ヌスラ戦線はISのような国家を築こうとしている。だが…

    イスラム国との違い

    シリアで活動するアルカイダ系の反体制派組織「ヌスラ戦線」は、ISのように、警察や行政機能を持つ首長国になろうと試みている。しかし、成功していないようだ。

    「ヌスラ戦線は、行政機関や公的サービスを担おうとしている。以前より権力を志向する組織になった」と、シリア北西部イドリブ県の町、マアッラト・アン=ヌウマーンで、「アブ・ヤーヤ」という偽名で活動する、シリア人活動家は話す。

    ヌスラ戦線の支配は、昨年制圧した北西部の町・イドリブに集中している。イドリブには当初、他の反政府軍もいた。ヌスラ戦線は、反政府軍を追いやった後、周辺の他の町の税制、衛生、電気、水道そして、行政機能も管轄するようになった。

    2013年までヌスラ戦線の分派だったIS(イスラム国)は、制圧した地域に行政機関を設置して統治する。外国からの寄付金で運営されていた他の組織と違い、政府として機能し、運営資金の一部を自ら捻出することに成功した。ISの統治する地域に住む人たちは、税や通行料をISに支払う。ISは、これを戦士への給料や、戦争の資金に充てた。

    ISのように、自分たちの国をシリア北西部に作ろうとしているヌスラ戦線について、ロンドン大学SOASの中東研究者であるリナ・カーティブは「ISへの競争意識もあるだろう。ヌスラ戦線は、軍事組織としてだけではなく、政府組織として機能できるのだ、ということを見せたいのだ」と話す。

    しかし、ISに追随しようとするヌスラ戦線の思惑は、ロシアのシリア空爆停止後、市民社会に阻まれている。空爆が収まり、アブ・ヤーヤのような市民活動家が、力を取り戻してきているのだ。

    「市民活動家たちが目指す多元的な社会のあり方は、ヌスラ戦線が目指しているものとは違う」とInternational Crisis Groupのシリア研究者であるノア・ボンシーは話す。

    アブ・ヤーヤは、ヌスラ戦線の統治を批判する。「ヌスラ戦線は税金を徴収したところで、大したサービスを提供できない。良い統治者になろうとしたが、失敗したのだ。それが人々が離れていく理由だ」

    SOASのカティーブは、ヌスラ戦線が統治するシリアの北西部は、部族社会が残る東部とは違い、教育を受けた中流階級のシリア人が多い。そのことも、彼らの統治が成功しない要因だと指摘する。

    ヌスラ戦線は、マアッラト・アン=ヌウマーンで、武器を奪い取ることを目的に、アメリカが支援する「自由シリア軍」の一派を攻撃した。これに対し、市民たちは2週間に渡ってデモで抗議を示した。

    ヌスラ戦線は、デモ参加者たちを逮捕したが、市民社会の反発により、態度を緩和せざるを得ない結果となった。

    アメリカン大学の学生で、シリア系アメリカ人のケナン・ラーマニは、イドリブで今月、10日間を過ごした。ラーマニは、ヌスラ戦線が、統治している地域を厳格に管理しているというイメージを持つ人も多いようだが、現状は違う、と話す。「ヌスラは、ISやアサド政権のような統治は、全くできていない」