ディズニーで同性結婚式を挙げたカップル 13年間を経て、2人は夢の続きに

    式までには、さまざまな壁があった。

    2人の女性はディズニー・シーで結婚式を挙げた。

    その幸せいっぱいな姿から、ネット上では祝福の声が上がった。

    しかし、2人が結婚式を挙げるまでには数々の困難もあった。BuzzFeed Newsは詳しい話を聞くためにこの2人に会いに行った。

    2人の出会い。そしてプロポーズ。

    ハルさんとリョウさん。2人の出会いは13年前。友人の紹介で知り合った。当時、ハルさんは東京、リョウさんは長野に住んでおり、週末だけ会う遠距離恋愛が続いていた。

    6年ほど付き合ったころ、東日本大震災があった。それが一緒に暮らし始めるきっかけになった。

    「いざというときに離れたところにいると大変だねって。そろそろ一緒に住みどきかな、と感じたんです」とハルさん。

    リョウさんが上京し、同棲生活が始まった。

    結婚に至った経緯をハルさんはこう話す。

    「ずっと一緒にいたいと思える人というのは前提ですが、周りのLGBTの人たちで子どもを持つカップルが増えてきたんです。そのような勉強会にも行くようになって。私たちも年だし、そろそろ子どもにトライしたいと思ったんです」

    「彼女は結婚願望はなかったんです。そこで、『私はしてほしいことがある。私にプロポーズをして』とお願いしたんです。普通の男性だったら嫌がりそうなことも女性同士だから勢いで言うことができたかな、と」

    2人は大のディズニー好き。特にハルさんは「塔の上のラプンツェル」が好きだ。ディズニーのハロウィンイベントのとき、ハルさんはラプンツェル。リョウさんはフリン・ライダーの格好で参加。

    ゴンドラに乗ったあとひざまづき、プロポーズをした。

    父親へのカミングアウト。

    プロポーズ後、結婚式の準備に移るのだが、当初、リョウさんは結婚式を挙げる意味がないと思っていた。

    というのも、ハルさんの方は家族にカミングアウトしていたが、リョウさんはしていなかった。

    リョウさんは話す。

    「母親はなんとなく勘づいていたんですけれど、父親は絶対に反対するだろうと。絶縁もあり得ると思っていました。カミングアウトしても式には来てくれないだろうし、親が来ないんだったら式を挙げる意味はないと思っていたんです」

    「けれど両親は海外旅行が好きで、海外の寛容なLGBT文化に触れる機会があったみたいで。そういう影響もあってか考えが柔軟になり、わりとすんなり承諾してくれました」

    ディズニーで同性結婚式を挙げる難しさ。

    先述の通り2人は大のディズニー好き。「結婚式をするならディズニーしかない」と迷わず、ディズニーでの式を選んだ。

    しかし、そこには課題があった。

    ディズニーが持つ式場はアンバサダーホテル、ディズニーランドホテル、ミラコスタホテルの3つがある。2人はそれぞれに交渉し、同性結婚式が可能か聞いた。

    すると、アンバサダーホテルは神父がカトリック教会のため、同性婚ができないことがわかった。披露宴はできるが、式は挙げられないという回答だった。

    また、ランドホテルの式はシンデレラがモチーフになっている。王子様がシンデレラを迎えるシーンなどがあるのだが、2人の場合はどちらもシンデレラ。台本やナレーションをすべて書き換える必要があった。プランナーも本国のディズニーと掛け合ったが、叶わなかった。

    ミラコスタの場合は、同性結婚式の前例はあったが、2人がお色直しするケースはなかった。2人のこだわりは“W花嫁ウエディングドレス”。

    お色直しが2人となると、更衣室もスタッフの数も倍かかる。休日ではほかの組もいるため、「平日なら」と条件ありでできることになった。こうして式場はミラコスタに決まった。

    休暇が取りにくい…。会社との調整。

    ハルさんとリョウさんはどちらも会社勤め。式を挙げるにあたり、会社との調整も苦労したそう。

    ハルさんは話す。

    「彼女(リョウさん)の方はわりとオープンなんですが、私はクローズ。直属の上司には言っていたのですが、部署が異動になってしまって…。カミングアウトすると関係性も変わってしまうかもしれないですし、特別休暇を申請できない。となると、有給を使うしかなくなるんです」

    「普通だったら、みんなに祝われながら休めるところが『めっちゃ有給使う人』みたいに思われそうで…。ただ、社会の中で夫婦としてやっていく第一歩だと思いました。ここを超えなければ次にいけないと」

    リョウさんの方は会社から祝電や祝い金があった。ハルさんの方も結果、直属の上司と一部の同僚にはカミングアウトした。式には電報も届いた。

    しかし、結婚休暇を申請するとなると上層部まで掛け合わないといけない。2人は会社に報告することを諦めた。

    「これから同性婚をしようとしている人にも、一概に会社に言った方がいいとは言えないですよね。アウティングもありますし、受け入れられない人もいると思いますし」

    「普通に結婚して普通に休める人がうらやましかった」と話す。

    バージンロードを広げないと…。「W花嫁」の難点。

    2人はどちらもウエディングドレスを着る「W花嫁」を選んだ。それにも多くの調整が必要だったという。

    「まず荷物の量がすごかったです。ドレス4着に靴や小物、余興で使うドラムセットなど軽トラ1台分になりましたね」

    「ウエディングドレスも色を合わせないと違和感が出るんです。同じ白でも微妙に色合いが違って並ぶと変なんです。オーダーメイドで作ってもらい、まったく同じ白になるようにしました」

    リョウさんは余興で「ビックバンドビート」を披露するのでタキシードを用意する必要があった。しかし、女性用のタキシードはない。

    そこで海外メーカーにセミオーダーで注文し、さらに日本の仕立て屋で直しを入れた。

    「花嫁が2人なのでかかるお金も倍。けれど、ワーキャー言いながらあれがいい! これがいいと言い合えるのは女同士ならではかなって」とハルさん。

    婚約指輪を購入するにも、店員に事情を説明しないといけない。「たくさんの人がいる前でプライベートなことを言うのは、ちょっと抵抗がありましたね…」とリョウさん。

    また、ドレスが2人のためバージンロードの幅を広げるなどの必要もあった。式を挙げると決めてから一年。このようなたくさんの調整をしてようやく式を迎える。

    父とのラストダンス。結婚式のあと、母からのメール。

    先述の通り、結婚式を挙げようと思い立つまでリョウさんは両親にカミングアウトをしていなかった。

    「もともと父と話す機会も少なかったんです。けれど、カミングアウトをして式の準備をしているうちにいろいろと話せるようになりました」

    「私たちを受け入れてくれること。そして式に来てくれることに感謝したくて、父とラストダンスをしようと思ったんです」

    父とラストダンスのリハーサル。 ダンス用ではないボリュームのあるドレスで、いかに優雅に踊るかを試行錯誤してくださったアトリエアンさんに感謝🙏

    式ではリョウさんが新郎役だった。しかし、ハルさんの「彼女がお父さんと一緒にバージンロードを歩いてくるところをみたい」と熱望し、入場部分だけ入れ替えた。

    リョウさんが父親と歩いて来るところをみて、「涙を堪えられなかった」とハルさん。

    式が終わったあと、リョウさんの母からこんなメールが届いたそうだ。

    お父さんが帰りの電車で「寂しくなったな…」とポツリと言ってました。

    親の役目が終わったんだね。

    同性婚を考えている人たちへ。

    いま同性婚を考えている人に“先輩花嫁”として、なにかアドバイスはあるか。2人はこう話す。

    「絶対にやったほうがいいです。私たちは婚姻届で夫婦になれるわけではありません。普通は紙切れ一枚で済むことが済まない。だからこそ式を挙げる意味がある。みんなの前で誓い、そして周りの人がどう扱ってくれるかで夫婦になれるかが決まると思います」とハルさん。

    リョウさんはこう話す。

    「結婚式までの一年は本当に大切な時間でした。大変だったけれど、これを経験するのとしないのではまったく違うなって。正直、最初は卑屈になっていた時期もありました。ドレスショップとかも断られるかと心配していましたが、そんなことはなかった。思っている以上に周りの人たちは、協力してくれます」

    法律で夫婦と認められる関係じゃないからこそ、結婚式が大事だった。人は婚姻届で夫婦になるのではなく、周りの人たちに認められて夫婦になることを知った。2人だけでは夫婦になれなかった。

    今後、戸籍や養子縁組、会社への報告などたくさんのやらないといけないことがある。

    「結婚して『はい、終わり』ではないので。私たちは」

    リョウさんはブログでこう綴っている。

    結婚式が終わってから、母さんが電話で「魔法が解けたシンデレラみたいな気分でしょ?」と笑いながら言っていた。

    たしかに馬車はカボチャに戻ったし、美しいドレスも消えて、元の灰かぶりの姿になったけれど…。私にはちゃんとね、ガラスの靴が残ったよ。

    そして隣には、髪は短くなったけど、塔を降りて、輝く光を見た奥さんもいるし。

    2人一緒なら、まだまだ楽しい旅ができると思うんだ。ふさわしい靴があれば、女の子は無敵のはずだから。

    さあ、また新しい夢を見つけに行こう!