【モスル奪還作戦】民間人の中に潜むIS。その恐怖からイラク軍は逃れられない

    「自分の父親であっても、ここで見かけたなら信用しないでしょう」

    10月17日以降、IS(イスラム国)の拠点・モスル奪還のため、周辺の村々に進攻してきたイラク軍。11月1日、とうとうモスルに到達したが、民間人の中に姿を隠すIS戦闘員に対する厳戒態勢は依然として続いている。

    モスル近郊の村、トプザワ。1時間に及ぶ銃撃戦の後、ゴトゴトと音を立てながら、20台の装甲したハンヴィー(高機動多目的装輪車)が集まってきた。そして、拡声器からイラク軍兵士の声がとどろいた。

    「あなた方には何の過失もありません」。自宅でうずくまる住民たちに拡声器の声が語りかけた。「家に白旗を掲げれば安全です」

    拡声器がバリバリと音を立てる中、空から一筋の強い光がさした。空爆による爆発が村を揺さぶった。「兄弟たちよ、私のところに歩み出なさい」と拡声器の声は続けた。「軍用機は皆さんを攻撃しません。だから出てきなさい」

    トプザワの住民たちが不安げにハンヴィーに向かって歩き始める中、イラク軍特殊部隊の隊員たちは銃を構えたまま車両を退出させた。そんな中、多くの人々がある出来事を思い浮かべていた。前回の戦闘の終わりに、IS(イスラム国)の戦闘員が民間人の間に身を隠し、彼らを殺そうとしたのだ。トプザワをめぐる戦いは熾烈だった。兵士たちは重機関銃や携行式ロケット弾に大胆に立ち向かった。

    with Iraqi special forces from the famed "Golden Division" as they attack an ISIS-held village on Mosul's outskirts:

    イラク特殊作戦部隊黄金旅団がモスル近郊のIS支配下の村を攻撃している。

    それから1時間後。イラク軍特殊部隊は民間人たちを村からおびき出そうとしていた。子供を抱えた女性たちが、腰ほどの高さの壁を越えてやって来る。兵士たちは、自爆爆弾をもっていないことを確認するため、男たちにシャツをまくり上げるよう大声で叫んだ。

    25人ほどが壁をよじ登った後、衰弱した高齢の男性を運ぶ2人の女性が近づいてきた。兵士たちは、3人がやって来るのを警戒態勢を保ちつつ見守っていた。高齢の男性を手助けしなければならないという自然の衝動が、緊張に包まれたその場に警戒感を与えていた。「手伝いに行ってやれ」。ようやく1人の将校が口を開き、緊張が和らいだ。ほっとしたかのように、1人の兵士がハンヴィーのフードにライフル銃を放り投げると、急いで高齢の男性に駆け寄り、腕に抱いた。

    アメリカが後押しするモスル奪還作戦は、民間人にとっても兵士たちにとっても困難なものだ。ISの過激派は推定100万人都市の中に身を隠しており、民間人を盾にすると予想されている。支援団体は、何カ月にもわたり切迫した人道的危機について警鐘を鳴らしており、住むところを追われる人々のためのキャンプや設備を大急ぎで準備している。

    モスル奪還作戦が成功した場合、イラク軍と同盟国がモスルをどのように勝ち取ったかが重要になるだろう。どれだけ多くの人々が傷つき、どれだけ多くの家屋が破壊され、そしてここに至るまで住民たちがどのように扱われてきたかが、ISの後釜に座るイラク政府の成功を決定づけるだろう。

    ISの残忍な統治下で2年間も閉じ込められていたモスルの民間人たちには、流血を覚悟で生き残りにかける以外の選択の余地は、ほとんど残されていないのだ。

    トプザワから逃れてきた民間人の第一陣を迎え入れた後、兵士たちは編隊を組み、壁を越えて流れ込み、村内を歩き始めた。通りを行く兵士たちを幼い子供たちが家々からじっと見つめた。戸口からじっと見つめている男女の姿もあった。棒に結びつけた白い布を振る者もいた。

    兵士の一団が、ある家の中に入った。家の中には、7人の幼い子供たちが集まっていた。そこである女性が質問した。「彼らがISの囚人たちを開放したかどうかご存知ですか?」

    彼女の父親は、ISの敵に空爆の場所を提供したとして、ISに3カ月前に逮捕されたという。

    一家がモスルから5マイルほど離れたその村から離れることを、ISは阻んだ、と彼女は言った。そして、今ならクルド人支配下の領土に移動することは可能かどうかと兵士たちに繰り返したずねた。「私たちはまるで囚人です」と爆発音が聞こえる中で彼女は言った。「私たちの台所を見て下さい。食べ物がないんです。小麦も、何も。朝食を食べたら、次は昼食の心配をし、昼食を食べたら、今度は夕食の心配をするのです」

    通りの向こう側に、上半身裸の20代の男性がひざまづいてうずくまっていた。彼の両手は首の後ろでプラスチック製の紐で縛られていた。集まった兵士たちは、男性がISの戦士であると言った。兵士の1人がラップに包まれた爆発物のベルトを取り出し、男性が自爆爆弾に使おうと計画していたと言った。「私はISの仲間ではありません。私は何もしていません」と、その男性は言った。

    「黙って頭を下げておきやがれ」とある兵士が言った。

    さらに問い詰めると、その爆弾は男性から離れた場所で発見されたが、男性が逃げようとしたため、ISに違いないと兵士たちは言った。さらに多くの兵士たちが集まってきて、ハバシュと名乗るその男性は、侮辱と親切さの応酬を受けていた。 ある兵士は男性にタバコの灰を押し付け、別の兵士がそれを拭ってやった。また別の兵士は彼にタバコを与え、別の兵士は彼の額を強打し、別の兵士が泣き出した男性を嘲笑った。

    最後に、補佐官が男性の襟首をつかみ、群衆の中から彼を引きずり出した。射殺するのだという。補佐官はピストルに手をかけたが、考え直し、男性をハンヴィーの荷台に押し込んだ。男性はその後解放された。

    ISにはこれまで民間人の中に姿を隠し、攻撃を仕掛けてきた歴史がある。村の見回りと確認を行った後でさえも、兵士たちは厳戒態勢にあった。「自分の父親であっても、ここで見かけたなら信用しないでしょう」と、イラク人兵士は語った。民間人の一団が、白旗を振りながら通り過ぎていった。彼は今年の初めにアンバー県で起こった出来事について語ってくれた。民間人の中に紛れ込んだ狙撃兵が彼に発砲してきた、と言った。