クライストチャーチのような悲惨な乱射事件が今後も起きる理由

    ニュージーランドのクライストチャーチで3月15日に発生したような大量殺戮は、今後も引き続き起きるだろう。

    2019年3月15日、オーストラリア人の男(28)がフェイスブックで、ニュージーランドのクライストチャーチにあるモスクに向かう様子をライブ配信した。男はそのモスクで銃を乱射し、50人を殺害。数十人にケガを負わせたとされている。

    車の後部トランクに銃を積み込みながら、男はカメラに向かってこう言った。「みんな、ピューディパイ(PewDiePie)をフォローするのを忘れないでくれ」

    ピューディパイは、スウェーデン人の悪名高いユーチューバーで、人種差別主義的かつ反ユダヤ主義的なジョークやコメントに同調しているのではないかと何度も言われてきた人物だ。今回の銃乱射事件の容疑者は、ピューディパイ以外にも、人物や事件に言及している。それらはみな、自身の残忍な犯行を拡散させるためだったようだ。

    容疑者は、銃乱射事件直前にネットに投稿した74ページにおよぶマニフェストで、アメリカの極右系インフルエンサー、キャンディス・オーウェンズに触れている。それと同じようにピューディパイを引き合いに出したことで、ツイッター上ですぐさま議論となったのが、銃撃犯はメディアを挑発していたのではないかという点だ。そうすれば、あとで必ず報道されるだろうからだ。

    殺人者の目的が何であれ、不満を抱いたこの男が、オンライン上で「発言」し、「書き込み」、「行動」したとされることについて、私たちは真剣に受け止めなくてはならない。その理由は、50人が殺害されたからだけではない。確立されたデジタルフィードバックループを男が利用したからだ。

    こうしたフィードバックループでは、白人男性の暴力がアップロードされ、広められ、受け入れられ、加工修正されている。ミームと言えば、画像や、愉快な写真におもしろい言葉が添えられたものだと思われがちだ。しかしミームとは、根本的には拡散していく概念のことだ。クライストチャーチで銃を乱射した銃撃犯は、自らの存在を拡散させようとしていただけではなかった。過激な自己認識の持ち主であるこの男は、白人男性の暴力であふれ返るデジタルフィードバックループを利用して自分のアイデアと行動を広め、増幅させようとしていたのだ。

    男はライブ配信でまず、自慢げに銃を見せびらかしていた。

    どの銃にも文字が書かれており、そのひとつには「For Rotherham Alexandre Bissonette [sic] Luca Traini」とあった。「ロザラム(Rotherham)」はイギリスの地名で、おもにイスラム教徒の男性たちが長年にわたって子どもに性的虐待を働いていた事件の舞台だ。

    「アレクサンドル・ビソネット(Alexandre Bissonette)」は、2017年にカナダのケベック市にあるモスクで6人を殺害、19人以上を負傷させた男の名前だ。

    そして「ルカ・トライーニ(Luca Traini)」は、2018年にイタリアのマチェラータで銃を乱射し、アフリカ系移民6人を殺害した男だ。

    銃撃犯は、ピューディパイに並んでこれらの事件に触れたことで、極右の白人至上主義と暴力という、より大きな世界と自分を結びつけている。

    殺人犯はむかしから、自分の名前を広めようとするのが常だった。

    切り裂きジャックはロンドンの新聞に手紙を送った。

    ゾディアック事件(1960年後半から70年代にかけて5人を殺害した連続殺人事件)の殺人犯は、警察を翻弄するために『サンフランシスコ・クロニクル』紙を利用した。連続爆弾事件を起こしたユナボマーことセオドア・カジンスキーも、自分の主張を公開した。

    今回がこれまでと違うのは、世界的に広がる無検閲のデジタルフィードバックループが、すべてを一瞬で増幅させてしまう点だ。

    3月15日に大虐殺が始まる前、銃撃に使う武器の写真がツイッターに投稿され、「The Great Replacement(偉大なる交代)」と題された74ページものマニフェストがネット上で公開された。

    画像掲示板「8chan」の匿名メッセージボードには、襲撃を告知する投稿もあったようだ。そこには「さあ、クソみたいな書き込みを止めるときが来た。実際に行動を起こすための書き込みをするときだ」と書かれている。「襲撃で俺が生き残らなかった場合に備えて言っておく。さらばだ。神の祝福があるように。ヴァルハラ(戦死者の館)で会おう!」

    NBCニュース記者のベン・コリンズはこう指摘する。「銃撃犯が、ライブ配信とマニフェストのリンクを投稿すると、8chanのユーザーはそれに対して声援を送り、直後に男は襲撃を告知した」

    男の銃が、銀色のペンによってさまざまなかつての事件について埋め尽くされていたように、彼のマニフェストもまた、インターネットのあらゆる暗部から引っ張り出してきた白人至上主義者の記号や象徴が散乱する、意味不明でまとまりのない自我だった。まるで、ウィキペディアのリンクだらけで混乱したブログ記事のようだ。民族差別主義的で意味をなさない詩のような部分もあった。冒頭はFAQ(よくある質問)になっていて、ジョークもあった。

    質問のひとつは「あなたは、ビデオゲームや音楽、文学、映画から暴力や過激思想を学んだのですか?」となっている。それに対してマニフェストの著者はこう答えている。「イエス。ゲームの『スパイロ・ザ・ドラゴン3』ではエスノナショナリズム(国と民族を同一視する民族主義運動)を学び、『フォートナイト』では、殺人者となって敵の死体の上でフロスダンスを踊る訓練を受けた。嘘だよ!」

    皮肉なまでに自分のことを認識しており、まさにこうした文面で使われることを意図したコメントのようだ。ほかにもある。「あなたはファシストですか/ファシストでしたか?」という質問では、男はこう答えている。「イエス。一度でもファシストと呼ばれれば、実際にファシストだ。ジャーナリストはきっと大喜びするだろう」

    誤字脱字だらけでむやみに長いこのマニフェストを額面通りに受け取るとすれば、クライストチャーチの銃撃犯は、白人至上主義者が抱く「ホワイト・ジェノサイド(白人に対する大量虐殺)」というコンセプトに着想を得ている。ホワイト・ジェノサイドとは、オンラインでよく見受けられる極右の陰謀論で、くだらない進化論的科学と、迫りくる民族戦争、そして、白人であるアーリア民族の衰退を結びつける思想だ。

    銃撃犯の容疑者は、自分たちを封じ込めようとする勢力に抵抗するパルチザンを名乗っている。マニフェストでは、ヨーロッパ各地の移民と出生率を引き合いに出し、ヨーロッパで発生した最近のテロ攻撃に関する記事にリンクしている。

    しかし、「マニフェストの著者であるこの男は、オンラインで過激化した」と述べることは、氷山の一角が水面から直接顔をのぞかせたと言うことと同じだ。同様に、クライストチャーチの乱射事件でインターネットが果たした役割を無視することは、氷を作るのに水は必要ないと言うようなものだ。すべてはつながっている。

    こうしたフィードバックループを破壊しない限り、私たちはこのトラップにとらわれ続け、こうした事態は今後も起こるだろう。

    多くの著書を持つ哲学者のティモシー・モートンは、巨大すぎて全体像を把握できない概念を言い表すために、「ハイパーオブジェクト(hyperobject)」という言葉を新たに作り出した。こうした概念の典型が地球温暖化だ。

    イギリスのドキュメンタリー映画作家アダム・カーティスは、自身の映画『ハイパー・ノーマライゼーション(Hypernormalization)』で、このハイパーオブジェクトという言葉を用いて、現代社会をコントロールする金融・政治の自動メカニズムを描き出している。

    クライストチャーチの大虐殺を引き起こした憎悪もやはり「ハイパーオブジェクト」だ。私たちには、その端っこ、片鱗は見える。しかし、あまりにも増殖したうえに、私たちの文化に深く埋め込まれてしまったため、全体像を知るのは不可能だ。

    • アメリカのバージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者の集会が開かれ、抗議者の1人が殺害された事件
    • ゲーマーゲート論争(コンピュータゲーム文化における性差別に端を発した論争)
    • フランスで起きたユダヤ人墓地襲撃
    • 女性スーパーヒーロー映画に対するインターネット上での組織的な反対運動
    • 丸腰の黒人を白人警官が射殺する動画

    私たちは、こうした出来事をそれぞれ個別のものとして考えており、より大きく有害な全体像の一部として論じることがなかなかできずにいる。

    ユーチューブとツイッターは、クライストチャーチで発生したテロ事件の動画を必死に削除しようとするだろう。フェイスブックは、銃撃犯のマニフェストを何度も何度も取り除くことになるだろう。削除しても繰り返しアップロードされるからだ。ここ数十年を特徴づける白人男性の暴力は、オンライン上でくすぶり、増殖し続ける。見えるところで、見えないところで、いたるところで。

    クライストチャーチのマニフェストを考えてみよう。

    深く読み込んでみると、きわめて平凡で、かつ怒りに満ちた労働者階級の白人オーストラリア人男性、インターネットの世界で長時間を過ごす20代後半の男の姿が浮かび上がってくる。

    男は、1930年代のイギリスで活動したファシスト、オズワルド・モズレーの著作にかなり執着していた。出生率と、イスラム教徒男性の白人女性に対する性的暴行事件にこだわっていた。その政治的見解の大半はどうやら、ハイパーパルチザン(極端に偏った考えを持つ人々)がフェイスブックに投稿するニュースを継ぎはぎしたものだ。それもすべて、フィードバックループの一部である。

    男は、オンラインで目にするあらゆるものにしっぽを振る犬なのだ。

    クライストチャーチの銃乱射事件の容疑者は、自身が強く影響を受けた人物として、2011年に連続テロ事件を起こしたノルウェーの極右テロリスト、アンネシュ・ブレイビクを挙げている。

    しかし、テロ攻撃をオンラインで公表するという狂った振る舞いは、2014年にカリフォルニア州で銃乱射事件を起こしたエリオット・ロジャーや、2015年にサウスカロライナ州の教会で銃を乱射したディラン・ルーフという2人の大量殺人犯のそれとほぼ一致する。

    クライストチャーチの銃撃犯は、目にした情報をモデルにして、自分なりに手を加え、実行に移したのだ。ソーシャルメディアに痕跡を残し、自らを撮影し、自分を売り込む材料の何もかもを8chanに投稿した。男は、自分がどんなゲームに興じているか理解していた。フィードバックループの仕組みを知っていた。そのなかで生きていた。

    そしていま、4chanや8chan、ゲーマー向けチャットアプリ「ディスコード(Discord)」、極右SNS「Gab」に生息し、すでに過激化している人間たちは、メディアがまとめた銃撃犯に関するあらゆる情報を集め出すだろう。男を祀ったデジタルの聖地を作り上げ、ミームへと変える。男の発言をコピペしていくだろう。

    ネットで有害な情報をまき散らすインフルエンサーたちは、それに気づいて、ほのめかすようになっていくだろう。ライブ配信サービス「ツイッチ(Twitch)」のストリーマーやユーチューバーはじきに、今回のテロ攻撃についてジョークを飛ばすかもしれない。それが「クールなもの」になる。

    今回の乱射事件はクライシス・アクター(政府の監視を正当化するために「操作された偽りの陰謀」がつくられているという陰謀論で登場する役者のこと)が自作自演したという噂が流れ、ピンボケの写真に赤丸を入れて閲覧者を増やそうとする写真が出回るようになる。事件の生存者は、奇妙な電話を受けたり、自宅前に停車する見知らぬ車を見かけたりするようになる。そして、私たちの大半は事件を忘れて先へと進んでいく。

    しかし、先へと進まない人間はきっといる。新たな悲劇はまた起きる。人の命はさらに奪われる。そして、私たちはまた同じことを繰り返していくのだ。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:遠藤康子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan