銃による暴力のリスクを研究する専門家たちによれば、現実は、右と左に分けることができるほど単純ではないという。
確かに、統合失調症や双極性障害、重度のうつ病など、深刻な精神疾患を持つ人は、普通の人より平均2~3倍、暴力的になる可能性が高い。ただし、しばしば精神疾患と関連づけられる薬物乱用などの問題が、どれくらい影響しているかは不明だ。しかも、精神疾患に起因する暴力犯罪は、米国で起きている暴力犯罪のわずか4%程度と考えられている。
つまり、米国が抱える銃による暴力の問題解決を、精神医療の改善に期待しても無駄ということだ。ミシガン大学でメンタルヘルス・サービスの研究を行うマーシャ・バレンスタインはBuzzFeed Newsに対し、「その期待は、かなえられるものではありません」と述べる。
さらに、銃乱射事件が起きるたびに精神疾患に注目すれば、社会で最も弱い人々に対する一般の人々の態度が硬化してしまう。
ノースカロライナ州リサーチ・トライアングルパークにあるRTIインターナショナルでメンタルヘルスサービスの研究を行うリチャード・ファン・ドーンはBuzzFeed Newsに対し、「人々に対して、この人物は精神が錯乱しているとか、目つきがおかしいと報告させようとすることは、偏見を生むだけです」と述べる。
メンタルヘルスを正常な状態に戻すことで、銃乱射事件を阻止しようという取り組みについても、答えは容易に見つからない、というのが現状だ。
暴力行為を犯す人物の予測は不可能
銃乱射事件の犯人の多くに精神疾患の病歴がある、という事実を無視するのは難しい。問題は、このような稀な危険人物と、現実の脅威をもたらすことのない、はるかに数の多い一般の精神障害者を区別することだ。
2月14日に、フロリダ州パークランドにあるマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で生徒と職員17人を射殺したとされるニコラス・クルーズ(19歳)の過去が明らかになっているが、退学処分や自宅での破壊的行動など、前兆はいくつもあったようだ。
しかし、振り返ってみると明白な前兆であっても、事前に特定するのは難しい。メンタルヘルスの専門家に必要なのは、残虐な行為を犯す前に予測できるシンプルで信頼性の高いスクリーニングツールだ。
しかし今のところ、そのようなスクリーニングツールは存在しない。クルーズの経歴に関するニュースが報じられるなか、RTIインターナショナルのファン・ドーンと、その妻で、ノースカロライナ州立大学の司法心理学者であるサラ・デスマレーは、「暴力リスク評価ガイド(VRAG)」というチェックリストを引き合いに出した。学校での懲罰の記録や暴力犯罪歴など、個人の経歴に関する質問が並んでおり、本人と面接する必要はない。
ファン・ドーンとデスマレーは、クルーズのVRAGスコアを計算し、今後7年間に暴力犯罪で有罪判決を受ける可能性は17%という数字を導き出した。
ただし、「あまり信頼できる数字ではありません」とファン・ドーンはBuzzFeed Newsに語った。
英オックスフォード大学の司法精神学者シーナ・ファゼルによれば、VRAGのようなスクリーニングツールはそもそも、すでに暴力犯罪で有罪判決を受けた人を評価するために開発されたものだという。主な目的は、収監中に厳重な監視が不要で、早期釈放の候補になりそうな者を特定することだ。
「こうしたツールが得意とするのは、暴力的にならない人を判別することです」とファゼルはBuzzFeed Newsに語った。暴力行為を犯すリスクが高い、ごく少数の人物を特定するのはあまり得意ではないのだ。
精神障害者の主な脅威は自殺
精神疾患を持つ人がもたらす最大の脅威は、自分自身に対するものだ。米国では、銃による他殺より、銃による自殺の方が約2倍多い。つまり、自殺願望のある人々から銃を遠ざけておけば、多くの命が救われるということだ(米国では、自殺を図った人のうち、実際に命を落とす人は9%以下だ。しかし銃を使用した場合、この割合は80%超まで跳ね上がる)
全米における銃による自殺の犠牲者と、銃による他殺の犠牲者は、年間2万人を超える。この数を減らすため、カリフォルニア、コネティカット、インディアナなどの州では、自分や他人に危害を与えるリスクがある人から一時的に銃を取り上げるという、銃による暴力の禁止命令を出すことができる。1999年にこの法律を制定したコネティカット州の調査では、禁止命令が可能になってから、銃の差し押さえ10~20件ごとに約1件の自殺を阻止できているという結果が示されている。
ミシガン大学のバレンスタインは、「精神障害がある人に銃を持たせないようにすれば、おそらくもっと自殺は減るはずです」と話す。
退役軍人は、自主的な銃規制の手本
最新のアイデアは、最もリスクの高い人々について、治療を受けている間だけ、銃を自主的に引き渡してもらうというものだ。
バレンスタインが現在行っている研究によれば、精神疾患の治療を必要とする退役軍人のほとんどが、銃を喜んで引き渡すと話しているという。精神疾患を持つ退役軍人は、銃の所有率と自殺の可能性がどちらも高い。
コロラド州オーロラにあるコロラド公衆衛生スクールのキャロル・ランヤン率いるチームは最近、米国西部の銃販売者を対象に調査を実施した。それによれば、一部の販売者はすでに、こうした状況にある人々の銃を保管し始めているという。さらに、銃を返却した後に何かがあっても法的責任を問われないのであれば、喜んで銃を預かるという販売者も数多くいた。
「自主性に任せる余地はまだあると思います」とバレンスタインは述べている。
この記事は英語から翻訳されました。翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan