セックスロボットなんて未来の話? でも、「それ」はすでにここにある

    ありとあらゆるセックストイがすぐに入手できるいま、あえてセックスドールを欲しがる女性はいるのだろうか。

    カリフォルニア州サンマルコスにあるリアルドール(RealDoll)社のセックスドール工場を訪れてからというもの、どうしても気になっていることがある。男性セックスロボット、とりわけシスジェンダー(身体的性別と自分の性同一性が一致している人)向けのものは、下腹部にモーターを入れないとピストン運動ができないという問題があるのだ。そうした運動ができる口紅型バイブレーターが15ドルで買えるのに、2万ドルを出して、重量50kgのシリコン製ドールを欲しがる人はいるのだろうか。

    自分が上にまたがるのはひと苦労だし、やれることも限られてくる。女性向け男性セックスドールにどんなメリットがあるのか、いまだにわからない。

    リアルドール社は長年、生身の女性を模したセックスドールを製造してきた。価格は恐ろしく高い。いちばん安い実物大の基本モデルでさえ、5999ドルもする。オプション料金を払えば、サイズの違う胸やお尻、ウィッグ、アンダーヘア用ウィッグ、メイクアップ、挿入可能なラビア(陰唇)などが手に入る。同社は男性ドールも製造しているが、どちらかというと男性向きのような気がする。平均的な体格の女性には、かなり重くて扱いにくいからだ。

    よく「女性はセックスドールなんかいらないだろう」という声を耳にする。「女性は感情を大事にする」とか、「女性が本当に求めているのは会話だ」「手を握ってくれる人がほしいのだ」という意見。あるいは、「女性が必要なのは、全身にグリッタージェルなんかをつけているときに、クモを殺してくれる本物の男性だ」というような意見だ。しかし、そうした意見は忘れてほしい。なにしろ、女性たちはすでに、たくさんのセックストイを持っているからだ。ただし、巨大な肉の塊をぶら下げておくためのフックがなければ邪魔になってしまうような大型ドールについては、私たち女性が必ず欲しがるものとは思えない。

    リアルドールの子会社であるRealbotix社は2018年7月、人工知能(AI)を搭載した、初のしゃべる女性セックスロボット「ハーモニー」の生産を開始した。しかし性能としては、完璧にはほど遠い。口調はぎこちなく、視覚用カメラがついていないので、まだ「見る」ことができない。彼女の個性のいちばんの特徴は、「性的にとても興奮した」状態にプログラミングされていることのようだ。それでも、同じくAIを搭載した同社の男性セックスロボット「ヘンリー」と比べれば、はるかにましだ。

    ヘンリーはまだ開発段階にあって、エアブラシで描かれた無精ひげはとてもお似合いだが、自発的なコミュニケーション能力は未熟だ。話しかけても、いまのところはひきつったような笑いが返ってくる程度だ。続けて、「君のユーモアのセンスは痛烈だね」とか「君は怖い」と言ってくる。自分を怖がってくれる繊細な男がほしくなったとしても、ヘンリーの頭部の最低価格8000ドルよりずっと安く手に入れられるだろう(体は別売りだし、体自体も動かない)。

    女性たちは、セックスロボットについては、自分たち向けにデザインされたものだとしても、買おうとは思わないかもしれない。しかしその一方で、セックストイ市場を独占しているのは女性たちだ。ペニスバンドやバイブレーター、アナルプラグ、ムチ、クランプ、サドルにラビット、食べられるローションに、ありとあらゆる潤滑剤。

    「自分が楽しむため」のいろいろなグッズや、快感やしびれをくれるもの、理性を失わせてくれるものなどを、女性たちは買いまくっている。女性は性的倒錯者だ。そして、選択肢を求めている。私の知っている女性はひとり残らず、ベッドサイドテーブルの引き出しに奇妙なグッズを詰め込んでいて、他人とわざわざコミュニケーションをとらなくても、あらゆる類いの悦びを享受できる。外に行く必要があるのだろうかと首をかしげてしまうほどだ。

    いまは、だれにでも、楽しめるものが必ずある時代だ。ひとりで使うものもあれば、パートナーと使うものもある。振動数も価格もさまざまだ。私はニューヨークで、女性の悦びをテーマにして、新しいセックストイやエンターテインメント、教育プログラムの開発を行うコミュニティ「ウィメン・オブ・セックス・テック(Women of Sex Tech)」を運営する女性たちに会った。そして、互いのアイデアを発表し合うピッチミーティングに同席して、さまざまな製品を目にした。

    繰り返し使える温熱/冷感パッドは、生理中や激しいセックスのあとに性器に当てるためのものだ。オルガズムのデータを収集するバイブレーターは、自分が絶頂に至るタイミングや場所、方法を追跡することができる。さらに、2000ドルもする乗馬型セックスマシン「Cowgirl」に触れてみたが、バイブ機能があまりにも激しくて、ネイルが削れてしまったほどだ。

    女性用のセックストイは、バラエティが豊富だ。そのため、リアルドール社の工場を訪ねた日には、どうしても目についたことがあった。それは、ドールの性別を問わず、白人以外のセックスドールが1体もなかったことだ。

    あるテーブルには、エイリアン風セックスドールが好きな人のために、鮮やかな緑色をしたペニスのアタッチメントがずらりと並んでいた。それは一向にかまわないし、乳首が10個あるドールを買ったって、私は母親ではないのだから気にしない。ところが、茶色のラビアですら、どこにもなかった。

    従業員によれば、「別の日」には、製造ラインに褐色の肌のドールがずらりと並ぶこともあるという。それはそうなのかもしれないが、私が訪れた日に工場にあった女性ドールは、すべて見た目がほぼ同じで、不気味なほどだった(特注製品は別だ)。

    ドールたちはすべて、指のなかに曲げ伸ばしできるワイヤーが入っており、使用者に捕まらせることができる。歯の素材はソフトで柔軟なので、使用者がドールの口の中に自分の体の一部を入れても痛くはない。ヴァギナは取り外して食洗器で洗うことが可能だ。

    胸はたいてい、笑ってしまうほど大きい。足は、バービー人形のように小さくてとがっている。お尻はみんな、丸みを帯びて引き締まっているが、大きさはさまざまだ。ぷっくりとした唇は、濃いめの色で縁取りされており、つやめいている。ウェストはどれも、ありえないくらい細い。

    そこにあったドールたちはすべて、ポルノスターのようだった。身長はいちばん低いものが約147cmで、最小モデルの体重は子ども並みの27kg。ウィッグや瞳の色、メイクアップやアンダーヘア用ウィッグは変更できるが、何も修正を加えなければ、ドールたちは区別がつかず、乳首やその周りを目を凝らして見て質感を確認しない限り、違いはわからない。

    工場にあるセックスドールは、生身の女性というよりは、女性の「概念」を形にしたように思える。工場で、ドールの指先に余分についているシリコンを切り取ったり、瞳に色づけしたりしている従業員女性たちでさえも、いちばん生身の人間に似たドールであっても、実際に目にする人間とは似ても似つかないことは認めている。ちなみに、手作業で色付けされると値段が高くなるが、魂を奪われたような表情のままでは嫌だというなら、オプション料金を払う価値はある。

    男性がいまだに、単一の「女性らしさの理想」に固執しているのだとすれば、不幸としか言いようがない。男性たちが、肉体的にありえない女性を追い求める一方で、女性たちは創造力を発揮して、さまざまな方法を試し、悦びを得ようとしている。

    それでも、セックスドールやロボットを買おうとする女性はおそらくいるだろう。ジョークを言ったら曖昧な笑いを返すだけのヘンリーでも、満足する女性はいるのかもしれない。とはいうものの、ありとあらゆるセックストイがすぐに手に入るいま、あえて「別の男」を欲しがる必要があるのだろうか。

    ヘンリーはおしゃべりできるし、名前を覚えてくれるかもしれない。眼鏡をかけたキュートなその姿は、ドラマ「The O.C.」のセス・コーエン風でなかなかチャーミングだ。けれども、彼のボディはバイブしない。下腹部にモーターが入っていないので、激しく腰を振ることはないのだ(少なくとも、重たい体で女性が押しつぶされる危険はないが)。

    現代では、男も女も、選択肢はよりどりみどりであり、多様なテクノロジーを駆使して、わがままし放題にできる。そうしたレベルについてこれないセックスドールたちに、勝ち目はあるのだろうか?


    より詳しくはNetflixで公開中の「世界のバズる情報局」で。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:遠藤康子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan