問題は掲示板? ヘイト思想を持つ人物による銃乱射事件が続くアメリカで

    「8chanを閉鎖しても、また誰かが20chanか何かを立ち上げるだけ。そこにみんなが集まる」

    米テキサス州エルパソのウォルマートで22人が死亡、20人以上が負傷した銃乱射事件で、パトリック・クルシウス容疑者(21歳)は事件直前、非白人などへの憎悪を書き連ねた声明文を、匿名掲示板サイト8chanに投稿していた。

    こうした声明文を8chanに投稿した上で凶行に及んだ例は、今年すでに3件目になる。立て続けに起きる乱射事件を受け、米国内には衝撃が広がり、8chanの閉鎖を求める声はこれまで以上に高まっている。

    だが、大きな改善は望めそうにない。

    2019年の今、8chanはもはや過激主義者がヘイトを持ち寄る逃げ場ではなく、もっと広く人種差別、急進化、テロ行為へと通じる窓口になっているからだ。8chanを閉鎖しても、おそらくこの新たな過激主義の風潮を根絶することはできない。8chanはどこにでもある。一つを閉じても、またどこかに現れる。受け入れてくれる場所さえあればいい。

    8chanは何も特別ではない。コンテンツにアルゴリズムはなく、たいしたホスティング技術もいらない。8chanユーザーを過激にしているのはただ一つ、他の8chanユーザーの存在だ。

    「8chanが閉鎖されたらどうなるかというと、誰かが新しい掲示板サイトを立ち上げる。20chanでも何でもいい。そこにみんなが集まる」

    極右系ソーシャルメディアGabの創設者、アンドリュー・トーバはBuzzFeed Newsの取材にそう答えた。GabにはTwitterを使用禁止になったユーザーが集まる。「あるいは8chan Telegramとか8chan Gabを始めるかもしれない。それか8chan Gabのサーバーを誰かがホストするとか。もしくはみんな4chanに戻る」

    この動きはすでに実際に起きている。今月初めに取材した何人かのユーザーによると、ページが消えて利用できなくなる前に、4chanの長いスレッドをディスコードサーバーへ移行する動きが出ているという。

    「8chanが広く使われるようになったのは、4chanでゲーマーゲート論争のスレッドに検閲が入ったあとです」とトーバは指摘する。「このとき、ユーザーは何の問題もなく8chanへ移ってきました。8chanが閉鎖されたら、同じことが起きないと言えるのかどうか」

    長年、一般の部外者は8chanのような掲示板について、FacebookやTwitterに似たプラットフォームなのだろうと誤って認識してきた。過激で暴力的なコンテンツは、プラットフォーム上から排除すれば拡散を防げるだろうという考えだ。

    2018年、極右系ラジオ番組ホストのアレックス・ジョーンズは主要アプリやソーシャルから軒並み追放され、ネット上から姿を消した。

    ただし、8chanの問題は複雑だ。

    デマを広めたネット上の有力者で、FacebookやTwitterを追放され、世間から姿を消す者はいない。というのは、8chanはプラットフォームではないからだ。本質が異なる。成り立ちからして一過性の性質を備えている。

    8chanは2013年、プログラマーのフレデリック・ブレナンが4chanから派生させて開設した。当時、4chanは穏当になりすぎていると思っていたブレナンは、秩序にとらわれないオープンなプラットフォームの必要性を感じたという。

    この流れは、その約10年前に4chanが登場したときと似ている。4chanは、ユーモアサイトSomething Awfulのユーザーだったクリストファー・プールが、アニメについて話せるオープンなプラットフォームが必要だと考えて立ち上げたサイトだ。

    4chan同様、8chanも気軽に使えるしくみになっている。ログインもハンドルネームもいらない。ユーザーのIDもないため、投稿は事実上、誰にも帰属しない。長くなりすぎたスレッドは削除されて消える。全体を統括する機構もなく、構造もかなり貧弱だ。

    8chanはコミュニティというよりトイレの個室に近い。他人の個人情報をさらして攻撃を加える場所、大量殺人を犯す前に憎悪に満ちた宣戦布告をする場所なのだ。

    8chanも4chanも、立ち上げた二人がいずれも現在はサイトから距離をおいている点は指摘しておくべきだろう。8chanの創設者ブレナンは、8chanは閉鎖すべきだと明確に主張する。

    ブレナンはBuzzFeed Newsの取材に対し、8chanを閉鎖しても、今はびこっている過激主義を完全に止めることはできないが、過激主義を組織化するのは難しくなるはずだと答えている。

    「これは明らかに構造的、社会的な問題ですが、応急措置として多少の効果はあるかもしれません。加えて攻撃用銃器の規制法が通れば、この手の銃撃事件は2、3年に1件くらいになって、犠牲者の数も減るかもしれません。規制法ができなければ、毎年起きるでしょう。それでも24時間で2件にはならないはずです」

