それは本当に研究だったのか? 大学内で行われた性的虐待 被験者たちは声を上げた

    すでに他界したロックフェラー大学の研究者から、何十年も前に性的虐待を受けた――多くの男性たちがそう記憶している。BuzzFeed Newsがその件について問い合わせをしたところ、学術誌2誌が、彼の研究論文には疑義があると認めることを決定した。

    ハロルド・マーモンは昔から、年齢のわりに体が小さいほうだった。それを心配した両親は、14歳になった彼を、ロックフェラー大学で実施されていた身体的発育に関する研究に参加させた。

    マンハッタンにある同大学は、世界的な超一流研究機関のひとつだが、ニュージャージー州にあったマーモンの自宅から、川を挟んだちょうど向かい側にあった。

    その研究を率いていたのは、医師であり科学者でもあるレジナルド・アーチボルドだった。

    マーモンは、その忌まわしい大学の建物に、母親と一緒に入って行ったときのことを覚えている。外で待つように言われた母を残して診察室に入ると、白衣を着た白髪のアーチボルドが、マーモンを待っていた。ほかには誰もいなかった。アーチボルドは穏やかな声で、服を脱いで全裸になるようにマーモンに言った。

    言われた通りにすると、アーチボルトはマーモンの性器を触ったりこすったりし始めた。また、ペニスのクローズアップ写真を撮った。壁を背にして立って両腕を広げ、両足を少し開いた状態でポーズをとるよう指示した。

    マーモンは、身長を伸ばすためとされたホルモン治療の薬を処方されて、その場をあとにした。翌年に再び診察を受けることになっていたが、マーモンは両親に対し、もう研究には参加したくないと言った。その理由は説明しなかった。

    それは1975年のこと。マーモンはそれから何十年ものあいだ、その研究について考えることも話をすることもなかった。しかし2018年10月、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されていたある記事を見つけた。2007年に死亡したアーチボルドが「ある不適切な行為」に及んでいたことを、ロックフェラー大学が公式に認めたことを報じた記事だった。

    ロックフェラー大学はアーチボルドに関して調査を進めており、元患者1000人に対して連絡を取って、情報がないか確かめているところだとされていた。

    アーチボルドの診察を受けた元患者の少なくとも150人がいま、記憶に残る何十年も前の虐待について法で裁いてもらうべく、弁護士と手続きを進めている。そうした元患者たちの一部はさらに、アーチボルドが書いた研究論文の再検証を求めている。

    アーチボルドは生前、生化学と子どもの発育に関する論文を少なくとも19本発表した。そしてBuzzFeed Newsは、文献を確認した結果、そのなかの少なくとも論文3点に、裸の子どもやペニスのクローズアップの写真が含まれていることを発見した。さらに別の論文1点には、子どもたちの手のレントゲン写真も掲載されていた。

    被害者である元患者たちは、それらの研究論文について、被験者だった子どもたちを治療するという立場を悪用して書かれたものであることが何らかのかたちで反映されているはずだと述べる。こうしたアーチボルドの行為は研究倫理に著しく違反しているほか、犯罪行為であることは言うまでもない、というのだ。

    現在は60歳になり、デラウェア州ルイスに住むマーモンはBuzzFeedに対し、「彼の論文はどれも、一切信用に値しません。被験者だった子どもたちへの虐待の多さからすれば、それをどうして真剣に受け止められるでしょうか」と述べた。

    マーモンはまた、自身の身長が約165cmであることを考えると、治療には効果がほとんどなかったのではないかと見ている。3つの論文に掲載されていた裸の子どもは自分ではないとしながらも、ほかの子どもたちと同様のポーズをとっていたため、自分の写真が使われていてもおかしくなかったと述べた。

    ロサンゼルスを拠点とする弁護士で、マーモンをはじめとする元患者たちの代理人を務めているポール・モーンズは、こう述べる。「彼らが虐待の対象だったことを示す、すべての証拠に基づいて、アーチボルドの研究論文のなかで、虐待についてなんらかの方法で論及すべきだと私たちは考えています。論文から著者を引き離して考えるのはとても難しいからです。何らかの対応がなされるべきです。なんらかの表示がなされるべきです」(なお、モーンズは、ニューヨークの弁護士マリアム・ウォンとともに代理人を務めている)。

    1本の論文については、この件に関する問い合わせを受けた論文管理団体が、なにがしかの見解を示すことになっている。別の論文1本は、学術誌のウェブサイトから削除され、現在は倫理的問題について検討されている。それ以外の論文については、掲載した学術誌側は何の対応も取らないと述べた。

    ロックフェラー大学の広報担当者は、アーチボルドの研究や、大学側が学術誌に更新を求めるか否かについて、コメントを避けた。また、アーチボルドに研究資金を提供したアメリカ国立衛生研究所(NIH)は、彼の行為について調査を行う立場にはないとの姿勢を示した。

    科学界ではこれまでも、過去の論文が訂正されたケースがある。とはいえ、事情は複雑だ。なかには、倫理に違反したという理由だけで撤回された論文もある。たとえば、遺伝子を組み換えたコメを子どもに食べさせた2012年の研究だ。研究者が、倫理審査の承認文書を偽造したうえに、被験者の両親からインフォームド・コンセントを得ていなかったという疑惑が浮上し、論文が取り下げられたのだ。

    別のケースでは、酸化防止剤を使った喘息治療の研究が、患者が被験者になることに同意していなかったとして撤回された。

    一方で、あるまじき手法で行われた研究が、正式に訂正されずにそのままになっているケースは山ほどある。アメリカ政府が1932年から1972年にかけて、アラバマ州タスキーギで貧しい黒人男性を中心に梅毒の研究を行った際に、効果的な治療を施さず、被験者を不必要に苦しめたり死なせたりしたことがあった。それに対して市民から激しい抗議の声があがったのを受け、政府は被験者の保護を優先させる方向へと方針転換した。数十年経ってからとはいえ、ビル・クリントン大統領が謝罪もしている。

    しかし現在に至るまで、タスキーギに関する論文多くは、訂正もされなければ注釈も追加されておらず、いまだに科学者たちに引用されている。

    それと同じことが、著名な児童心理学者ブルーノ・ベッテルハイムの論文に関しても起きている。ベッテルハイムは、その死後に、学生たちを心身両面で虐待していたなどの問題行動が発覚し、非難された人物だ。

    だがいまは、「#MeToo」運動が全米的な議論を引き起こし、具体的な社会変化も進んでいる。これまではありえなかったような状況だ。アーチボルドのケースの場合、そうした変化は、ニューヨーク州議会や科学界から起きるかもしれない。ニューヨーク州議会は2019年1月、性的虐待の出訴期限を大幅に延期する法案を可決した。

    生命倫理学者たちはBuzzFeed Newsに対し、関連学術誌ならびにロックフェラー大学は、アーチボルドの論文をめぐる疑惑について、何らかのかたちで対処する責任があると述べた。無条件に論文を撤回することはなくても、せめて、アーチボルドの論文に編集者による注記を加筆するか、取り沙汰されている点について論説を掲載すべきだというのだ。

    とるべき対応を決めるのは容易ではない。しかも、一部の学術誌はすでに存在しておらず、共著者の多くが亡くなっている。どの論文が虐待を受けた被験者をもとに書かれたかを証明するのが難しい可能性もある。それでも、論文を採用した団体や組織は努力しなければならない、と彼らは述べる。

    ペンシルベニア大学の医療倫理学者ジョナサン・モレノは、「関係する大学や学術誌は、自らの過去を認めなくてはなりません。それはとても困難なことです」と語る。「組織として、過去の記憶を受け入れる必要があります。それは往々にしてつらい作業です」

    アーチボルドがロックフェラー大学(当時の名称はロックフェラー医学研究所)でジュニア研究員(junior investigator)として働き始めたのは1940年、30代前半のころだった。彼は、徐々に地位を上げながらキャリアの大半をロックフェラー大学で過ごし(短期間だが、ジョンズ・ホプキンス大学で研究を行ったこともある)、1980年に名誉教授に就任した。

    ロックフェラー大学は2018年10月、ある事実を明らかにした。アーチボルドが亡くなる3年前の2004年に、彼に関する疑惑があるという報告を受け、マンハッタン地区検事長に通知するとともに、法律事務所デビボイス&プリンプトンに調査を依頼していたという事実だ。

    調査の結果、1990年というかなり以前から、ほかにも苦情が申し立てられていたことがわかったという。ところが、アーチボルドに対する「疑惑」は「信頼に足る」ものだとした法律事務所の調査結果は、一切公表されなかった。

    この調査結果がようやく明らかにされたのは、2018年のこと。まったく新たな疑惑をきっかけに内部調査が再び実施され、さらに恐ろしい話が浮上した時だった。大学は同年10月5日に発表した声明で、「ロックフェラー大学病院ならびに大学は、アーチボルド博士が元患者に与えた苦痛について深くお詫びいたします」と述べた。

    ロックフェラー大学は、アーチボルドから名誉教授という肩書を剥奪し、公式ウェブサイトにあった彼の名前をすべて削除した。また、被害者がカウンセリングを受けられるよう基金を設け、再発を防止するためにさらなる予防手段を講じたと発表した。

    元患者5人はBuzzFeed Newsに対し、アーチボルドの虐待が発覚したことで、何十年にもわたって心の奥に抑え込んできたおぞましい記憶に直面せざるを得なくなったと語った。彼らは、アーチボルドの診察を受けたことで、健康やキャリア、さまざまな人間関係などを含むこれまでの人生に影響があったと考えている。そして、アーチボルドの研究がいったいどれほど正当だったのか、疑問を抱いている。

    アーサーというファーストネームのみを名乗った50代の元患者は、アーチボルドに手淫されたことと、自分でするよう言われたことを覚えている。精液は、アーチボルドが試験管に採取したという。「どうしてそんな行為を許してしまったのかはわかりません。彼のことを信じていて、それは研究の一環なのだと思っていたのでしょう」とアーサーは述べた。

    BuzzFeed Newsは、 1人の元患者が見せてくれたロックフェラー大学の同意書を確認したが、そこには必要最小限のことしか書かれていなかった。研究がどういった方向に進むか、予測できた人は誰もいなかっただろう。

    同意書には、「私は医学ならびに専門分野にのみ使用される写真撮影に同意します」という一文があった。さらに、「私は、必要だとみなされるすべての通常治療ならびに診断方法が自分に対して行われることに同意します」とあり、「身体検査」と「一般的に認められている薬剤の投与」も含まれると書かれていた。

    元患者の男性たちは、何年にもわたってアーチボルドの診断を受けてきたにもかかわらず、BuzzFeed Newsが、研究内容の一部を確認してほしいと依頼するまで、彼がどのような研究成果を出していたのかをまったく知らなかったと述べた。

    元患者たちに確認を依頼した論文は、遅延性脊椎骨端異形成症や、アールスコグ・スコット症候群、性腺形成不全症といった、発育不全に関連するきわめてまれな疾患について書かれたものだ。

    元患者5人全員が、論文に掲載されているのは自分の写真ではないと述べた。しかし4人は、同様の方法で写真を撮られたことを記憶していた。論文を目にしたことで、苦痛や屈辱という激しい感情が湧いてきたという。

    現在75歳のマーティン・コーエンは論文を読み、「靴下を履いただけの足を広げたかっこうで、さらし者にされて不安を覚えた記憶がぼんやりと蘇ってきました」と語った。

    コーエンをはじめとする元患者たちの記憶に残っているのは、自分や両親にとっては大きな権威を持った立派な医師だと思えた人物が、ドアの向こうの閉ざされた空間で、自分の影響力を悪用したということだ。コーエンはBuzzFeed News宛のメールで、アーチボルドは「『研究』と称して、子どもに対する性的関心を正当化していたのです」と述べた。

    ニューヨーク、クイーンズ生まれのコーエンは、バスケットボールをしていたため、母親が研究に申し込んだとき、身長が伸びるかもしれないと喜んだ。ところが、ロックフェラー大学を訪れると、アーチボルドから、服を脱いで、自分の両脚の間に立つようにと言われた。

    アーチボルドは健康状態について質問しながら、体をなで回したと、コーエンは振り返る。オーガズムに達した記憶はないが、コーエンがロックフェラー大学から入手した医療記録は、1度射精したことを示唆している。別の訪問時には、ペニスの長さと外周を測られた。

    コーエンは電話取材に応じ、「私は14歳で、思春期に入ったばかりだったため、刺激を気持ちいいと感じました。しかし同時に、極度の違和感がありました」と語った。「脳が凍り付いたような感じでした。どのように処理したらいいのかわかりませんでした。そして何より、彼は男性で、私は女性が好きです。だから、一層混乱しました。男性に興奮させられたら、自分自身のセクシュアリティーを疑ってしまうためです」

    コーエンは1957年から1960年にかけて、ロックフェラー大学を10回以上訪れた。アーチボルドがしたことを、家族には話さなかった。訪問を重ねるうちに、コーエンは高校を無断欠席し、不良たちと付き合うようになった。今振り返ってみると、虐待への反応だった可能性が高いと、コーエンは考えている。

    最終的には、コーエンは立ち直った。カウンセリングに関心があることに気付き、心理学の博士号を取得した。コーエンは現在、ロサンゼルスで、開業医としてトラウマを持つ人々を治療している。

    「彼らが私に引き寄せられ、私が彼らに引き寄せられた本当の理由はわかりませんでした。いま振り返ると、おそらく私は、彼らを理解していると思われていたのだと思います」

    カリフォルニア州スタジオシティー在住のマット(52歳)は、3歳から15歳まで、毎年アーチボルドのオフィスを訪問していた。この体験をきっかけに、大人と子供の境界に関する理解が変化したと、マットは話している。マットは15歳を過ぎてからも、年上のヘルパーの女性から性的いたずらを受けた。マットは最近になって、アーチボルドの虐待が原因となって、つけ込まれやすくなったのではないかと思い始めている。

    マットは女性と、長期的な関係を築いたことがない。それは根本的には、信頼の問題が原因だと彼は考えている。「これまでに付き合った女性のほとんどが子供をほしがりましたが、私は子供たちをこの世界で暮らさせたくないと思っています。安全な世界ではないためです」とマットは話す。「どうしても捨て去ることができない思いです」

    ジョン・シト(57歳)はアーチボルドに虐待されたことだけでなく、成長のためと称してテストステロンを使用されたことについても非難している。シトは、6歳から17歳にかけてテストステロンを投与された後、睡眠時無呼吸症候群になり、いくつもの良性腫瘍ができた。いずれもテストステロン療法が直接的あるいは間接的な原因だと、シトは考えている(テストステロンと睡眠時無呼吸症候群一部のがんの関連性を示唆する研究もある)。

    シトは、ロックフェラー大学から健康状態に関する質問がなかったことに腹を立てている。「彼らはちゃんとした研究もしていないし、フォローアップもしていないのです」

    小児内分泌学の専門家たちは、子供の成長を評価するには、生殖器の簡単な検査が必要だと考えている。ただし、ロックフェラー大学であからさまな不品行が発覚したことで、弱い立場の患者を不当に扱ってはいけないということの重要性が再確認されたとも考えている。

    小児内分泌学会のフィリップ・ゼイトラー会長は、「われわれはこの問題に対して、すでに慎重になっていました。アーチボルドの一件をきっかけに、私たちはその理由を再確認できました」と話す。「彼が行ったことは間違っていました」

    ゼイトラー会長によれば、1970年代にはすでに、家族の同席なしに患者を診察することは、主流から大きく外れた行為だったという。両親、あるいは、子供が望めばスタッフが、常に同席することになっている。

    マサチューセッツ総合病院の小児内分泌科医ドリット・コレンは、写真撮影は、教育または診断という明確な理由がある場合にのみなされるべきで、両親の同意と、患者のプライバシーを第一に考えなければならないと指摘する。コレン医師は小児内分泌学会倫理分科会の共同会長だが、自身の発言は倫理分科会の総意ではないと述べている。

    アーチボルドの論文の一部には、子供の顔がイニシャル付きでそのまま掲載されている。これに対しコレン医師は、「いまは通常、患者に結びつくような説明を加えることはありません」と話す。「子供が全裸で長時間過ごすこともありません」

    シトは個人的に、論文を見直しても得られることはないと考えている。「論文はすでに発表されており、今できることは何もありません」

    一方、残りの被験者は、何らかの形で、自分たちの苦しみが科学世界の中で認識されるのを見たいと口をそろえる。

    「可能であれば、最低でも写真を削除すべきだと思います。論文の内容と密接な関係があるように見えないためです」とコーエンは話す。

    マーモンも、「発表されている論文には、注釈か補足を加えるべきだと思います」と訴える。

    少なくとも2つの学術誌は行動を起こしている。

    アーチボルドは1975年、非営利団体「マーチ・オブ・ダイムズ(March of Dimes)」が支援する学術誌『Birth Defects: Original Article Series』で、遺伝的な成長障害を持つ4組の兄弟に関する論文を発表した。4組のうち3組は、生殖器のクローズアップ写真が掲載されている。マーチ・オブ・ダイムズの広報担当者はBuzzFeed Newsの取材に応じ、学術誌は1995年に廃刊となったため、論文の撤回は不可能だが、必ず何らかの形で対処すると明言した。

    マーチ・オブ・ダイムズは、「これらの許し難い疑惑を深刻に受け止めており、論文のデジタル版に訂正や注意書きなど、何らかの警告を加える方法を探っているところです」と述べた。

    別の学術誌『Radiology』でも1965年、裸の少年たちの写真を含むアーチボルドの論文が発表されている。BuzzFeed Newsが問い合わせた後、倫理委員会がこの論文に関して「ロックフェラー大学の調査に関する一件で」評価しているという投稿が行われた。さらに、ウェブサイトから論文が削除された。広報担当者はその理由として、「アーチボルト博士の調査は慎重に扱うべき問題であり、患者のプライバシーへの懸念もあるため」と説明している。

    この研究は、一部の資金が米国立衛生研究所(NIH)から出ていた。NIHの広報担当者は、NIHの再調査能力には「限界があります」と述べた。何十年も前に発表された論文であり、アーチボルトはすでに他界しており、NIHの関連記録はかなり前に廃棄された可能性が高いためだという。

    さらなる情報を待っている学術誌もある。1959年の『Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism』には、子供たちの手のX線写真を含むアーチボルドの論文が掲載されている。発行人のリチャード・オグレーディーはBuzzFeed Newsの取材に対し、「一連の疑惑にとても困惑」しており、ロックフェラー大学の調査を注視していると答えたが、何らかの行動を起こす可能性には言及しなかった。

    調査の予定はないと話す学術誌がもうひとつある。『American Journal of Roentgenology』(旧称は『American Journal of Roentgenology, Radium Therapy, and Nuclear Medicine』)だ。American Journal of Roentgenologyは1963年、成長障害の患者の骨格異常に関するアーチボルドの論文を掲載。その中では、10代の裸の少女と、裸に近い大人の女性の全身写真が取り上げられていた。

    広報担当者は、この論文に「不正行為の疑惑」があるという認識はないが、「もしさらなる情報が明らかになれば、必要に応じて評価を行うつもりです」と述べている。

    学術論文の出版規範を議論・制定する非営利組織、出版規範委員会は、「倫理に反する研究が報告」されたら、論文は撤回されるべきだと勧告している。一方、編集者注や「懸念の表明」は、「決定的ではないものの、論文著者が不正行為を働いた証拠」があった場合に推奨されている。

    ペンシルベニア大学で小児科と医療倫理を研究するスティーブン・ジョフィ教授は、アーチボルドの論文をすべて撤回させることは現実的でないかもしれないと話す。同氏によれば、論文が述べる科学的主張に欠陥がある、あるいは、研究のなかで特定可能な患者が虐待されたという明確な証拠を求められる可能性が高いという。

    ただし、ロックフェラー大学が率先して、別の方法で記録をアップデートすべきだと、ジョフィ教授は述べている。ロックフェラー大学から学術誌に対して、アーチボルドの論文に、疑惑についての注釈を追加するよう働きかけることもできる。ジョフィ教授によれば、理想的なのは、ロックフェラー大学が各誌の編集者に文書を送り、知り得る限りの事実と疑惑を説明した上で、文書の公開を依頼することだという。

    「当然、ロックフェラー大学の弁護士が文書を精査するでしょうし、法的な利害関係が加味されるでしょう。それでも私は、情報を公表する手段としてこのやり方を支持します」と、ジョフィ教授は述べる。

    「誰かが文化的遺産を残している限り、その文化的遺産は、生前あるいは死後に出てきた情報を反映したものであるべきです」と、同氏は付け加えた。

    近い将来、ロックフェラー大学は裁判で、アーチボルドの功績に関する質問に答えることになるかもしれない。ニューヨーク州の現行法では、アーチボルドの元患者たちは何十年も前に、ロックフェラー大学を訴えるチャンスを失っている。しかし、ニューヨーク州の新しい「子供被害者法」が成立すれば、たとえ時効を過ぎていても、加害者や組織を相手取って民事訴訟を起こす猶予が1年間与えられる。

    この法案は1月後半、ニューヨーク州の上院と下院で、圧倒的大差で可決された。その直前に、支持者の一人である上院議員のブラッド・ホイルマンはBuzzFeed Newsに、ロックフェラー大学の一件は「信頼を裏切る出来事であり、その影響は言葉で言い表すことすら難しいほどです」と語っていた。

    「単純明快に言えば、アーチボルト博士はモンスターです。彼が逃げ切ったと考えただけで、とても腹が立ちます。私たちはそうした状況を変えなければなりません」

    ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事が法案に署名すれば、6カ月後、訴訟を起こすことができる。クオモ知事は以前、法案の支持を示唆していた。

    数十人の元患者の代理人を務めるモーンズ弁護士は、「私たちには訴訟を起こす権利があります。私たちはあらゆる救済を求めるつもりです」と述べている。モーンズ弁護士はさらに、新たなアーチボルトやロックフェラー大学が現れるのではないかと考えている。「この訴訟が実現すれば、適切なプロトコルを知らないまま治療を受けていた患者たちが、かつて自分を傷つけた医師がいたことに気付くでしょう」

    半世紀前、アーサーはアーチボルドの診察室で、困惑しながらカメラの前でポーズを取った。アーサーは最近、そのときのスナップ写真が論文に掲載され、多くの目にさらされなかったことを知り、胸をなで下ろした。しかし、ロックフェラー大学から受け取った自身の医療記録にも、当時の写真はなかった。アーチボルドが試験管に採取した精液の行方もわからない。

    アーサーは今、それらがまだどこかにあるのではないかという思いに苛まれている。「彼はあの試料と写真をどうしたのでしょう?」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:遠藤康子、米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan