ロビー・ピアースさんと夫のニール・ブローバーマンさんには、5歳と6歳の養子がおり、双方が親権者だ。
2020年に行われたアメリカ国勢調査局の人口データ(CPS)の分析によると、2019年のアメリカにおける110万組の同性カップルのうち、14.7%の世帯に18歳未満の子どもが少なくとも1人いる。ピアースさんたちのような養子縁組や、代理母出産などで子どもをもうけるカップルが多い。
ピアースさん一家は、春休みに家族でカリフォルニア州の海岸線を列車で移動する予定だった。
楽しい家族旅行になるはずが、列車内である男性に声をかけられ、「子どもたちを盗んだ」「小児性愛者」などと非難されたという。
ピアースさんは、BuzzFeed Newsのインタビューにこう答えた。
「突然、男が現れて、叫び始めました。(子どもたちに向かって)『俺が言ったことを忘れるな!あいつらはおまえを盗んだんだ!彼らは小児性愛者だ!』と。その言葉を聞き、これは本当にひどい同性愛嫌悪だと感じました」
ピアースさんによると、事件は4月12日の夜、全米鉄道旅客公社、通称アムトラックの列車がカリフォルニア州サンノゼのディリドン駅に停車したときに起きた。
男の暴言を聞いて、子どもたちは泣き出したという。しかし男は、攻撃的な発言を繰り返した。
この発言が広がることは懸念したが、ピアースさんはその夜、ツイッターに一部始終を投稿した。
彼のツイートは、4000以上の「いいね!」を集め、リツイートやコメントなどの反響を呼んでいる。
「その男は1分ほど目の前に立っていました。『私たちから離れろ!息子と話すのをやめろ!』と何度も言いました。子どもたちはただただ泣きじゃくっていました」
「男は怒鳴り続け、『あんなのは家族じゃない!』と言い放ちました。『お前たちは強姦魔で小児性愛者だ。黒人やアジア人の子どもを盗んでレイプしているんだ』 と」
事件が起きたとき、アムトラックのスタッフは見当たらず、他の乗客も巻き込まれるのを嫌がっているように見えたと、ピアースさんは語っている。
夫のブローバーマンさんが立ち上がって男との間に入り、ピアースさんが子どもたちを連れてその場から離れたという。
ピアースさんは子どもたちに、「ここは怖いところだから、怖い人から離れようね」と言ったという。
アムトラックの代表者はBuzzFeed Newsに、車掌がピアースさんと男のやりとりを見て、オペレーションチームに報告したと語った。
その後アムトラックは、ピアースさん一家が乗車していた列車をディリドン駅に停めたうえで、サンタクララ郡保安官事務所に通報した。
警察が到着するまでの間、ピアースさん一家は4両離れた車両に移動した。そのうえで車掌は、男に列車から降りるよう命じた。
その場に居合わせた乗客のジェニファー・パーカーさんは、「ピアースさん一家が移動しても男は乗客を脅し続け、列車から降りようとしなかった」とBuzzFeed Newsに語った。
「殺されるなら、死ぬ覚悟はできている!」と、男は叫んだという。
パーカーさんは「非常に苦痛でした」と振り返る。
「車内にいた人たちはピアースさんたちを擁護しようとしましたが、男の怒鳴り声にかき消されてしまいました。ある女性は、もし自分が男性だったら立ち上がって男を殴っていると言っていました」
事件の数時間前にも、似たような出来事があった。ピアースさんの息子(6)がトイレに行くと、男が声をかけ、「君は(ピアースさんたちによって)盗まれたんだよ」と言われていたこともわかった。
トイレは2階の席の真下にあるため、ピアースさんは息子を一人で行かせても大丈夫だろうと思っていた。しかしその後、戻ってきた息子は一人では行きたくないと言い出したとそうだ。
息子に事情を聞き、ピアーズさんは息子がトイレで男に声をかけられたこと、当時の状況を知った。
男から離れた後、ピアースさんの息子は、泣いてピアースさんに抱きついたという。
アムトラックは4月14日、ア声明を出し、この出来事を 「ヘイト行為 」とした。
声明文は、「この凶悪な事件に巻き込まれたご家族に、お詫び申し上げます。アムトラックはこのヘイト行為を強く非難し、乗客の皆様がアムトラックに価値を感じていただけるよう、全面的に調査を行います」とある。
またアムトラック関係者によると、同社はこの男に今後、アムトラック乗車を禁じることを検討しているという。
男の身元は明らかになっていない。地元テレビ局によると、逮捕もされなかった。
ピアースさんとブローバーマンさんが子どもを「盗んだ」と言われたり、「小児性愛者」「強姦魔」と呼ばれたりする背景には、アメリカで一部の極右派が支持する陰謀論信奉者「Qアノン」がある。
「Q」と名乗る人物によってネットに投稿される陰謀論の信奉者が「Qアノン」と呼ばれる。民主党幹部が子どもの人身売買と性的搾取を行なっているという主張から派出して、LGBTQの人々、特に同性カップルは子どもを同様に盗んで搾取していると唱えているが、これらの主張に根拠はない。
「人々から受ける非難は年々激化しています。昔は非難の対象が私たちでしたが、今では子どもたちにも被害が及んでいます」とピアースさんは語る。
ここ数カ月、全米の州議会では、医療、スポーツ、教育などの問題でLGBTQを対象にした法案が取り上げられている。
フロリダ州では、幼稚園から小学3年生まで、授業で性的指向や性自認に関する議論を禁止する「ゲイと言ってはいけない(Don't Say Gay)」法案が、可決された。
3月には、5つの州で反LGBTQ法が成立した。
ピアースさんにとって、反LGBT的な中傷や暴言、自分の子どもに対する非難を聞くのは、12日の事件が初めてではなかった。
ピアースさんはヒスパニック系で、息子は黒人だ。人種差別に端を発した出来事もあるという。
「私と子どもが同じ人種なら、人種問題にすぐ飛びつかない人もいると思います。他にも、私たちが法的に認められた親子だとわかっている人もいました。ただ、それを認めたくなかったのです」
12日、ピアースさんの子どもたちは1時間ほど泣き続けた後、事件を理解しようと次々と質問してきたという。
「あの男は戻ってくる? もし、また同じことをされたらどうしよう?」
ピアースさんは子どもたちが理解できるように、「私たちのことを知らないから、私たち家族を嫌いになる人もいる」と説明したという。
しかし、彼は子どもたちに今後の安全を約束することができなかったと語る。
「『こんなことは二度と起こらないよ』と子どもたちに言えたらよかったのですが。私が(誹謗中傷など)を止めることができればいいのに」
ピアースさん一家は、残りの休暇を楽しむつもりだと話す。具体的な計画はないが、子どもたちがやりたいことをやるという。
「(反LGBTの人たちの)大きな目標は、私たちを家に閉じ込めて、出てこさせないようにすることだとわかっています。私たちはそんなことはしません。外に出て、勇敢であり続けます」