    現在の8chanを運営するのは、N.T. Technologyという企業を所有するジム・ワトキンスだ。

    同社は8chanのほか、4chanの原型といわれる日本の「2ちゃんねる」等を運営してきた。8chanほど問題の多いサイトは通常、社会からの批判を受け、ここまでくる前に閉鎖される場合が多いが、コンテンツ配信ネットワークのCloudFlareがセキュリティサービス等を提供してきたため、サイト運営が続けられてきた。CloudFlareに対しては近年、8chanへのサポート提供を非難する声が高まっていた。

    事件翌日の8月4日夜、CloudFlareは8chanへのサービス提供を停止すると発表した。同社CEOのマシュー・プリンスは公式ブログで、8chanは(同社のサービスから切り離されて)CloudFlareの問題ではなくなったとしながらも、問題が解決されたわけではないと指摘する。

    「うちがサービス提供を打ち切っても、向こうは手段を見つけてまた戻ってきます」

    「ちょうど2年前、私たちは同じように悪質なサイトDaily Stormerに対し、サポート停止を決めました。(中略)(代わりにサービス提供に応じた)他社は、法的手続きには影響されない点を主張していました。Daily Stormerは今も存在し、今も悪質です。利用者の数はかつてなく増えているとうたっています」

    CloudFlareは2017年8月、ネオナチサイトDaily Stormerに対するサービス停止を決めた。プリンスCEOはのちに、今後、同様の措置はとらない意向だと述べている。

    CloudFlareの法律顧問ダグ・クレーマーは、8chanへのサービス停止を発表する数時間前、BuzzFeed Newsに対し、8chanのサービス停止を求める声が上がるのは理解できるとしながら、現実に実施に踏み切った場合、危険をはらむ前例を作ることにもなると懸念を示していた。

    「今回のような状況でかゆいところをかくような対応をとるのは、非常に大きな問題をはらんでいます。私たちがサービス提供の打ち切りを決めても、向こうは手段を見つけてまた戻ってきますから」

    CloudFlareによるサービス停止以降の動きをざっとまとめておこう。

    8chanはしばらく閲覧できなくなった後、Daily Stormer にセキュリティサービスを提供しているBitMitigateに乗り換えた。BitMitigateを運営するEpikは、先述の極右系ソーシャルメディアGabも、昨年10月にピッツバーグで起きたユダヤ教礼拝所銃撃事件後、ホストとして使用している。

    8chanがBitMitigateへ移行後、Epikにサーバー等を提供していたインターネットインフラ企業Voxilityは、Epikへのサービス打ち切りを決めた。それを受け、行き場を失った8chanユーザーが大量に流れてきたとして、4chanユーザーから不満が出ている。

    ユダヤ人団体、名誉毀損防止連盟(ADL)の過激主義センター(Center on Extremism)は、2017年末以降に米国内で起きたテロ攻撃は、すべて極右過激主義者によるものだと報告している。1ケ月に数百万人が訪れるサイトを一つ閉鎖しても、それをすべて解決することにはならないだろう。

    過激主義者をプラットフォームから締め出せば、一定の効果はある。ISIS(イラク・シリア・イスラム国)は現在、ソーシャルメディアからはほぼ追放されているといっていい。だがそれも徐々に難しくなっている。こうした動きが続いた結果、隔離された空間が生まれ、分散したアプリ等がそこへ集まっているのだ。

    現在、過激化する動きの温床になっているのは、メッセージアプリのTelegramだ。

    極右ストリートギャング集団Proud Boysが多用しているほか、ローラ・ルーマーをはじめ、他のプラットフォームを追放された極右活動家がTelegramにチャンネルを持ち、数千人単位のフォロワーを集めている。

    オルタナ右翼の中心人物マイロ・ヤノプルスは主要ソーシャルメディアをいずれも使用停止処分になっているが、Telegramの個人チャンネルには1万8000人の登録者がつく。

    今後、そうしたチャンネルが勢力を拡大し、過激化して、8chanから現れたような凶行を現実世界に引き起こしたりすることも、十分にあり得る。

    8chanはどこにでもある。干渉されない空間があり、憎悪に満ちた暴力的な思想を抱く同志さえいればいい。ISISに賛同するシンパが今どこにいるのかといえば、Telegramなのだ。

    乱射事件翌日の夜、8chanでは「8chが閉鎖されたらどこに行く?」と題したスレッドがにぎわった。投稿者は次のように書く。「率直に言って、この感じだともう時間の問題だと思う。何かいい案は?ここが閉鎖になったらどこへ行く?フォーラムでも、画像掲示板でもサイトでも、何かいいのがあれば」

    スレッドには8chanが葬られた後の行き先として、同様のサイトが次々に挙げられている。

    同スレッドにはこんな書き込みがあった。

    「8chanはこれまでも評判が悪かったけど、自分たちは今、無差別銃撃犯と結び付けられている。これからどこへ行けばいい?正直わからない。代わりのチャンネルはいくつかあるけど、みんなでまとめてどれかに移行しても、また同じことになるのは時間の問題だろう」


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan