犯行前に万引き犯を見つける顔認識カメラ、来店客への告知は必要か?

    実に多くの店舗が、顔認識カメラで来店客の顔をスキャンし、万引き犯を犯行前に捕まえようとしている。もっとも、カメラの存在が常連客に知らされることは少ない。

    カメラでとらえた来店客の顔画像を万引き犯データベースに登録されているデータと比較し、万引きしそうな人物を見つけ出す顔認識ソフト、という技術が存在し、販売店を運営する小売業者が頼りにしつつある。

    導入を検討する店舗が増えるにつれ、プライバシー擁護派と業界関係者のあいだでは、この種の技術をどのように規制するべきなのか、カメラで撮影していることを来店客にどう知らせるべきか、という議論がなされるようになってきた。

    小売店における顔認識カメラの使用について、米国自由人権協会(ACLU)の弁護士を務めるジェイ・スタンリー氏はBuzzFeed Newsに対し、「政府の役人が、誰かの名前を入力してデータベースに問い合わせ、その人物の訪問先や、経済的、政治的、性的、医学的な情報と行動を調べられるような世の中などゴメンだ」と述べた。

    「要注意人物と似ているという理由で警官に呼び止められ、騒ぎに巻き込まれるような世界で暮らしたくない」(同氏)

    顔認識カメラを導入している店舗の数は定かでない。これについて、顔認証ソフト会社のFaceFirstでCEOを務めるピーター・トレップ氏はBuzzFeed Newsに、「数百店が導入していて、すぐに数千店規模の店舗が」セキュリティ・システムにFaceFirstの顔認識ソフトを組み込むようになった、と話した。

    ただし、FaceFirstは機密保持契約を理由に、導入店舗の情報を教えてくれなかった。

    ドイツのCognitecや、画像解析技術「Amazon Rekognition」を擁する米国のAmazon Web Services(AWS)といったベンダーは、国境監視、ログイン認証、写真分析といった用途の顔認識ソフトを販売している。

    その一方、トレップ氏は小売店向けの顔認識カメラ用ソフト市場ではFaceFirstが優勢だとした。

    「小売店事業は当社のビジネス全体の半分にも満たないが、よい位置を占めつつある。上位40社とか80社といった有名企業のほとんどが顔認識技術を検討しているし、調査くらいはどの企業もやっている」(同氏)

    顔認識技術の導入を検討した有名企業の1つに、人気小売店チェーンのTargetがある。Target広報担当者のジェンナ・レック氏はBuzzFeed Newsに、「不正行為や窃盗に対する防止効果を調査するため、ごく一部の店舗」で顔認識ソフトをテストした、と答えた。

    その際、店の入り口にはテスト中であることを示す注意書きを掲示し、カメラの存在を来店客に知らせたそうだ。そして、テスト終了後は顔認識カメラを使っていない、とした。

    記事執筆時点の現在も、Targetのオンライン・プライバシー・ポリシーには、店舗に設置されたカメラの一部で「不正行為や窃盗を防止し、セキュリティを確保する目的で、顔認識を含む生体情報を利用することがある」と書かれている。

    いつ、どの店舗でテストしたかといった詳細情報や、顔認識技術を店舗へ将来導入するつもりがあるかどうかについては、回答が得られなかった。

    フォーチュンによると、小売チェーンのWalmartは顔認識ソフトを試験していたが、「投資に見合わない」という理由で2015年に打ち切った。BuzzFeed NewsがWalmartに問い合わせたところ、店舗への導入計画は現在まったくない、とのことだ。

    そんなWalmartだが、不満を抱いている来店客を顔認識で見つけ出す特許を2017年に出願しているし、従業員の会話を盗聴するシステムの特許を先ごろ取得している(もちろん、特許を出願したからといって、Walmartがそうした技術を実際に開発していたり、店舗に導入しようとしていたり、ということにはならない)。

    住宅修繕事業を展開するLowe'sの広報担当者からは、顔認識技術を3店舗で3カ月間テスト運用した結果、店舗に「どのような方式であっても導入しない」ことを4年前に決定した、とのコメントがBuzzFeed Newsにあった。

    ディスカウント・ストア・チェーンのDollar GeneralとCostco、衣料品のGap、百貨店のMacy's、薬局チェーンのWalgreensはBuzzFeed Newsに、顔認識ソフトを店舗で使っていない、と答えた。薬局チェーンのCVS、家電品販売のBest Buy、ディスカウント事業を展開するTJX、コンビニエンス・ストアの7-Elevenにもコメントを求めたが、記事執筆時点で回答は得られていない。

    来店客には、顔認識ソフトで自分の顔がスキャンされるかどうかについて、発言する権利がない。なぜなら、企業が来店客から同意を得ることなく顔画像などの生体データを収集しても、違法行為と見なされないからだ。米国で唯一の例外は、イリノイ州である。同州では2008年、書面による同意なしの生体データ収集は違法とされた。

    「現在のところ、顔認識の実行に対する承諾は得ていない。顔認識技術を提供するにあたり、個人の資産、来店客、従業員を守ることを主眼に置き、多くの保護策を導入している。この技術の目的は、見知らぬ人を追跡したり、取得したデータを利用したり販売したりすることでない」(トレップ氏)

    トレップ氏によると、小売店が顔認識技術を使う動機は、万引き対策である。全米小売業協会(NRF)の調査によると、小売店は従業員、万引き犯、犯罪組織による窃盗で2017年に売上の約1.33%を失っており、被害額は数十億ドル規模に上るという。

    トレップ氏は、FaceFirstの顔認識ソフトで店舗の被害を3割以上も減らした例があった、とした。

    FaceFirstのソフトは、15mから30mも離れた場所から顔をスキャンするように設計されている。そして、入店する客の顔を入り口でとらえて顔画像を何枚か得て、そのなかからもっとも鮮明な画像を選んで解析し、店舗の作った「要注意顧客」データベースの内容と比べる。データベースの登録データと一致したら、入ってくる人物が怪しいと、数秒以内に店員へ警告する。

    トレップ氏によると、データベースはほかの店舗と共有されないし、FaceFirstとも直接は共有されない。データベースの運用ルールは店舗ごとに異なるが、データベースへの登録に同意した万引き犯は警察へ突き出さない、としているところが多いそうだ。

    「悪者リスト」に登録される人物の画像と身元情報を入れたファイルは暗号化され、店舗のシステムを使う店員しかアクセスできないようになっている。

    FaceFirstは、万引き犯データベースに登録された情報と一致しない来店客のデータを14日ごとに自動消去している。これは、自動データ消去に対する最低限の推奨事項である。逮捕された万引き犯や、以前登録された人物の情報をデータベースから消せるようにするかどうかは、店舗の判断に任される。

    プライバシー擁護派と業界関係者のあいだで交わされている顔認識技術を巡る議論の要点は、顔認証カメラでの撮影を事前に了解してもらう「オプトイン」式と、自動的に取得されたデータの消去を要求できるようにする「オプトアウト」式の、どちらを採用すべきか、という問題だ。

    プライバシー擁護派、弁護士、最近では顔認識ソフトウェアを販売しているMicrosoftまでも、顔認識技術に対する懸念の声を上げた。そこでは、来店客の同意、人種の区別、顔認識カメラで集めた画像が裁判で有罪判決の証拠として採用される可能性、といった問題が指摘された。

    これに対し業界団体は、生体情報の取得を制限する州法のせいでホームセキュリティ企業Nestの監視カメラ「Cam IQ」が販売されず、Googleの自撮りツールが売られないイリノイ州を例に挙げ、技術革新を阻む規制だと主張している。

    FacebookやGoogle、Yahoo!といった企業を代弁するインターネット業界団体NetChoiceの顧問弁護士であるカール・サボー氏はBuzzFeed Newsに、「規制が革新を抑制している」と述べた。「あの規制は、イリノイ州を技術の不毛地帯にしている」(同氏)

    生体情報の取得を規制する法律は、米国の連邦政府レベルでは膠着状態にあり、小売店の顔認証技術に対する需要は高まっている。そのため、ACLUのスタンリー氏は、店舗が「考慮の余地を来店客へ与えるよう、スキャンの告知だけはする」という条件で導入すべき、とした。

    「企業は顔認証技術の使用を、隠すべき恥ずかしい行為だと考えているらしい。突き詰めると、顔認証技術のもっとも恐ろしい点は、四六時中あらゆる人を追跡することに利用できる、ことだ」(スタンリー氏)

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:佐藤信彦 / 編集:BuzzFeed Japan