ハネムーン中に死亡した同性婚の男性を、オーストラリアは「独身」と記録した

    残されたマルコさん、パートナーとみなされず苦痛訴える


    マルコ・ブルマー=リッジさん(Marco Bulmer-Rizzi、38歳)とデイビッド・ブルマー=リッジさん(David Bulmer-Rizzi、32歳)は、1月中旬、南オーストラリア州・アデレードでハネムーン中だった。しかしデイビッドさんは滞在先の友人の家で階段から転げ落ち、頭蓋骨骨折により急死した。二人はイギリス国籍だが、南オーストラリア州では同性婚が認められていないため、マルコさんは、デイビッドさんの死亡証明書の配偶者欄に「独身」の文字が記載されていると聞かされた。

    マルコさんは親族としても認められなかったために、デイビッドさんの死をめぐる、あらゆることの決定に義父のナイジェル・ブルマーさん(Nigel Bulmer、60歳)の承認が必要になった。ナイジェルさんもBuzzFeed Newsにこう述べた。「屈辱的です。息子の思い出を踏みにじり、二人の関係を否定するものです。二級市民と見なされた感じがします。私たちがしたような経験は、決して他の誰もすることがあってはならないと思います」。

    デイビッドさんの死を悼みながらも、今回の出来事をはっきり話そうと決心したマルコさんはイギリス政府に調停を求めた。オーストラリア政府の「自分は存在していないも同然」のような判断基準に納得がいかなかったからだ。

    5年間の交際の後、結婚。ハネムーンで起こった悲劇

    マルコさんとデイビッドさんは5年間の同棲の後、2015年6月、ロンドン南部で立会人だけの結婚式を挙げた。その後ギリシャのサントリーニ島で親族、友人の前で披露宴を執り行った。昨年12月下旬、ハネムーンでオーストラリアに到着後、二人は1月中旬、最終目的地のアデレードに到着した。

    「私がベッドに入った後、デイビッドもすぐ来るはずでした。彼はちょうどKindleで読書していました。45分後、すさまじい音を聞いて目を覚ました。明かりを付けると彼は、階段の下の血だまりの中で、デイビッドは横たわっていました」と、マルコさんは語った。マルコさんには何が起きたかはっきりとは分からなかった。デイビッドさんがその家に慣れていなかったことと、暗かったことを除いては。救急車が到着した。

    「現場では4人の救急医療隊員が約1時間に渡って彼の手当てをしてくれました。彼はそれ以上負傷しないように、人工的な昏睡状態に置かれました。搬送された病院では、危篤状態なので、もしオーストラリアに呼び寄せたい家族がいるなら電話をした方が良いと告げられました」

    マルコさんがデイビッドの両親に連絡すると、両親はすぐに飛行機で飛んできた。

    しかし、精密検査の結果、内部の損傷具合が明らかになった。頭蓋骨の骨折と脳の激しい腫れがあったのだ。脳への圧力を和らげるための手術も無駄なことが判明した。マルコさんは集中治療室でデイビッドさんと対面したが、彼は意識不明のまま横たわっていた。

    「『余命は24時間です』と告げられました。なすすべはありませんでした」。2、3カ月前、デイビッドさんは珍しい腎臓病と診断され、 腎臓が1つしかないことが分かったところだった。いずれ透析と移植が必要になると、マルコさんはその時、医師に聞かされていた。

    「このことが私の心に重くのしかかっていました。それで、私は医者に彼が亡くなったら臓器を全て提供したいと申し出ました」。15日にマルコさんは、デイビッドさんの脳死を知らされた。警察が調書を取りに来た。急死した場合のお決まりだ。臓器の移植手続きが進められ、心臓、肝臓、膵臓は3人の別々の人に提供された。そしてその翌日の16日デイビッドさんは亡くなった。

    選択肢にないから「独身」

    「葬儀屋が来た時でした。オーストラリアでは同性婚が認められていないので死亡証明書には『独身』と書かれている、と聞かされたのは」とマルコは語った。「私はその時、配偶者の有無について無回答ではいけないのかどうか尋ねましたが、『ダメです、コンピュータ入力の選択肢に無回答はありません』と言われました」。

    「私は拒否できませんでした。できることは何一つ出来ることはありませんでした。『既婚』にもしてくれませんし、空白のままにもさせてくれませんでした。ただ『独身』にしかしてくれませんでした」。

    マルコはまた、英国領事館に抗議のための連絡もした。彼は、その返事をBuzzFeed Newsに聞かせてくれた。「オーストラリアは州によって法律は異なり、南オーストラリア州、西オーストラリア州、北部準州では、海外からの同性婚は認められていません。従って、死亡届を出す際、地方自治体は故人を既婚とすることは出来ないのです。申し訳ありませんが、これが実情です」。

    義父の口添えにも関わらず、親族とみなされなかった

    葬儀屋は葬式の準備のため必要な書式を埋め始めた。

    「私は、完全に無視されました」と、マルコは語った。「私は、親族ではありませんでした。ありとあらゆる質問をされました。デイビッドを火葬にしたいかどうかから、デイビッドの身体を清めるサービスを利用するかどうかや、棺の費用まで。私が答えた後で、 葬儀屋はデイビッドのお父さんにも相談していました。彼もこうはっきりと尋ねられていました。『署名の前にチェックしますか?』あからさまな差別でした。もし私が義理の両親とうまく行ってなかったら、私の権利は存在したかどうかさえ、わかりません」。

    「デイビッドのお父さんが彼らに最初に言ったのは、『マルコはデイビッドのパートナーです。決定権は、彼にある』でした。お父さんは自分に相談するなと言いましたが、彼らは止めませんでした」。

    イギリス政府にパートナーであることを示す文書の発行を求める

    マルコさんは、イギリスのキャメロン首相と外務省、3人の下院議員に手紙で助けを求めた。

    「オーストラリアの法律を変えられないのは分かっています。変えてくれと頼んでいるのではなくて、我が国が自国の法律を守るようにお願いしているのです。もしイギリス政府が他国が同性婚を否定していることを認識しているなら、その法律に抗弁すべきです」と彼は述べた。

    事態をややこしくしたのは、デイビッドさんが亡くなった場所だ。 マルコさんの説明によると、海外で死亡した場合、外務省の手引きでは「通常、海外で死亡した場合、イギリス領事館に死亡届けを提出し、イギリス形式の死亡証明書を受け取れる。ただし、オーストラリアは明確に除外する」とある。もし、たった200マイル東のニューサウスウェールズ州で死んでいたとしたら、同州は海外からの同性婚を認めているので、マルコさんが今回のような苦境に立たされることもなかっただろう。

    「イギリス政府は、イギリスの法律で私はデイビッドのパートナーであることを示す文書を発行すべきです」

    臓器提供をできたことが唯一の慰め

    マルコさんの唯一の慰めは、臓器提供ができたことだ。

    「今朝、臓器移植コーディネーターの来訪を受け、デイビッドの臓器が2人の子供を持つ40歳の男性と、臓器移植リストで1250日も待ったもう一人の元へ届けられたことを知りました」。

    彼はこう付け加えた。「デイビッドの命がこの贈り物を3人と、それを喜ぶ3つの家族の元へ届けたのです。2人の子供には、明日起きてデイビッドが同性愛者かどうかなんて考えないでしょう。お父さんはチャンスを得て、また子供の成長を見守ることができるのを知るでしょう」

    マルコさんは、デイビッドは火葬の予定なので、最終的に帰国する時、遺骨を一緒に持って帰ることになるかも知れないと付け加えた。


    その後、南オーストラリア州首相がマルコさんに謝罪

    その後、この一件の報道を受け、多くの人がマルコさんを支援するメッセージを送った。南オーストラリア州のジェイ・ウェザーリル首相は、マルコさんに謝罪の電話をした。ウェザーリル首相はマルコさんに、同性婚が認められるよう、法律を改正するために動いていることと、改正された暁には、死亡証明書を再発行することを約束したと、BuzzFeed Newsに語った