女子大生殺人事件が浮き彫りにした、「パパ活」文化

    裕福な年長の男性が若い女性を金銭的に支援する代わりに関係を結ぶ「シュガーダディ」。ある女性が殺害されたのをきっかけに、ケニアで議論が巻き起こっている。

    シャロン・オティエノは行方不明になった翌日の9月4日、遺体となって発見された。遺体は刺し傷を隠すように通り沿いの茂みに遺棄されていた。警察によると、妊娠7ケ月だった26歳のオティエノは激しい暴行を受け、傷はお腹の赤ちゃんにまで達していたという。

    彼女の死とそれをとりまく背景はケニアの人々に衝撃を与え、Twitterは事件に関する投稿がタイムラインを埋めた。

    事件の捜査を進めるにあたり、オティエノの死の背景に「シュガーダディ」と呼ばれる文化があったことが指摘されている。シュガーダディとはいわゆるスポンサー(またはパトロン)とも言える慣習で、裕福な人(通常は男性)が相手(通常は女性)に多額の金を渡し、大学の学費から住居まで生活のあらゆる面を金銭的に支援する代わりに、性的関係や交際関係を結ぶことを指す。こうした双方の合意にもとづく契約はケニアに限らず他の国にも以前からあったが、ソーシャルメディアの発達により女性たちがそのぜいたくな生活ぶりを発信するのに伴い、近年さらに基盤を拡大している。

    多くの女性はこうした関係について、学費や家族を支える生活費を得るための手段だと割り切ってとらえている。犠牲になったオティエノも、ケニア南西部ミゴリ郡のオコス・オバド郡知事とスポンサー関係にあったとされる。そのため、無残な死にもかかわらず、殺された彼女にもある程度の非があると考える人がいる。

    オバド知事に取材を申し入れたところ回答は得られなかったが、知事の広報官はケニア国内の報道陣に対し、「知事は関与していないため、事件は警察が捜査中だ」と述べ、知事は関わっていないとした。

    オティエノはケニア西部のロンゴ大学2年生で、医療記録と医療情報を学んでいた。オバド知事と交際関係にあったとすれば、いつからなのか、またどんな関係だったのはわかっていない。だが母親のメリンダ・オウマは、お腹の子の父親はオバドだと娘から聞いたと証言する。

    母親はケニアのデイリー・ネーション紙に対し、次のように語っている。「妊娠がわかって間もないころ、相手は誰なのかと娘にたずねると、オバド知事だという答えでした。彼が娘に家を買って、妊娠中の面倒をみる、いずれ赤ん坊の面倒もみると約束してくれた、と娘は話していました」

    しかし出産が近づくにつれ、オティエノは子どもの面倒をみる約束は守ってもらえないのではないかと不安を抱いた。デイリー・ネーション紙のバラク・オドゥオール記者によると、オティエノはそこでメディアを通じて二人の関係を公にしようと考えたようだ。オドゥオール記者は記事にするかもしれない前提でオティエノに会って話を聞く段取りを整え、知事にコメントを求めるため連絡を取った。

    すると知事側は、9月3日に知事の補佐官であるマイケル・オヤモがオティエノと記者に会って状況を説明する、と伝えてきた。

    報道によると、補佐は集合場所のホテルから二人を連れ出して車に乗せ、別の場所で話をしようと提案した。オドゥオール記者の証言によると、途中どこかで車が止まり、突然オヤモ補佐が車を降りると、二人の男が後部座席に乗り込んできて、オティエノと記者を両側からはさむ形になったという。

    なぜ補佐がいなくなったのかオドゥオール記者がたずねようとすると、男は記者とオティエノに携帯電話と持ちものを出すよう命じた。

    60キロほど走ったあたりでオティエノが泣き出した。やがて記者、オティエノ、後部座席の男たちの間で口論になり、男の一人がオティエノを押さえつけ、もう一人がオドゥオール記者の首を絞めようとした。記者は何とか身をかわし、走る車から飛び降りた。そして近くの警察へたどりつき、一部始終を説明し、オティエノが連れ去られたことが公になった。

    翌9月4日夜、ホマベイ郡の小さな町オユギスで、茂みの中に捨てられていたオティエノの遺体を警察が発見する。SNSはすぐさま#JusticeForSharon#ArrestOkothObadoのハッシュタグがあふれた。彼女が通っていたロンゴ大学の学生は犯人逮捕を訴えてデモを行い、地元の議員二人は共同声明を出して事件の早期解決を求めた。

    SHARON OTIENO, the university student abducted with Nation reporter Barrack Oduor in Migori, found dead in Kodera Forest, Homa Bay: her father. https://t.co/gN0WElTdm7

    記者とともに拉致され、のちに遺体で見つかった大学生のシャロン・オティエノ

    ホマベイ郡の女性議員、グラディス・ワンガは「犯罪捜査局の力が真に試されるべきときです。関わっているのが知事であれ議員であれ、容赦はされません」と述べた。

    野党指導者のライラ・オディンガ元首相は記者会見で「今回の残虐な殺人行為を最大限に非難する。凶悪犯がすみやかに告発されることを希望している」と述べた。政府は事件について「迅速な捜査を行う」としている。

    ホマベイのダニエル・ワチラ捜査局長に取材したところ、知事の補佐官が4日に逮捕され、取調べを受けているという。また7日には司法解剖の結果、被害者は首、背中、腹を8回にわたって刺されていたと発表された。殺害される前に性的暴行を受けた痕跡があると警察は説明している。

    悲劇的な結末にもかかわらず、ケニアでは事件をきっかけに、被害者であるオティエノや、同じように裕福な男性とスポンサー関係にある女性をさげすみ名誉を傷つける声も上がっている。自分がとった行動の結果として何が起きても自業自得だとする声すらある。

    Sharon Otieno should also serve as a lesson to the girls who go to school and search for sponsors. A second year student is very young to be mentioned with a sponsor. In other news, you will not tell me that you are pregnant for me and you move with other men, I am jealous.

    「今回の件は、スポンサーを探している女子学生は教訓にした方がいい。スポンサーなど考えるのに大学2年生はまだ若い」

    Why should I pity Sharon Otieno who was found dead in Kodera Forest, instead of concentrating with education she is busy grooving with sugar daddies https://t.co/Hl50YAnXQt

    「学業に専念せずシュガーダディと楽しくやっていた彼女が死んで見つかったからといって、なぜ同情しなくちゃいけないのか」

    犯人のすみやかな裁判を支持するとしたグラディス・ワンガ議員でさえ、若い女性に対し「自分の身の程をわきまえる」よう呼びかけている。

    その一方で、こうした見方は本質から外れているだけでなく、被害者の死を軽視することにもなると話す女性たちもいる。BuzzFeed Newsでは何人かに話を聞いた。

    性とフェミニズムについて執筆するバレンタイン・ニョロジは、今回、被害者であるオティエノと知事との関係を批判する人は全体像が見えていない、と指摘する。

    「彼とそんな関係を持つべきじゃなかった、彼のような男性だって被害者だ、というような発言はまったくもって安易に過ぎます」。また、シュガーダディのいる女性は自分で声を上げる機会を与えられない場合がほとんどだと付け加える。

    「こうした関係を結んでいる女性の大半は、実際のところ自分が楽しくてそうしているわけではないんです。男の方が仕切っていて、寝室で命じる。コンドームやHIV検査なんて話題にもしません。今回の知事だって、妊娠させたくなければなぜ避妊をしないんでしょうか」

    ニョロジはさらに、年長男性との関係が原因で犠牲になった女性について、問いかける疑問がそもそも間違っているとも指摘する。

    「こうした関係を求める男性が増えているのはなぜなのか、考えてみるべきです。若い女の子たちを批判するのは一つの見方です。彼女たちにはお金がいるんです。でも、こういう関係を求める男性にとっては何が魅力なんでしょう? オバドはおそらく彼女が生まれる前から性的経験をしてきているはずです。彼女の何にそこまで魅かれたのでしょう?」

    ケニアでジャーナリストとして活動するフェリスタ・ワンガリは、二人の関係に注目が集まっているせいで、犯罪そのものへの関心がそがれていると警告する。

    「ケニアでは何かと女性を非難したがります。そして男性の側はあらゆる責任を逃れられるんです。男性については『若い女の子に利用されてどうにもできなかったのだ』と同情し、女性の側については『奥さんから夫を奪って家庭を壊した』と非難するんです」

    「まるで男性には自分の意志がなくて、銃を突きつけられてむりやり交際させられたみたいに。実際は男性が『あの子がいい』と言えば、女性の側がはねつけでもしたら命に危険が及びかねないんです」

    交際相手など身近なパートナーによる殺人は世界中で起きている。国連の統計によると、2012年に女性が殺害された事件の半分は性的関係にあるパートナーによるものだった。それをふまえると、知事が身柄を拘束されていないのは不可解だとニョロジは言う。

    娘の検死が行われている病院で、警官に迎えられる母親のメリンダ・オウマ

    ケニアで政治家や富裕層の男性と接点のあった女性が死亡したケースは過去にもあった。

    2011年10月17日、マーシー・ケイノという25歳の女性があるパーティに参加した。報道によれば、居合わせたキアンブ郡のウィリアム・カボゴ元知事がケイノに平手打ちをし、ケイノはその場から逃げた。翌日、ケイノは車にひかれ死亡しているところを発見される。カボゴは殺人罪で起訴されたが5年後に無罪とされ、事件は未解決のままだ。

    また、大統領選を1週間後に控えた2017年8月には、21歳のキャロル・ングンブが選挙委員を務めるクリス・ムサンドと一緒に車内で首を絞められた状態で見つかっている。恋愛関係のもつれが背景にあったのではとの憶測があるが、こちらも真相は解明されていない。

    ジャーナリストのワンガリは、このように政治家と接点のあった若い女性が死亡する事件が起きていても、そうした関係自体が今後なくなるわけではない、と指摘する。だからこそ、責めるべきはそこではないのだという。

    「地位や権力のある年上男性などと付き合った結果がこれなんだ、と言い立てても、誰も守れません」

    「そんな浅い理由で殺人を正当化していたら、結果的には私たちみんなに危険が及ぶことになります」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan