#MeTooはインドを変えるか

インドの映画界・ボリウッドの#MeTooムーブメントをリードする女性たちは、誰もが知る著名人ではない。

    #MeTooはインドを変えるか

    インドの映画界・ボリウッドの#MeTooムーブメントをリードする女性たちは、誰もが知る著名人ではない。

    ニューデリー発──2003年、15歳の時にイランを離れたマニジェ・カリミは、それまでボリウッドについて聞いたことがなかった。彼女がインドのスターや映画監督、そしてその忠誠心の強いファンについて知ったのは、レバノンの航空会社・中東航空の客室乗務員となり、モデルとして活動を始め、香港へ移り住んでからのことだ。

    同じ頃、彼女は、インド人に出会うたびに、ある褒め言葉をかけられるようになっていた。君はヒンディー語映画に出るべきだ。ボリウッドにぴったりだ、というのだ。

    その褒め言葉は、ほとんどの場合、彼女のルックスに向けられたものだった。スリムな体に、長く伸ばした黒髪と、明るい色の肌(ムンバイのとあるインタビュアーが、取材後に「最高に真っ白な大理石」と評した肌だ)。カリミは、南アジアの映画制作者や広告主たちが求める美しさの、まさに典型だった。

    しかし、インド映画業界の外国人に対する強いこだわりは、肌の色のみにとどまらない。ヒンディー語映画の主流は、豊かな人たちの暮らしを描く方向へと変わってきたが、それと同時に、登場する女優の役柄は際どいものがますます増えてきている。外国人女優が好まれるのは、明るい色の肌が、男性が憧れるある種のファンタジーを表しているからだ(これは、歌や踊りをフィーチャーした作品や、いわゆる「セックスコメディ」に顕著な傾向だ)。

    肌の色は、明るければ明るいほど良いとされている。ビーチやプールサイドの場面は「ビキニシーン」と呼ばれ、映画の成功に欠かせない要素となっている。さらにそうしたシーンは、あとで盛んにGoogleで検索され、携帯電話の壁紙に使われる。「進んでビキニになってくれるのは誰か」という事情で、どの女優を起用するかが決まることも多い。

    カリミは、いよいよボリウッドに足を踏み入れることになった2013年、マニジェという名前を、ヒンディー語らしい響きの「マンダナ」に変えた。初めて撮影したシーンのひとつは、緑色のビキニを着てプールから登場する場面だった。

    彼女がBuzzFeed Newsに語ったところによると、ヒンディー語をあまり話せない点について、オーディションで問題視されたことはなかったという。ほとんどの出演作で、わずかな台詞しか与えられていなかったからだ。主演男優が恋する相手は常に、「片言のヒンディー語を話す外国人」という設定だったのだ。

    カリミは2018年、このアウトサイダーとしての立場から、ボリウッドのハラスメントと虐待の文化を覆すための大々的なムーブメントに参加することになった。ハリウッドでは、ローズ・マッゴーワン、アシュレイ・ジャッド、グウィネス・パルトロウ、サルマ・ハエック、ルピタ・ニョンゴといったビッグネームたちが、ハーヴェイ・ワインスタインを失脚させる推進力となり、セックスと権力についての議論を世界中で著しく変化させるきっかけを作った。一方、ボリウッドでは、そういった大変な仕事を、ほぼ無名の女性たちが担っている。しかも彼女たちが戦っている相手は、富や権力、人脈を利用して、思うがままにふるまっていた1人の男性ではなく、映画業界全体だ。

    これは簡単なことではない。インドでは世界でもっとも多くの映画が制作されており、その業界規模は22億8000万ドル以上にものぼる。2017年、インドでは9つの地域で、異なる16の言語を使い、1,986の映画が制作された。同年、映画業界で雇用された人の数は24万8600人だった。そのうち何人が女性だったのかというデータは公開されていないが、ボリウッドは非常に深刻な男女差別問題を抱えている。

    スクリーン上では、女性に与えられる役は男性よりも少なく歌う曲の数もより少ない。また、女性の出演料は、男性共演者よりも低くなっている。

    どの業界でも同じだが、ボリウッドでも女性が経済力を奪われており、だからこそ虐待の対象になりやすくなっている。業界内の序列が低いほど、女優やバックダンサーといった女性たちは簡単にすげ替えられてしまう。それも、キャリアが浅いうちに「トラブルメイカー」という評判を立てられればなおさらだ。

    ボリウッドでも男性の場合は、状況がまったく違ってくる。そこには「問題児」をかばうという長い歴史があり、それほど収益に貢献していないような男性でも守ってもらえるからだ。

    ボリウッドの#MeTooムーブメントは、2018年9月、元女優のタヌシュリー・ダッターが、あるベテラン男優に虐待を受けたと声をあげたのがきっかけで始まった。ダッターが告発した事件は10年前に起こったものだが、ワインスタインの件が発覚してようやく、映画業界でいかに権力が──それもスクリーン上に見られるような血まみれの暴力ではなく、性的、経済的、社会的に何かを強制する、より巧妙な行為が──濫用されているのかが、インドで認識され始めたのだ。

    以降、インドの映画業界では、男優や映画監督、メイクアップアーティスト、ミュージシャン、脚本家など10名以上の男性が、体を触るといったものから強姦まで、さまざまな性犯罪について、女性たちから告発されている。そのうち3人は告発者を名誉毀損で訴え、3人は謝罪し、3人は事件を否認している。ある人物などは、「太って醜い女の子」たちだけが、#MeTooムーブメントを利用して自分たちが虐待されたと言っている、と発言した。

    しかし、ハリウッドの#MeTooムーブメントが、訴訟費用を集めて基金を作り、企業におけるハラスメントポリシーの変更を提唱して、具体的な変化を起こそうとする活動「Time’s Up」の立ち上げにつながったのとは異なり、ボリウッドでは、古いやり方を断ち切ることに対する抵抗がまだ大きい。

    大物の男優やプロデューサー、業界関係者などは、嵐が通り過ぎるのをひたすら待っている状態だ。そこには、ボリウッドでの権力濫用が明らかになったのは、今回が初めてではないという背景もある。これは、何年も前から公然の秘密だったのだ。スクリーン上の神々は、スクリーンの外で罪を犯しても、そのたびに許されてきた。勝つのは常に業界側だったのだ。

    公然の秘密であることの何が問題かと言えば、暴露しても驚きにはつながらない、ということだ。公然の秘密がひとつ暴露されたからといって、それは何度も繰り返されてきた話なので、もはや何の反応も引き起こさない。

    例えば、ボリウッドの「枕営業」、つまり、役を与えることや、大スターとの共演を約束して、女性を性的に搾取する行為ひとつとってもそうだ。

    2005年、強姦する男の役を何度も演じてキャリアを築いてきた俳優のシャクティ・カプールが、ニュースチャンネル「India TV」のおとり捜査撮影の対象となった。その時の映像では、当時52歳だったカプールが、若い女性記者に対して、自分が彼女をスターにしてやる、そして業界の悪い人間から守ってやる、と言っている。ただし、それは彼女がカプールと寝れば、という話だ。

    「これがこの世界のやり方だ」カプールはそう告げる。「それが嫌なら、この話はナシだ。俺は今すぐお前を抱きたい」

    この告発は確かなものとして受け止められたが、長期的には大した問題にならなかった。カプールは、まる一週間ブラックリスト入りし、彼の自宅の外には各政党が抗議に集まった。しかしその後は、アメリカのコメディアン、ルイC.K.など、性的行為を強制したとして告発された何十人もの男性たちのケースと同じく、ボリウッドは事件を忘れ去ってしまった。

    カプールは映画のスクリーンに復帰した。性的搾取の申し立ては、カプールを破滅させるどころか、悪役としての彼のスクリーン上のキャリアを復活させたのだった。

    同じ年にはBBCが、ボリウッドの枕営業といういかがわしい世界についてのドキュメンタリーを撮影した。当時の性的な慣行についてあますところなく伝えようとした作品だ。このドキュメンタリーに登場する、憧れの役を手に入れようとする若い女性たちは、性的に搾取されることについて、それが不快な傷を残すものであるとは言わず、必要な妥協だと語る。仕事上の頼みを聞いてもらうためにセックスを差し出すという、公正な取引だというのだ。

    ドキュメンタリーにはカプールも登場するが、そこでの彼の発言は、今になって聞くと、より象徴的だ。「ここでは、誰かが誰かをレイプするなんてことは起こらない」彼はBBCにそう語る。「女の子たちは、嫌なら断わって、元いたところに戻ればいいんだから」

    カリミには、イランに戻るという選択肢はなかった。インドでのキャリアをスタートさせた頃は、何度も繰り返されるビキニシーンに戸惑いを感じていたが、要求に応じることを覚えた。それは単に、自分が、別の若くて明るい色の肌の女の子に、すぐに取って代わられる存在だということがわかっていたからだ。

    最も不快な経験をしたのは、2016年、セックスコメディシリーズの続編『Kyaa Kool Hain Hum 3(英題:How Cool Are We Part 3)』の撮影現場でのことだった。インドで最も裕福な女性プロデューサー、エクタ・カプールが制作を、無名のウメシュ・ガドギが監督を務めた作品だった(ガドギはこの件についてのコメントを拒否している)。

    この映画は、インドの検閲委員会によっていくつかのシーンをカットされた。また、パキスタンでは上映禁止となり、インド国内でのレビューでもこき下ろされた

    ストーリーは、2人の青年が、アダルト映画の監督を訪ねてタイに行くというものだ。その映画監督の豪邸で、2人は女性たちに囲まれるが、彼女たちは、特に何もしていないのに勝手にオーガズムを感じてあえぎ、まともな言葉はほとんど発しない(映画に登場する3人の女性たちは、いずれも有名女優ではない)。カリミが演じる役は、唯一アダルト映画女優ではないのだが、それでも、妄想シーンと映画のポスター用にビキニを着るよう求められた。

    ムンバイにいるカリミへの電話取材で、彼女はBuzzFeed Newsに対してこう語った。「監督に私はこう言いました。これまでにもビキニは着たことがありますが、これはGストリングです。スクリーン上で着るのにふさわしいとは思えません。自分が演じるキャラクターがどんな水着を選ぶのかはわかります。彼女は普通の女の子であって、ストリッパーじゃないんです、と。でも、それは彼を苛立たせただけでした。監督は私に辛く当たったり、セットでひどい目に遭わせたりするようになったんです」

    プロデューサーのカプールに苦情を言うと、カリムには、撮影セットに付き添う男性スタッフが1人つけられた。カプールと彼女の広報担当者は、BuzzFeed Newsへのコメントを拒否している。

    カリミによれば、ガドギ監督はそれが気に入らなかったのだという。「監督からは、自分をスターだとでも思っているのか? お前の価値がどの程度のものかを教えてやる、などと言われました。そしてダンスステップに変更を加えたり、私の台詞をカットしたり、私が登場するシーンでもないのに何時間もセットで待たせたりしたのです。精神的虐待以外のなにものでもありません。美しいビーチにいたのに、楽しいとはまったく思えませんでした。自分が安全とも思えませんでした」

    この映画が公開された後、カリミはボリウッドから離れる決意をした。テレビの人気リアリティー番組『ビッグ・ブラザー』のインド版にしばらく出演した後は、業界を完全に去り、結婚した。

    「安心したい、守られていると感じたい、という思いがありました」彼女はそう語る。「そうしたら幸せになれると思っていたんです。でも、そうではありませんでした」

    結婚式を挙げてすぐ、仕事に戻りたくなったが、できなかった。「結婚したら、女性の優先順位は変わってしまいます。常に夫が一番であるべきだと考えられるのです」とカリミは言う。数ヶ月後に夫と正式に別居し、後に離婚した彼女は、なんとしても生きがいが必要となり、再び業界に戻ってきたのだった。

    「会う人みんなに、マンダナ、何があったの? 昔は良い子でプロの仕事をしていたのに、『Kyaa Kool Hain Hum』のセットでは色々と問題を起こしたと聞いたよ、と言われました」と、カリミは言う。「最初は私も、ガドギ監督のことを説明しようとしたんです。理解してくれる人もいましたが、それ以外の人たちは仕事をくれなくなっただけでした」

    2018年9月、#MeTooムーブメントがついにボリウッドでも始まった時、カリミは自分も記者会見を開くことにした。「ダブルスタンダードがあることを訴えたかったんです」と彼女は言う。「業界の男性たちは、何をしても許される。では女性は? トラブルメイカーと呼ばれてしまいます」

    赤いベースボールキャップと、パリッとした白いシャツを身につけたカリミは、ガドギ監督との40日間の撮影は「とにかく地獄だった」と記者たちに語った。

    「あの経験がきっかけで、大好きだった仕事を離れることになりました」カリミはそう語る。「ハラスメントとは、誰かに不適切に触わる行為だけを言うのではありません」

    BuzzFeed Newsはガドギ監督にもコメントを求めたが、拒否されている。カリミが記者会見で訴えた内容についても、彼はいまだ反応をしていない。

    記者会見では最終的に、ガドギ監督以外の話も飛び出した。#MeTooの告発をするのは「新しいトレンド」なのではないかと、ある記者に煽られたカリミが、別のプロデューサー、サジド・カーンの名前を挙げたのだ。彼はガドギ監督よりもはるかに大物で、カリミのキャリアを事実上終わらせることもできる人物だ。

    「あるオーディションでサジド・カーンに会った時、服を全部脱ぐように言われました」自分に向けられたスマホのカメラがひしめく中、カリミはその記者に答えた。「トレンドなんかではありません。これは、この業界の女性たちの身にずっと起こってきたことなんです」

    カーンは、肥満体型の超有名プロデューサーで、ボリウッドと深く関わる一族の出身だ。これまでに複数の女性から、公然わいせつ、暴行、性的屈辱を告発されている。現在の#MeToo旋風で名指しされている映画関係者の中で最も強大な力を持つ。一方、カリミをはじめとする告発者は、ほとんど影響力のない女性たちだ。

    映画ジャーナリストのカリシュマ・ウパディヤイはTwitterで、2000年代前半に、カーンにインタビューしたときのことを振り返っている。それによれば、カーンは自分の性器の大きさについて熱弁を振るった後、ウパディヤイの目の前でパンツを下ろしたという。(カリミとは別の)2人の女優もTwitterで、カーンはオーディション中、体や性生活について細かく質問し、役がほしければ服を脱ぐよう迫ったと明かしている

    カーンの虐待的な行為を最も詳細に説明している一人が、2011年の数カ月間、カーンのアシスタントを務めていたサロニ・チョプラという若い女性だ。

    チョプラはBuzzFeed Newsの取材を受けたとき、子供時代を過ごしたオーストラリアのメルボルンを休暇で訪れていた。「(カーンは)私は個人秘書だと明言しました。助監督でもなければ、監督の助手でもないということです」

    チョプラは2011年、映画業界で働こうとして、ムンバイにやって来た。仕事の面接でカーンに会ったが、結局、泣きながら帰ることになった。チョプラは数年後、当時を振り返って初めて、この面接がトラウマになっていることに気づいた。チョプラによればカーンは、週に何度マスターベーションしているか、性的虐待を受けたことはあるかといった質問をしてきたという(チョプラは2つ目の質問に、あると答えた)。

    チョプラは、嫌な質問をされても、カーンはエキストラを含め、撮影現場にいる全員とセックスの話をすることが好きなのだと受け流した。しかし、状況は悪くなる一方だった。

    「全く収まる気配はありませんでした。私は彼に飼われているような状態でした」とチョプラは話す。「彼は好きなときに電話をかけてきて、いま何を着ているか、今日は何を食べたかなどと聞いてきました。ビキニ姿の写真を送るよう要求されたこともあります」

    カーンは自分を正当化するため、チョプラが業界で働くことができるよう、「彼の保護下」で準備を進めていると説明したそうだ。「私は女優志望でした」とチョプラは話す。「ただし、書くことや踊ることなど、ほかにも好きなことがいろいろありました。ヒロインとして売り出してもらうことにすべてを懸けていたわけではありません」

    それでも、「試練を乗り越えよう」という固い決意があったため、チョプラはとどまり続けた。しかし、虐待が身体的なものに変わり、耐えられなくなったという。2011年のある日、チョプラはカーンのオフィスに呼ばれ、あるインタビューの内容をタイピングする仕事を頼まれた。カーンはチョプラに「足を開いて」座るよう要求し、チョプラが従わないことにいら立ち始めた。チョプラはその日の出来事を「Medium」で詳述している。

    「彼は私を見ても興奮しないと伝えるため、私の手をつかみ、彼のペニスを触らせようとしました。私は軽くあしらい、やめてくださいと言いました。すると、彼はイライラしながら部屋を歩き回り、私はこの業界で生きていくことはできない、私をセクシーだと思う男性はいない、普通は勃起するはずなのに、私を見ても勃起しないと言いました。そして、彼はパンツを下ろし、私にペニスを見せ、“見えるだろう? お前は私を硬くすることすらできない!”と大声で叫びました」

    チョプラはアシスタントの仕事を辞めたとき、カーンに女優として売り出してもらう夢も諦めた。警告を発するため、業界関係者にカーンのことを打ち明けたが、受け流すべきだと言われた。

    「いつも同じことを言われました。“サジド(カーン)はそういうやつだ。下衆なやつだが、忘れた方がいい。気持ちを切り替えて、善人と仕事をすればいい”」

    イラン生まれの女優カリミも2014年、カーンから全く同じような言葉をかけられて、激怒してオフィスを立ち去った。カリミはカーンのオフィスで、役がほしければ裸になるしかないと言われたという。

    「そのとき、自分のマネージャーからはこう言われました。“よく聞いて。これがこの世界のやり方だ。彼は大物監督で、このような出来事があっても皆黙っている。慣れるしかない”」(この元マネージャーはコメントを拒否している)。結局、カリミはその役を逃した。

    合わせて7人の女性がカーンのハラスメントを告発しているが、カーンが公の場で反応したのは1度だけだ。カーンはTwitterで、「誤解を解き、真実を証明する」と述べている。また、カーンは「インド映画テレビ監督協会」の通知に対し、女性たちの申し立てを否定すると回答している。しかし、BuzzFeed Newsの取材依頼には一度も応じなかった。

    カーンをはじめとする業界関係者への疑惑については、被害者たちとの連帯を表明するために声明を発表した大物俳優も何人かいるが、ほとんどの俳優はノーコメントを貫いている。「真実にプレスリリースは必要ありません」など、戸惑うような声明を出した者もいる。

    ボリウッドは、「業界」という言葉でなく、ファミリーという表現をよく使う。この言葉は、彼らが性的虐待の存在を認めて防止するつもりがないことを示唆している。

    インドの大家族と同様、ボリウッドの撮影現場も、陽気で打ち解けた雰囲気に包まれている裏では、暴力的なやり方で序列が押しつけられ維持されているという事実を覆い隠している。業界について少しでも知っている人は皆、最も力を持つ男性たちの恐ろしい逸話を耳にしたことがある。しかしほとんどの場合、そうした逸話を口にする女性は、業界に長くとどまることを許されない。

    映画ジャーナリストのジャニス・セクイラはBuzzFeed Newsの取材に対し、新人は虐待の標的にされやすいと語った。「大物女優たちはよくわかっているため、撮影現場には必ず付き人を連れてきます。自分の身に何かが起こらないよう気をつけているのです」

    しかし問題は、ボリウッドがトラブルメーカーの女性を嫌っていることだけではない。業界は「問題児」、つまり、虐待の過去を持つ男性を積極的に守っている。

    チョプラは2014年までに、カーンのアシスタントだったときのトラウマから立ち直り、ボリウッドの新人男優ザイン・ドゥッラーニーと付き合い始めた。ドゥッラーニーはカシミール出身の夢見がちな若者で、川や谷、恋人の瞳についての詩をソーシャルメディアに書きつづっていた。

    当時、ドゥッラーニーは初めてオーディションに合格し、業界の次なる大型新人と期待されていた。魅力的な男性として頻繁に取り上げられ、インタビューでは、軍隊に占領された州で育ったことの恐怖について語った(この体験は詩のインスピレーションにもなったという)。

    しかし私生活では、頻繁に暴力を振るっていたと、チョプラは主張している。チョプラは一緒に暮らしていたアパートで、床を引きずり回され、壁にたたきつけられた。役立たずと言われたこともあるという。ドゥッラーニーに取材を申し込んだが、コメントは得られなかった。

    2人の友人であるヤシュ・ニルバンは、ドゥッラーニーが怒り狂った姿を何度も見たことがあると話している。「彼は腹を立てると、怒りを抑えることができなくなります。いつも貧困問題や環境問題について語っていて、素晴らしい人間に見えますが、怒ると我を忘れ、彼女の腕をひねり上げたり、外でも構わず、彼女を引きずったりしていました」

    ニルバンによれば、ドゥッラーニーは激高した後、必ず「失神発作」を起こしていたという。そして目覚めると、何が起きたか覚えていないふりをする。これはボリウッドでよく用いられる手法だ。登場人物が意識を失い、前日の記憶がない状態で目を覚ますのだ。

    「明らかに芝居でした」とニルバンは振り返る。「何度か仲裁を試みましたが、ほとんどの場合、殴り合いのけんかになり、彼は再び失神の芝居をしました」

    もし人生が映画のようなものだったとしたら、いまはついにボリウッドが良い方向へと変化する瞬間かもしれない。現在、才能ある女性たちが団結し、搾取的でない映画をつくろうとしている。11人の女性映画制作者が、「性犯罪者と証明された人物」とは仕事しないと宣言したのだ。

    しかし、裁判所が3000万件以上の未処理事件を抱えている状況で、性犯罪者たちはいつどのように訴追され有罪が証明されるというのだろう? 業界を一変させようとしている若い女性の訴訟費用を、誰が負担するのだろう? 公然の秘密が噂としてささやかれている現状で、有力者たちはどのように裁かれるというのだろう?

    前述したように、ハリウッドでは、具体的な変化を起こそうとする活動「Time’s Up」が始まった。しかしボリウッドはまだ、そうした段階には程遠いのが現状だ。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:半井明里、米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan