出生時の性別をもとに競技参加を求めてきたフィットネス団体 一転して、トランスジェンダーを受け入れる方針へ

    「クロスフィット社は自分たちの過ちを認め、正しい方に進んでいます」とトランスジェンダーのアスリート、クロエ・イェンソン氏はBuzzFeed Newsの取材に答えて話した。

    クロスフィット社は来年以降、毎年行われるフィットネスの大会「クロスフィット・ゲームズ」にトランスジェンダーのアスリートが参加できるようにすると発表した。同社はこれまでLGBTコミュニティから批判を受ける方針を掲げてきたが、それを翻した形だ。

    クロスフィット社はアメリカ合衆国で設立されたフィットネス団体である。クロスフィットとは、歩く、走る、起き上がる、拾う、持ち上げるなどの、日常生活で繰り返し行う動作をベースにし、基礎体力向上と日常動作の行いやすさを目指すトレーニング方法である。クロスフィット・ゲームズと呼ばれる世界大会を毎年行っており、世界中の参加者が日頃のトレーニングの成果を競っている。

    クロスフィット社の会長で創業者のグレッグ・グラスマン氏は、「正しい判断をしました。クロスフィットはすべてのアスリートの能力と可能性を信じ、尊厳を尊重します。私たちのLGBTのメンバーを誇りに思います。大会でお会いしましょう」述べている。

    「地球上で最もフィットな人」を選ぶことを目指して2007年に始まったクロスフィット・ゲームスには、今年は41万5000人を超える人々が参加した。以前の方針では、アスリートは出生時の性別をもとに出場する部門が決められていたが、それは何年もの間、論争を巻き起こしてきていた。

    またクロスフィット社は今年6月、広報担当者のラッセル・バーガー氏がLGBTの人々が自分の性的指向や性自認に誇りを持つことは「罪」であり、あるクロスフィット・ジムでのLGBTプライドをテーマにしたワークアウトのキャンセルを支持する旨のツイートしたことで、LGBTの人々や支援者を激怒させた。

    「地球上でもっともゲイらしいスポーツ」と呼ばれる可能性もあるクロスフィットだが、この2つの出来事を受けて、同社はクロスフィットは全ての人を受け入れるものであると主張した。そしてバーガー氏のツイートを非難し、ツイートの数時間後にはバーガー氏を解雇したとしている。

    ネバダ州リノのトランスジェンダーのアスリート、クロエ・イェンソン氏は「クロスフィット社は自分たちの過ちを認め、正しい方に進んでいます」と話す。イェンソン氏は2014年に大会の女性部門で競技に参加することを禁じられたとして、クロスフィット社を相手取り、訴訟を起こしたことがある。

    イェンソン氏(38)はこの遅きに失した方針変更を、驚きつつも喜んだと話す。「私たちにとって大きなことです。クロスフィットに対してネガティブな気持ちを抱き続ける理由はなくなりました。トランスジェンダーの仲間に私たちに競技するチャンスが与えられているよと伝えて参加をうながしたいです」

    イェンソン氏がクロスフィット社に対して250万ドルの損害賠償を求めた訴訟は2015年に決着した。その訴訟の過程ではクロスフィット社の弁護士が、トランスジェンダーの女性が遺伝的には男性であるため、男性部門で競技に参加すべきだと主張したことがあった。

    CNNによると、その際、イェンソン氏の弁護士宛の手紙の中で同社の弁護士は「基本的で不可避の事実は、性転換を行なった男性競技者は、依然、肉体的・心理的に女性に対して有利な遺伝子構造を持っているのです」と書いている。

    クロスフィット社の劇的な方針転換は、競技の世界のトレンドを反映している。トランスジェンダーのアスリートがオリンピックで初めて競技参加を認められたのは2004年であったが、その時点では性別適合手術を受けている必要があった。

    2016年オリンピックの新しいガイドラインでは、手術に関する要件は削除され、トランスジェンダー男性は何の制限もなく競技に参加できることになった。

    一方で、トランスジェンダー女性はホルモン療法を受け、少なくとも1年の間ホルモン値を下げて競技する必要があるとしていた。(そして物議を醸しながらも、国際大会の主催者らは特定の陸上競技に関し、高テストステロン値の女性は規定の値に下がるまでホルモン治療を受けなければならないというルールを採用した。)

    クロスフィット社は2019年のためのルールブックを整えている段階であり、このガイドラインに準ずるかどうかを未だ明らかにしていない。しかし、クロスフィット社に対してコンサルティングを行っているLGBTの健康のための団体・アウト財団の事務局長ウィル・ラニア氏によると、出生時の性別と異なる部門で競技に参加する場合には1年のホルモン治療を要求するなど、同社はいくつかの点で同様のルールを適用することを検討中だという。


    クロスフィット・ゲームズはいくつかの予選を経て行われる世界大会である。競技はエアロビクスとウェイトトレーニングと器械体操をミックスした過酷なものだ。最初の予選はザ・オープンと呼ばれ、世界中のアスリートがワークアウトの様子を最後まで撮影してオンラインで動画投稿をするか、クロスフィットジムでスコアを提出することで行われる。

    そこで高スコアだった人が地域大会で戦ったのち、勝ち抜いた人が最終的にクロスフィット・ゲームズに出場。アスリートたちは賞金30万ドルをかけて戦っている。今年初旬に行われたザ・オープンには41万5000人を超える人々がエントリーし、世界大会のクロスフィット・ゲームズは8月1日から5日までの期間で行われた。


    アウト財団は今年、トランスジェンダーや、その他のクロスフィットの方針に反対する人々のために代替的な大会を開いた。アスリートはクロスフィットの公式ホームページではなく財団のサイトにエントリーするように求められ、アスリートはクロスフィットの公式大会と同じワークアウトを行なってネット上に投稿。スコアはアウト財団のスコアボードに記載された。


    ラニア氏によると、財団の大会には12カ国から約300人の参加があり、約10%がトランスジェンダーだったという。人々がトランスジェンダーのアスリートを交えた竸技を支持していることは、この大会に関与していないクロスフィットを後押しすることになったと彼は話す。

    「クロスフィットのような大きな大会がトランスジェンダーを受け入れる方針を適用したのは、私たちのコミュニティ全体にとって大きな前進です」とラニア氏は話していた。


    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:フェリックス清香 / 編集:BuzzFeed Japan