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#MeToo は誰でも言えるわけじゃない。アジア系女性たちの悩み

有名プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが失脚し、ついにハリウッドの水門が解放された。しかし、アジア系の女優や女性プロデューサーたちは、声を上げることが難しいと感じている。

舞台の脚本を書いていたモーリサ・タンチャローエンは2001年、あるスタジオに映画の脚本が売れ、大喜びした。タンチャローエンはスタジオの幹部と組むことになり、幹部は建設的なアドバイスをくれた。最初は電話で、次はディナーの席で。ディナー中、タンチャローエンは恋愛事情について質問された。2人の関係に異変が起きたのは、その1週間後のことである。

それは、午前2時に届いたある1通の電子メールが原因だった。タイトルは「これは君?」。本文には、アジアのポルノスターが性行為に興じる写真が添付されていた。

「もちろん、私は適切な手順を踏み、私の代理人に電子メールを転送しました。自ら大きなチャンスを絶ったのです」と、タンチャローエンはBuzzFeed Newsに語った。

「この出来事は、駆け出しのころ仕事を得たときの思い出として、一生忘れることはないと思います」

タンチャローエンは現在、ABCで放映されている「エージェント・オブ・シールド」シリーズの企画・製作総指揮を担当している。企画・製作総指揮とは、ハリウッドの女性にはめったに回ってこない仕事だ。まして、アジア系の女性は特に。

「テレビ番組の指揮を執る仕事がめったにないチャンスだということはよく理解しています」

ここまで来るのに何年もかかり、その過程でいくつもの壁にぶつかったと、タンチャローエンは振り返る。しかし、その過程で「うまく対処する方法を学びました」。つまり、職場で不適切なことや不快なことをされても受け流すということだ。

「私たちにとっては必要なことです。波風を立てず、懸命に働けば、成功も夢ではありません」

たとえセクハラに遭っても、沈黙を守らなければならないと感じている人たちもいるのだ。

有名プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行・セクハラ疑惑に後押しされ、ハリウッドでは多くの人が、業界内のほかの人物による同様の疑惑を告発している。1月には、数百人の女性が声高らかに「タイムズ・アップ(時間切れ)」と叫び、全米の職場にまん延する性的不品行を撲滅するための取り組みを始動した。しかし、同じハリウッドでも、アジア系の女性たちは沈黙を守り続けている。オリビア・マンは、声を上げた数少ないアジア系女性の一人だ。2004年、映画セットにいたときに、プロデューサーのブレット・ラトナーが目の前で自慰行為をしたと訴えている(マンに取材を申し込んだが、回答は得られなかった)。BuzzFeed Newsの取材に応じてくれた女性プロデューサーや女優は、歴史的にハリウッドのアジア系女性はひどい仕打ちを受けてきたが、報復を恐れて声を上げられないのだと口をそろえている。

2018年公開予定のコメディー映画「Blindspotting」のプロデューサー、ジェス・コルダーは、女優のジャニナ・ガバンカーとともに取材に応じ、「うまい言葉が見つからないのですが、私たちは懸命に働き、余計な声はあげるなと教え込まれているのだと思います。努力し続ければ、いつか報われると信じて」と語った。コルダーは職場で唯一のアジア系女性であることが多く、時折、はっきり話すことに不安を抱くという。「なぜなら、自分の席があるだけで幸運だと思うよう教え込まれたためです。私はどうすればよいのでしょう? 自分の席を危険にさらすというのですか?」

1993年のドラマ映画「ジョイ・ラック・クラブ」のプロデューサー、ジャネット・ヤンはBuzzFeed Newsの取材に対し、「この業界はアジア系女性が少ない」ため、性的不品行を告発することは孤独で困難な道のりだと述べた。「とにかく、カメラの前に立つアジア系女性が少ないのです」。

2018年に公開される「オーシャンズ8」と「Crazy Rich Asians」に出演する女優のアウクワフィナは、タイムズ・アップの誓約書に署名した一人であり、ヤンとよく似た意見を持っている。アウクワフィナはBuzzFeed Newsに対して、「これまでもそうでしたが、悲しいことに、米国で物事を変えるのは有色人種ではありません。力強い白人女性が変化をもたらすのです」と語った。「#MeToo(私も)」の機運が高まっている現在でさえ、一部の女性は自ら沈黙を守っており、アウクワフィナにはその理由がよくわかるという。「二度とゴールデングローブ賞に招待されないかもしれない。あの映画に出演できないかもしれない。だから、声を上げたくないのです」

先述した女優のガバンカーは、セクハラの具体例を挙げることはなかったが、アジア系女性が経験する屈辱は性的なものとは限らないと指摘した。女優のシャーリン・イーも2017年10月、コメディアンのデビッド・クロスにパンツをばかにされたときの体験をツイートしている。イーはショックのあまり言葉を失い、黙って見返すと、クロスは「どうした? 英語がわからないんだろ? チン・チョン・チン・チョン」と追い打ちをかけたそうだ(クロスはTwitterで「彼女を傷つけたのだとしたら、本当に申し訳ないと思っています」と返答している。ただし、クロスは「米国南部の労働者」の物まねをしただけで、イーはそれを誤解したのかもしれないとも述べている)。

YouTubeで有名なコメディアン、女優のアナ・アカナはBuzzFeed Newsの取材に対し、体を触られたり、わいせつな言葉をかけられたりするとき、しばしば、そこに人種差別的な意味合いが込められていると話す。

アカナは、この数年間に言われたことを列挙してみせた。

「ほぼ例外なく、“どこから来たの? ヘイ、ソイソース。アジア系の女性は床上手なんだろう?”などと言われます。型にはまったでたらめばかりです。人々はアジア系女性にこのような固定観念を抱いているのです」

このように、アジア系の女性たちは広範な嫌がらせを普通のこととして受け入れている。たとえ知名度が高く、仕事の不安がなくても、アジア系の女性たちが自身の体験を公表しない一因はこれだろう。

「私は嫌がらせを受けたアジア系の有名人をほかにも知っていますが、きっと、予想通りの出来事で、"いつものことだから気にしない。簡単に対処できる"と思っているのでしょう。このような状況なので、オンラインで声をあげる人があまりいないのかもしれません」とアカナも考えている。「過度の性差別に慣れてしまったため、もはや違法行為とすら思わなくなったのです」

しかしタンチャローエンによれば、現場では、アジア系女性に対する固定観念がさまざまな影響をもたらしているという。

「アジア系米国人やアジアの女性には、小さくて内気でソフトだという固定観念があります。そのため、男性たちは過度に女性として意識し、性差別的な言葉をかけやすいと感じるのです。そして、私たちはそれを受け流すべきことだととらえるようになりました」とタンチャローエンは話す。「“私たちはもう黙っていない”と人々が言い始めたことで、私は本当に安心し、感謝しています」

アウクワフィナと、テレビドラマ「フアン家のアメリカ開拓記」のコンスタンス・ウーはタイムズ・アップに賛同し、啓蒙活動を行ったり、被害を訴える人々への支持を表明したりしている。また、ウーは1月にロサンゼルスで開催された「ウィメンズ・マーチ(女性たちの行進)」にも参加。ステージに登ると、アジア系女性がフェティシズムの対象にされ続けていることを非難した。

「私は今日、アジア系女性のために行進します。アジア系女性は無視され、決めつけられ、フェティシズムの対象にされ、かわいい女の子はこうあってほしいという欲望を満たすよう期待されてきました」とウーは宣言し、聴衆から拍手喝采を受けた。「私は断言します。あなたは、自分がなりたい人間になることができると」。ウーの大胆で率直な言葉は突出していたと、アウクワフィナは称賛している。

アウクワフィナはウーについて、「彼女は最高の言葉を投げかけたと思います。とても大胆で、アジア系女性の固定観念を裏切る言葉であり、人々の心を揺さぶる言葉だったと思います」と語った。2人はケビン・クワンの小説を映画化した「Crazy Rich Asians」で共演することになっている。「多くの人が女優に慎み深さを求めていると感じます。それでも、コンスタンス(・ウー)には言いたいことがあるのです」

しかし、たとえセクハラへの意識が高まり、タイムズ・アップに有色人種の女優や活動家が参加するようになっても、すべての人が守られていると感じているわけではない。

リン・チェンは5歳から女優の仕事をしている。代表作は2004年の恋愛コメディー「素顔の私を見つめて…」で、中国系のレズビアンを演じた。チェンはBuzzFeed Newsの取材に対し、長年ハリウッドにいるが、仕事中、不適切な性的行為を経験したことはないと話している。ただし、「もっと深刻な」体験はあり、しかも加害者を公に非難するつもりはないという。

「私はいつもハリウッドに、“おまえは何者でもない。オーディションを受ける価値はない。作品に出演する価値はない”ということを思い知らされています」。チェンによれば、その理由は人種だという。「なぜ、自分の居場所を失う危険を冒してまで、問題の正当性を証明しなければならないのでしょう? 自分で対処できるのに」

一方、5シーズン目を迎える「エージェント・オブ・シールド」の全シリーズにかかわってきたタンチャローエンは、アジア系の女性たちが声を上げる前に考えざるを得ないリスクについて理解しながらも、未来への希望を失っていない。

「私の娘がどのような道を選んだとしても…彼女が大人になったとき、どのような状況に置かれても、誰と一緒にいても、150%安全で、快適で、自信を持つことができ、完全にリラックスできる日が来ることを願っています」

「彼女が生きているうちに実現するかどうかはわかりませんが、私はその日が来ることを願っています。このムーブメントが変化をもたらすには時間がかかると思いますが、少なくとも今、変化は始まっています」

この記事は英語から翻訳されました。翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan


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