反LGBT州法にFacebookやAppleが相次ぎ反発している

    政治におもねらない企業。そこに信条と経営戦略があった。

    アメリカ・ノースカロライナ州が、公共施設でLGBTの人たちを差別する州法を決めたことを受けて、企業が一斉に反発を強めている。FacebookやAppleといったITの巨人が反対を表明し、PayPalは同州への進出を撤回。アメリカ企業は信条と経営戦略の両方から政治におもねらず、LGBT権利の保護を貫いている。

    10時間で成立

    発端は、ノースカロライナ州内のシャーロット市議会が3月21日、LGBTの人たちに対する住居や公共施設での差別を禁止する条例を可決したこと。4月1日に施行されるはずだった。

    これを無効にしようと、ノースカロライナ州議会は3月23日、賃金や雇用、公共施設に関する事項で、州法が条例より優先する下院2号法案(HB2)を提出した。

    HB2は、公共の建物で、出生証明書の性別と異なるトイレやロッカールームを使うことを禁じる。トランスジェンダーの生徒が自己の性別認識と異なるトイレを使えない。米メディアは「トイレ法」と呼んでいる。

    このHB2は提出から10時間以内という早業で可決。同日午後10時ごろにパット・マクロリー知事が署名して、成立した

    知事は、トランスジェンダーの女性は「男性」であり、女性用トイレで女性を襲う危険があると主張している。

    声を上げる企業

    これに対し、Facebook、Apple、Googleといったテック企業が一斉に反対を表明した。

    ノースカロライナ州にデータセンターを置くFacebookは声明を出した。

    「ノースカロライナ州でのこの出来事をとても残念に思います。Facebookは企業として、平等性をオープンに声を大にして支持します。LGBTの人々の権利を守ることの価値を信じ、性自認や性的指向にもとづく差別に反対します。#‎WeAreNotThis‬(これに反対します)」

    Googleもツイートしている。「平等の権利とすべての人へを平等に扱うことの価値を信じます。このノースカロライナの法律は見当違いで間違っています。#‎WeAreNotThis‬(これに反対します)」

    Appleが発表した広報文を記者がツイートしている

    「AppleストアとAppleはすべての人に開かれています。どこの出身で、どんな外見で、何を信じ、誰を愛するかとは関係なく。だからこそ(性的指向や性自認による差別を禁止する)連邦の平等法を支持します。アメリカの未来は多様性の受け入れと繁栄に重点が置かれるべきです。差別と区別ではありません。マクロリー知事が法律に署名したことを残念に思います」

    アメリカを代表する企業のCEOら120人以上は団結して、知事に法律の撤回を求めた

    ゴールドマン・サックスやバンク・オブ・アメリカといった金融から、IBMやIntelなどIT企業、Airbnb、Uber、Lyft、LinkedIn、Dropbox、YouTubeといった新興企業までが含まれる。

    「HB2は、われわれの会社、国、そしてノースカロライナ州に住む人の大多数の価値観を反映したものではない」「企業が優秀な人を採用し、働いてもらい、優秀な学生を引きつけることが難しくなる」

    進出撤回も

    企業側の反発はこれで終わらなかった。

    PayPalは4月5日、その2週間前に同州のシャーロット市に開くと発表していたグローバル・オペレーション・センターの計画を撤回すると発表した。センターは技術者ら400人を雇用する予定だった。

    ダン・シュルマン社長兼CEOは「新法は差別を存続させ、PayPalの使命と文化の核である価値観と原理に反する。公正、多様性の受け入れ、平等といった原理は、わたしたちが企業として追求し支持することの中心。だからこそ差別に反対する行動を起こす」と決定の背景を説明した。

    「チームの仲間たちが法の下の平等な権利を得られないノースカロライナ州で雇用者になることは、決して受け入れられない」と断言した。

    地元紙Charlotte Business Journal は、年約2千万ドル(約22億円)の雇用効果が失われたと報じている

    企業が動かすLGBT権利

    企業が相次いでLGBT支持を表明するのは、企業精神に合致するからだけではない。商品の販売戦略や人材採用に直結するからだ。

    アメリカでは、同性婚カップルの平均所得や教育水準が、異性婚カップルより高かったという調査もある

    消費者の心をつかみ、優秀な人材を集めるためには、多様性への配慮が不可欠となっている。

    ジョージア州でもLGBT権利の推進に企業が存在感を示した。

    宗教的理由で企業がLGBTの人々を差別することを認める法案(HB757)に対して、ハリウッドの映画各社などが反対を表明。ディズニーやNetflixは法案が成立すれば、州内での映画制作をやめると公表した。

    Recodeによると、SalesforceのCEOも法案が成立すれば、ジョージアへの投資を削減せざるを得ないと公表。1万5千人が参加する会議の開催地を変えるとしていた。

    こうした企業の影響力は大きい。ネイサン・ディール知事は3月28日、拒否権を行使。記者会見で「ジョージアは歓迎する気風の州だ。愛情ある親切で寛容な人々でいっぱい。それが追求するべき姿だ」と述べた。