが子がプールで水を飲んだ後、一晩中、子どもを見ているべきだとは言いません。ただ、咳がひどくなったり、呼吸困難になったりし始めたら、二次溺水のことを思い出すべきです」とトッティ博士は言う。

    「乾性溺水」と呼ばれるものもある。

    乾性溺水は、少量の水が気道痙攣を引き起こして呼吸困難になった場合に起きうる。

    「子どもが水面下に沈んで、大量の水を飲んだ状態ではありません」とトッティ博士は述べる。

    もっと注意すべきなのは二次溺水だ、とトッティ博士は付け加えた。

    「乾性溺水は、水が気道に痙攣を引き起こし、気道の閉塞につながって呼吸に影響します。心配すべきことではありますが、これも、そう頻繁に起きるわけではありません」

    心肺蘇生(CPR)が役に立つ。

    溺れていても、CPRを行えば助かる可能性が高くなる。早ければ早いほど良い。手だけを用いるCPRの方法については、米心臓協会(AHA)の動画を確認してほしい。

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan