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「法律は私たちの味方ではなかった」ケニアでは誰もLGBTの人々を守ってくれない

ケニアの活動家と人権弁護士のグループは、時代遅れの刑法を改正しようと法廷で闘っている。その結果はアフリカ全域に大きな影響を及ぼす可能性がある。

ケニア、ナイロビ発 ― ある日の深夜、ガトゥラ・ガトゥラはテレビ番組「Black-ish」を見ていた。そのとき、隣人がアパートにやってきて、ライターを貸してほしいと言った。ガトゥラがライターを探していると、隣人が、ガールフレンドは家にいるのかと尋ねた。ガトゥラはいないと答えた。ガトゥラは女性で、ガールフレンドと同居していたが、その夜、ガールフレンドはDJの仕事で留守だった。ガトゥラは法科大学院で学ぶ学生で、2年目の授業が始まる直前だった。

ガトゥラが覚えているのは、次の瞬間、隣人がガトゥラを床にねじ伏せ、殴り始めたことだけ。彼女は床にたたきつけられて背中を負傷し、何度も殴られた顔は腫れ上がり、胸に複数の引っかき傷が付いた。さらに、無理やりキスされそうになり、唇に一生消えない傷痕が残った。もし叫び声を上げなければ、何が起こっていたかわからなかったという。

しかし、3年近くたった今も、隣人は訴追されていない。

ガトゥラのような体験は、ケニアでは、ゲイ、レズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィアのアイデンティティーを持つ人々にとっては決して珍しいことではない。単に周囲がそのように思っている人々にとっても同様だ。それでも、意欲的な人権弁護士や人権活動家が声を上げることで、こうした状況は一変するかもしれない。

現在、3つの組織がケニアの高等裁判所に申し立てを行っている。これらの団体によれば、この申し立てはケニアにおいて長年、LGBTの人々に対する差別や暴力の正当化のために使われてきた「法的な矛盾」に終止符を打つために行われている。もし申し立てが認められれば、その影響はケニアのみにとどまらないかもしれない。アフリカ全域でLGBTをめぐる法廷闘争が起きており、ケニアでの裁定が判例として引用される可能性が高いためだ。

ケニアにおける訴訟がアフリカ全土のLGBTをめぐる闘争に終止符をうつ可能性も。

ガトゥラのような人々にとって、この訴訟は極めて重要だ。ガトゥラは暴行を受けてすぐ、隣人を告訴しようと法律事務所に行ったが、警察には何も報告しないほうがいいという助言を受けた。

ガトゥラはナイロビのカフェでBuzzFeed Newsの取材に応じ、「彼らは警察に行かないほうがいいと言いました。警察はレズビアンを犯罪とみなすし、真剣には取り合わないというのがその理由でした」と振り返った。

ガトゥラの隣人は責任を問われないかもしれないが、23歳になったガトゥラは今でも、隣人の行為はヘイトクライムだと考えている。ガトゥラによれば、隣人に何度かデートに誘われたが、ガトゥラはレズビアンであることを明かし、相手にしなかったという。隣室のガトゥラがガールフレンドと暮らしていることに彼は腹を立て、襲撃することに決めたのだろうと、ガトゥラは推測している。

ガトゥラは3月上旬、メモをびっしり書き込んだケニア憲法のポケットサイズ本をバッグに入れ、裁判の審理を聞きに出かけた。大学院でこの訴訟の論文を書いているため、そして、LGBTを自称する一人として、LGBTの人生に大きな影響を与える可能性を持つこの訴訟に注目しているためだ。

この訴訟の中心にあるのは、ケニアのリベラルな憲法と、時代遅れの法の間にある矛盾だ。

ケニア憲法は、2010年に改正されたとき、アフリカで最も進歩的な憲法のひとつとして広く歓迎された。しかし、半世紀以上前から変わっていない別の法律では、LGBTの人々は犯罪者とみなされたままだ。

ンジェリ・ガテルは「ケニア・ゲイ・レズビアン人権委員会」の創設者の一人で、法務責任者を務める。ゲイ・レズビアン人権委員会は、LGBTコミュニティが不当な理由で標的にされていると訴える3組織の1つだ。

ガテルは、ナイロビの本部からBuzzFeed Newsの取材に応じ、1967年から改正されていないケニア刑法は特定の性的行為を禁止しているが、その対象となるのはLGBTの人々だけだと語った。

刑法のある条項には、「自然の秩序に反する人物と性的関係を持つこと」、あるいは「男性が自然の秩序に反する性的関係を持つことを許す行為」は重罪であり、最長14年の刑に処されると書いてある。「男性同士のわいせつ行為」に関する別の条項では、男性が「別の男性とわいせつ行為」をすることを禁じている。

秩序など存在していなかった。

ガテルによれば、刑法では不明瞭な古い言葉が使用されており、それがさらなる混乱を招いているという。

「法務長官は私たちの申し立てに対し、“自然の秩序に反する性的関係”とは、生殖を目的としない性的行為のことだと言いました」とガテルは話す。「つまり、オーラルセックス、アナルセックス、マスターベーション、妊娠中のセックス、子宮がない人のセックス、精子の数が少ない人のセックスなど、いろいろな性的行為が対象になるということです」

ところが、異性愛者のアナルセックスは犯罪とみなされない。

「それらすべてが自然の秩序に反する性的関係だと言うのでしょうか?」とガテルは問いかける。「もしそうだとするならば、なぜこれらの条項は、レズビアンやバイセクシャル、トランスジェンダー、ゲイとみなされている人々のみに適用されるのでしょうか」

ガテルの組織は、性的指向が原因で差別されている人々を法的に支援している。ゲイ・レズビアン人権委員会は2016年、193件の人権侵害に関する報告を受けた。最も多いのはインターネット上での嫌がらせ、「Grindr」などのデートアプリを介した脅迫や恐喝、言葉の暴力、身体的な暴行だ(片方の睾丸が機能不全になるほど暴行されたケースもある)。ほかにも被害者たちは、立ち退き命令、不当な解雇、いわゆる「矯正」としてのレイプなどの暴力、差別を経験している。

28歳のガテルにとっては、今回の申し立ては個人的にも共鳴するものがある。ガテルはクィアを自称しているが、自分がクィアであることを認識していなかった高校時代、レズビアンと見られたことで、絶えずトラブルに巻き込まれていた。

ガテルはある夜の出来事について話してくれた。一緒に飲んでいたクラスメートの中に、身の安全のため、異性愛者のふりをしていたクィアの男性友人がいて、その夜、彼は「芝居を忘れてしまった」。ガテルによれば、それからまもなく、クラスメートたちがクィアの友人を取り囲み、集団で暴行を加えたという。さらに、暴行に加わっていないクラスメートたちも、「ゲイのヤツなんかどうでもいい。言い寄ってこられでもしない限り」と言っていた。

「秩序など存在していないとある時点で気づきました」とガテルは話す。「歴史を振り返っても、多数派が自らの不法行為を省みた例はありません。これは問題であり、何かできるはずだと、私は思いました」

今回の申し立てにかかわっている人はほぼ全員、心の底から行動を起こしたいと考えている。ナイロビの西側地域でLGBTの人権擁護に取り組む「ニャンザ・リフトバレー・ケニア西部(Nyanza, Rift Valley, and Western Kenya:Nyarwek)ネットワーク」の共同創設者兼エグゼクティブディレクター、ダニエル・オニャンゴ(35歳)はかつて、米疾病予防管理センター(CDC)の医師としてケニア西部で活動していた。

オニャンゴがCDCで働いているとき、ゲイの男性を治療してくれるという噂が広まった。そしてまもなく、人々はオニャンゴに、性感染症の抗生剤からコンドーム、潤滑油まで、あらゆる支援を求めるようになった。多くの場合、これらの私的な患者たちは金銭的な余裕がなかった。そのためオニャンゴは、CDCから必要なものを購入し、自宅で治療を行った。給与の75%を投じた年もある。オニャンゴにとって、金銭的な負担は大きな問題ではなく、何より、自分が関わっている状況の根底にあるメッセージを無視できなかった。

オニャンゴはある夜、ナイロビのカフェでサモサを食べながら、BuzzFeed Newsの取材に応じてくれた。彼は「ゲイの男性たちが医療サービスをほとんど受けられないという実情を私は知りませんでした」という。ある友人が、6人の男性から性的暴行を受けたうえ、ナイロビの家を追い出され、自殺したというニュースを聞いたとき、仮設診療所を運営するだけでは不十分だと思ったと彼は述べる。

オニャンゴは2009年、地域のLGBT活動家たちとともにNyarwekを設立した。現在、ケニアの12の郡を対象に、地元の宗教指導者たちの協力を得て、LGBTコミュニティーとの関係強化を図っている。また、高等裁判所で行われた申し立ての一つを支援している。

「法律は私たちの味方ではありません」

刑法がLGBTの人々を差別するために使われていることを正当化する手段として、しばしば引き合いに出されるのが宗教だ。2月と3月にナイロビのミリマニ裁判所で審理が行われた際、LGBT擁護団体への反対を最も声高に叫んでいたのは「ケニア・クリスチャン・プロフェッショナルズ・フォーラム」という団体だった。

いっぽう、Nyarwekの創設者の一人であり、農村部に暮らすレズビアンやバイセクシャル、クィアの女性を支援する「ボイス・オブ・ウィメン・イン・ウェスタン・ケニア」の運営者でもあるジョージアナ・アドヒアンボは、伝統的なキリスト教会とも連携しながら、LGBTコミュニティへの理解を深めてもらうための啓蒙活動を行っている。自身がカトリック教徒であるアドヒアンボはBuzzFeed Newsに対して、「宗教は思いやりと愛情を持って人権を包み込む」ものであるはずだが、刑法の廃止に反対する教会指導者たちは、「ゲイの人々は恐怖の文化を生み出す」という古い言葉にとらわれていると語った。

こうした指導者のなかで最も大きな声を上げている一人がチャールズ・カンジャマだ。カンジャマは3月1日の審理で、ケニア人の80%はキリスト教徒であり、その全員がLGBTの権利を擁護する法律に反対していると主張した。

カンジャマはさらに、扇動的な記述を含む複数の研究結果を引用した。なかでも、ゲイやレズビアンは年間平均100人とセックスするという主張は、申し立ての支持者が大部分を占める満員の法廷に笑いを巻き起こした。

冒頭で紹介した、レズビアンであることを理由に攻撃を受けた大学院生のガトゥラは、カンジャマの主張を最後まで聞いたあと、病院の予約があったため、正午に退席した。ガトゥラは法廷を出る直前、訴訟はどちらに転んでもおかしくないと思うと述べた。そして、LGBTコミュニティーに否定的な言葉を聞くと、感情的に動揺すると語った。たとえば、「LGBTの人々が家族の定義を変えようとしている」という言葉や、LGBTを自称する人が虐待を受け続けてきたことを示唆する言葉だ。

「お前は罪を犯している、と言われることはつらいことです」と彼女は述べた。

法廷には、28歳のライター、B・マイナも座っていた。ゲイを自称する男性で、身の安全のため、ファーストネームを明かさないという条件でBuzzFeed Newsの取材に応じてくれたマイナは、LGBTをテーマにした地元の出版物で裁判のことを知り、法廷に来ることを決意したという。

マイナは法廷の外で、「私たちはとても長い間、政治的・社会的・宗教的に汚名を着せられてきました」と語った。「法律は私たちの味方ではありません」。

申立人の弁護団には、人権派弁護士として有名なポール・ムイテも含まれている。マイナは弁護団の主張を力強いと感じたが、3人の裁判官に対して、宗教や文化がどのような影響を与えるかという不安は消えていない。

その日の審理の最後に、3人の裁判官は、4月26日に裁定を下すと発表した。2016年から裁定を待ち続けている人々、それ以前から答えを待ち続けている人々は、もう少しだけ待たなければならない。

マイナは次のように語った。「それでも、私たちに有利な裁定が下されれば、アフリカの状況が一変するかもしれません」

この記事は英語から翻訳されました。翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan


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