「デバイスよりサービス」米マイクロソフトCEO単独インタビュー

    3代目の最高経営責任者に就任したサトヤ・ナデラ氏は、落日のマイクロソフトをどう立て直すのか。

    マイクロソフトといえば、かつてはパソコンの代名詞だった。しかし、かつての栄光は過去のもの。モバイルに中心が移るにつれ、漂流を始めたように見える。

    2012年に「マイクロソフトは『失われた10年』に苦しんでいる」という記事をVanity Fairが掲載。(2014年にスティーブ・バルマーCEOは退任)。 この記事は、企業文化が傲慢で、内紛が多く、官僚的だと指摘した。

    マイクロソフトは、デスクトップが中心だった時代には欠かせない企業だったが、ポケットやカバンに入れて持ち歩くとなると、存在感を発揮できずにいる。これが新CEOが直面している難題だ。

    成功の鍵は企業文化

    ワシントン州シアトル近郊のレドモンドにある米マイクロソフト本社で、2014年2月に就任したサトヤ・ナデラCEOがBuzzFeedの単独インタビューに応じた。「長期的な成功は、日常的な組織文化にかかっている」。ナデラCEOはインド出身の48歳。痩せ型でランナーのようなしなやかな身体つきをしている。社交的で、笑顔が魅力的。バルマー元CEOとは全く違う。

    ナデラCEOはバルマー時代の文化を一掃しなければならない。ただ、ナデラCEOは、新しいやり方を導入するだけではなく、企業文化が進化し続けるような会社を作ろうとしていると言う。

    「Aという文化を、取り上げて、解体して、変革して、それをまた固める、ではダメなんです。固めた瞬間に、翌日には意味がなくなってしまう」

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    BuzzFeedが録画した360度アングルのビデオ。インタビューや本社の様子がわかる

    ナデラCEOは、つねに進化し続けることにフォーカスする mindsetやgrowth mindsetと呼ばれる理論を採用しようとしている。

    growth mindsetを中核に置いています。CEOである私が『知ったかぶりではなく、学ぶ姿勢を身につけよう』と言うことから始め、一人ひとりに責任を負わせるところがいい」

    こうした態度は、バルマー元CEOの下で傲慢に突っ走ったマイクロソフトと正反対のものだ。

    ナデラCEOの下、マイクロソフトは過去の遺産を捨ててきた。ノキア事業関連で84億ドル(9800億円)の評価損を計上し、2回にわたって計約9千人を解雇した。(ナデラCEOは2014年、マイクロソフトは構造改革で約1万8千人をリストラすると言っている)。この解雇は、最も難しかったという。

    「CEOとして、人事に関する改革が最も難しい。将来的なチャンスに備えるため、必要なことです。ときには針路を直さなければならず、それは人的な犠牲を伴う」

    クラウドに舵

    ナデラCEOはクラウドビジネスに舵を切っている。複数のデバイスを使い分けられる「モバイル・エクスペリエンス」を提供するという。これはモバイルデバイスとも違うと強調する。要は、一つのデバイスを持ち運ぶのではなく、ユーザーがデバイスにとらわれずにデータにアクセスできる状態を指す。

    「あなたも私も一日中、いろいろなデバイスを使いますよね。おそらくスマートフォンで始まります。会議室に行くと、センサーや大小のスクリーンがあります。家に帰ると、テレビやXboxがあります。つまり、(あなたが動くと)あなたのアプリやデータはデバイスからデバイスへと移っていくわけです」

    マイクロソフトにとって、モバイルは失敗し続けたカテゴリーなだけに、クラウドサービスへの移行に注力することは理にかなっている。最新のガートナーのレポートは、モバイル市場の同社のシェアはたった1.7%と推計している。

    シェアだけみると失敗

    ナデラCEOは、これが持続的ではないと認めるが、すでにデバイス自体よりもデバイスがアクセスするサービスが重要になる世界に向かっていると主張する。

    「HoloLensの市場シェアは? Xboxの市場シェアは? パソコンの市場シェアは? 私たちのスマホの市場シェアは?ということだけを見て成功を測るのはアダとなると思います」とナデラCEOは話す。

    「経験の移動性の話しに戻ります。グラフのようにとらえるなら、これら(デバイス)は、すべて点です。ユーザーがすべてのデバイスを使うこともあれば、一つか二つのデバイス、他のプラットフォームを使うこともあります。それはそれでいい。我々は、これらすべてのデバイスを横断して、経験をつなげるようにしたいのです」

    確かにそうかもしれない。だが目下、開発者はiOSとAndroidに集まっている。バルマーCEOが「開発者」と叫び続ける舞台でのセリフは理にかなっていた。プラットフォームをつくるのはアプリで、アプリをつくるのは開発者だ。

    Windows 10で取り戻す

    これについてナデラCEOに尋ねると、マイクロソフトが開発者のエネルギーの多くを失ったことを認めた。だが、Windows10なら、デバイスを横断して使えるようになるので、開発者を取り戻せると主張する。

    「あなたが言うのは、私がエリート開発者と呼ぶ人たちで、彼らの多くは普及しているプラットフォームに向かうのです」

    「確かにスマートフォンで、シェアは高くない。今度こそ、HoloLensで、多くのエリート開発者を取り戻すつもりです。WindowsコンピュータのようにになってきているXboxをもって、大勢の開発者を取り戻すつもりです」

    乏しい具体性

    きっぱりと断言している。しかし、未来がどうなるか、ナデラCEOやマイクロソフトを含め誰にもわからない。外部から企業を分析し、将来を読み解こうとする我々にはもっとわからない。

    特に、他のCEOたちと同様にナデラCEOは大きなアイデアだけを話す傾向があるので、具体的に何を意味しているのかを突き止めるのは難しい。

    例えば、インタビューの冒頭で会話のきっかけとして、CEOになって以来、彼の思考に影響を与えた本は何かと尋ねると、 こんな答えが返ってきた。

    私たちがするすべてのこと、すべての顧客との対話、すべての自社製品、業界のパートナーと関係を強化するやり方が、アイデンティティや目的・使命感を強めます。私にとっては、それが何であるかは非常に明確です。競合企業のうち、ある社ではブランドが彼らのヒーロー、他の社では顧客データがヒーローでしょう。我々にとっては、我々のお客様が使う製品がヒーローです。

    お客様とは、期末論文を書いている学生かもしれないし、業界を大きく変えるデジタル技術を使って生産性を上げる小企業やとてもイノベーティブな大企業かもしれない。それこそが我々が存在する理由なんです。マイクロソフトは、我々は地球上の個人や組織がより多くを達成するのをエンパワーすると思っています。もちろん我々がすることは、デジタル技術やそのプラットフォームを提供することで、人々が物事を進め、成し遂げ、起こしてもらうのを助けることです。ほぼすべての事象を動かしている。

    実際、それが私が23年前に入社した本当の目的意識だったし、技術のパラダイムが代わり続けるので、強化したいことなんです。我々が生きる世界はとても変わったが、おそらくこのアイデンティティの強化にわたしは最もフォーカスしています。

    やれやれ……なかなか具体的に話してもらえない。


    (かつてナデラCEOが率いた)マイクロソフトのクラウドビジネスは成長著しい。会社は利益を上げている。最悪期は去ったようにみえる。両方のプラットフォーム向けに、EメールのOutlook、カレンダーのSunriseといった素晴らしい製品群がある。コンソールはなくなるだろうという予測に反して、Xboxは売れている。それに、あのマインクラフトがある!

    要するに、(パソコンの死、モバイル市場の低いシェアなど)Windowsビジネス以外のすべてが上手くいっているように見える。ナデラCEOは間違いなく針路を直している。その方向が正しいかは、今後証明されるだろう。