フォトショップで足された2人の女性。テック業界のCEOなどを集合写真は本当は男性のみ

    写真は男性向けライフスタイル誌GQに掲載されていた。

    先週、男性向けライフスタイル誌GQが、 LinkedIn創業者リード・ホフマンやDropbox社CEOドリュー・ヒューストンなど、シリコンバレーのエグゼクティブが写ったこの写真を掲載した

    彼らは1000ドル(約10万円)のスウェットパンツで知られる高級ブランドデザイナー、ブルネロ・クチネリを訪ねてイタリアの小さな村を訪問していた。

    もしこの写真に違和感を覚えたら、あなたの目は正しい。

    BuzzFeed Newsの「調査」で、もともと男性15人が写っていた写真に、2人の女性CEOリン・ジューリッヒとルツワナ・バシルが加えられていたことが判明した。

    クチネリのInstagramアカウントに5月30日に投稿されたこの加工写真は、6月4日に掲載されたGQの「ソロメオ・サミット」についての記事に、トップ画像として使われた。

    「ソロメオ・サミット」とは「おそらく最もおしゃれではない分野」の著名人たちがイタリアで最高のカシミヤ職人を訪問するものだ。

    「いろいろな意味で、クチネリはまさにシリコンバレーの起業家です」と、この訪問の主催者であるNextdoor社共同創業者の一人、ニラブ・トリアはGQに語った。

    「一団の中にはクチネリを着ない人たちもいました。彼らは着るものにこだわりはありません。ですが彼らにとってクチネリの起業家としての実績は非常に評価できるものかもしれません」

    彼のインスタグラマーとしての実績はもう少し疑わしい。

    集合写真が掲載された例の記事を読み、この写真が何だか怪しいことに気づいた。写真に写る2人の女性を見てほしい。

    一見すると、GQがSunRun社CEOリン・ジューリッヒとしている後列の女性の顔がややぼやけている。彼女の光の当たり具合や色は写真の他の被写体と比べて違って見える。そして頭は、彼女の脚と靴とされるものとイマイチ合っていない。

    またクチネリにがInstagramに投稿した別の写真には、どこにも彼女の姿はなかった。

    集合写真の左端に写っているのが、Peek社のCEOルツワナ・バシルだが、彼女の姿もまた怪しかった。

    写真で彼女は他の参加者と接触しておらず、また彼女の上半身と脚への光の当たり具合は、写真の他の部分と異なっている。写真は加工されているように思えた。

    でも誰がこんなことをするだろうか?

    男性しか写っていない写真は、特に女性やマイノリティーが業界で軽視されている今の状況で、リッチなテック起業家たちにとって望ましい視覚的イメージではないのだろうと記者は考えた。

    だがどうしてInstagramやライフスタイル誌向けに、このような大して関連のない事柄のために写真の加工などするのか?この写真は本当により多様性があるように見せるために加工されたのか?

    それともよくあるように、ただ「フォトショップで私の友達をこの家族写真の中に入れて。この写真の撮影者だから写ってないの」ということなのか。

    Slackで同僚に自分の調査結果を見せた時、私の努力は物笑いの種となった。「君のこの写真の真実に対するひたむきさは高く評価するよ」と一人はからかった。

    困惑した記者はTwitterで助けを求めた。すると、@z3dsteというユーザーがメッセージをくれた。彼はGQの記事に掲載されていた写真を無料のメタデータ分析ツールにかけたと言った。

    電子機器で撮影された写真はEXIFデータを含んでいることが多い。このデータには撮影したカメラの種類から写真の露出、GPS座標まであらゆるデータが含まれている場合がある。(2012年に、Viceのジャーナリストが位置情報のEXIFデータを含む写真をFacebookに投稿した結果、当局がベリーズに逃亡していたソフトウェア起業家のJohn McAfeeを発見した)

    写真のメタデータは改ざんが可能だが、GQに掲載されクチネリのInstagramアカウントにも投稿されたこの写真は、2019年版のAdobe Photoshopで加工されているとEXIF分析により判明した。

    しかし、これは動かぬ証拠というわけではなかった。多くの写真は、それが投稿、印刷される前にフォトショップ加工されるものだ。だが分析結果は少なくとも加工の実績を示唆していた。

    この写真の信憑性を調べるために記者がバシル、ジューリッヒ、GQ広報部に連絡をとったところ、バシルからは返答がなく、GQ誌の広報担当者からは後で連絡するとの回答があった。一方でジューリッヒは会合への出席を認めたが、写真については言及しなかった。

    すると事態は急展開した。Twitterの@benjymousというユーザーがGQ誌の写真をGoogleのリバースイメージサーチにかけたのだ。結果、この写真によく似ているが微妙に違う、バシルとジューリッヒの姿がない15人の男性が写った写真が見つかった。

    LMAO THEY PHOTOSHOPPED THE WOMEN IN. (credit to @benjymous for the incredible find via reverse image search and LinkedIn)

    私は@benjymousの方法を自分でも試してみた。すると写真は、クチネリを顧客とするイタリアの広報企業Barabino & Partnersのミラノの在住の共同経営者フェルディナンド・デ・ベリスのLinkedInアカウントに行き着いた。

    2週間前、彼は男性だけの写真ともう1枚のくつろいだ様子のグループ写真を自身のLinkedInに投稿した。その中にはTwitter社の元CEOディック・コストロやAmazon社CEOジェフ・ベゾスも含まれる。

    だが、ベゾスは加工の結果にせよそうでないにせよ、どちらの写真にも写っていない。

    私はこの新発見についてGQにメールを送り、またクチネリの広報担当者に質問を送った。

    約4時間後に、クチネリの代理人から何があったかを説明する声明が送られてきた。

    「参加者全員が写った写真がないことに気づき、この週末に撮影された2人の女性CEOの写真を加えました」と広報担当者はBuzzFeed Newsにメールで伝えた。

    「この写真はInstagramへの投稿前に、 2人の女性リン・ジューリッヒとルツワナ・バシルを含むすべての参加者から承認を得て共有されました。また参加者たちは自身のInstagramでこのグループ写真を共有しました 」

    「悪気があったわけではありません、申し訳ありません」と広報担当者はつけ加えていた。

    同ブランドではプレス用写真や商品写真を通常、加工しているのかという質問には答えなかった。CucinelliのInstagramの自己紹介には、「美と人間性と真実の不変の価値は、私たちのあらゆる活動の理想であり指針です」とある。

    ベゾスがジューリッヒやバシルのように写真に加えられなかった理由を尋ねると、広報担当者はベゾスがそれを断わったと語った。

    現在、写真はGQの記事から削除されている。記事には「ブルネロ・クチネリの代理人により提供された写真はGQの編集基準と一致しないため、記事から削除されました」という説明が加えられている。

    GQ誌はBuzzFeed Newsに追加の声明を送ってきた。それには「当該の写真に
    は変更が加えられておりGQは知らされていなかった」と書かれていた。

    @RMac18 @benjymous Also kind of amazing that they thought, "two women, fifteen men. yeah, that'll check the diversity box!"

    Twitter民はそれでは決して許さなかった。

    一部の人々にとって、ディープフェイクというよりチープフェイクといえるこの写真は、多様性に関する問題はちょっとした修正で解決可能なイメージの問題にすぎないとするテック業界を非常によく表すものだ。

    「見たいと思う世界の変化をフォトショップで加工しなさい(ガンジーの言葉『見たいと思う世界の変化にあなた自身がなりなさい』のもじり)」とあるTwitterユーザーは書き込んだ。

    だが最もふさわしいコメントはこの写真の中にある。エグゼクティブたちの後ろには、レオナルド・ダ・ヴィンチの引用と思われる「IO FARÒ UN’INVENZIONE, CHE SIGNIFICHERÀ GRANDI COSE(=「私はinvention(発明、でっち上げ)をするだろう。それは非常に大きな意味を持つだろう」)」という言葉が写っている。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。