Facebookで恋バナをしていたスーダン女性 政府の暴力もオンラインで暴露

    スーダン女性のあいだで恋愛事情の情報交換に使われていたFacebookのグループが、当初の用途とは異なる、治安部隊の職権乱用を告発する目的で利用されるようになった。それが今や、スーダンを席巻する抵抗運動の中心的存在となっている。

    もともと気になる男性の情報を得るために使われていたスーダンの女性たちの非公開Facebookグループが、治安部隊員の関する情報を暴露するために使われている。スーダンでは全国各地で大規模な反政府デモが続く。デモの参加者に暴力を振るった隊員を晒し者にすることが目的だ。

    権力を乱用した隊員や警官が個人情報をさらされると、近所の住民に追いかけ回され、襲われ、場合によっては街から追い出されることもあるという。

    こうしたFacebookグループは、スーダン政府がSNSへのアクセスを禁止して以降、ネット規制をくぐり抜けるVPN接続をしないと利用できなくなったのだが、反政府運動を狙った暴力的な取り締まりに対する抵抗活動の一環として、2018年12月よりスーダンに広がってきた。今回の反政府デモは、オマル・バシール大統領が1989年に就任して以来、最大の規模である。反政府勢力は、圧政的な法律で取り締まりをしていることや経済破綻を理由に、大統領を非難している。各地の抵抗活動で少なくとも57人が死亡した。銃撃や催涙ガスで攻撃されたり、髪の毛を切られたり拷問を受けたりした人は、数え切れない。

    スーダンの道徳に関する法律は、女性が公共の場で集会することを禁じ、着用可能な衣服を制限している。法律を破ったり批判したりすると、むち打ちや石打ちといった身体的な刑罰の執行が認められる。そのため、多くのスーダン女性のあいだでは、安全なコミュニケーション手段として非公開Facebookグループが広く使われるようになったのだ。

    現在Facebookにはこの種のグループが数十個あり、数十人、数百人、数千人といったメンバーが参加している。その存在はスーダンの人々によく知られているが、グループの外で話題になることはほとんどない。

    スーダン女性しか入れないグループであり、抵抗運動が始まるはるか以前から使われていた。かつてグループで交わされていた会話は、恋心を抱いた男性についての問い合わせばかりだった。ところが12月以降は、運動参加者に暴行したスーダン国家情報治安局員や私服警官の情報を暴露する活動が中心になった。

    バシール大統領は、抵抗勢力がFacebookやチャットアプリWhatsAppを使ったところで政府は変えられない、と発言している。しかし、こうした暴露活動を展開している女性たちが、大統領の誤りを証明するかもしれない。

    このようなFacebookグループの存在は、スーダンの非公式諜報機関として、国内で暮らしている人だけでなく、国外へ避難したスーダン人にも知られるようになった。こうして悪名を高めた結果、グループに投稿されることを恐れた治安部隊員らが自分の顔写真を隠し始めたのだ。

    12月からデモに加わっている26歳教師のエナス・スレイマンさんは、首都ハルツーム近郊のバフリからBuzzFeed Newsの電話インタビューに答えた。「女に変化など起こせるはずはないと思われていましたが、私たちはどんな政府よりも強い力を持っています」と話してくれた。

    「これまで(治安部隊から)逃げていましたが、もう逃げません。とても自信があります。私たちを黙らせることはできません」(スレイマンさん)


    スーダンの反政府運動は、政府がパンの価格を3倍に値上げし、ATMから現金が引き出せなくなったことが切っ掛けである。そして、戦争犯罪、大量虐殺、人類に対する犯罪の容疑で国際刑事裁判所(ICC)から告発されているバシール大統領の辞任を求める全国規模の運動へと様変わりしていった。

    これまで、全18州のうち15州で大規模なデモが実施され、あらゆる年代の人々が参加した。各州の治安部隊は、群衆に対する実弾やゴム弾の発射、路上で活動家の殴打、徹底的な逮捕など、人権団体から過度の武力と呼ばれる行為で対抗している。逮捕者のなかには、ジャーナリストと医師もいた。政府が2018年12月20日にSNSアクセスを遮断したため、国民はFacebookやWhatsApp、Twitterなどを使えなくなった。VPNが利用されるようになったのは、それからだ。

    ところが、スーダンの医師団体、Sudan Doctors' Syndicateによると、数週間ほど前から抵抗勢力の置かれた状況が相当悪化してきた。

    同団体の声明には、催涙ガスが「居住地域で過剰かつ不必要に使用され、住民を完全に無視して家屋内でも使われた。攻撃対象の多くは子どもと老人」とある。さらに、催涙ガスが実弾代わりに「相手を殺す目的のミサイルとして、運動参加者の体を直接狙って」発射されているという指摘や、参加者が治安部隊の自動車にひかれる事例急増の報告もみられる。

    ただし、活動家と人権派はBuzzFeed Newsに対して、デモ参加者は激化する暴力にさらされているものの、抵抗運動の勢いが強いため治まることはない、と話した。特に、大勢の女性が舵取りしている今は、沈静化しないという。

    抵抗運動に参加しているエンジニアのムザン・アルナイルさんは、ハルツームから電話でBuzzFeed Newsに対し、「政治活動に立ち上がろうと心に決めたスーダン女性は、以前から多くの権力と闘っていたのです」と述べた。「決心さえすれば、治安部隊は恐ろしくありません」(アルナイルさん)

    今や治安部隊の情報暴露に利用されているFacebookグループだが、抵抗運動が始まるまでの主目的は、スーダンの女性が気になる男性のうわさ話をすることだった。

    現在サウジアラビアで暮らしている教師のマイダ・アカシャさんが、WhatsAppのメッセージで「グループのメンバーは、彼氏や同僚、結婚したいと思っている男性、パーティーや近所で見かけて気になった男性の写真をとにかく投稿して、ほかのメンバーからその男性の情報を得ようとします」と、BuzzFeed Newsに教えてくれた。すでにスーダンから離れてしまったアカシャさんだが、まだ残っている親戚が大勢おり、その多くが運動に加わっていて、アカシャさんもSNSで反政府運動を支援している。

    さらにアカシャさんは、「それと、メンバーの女の子たちが教えてくれます。氏名や住所、家族構成、元カノの情報、ときには奥さんと子ども(の名前)までも」と続けた。

    29歳のアカシャさんによると、スーダンではこうしたグループの存在が何年も前からよく知られていたが、男性たちはあからさまに無視していた。その理由についてアカシャさんは、SNSで評価対象になる物扱いされていると、おそらく初めて経験したからではないかと分析した。

    これらグループでのおしゃべりは2018年ほぼ丸1年のあいだ下火になっていたが、12月から抵抗活動を続けている小学校教師のスレイマンさんによると、治安部隊の暴力的な対応が憤った多くのスーダン人をSNSへ向かわせ、撮影した隊員の写真を投稿させ、身元を明かそうとする動きにつながったのだという。

    スレイマンさんはBuzzFeed Newsに、「情報機関員の写真をシェアした男性に反応してある女性が、自分の参加しているグループでシェアします、とコメントしたことがあります」と語った。

    「その男性の情報は、5分もしないで入手できました。母親の名前や、結婚しているかどうかなどが分かったのです。シェア先のグループに写真の人物の元カノが何人かいて、その男性のことを話したからです」(スレイマンさん)

    スレイマンさんによると、今思えばあれがグループが変わり始めた瞬間だったそうだ。「突然みんなが理解したのです。グループが利用できると」(スレイマンさん)

    抵抗運動に加わっている男性はこの種のFacebookグループに参加できないため、加害者とされる隊員の写真をFacebookやWhatsAppで女性たちに送るようになった。女性たちは、気になる男性の情報を探すというそれまでの経験から人物情報をオンラインで見つけることに慣れており、受け取った写真をもとにして、その人物の詳しい情報を住んでいる家のドアの色にいたるまで次から次へと提供してくれる。スーダンで政府のために働いている人は通常そのことを友人や家族に隠しているが、そうした人物の身元を暴露すると、彼らの権力に大打撃を与えられる。

    (身の安全が脅かされるおそれがあるため、名字を隠すよう希望した28歳の医師)ナドリーンさんは1月17日、ハルツームで抵抗運動に参加したところ逮捕され、留置場に3日間入れられた。BuzzFeedの取材にハルツームから電話で応じ、治安部隊のある女性隊員がナドリーンさんやほかの留置されていた女性たちに冷酷で攻撃的な態度をとった、と証言した。

    ナドリーンさんによると、その女性隊員は不機嫌になり、留置されていた女性たち全員を意地悪く引っ叩いたそうだ。

    二度と会うことはないと思っていたのだが、開放されてから1週間後、あるFacebookグループでその隊員の写真と氏名をたまたま見つけた。通っていた大学、卒業した年度、専攻分野のほか、乗っている「淡い色をした窓」の自動車についてもメーカーとモデル、ナンバーが判明し、自宅の住所と、家にターコイズ色のドアがあることも分かった。

    その女性隊員について、グループのあるメンバーは「誇り高き女性革命家たちに触れるべきでないと思い知るよう、密告者をあぶり出して、痛めつけてやろう」と書いた。

    治安部隊の隊員の情報が白日の下にさらされると、人々は行動を起こした。BuzzFeed Newsの確認したビデオには、デモ隊が隊員の家を取り囲み、アラビア語の世界だと極めて屈辱的な表現とされる“ずるいイタチ野郎”と逃げ出すまで何度も何度も大声で呼ぶようすが記録されていた。

    BuzzFeed Newsは、こうしたグループで交わされている会話のスクリーンショットを入手した。そのなかには、密告者の個人情報をさらす際に「情けは無用」と繰り返し励まし合う女性メンバーの姿があり、ほかのメンバーを「麗しい」と同時に「革命的」だと評価していた。ときには、グループで知人と出くわすこともある。

    あるときスレイマンさんは、画面をスクロールしていて、抵抗運動の参加者に棒で殴りかかる男性の写真を見つけたことがある。その男性の詳細情報がグループに投稿されると、かつて同じ大学に通っていた男性であることに気付いた。大学時代、彼が政府側の人間になるなど思いもしなかった人物だ。

    スレイマンさんは、学生時代のようすを覚えていた。「彼はいつも誰かと話しながらキャンパスを歩いていました。そのような悪い人ではありませんでした」(スレイマンさん)

    自警団として機能するFacebookグループが悪名をとどろかせるようになり、治安部隊に及ぶ危険性が現実のものとなって、隊員たちは顔を世間から隠すようになった。

    エンジニアのアルナイルさんは、スーダン職業団体連合(SPA)がバシール大統領の解任を要求し始めた12月ごろ、デモへ参加するようになった。ハルツームからBuzzFeedの取材に電話で応じ、1月に殴られ、逮捕され、留置された際、留置場の警備員が顔を隠すためにわざわざ避けるように歩き、留置されていた女性たちに、自分たちを見るなと叫んだ、ということに気付いたと話した。

    「Facebookグループに投稿されることを嫌がっていました。名前がばれて、近所の人や家族から辱めを受けると知っていたからです」(32歳のアルナイルさん)

    医師のナドレーンさんによると、治安部隊の隊員たちは街をパトロールしている最中でさえ顔を隠すようになり、そのような行動が女性たちを「さらに怖がらせた」そうだ。


    1月にバシール大統領は、反政府運動家を「ネズミ」と呼び、権力が別の軍人に渡るに過ぎないと発言した(バシール大統領は、陸軍元帥でもあるのだ)。ところが、2月7日の国民に対する演説では、デモ隊への態度を軟化させたように見えた。インフレや失業といった特定の問題が若い活動家を路上に向かわせたことを認め、投獄されているジャーナリストの解放も約束した。

    ただし、スーダンの抵抗運動が拡大を続け、その一端を女性たちのFacebookグループが担っている状況で、人権派は政府が女性たちへの弾圧を強化するのではないかと懸念している。

    国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルのスーダン担当研究者、アフマド・エルゾビエルさんは2月第2週、女性に対する隊員の敵対行為と性的暴行が増加しているとの報告を受け、個人情報の暴露に対する反応の可能性がある、とBuzzFeed Newsにコメントした。

    「隊員たちは暴言で恫喝するよう指示されていて、女性たちを売春婦と呼び、男とセックスしたいがための抵抗運動だ、と言い放っています」(エルゾビエルさん)

    「ここに来て、状況が少し変わっています。女性たちは不適切な接触を受け、レイプするぞと脅されるようになりました」

    しかし抵抗運動は、オンラインでもオフラインでも阻止されなそうな状況が続いている。

    ナドレーンさんがBuzzFeed Newsに見せたスクリーンショットには、あるFacebookグループで交わされた会話が記録されていた。シェアされた治安部隊隊員の写真を、隊員の姉妹が見つけたのだ。

    その女性は、「彼の姉妹です。何が必要ですか」と書いていた。

    グループのメンバーは、兄弟が政府の密告者だと知ってしまったことに同情したのだが、その女性は心配無用だとして、バシール体制に与しているのなら自分にとって死んだようなものであり、情報暴露を手伝うと言い張った。

    抵抗運動はとどまる気配がない。スーダン第2の都市オムドゥルマンで実行された最近の大きなデモでは、とりわけ女性たちがたたえられた。

    デモに参加したスレイマンさんによると、女性刑務所に向かって行進したのだが、先頭は女性たちで、男性は後ろに従っていた。デモ隊の男性は反政府運動に加わっている女性を「女王様」と呼び、運動への尽力に感謝し、大きな役割を果たしてきたと認めたという。それまでに何度も繰り返された運動と同じく、治安部隊と衝突したデモ隊が投石したところ、催涙ガスで反撃された。

    運動の参加者に対する暴力も、抵抗と同様、止まりそうにない。しかし、治安部隊が今まさに直面している情報暴露と説明責任の問題は、スーダン女性のFacebookグループが行動した結果であり、女性たちの手柄だと受け止められている。

    「(女性たちが行動しなければ)軍と警察はうまく逃げ切り、誰も彼らに関する情報を得られなかったでしょう。恋バナ好き女子が助けに来てくれたのです」(アカシャさん)●

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:佐藤信彦 / 編集:BuzzFeed Japan