2019年1月、黄色いベストを着た抗議者たちが警官に傷つけられる写真や映像が明らかにされ、フランス全体がショックを受けた。しかし、2016年に兄を失ったアッサ・トラオレは驚かなかった。トラオレの兄は、パリ郊外で警察のバンに乗せられ、車内で命を落とした。
トラオレは電話インタビューで、「これまで表沙汰にはなってきませんでしたが、フランスで起きていることは、アメリカで見られることと全く同じです」と語った。
アメリカにおける「ブラック・ライブズ・マター」運動の引き金となった一連の死亡事件をほのめかしながら、「同じ暴力です。フランスでも、同じように人が死んでいます」と、トラオレは述べた。
トラオレは兄の死後、「La Vrit Pour Adama(アダマのための真実)」を立ち上げ、抗議行動の広報担当者となった。抗議行動には合わせて数千人が参加したが、変化を起こすことはほとんどできなかった。
しかし、2019年になってからフランス全体で、警察の蛮行を巡る論争が拡大し始めている。「黄色いベスト運動」で負傷した人々の投稿がSNSで拡散したためだ。トラオレは、ついにフランス全体が暴力の問題に気が付いたと話す。移民の多い郊外の人々が、日常的に経験している暴力の問題だ。
トラオレは、黄色いベスト運動で負傷した人々の報告に言及しながら、「私は、顔に穴が開いた少年や死亡した高齢女性、手りゅう弾といった話にショックを受けました」と語った。
「私たちは40年前から(警察の暴力について)知っています。違いがあるとしたら、私たちが住む郊外では死者が出ているということです」
黄色いベスト運動は2018年後半に、一種の大衆による反乱として勃発した。フランスの小さな都市に暮らす白人の労働者を中心として始まったが、最終的には、パリ随一の高級ショッピング地区で店舗の窓が割られるような暴動へと発展した。
しかし、抗議者たちが暴力に訴え、一部で国家主義や反ユダヤ主義が見られたにもかかわらず、抗議行動は広く支持され、エマニュエル・マクロン大統領は融和的な態度を取らざるを得なくなった。抗議の発端となった燃料税の引き上げを撤回し、「国民の議論」を開始。国民が不満を述べられる場所を全国に設置することになった。
しかし、1月に入り、人々は「国民の議論」に背を向けた。警察の野蛮な戦術に関する報告が次々と寄せられているためだ。抗議行動は現在も毎週末に続けられているが、見物人まで負傷しているという批判もある。
ボルドーでは、頭を負傷した抗議者が、意識不明になった。トゥーロンでは、身動きできない抗議者たちを警官が殴打した。人々はこのような報道を目にしている。
フランス警察の監察官は、78件の事件を調査中だと述べている。しかし、警察の暴力に関する報告をツイートしているフリージャーナリストのダヴィッド・デュフレーヌによれば、警察に負傷させられた人の数ははるかに多いという。デュフレーヌはSNSでの報告を300件以上見つけており、それでも氷山の一角にすぎないと考えている。
デュフレーヌはBuzzFeed Newsの取材に対し、「純粋に事件が多いことに、私はいつも驚かされています。毎週土曜になると、警察の倫理観が崩れ去ることに」と語った。
「規模が大きく、しかも、繰り返されています。私たちは今、あってはならないことを見ているのです」
警察の蛮行に関する報告の多くは、LBD(防御用ボール発射装置)と呼ばれる、ゴム弾のようなものを発射する装置の使用に関するものだ(「フラッシュボール」とも呼ばれるが、厳密に言うと、フラッシュボールはLBDより古い装置だ)。北欧や中欧ではあまり使用されておらず、フランスの権利擁護官であるジャック・トゥーボンは、再三にわたって使用禁止を求めている。
しかしフランス警察は、黄色いベスト運動の鎮圧のためにLBDを使い続けている。アムネスティ・インターナショナルのニコラス・クラメイヤーはBuzzFeed Newsの取材に対し、抗議行動が始まってから、警察との衝突で目を失ったケースが13件、手を失ったケースが4件記録されていると述べた。
クラメイヤーによれば、相手が非暴力の抗議者であっても警察は暴力的になることがあり、抗議者の逮捕も過剰に見えるという。抗議行動が始まって以来、5600人が逮捕されているが、その80%が不起訴になったとクラメイヤーは述べている。
それでも、警察は戦術の大幅な変更を拒否し続けている。
フランス国家警察を率いるエリック・モルバンは1月15日、現場の警官たちに対して、LBDで抗議者を撃つときは胴体や四肢を狙うよう指示した(ただし、頭を狙った警官がいたとは認めていない)。
一方、モルバンの上司にあたるクリストフ・カスタネール内務相は14日、報道陣に対し、「私は、抗議者を攻撃した警官や憲兵を一人も知らない…それどころか、治安部隊やジャーナリストに対して組織的な攻撃を仕掛ける抗議者たちを見たことがある」と語った。
(BuzzFeed Newsは国家警察と警察の労働組合「UNIT SGP POLICE Force Ouvrire」に取材を申し込んだが、どちらからも回答を得られなかった)
抗議者たちは2018年12月上旬から警察の蛮行を非難しているが、メディアの関心が、「一部の抗議者の暴徒化」から、警察の戦術に移ったのは2019年に入ってからだ。デュフレーヌはその理由として、抗議者たちがこれまで闇に葬られてきた事件をスマートフォンで公にし始めたためだと分析している。
「ブラック・ライブズ・マターのときとよく似ています。いま何が起きているかを人々が記録しているのです」とデュフレーヌは話す。「相手がメディアであろうとなかろうと、警察はカメラに対して神経質になっています」。
フランス政府が支援する「刑事司法制度社会学研究センター」の責任者クリスチャン・ムーハナはBuzzFeed Newsの取材に対し、フランス警察はかなり以前から、移民の多い郊外で、一種の罰としてLBDを使用してきたと指摘する。
「これまでと違うのは、警官(の行動の内容)ではなく、このような攻撃的な行動を…白人の中間層…に対して取っていることです」とムーハナは話す。
「私は黄色いベストを着た人を大勢見てきましたが、彼らは口々に、“われわれは、警察が暴力をふるうことを発見している”と言います…警察が野蛮だったり攻撃的であることに、白人の中間層が気付き始めているのです」
ムーハナによれば、フランスの警察はかつては抗議行動の扱いがとても上手だったが、近年、政府の最上層で群衆整理に強硬な手段を用いるという方針が決定され、抗議行動への対応がどんどん暴力的になっているという。
「デモの参加者を(失明)させたい警官はあまりいないと思います。しかし、彼らには人々と交渉する権利がありません」
抗議行動に限度を超えさせないためであれば、抗議者に対してどのような手段を用いてもよい、と警官たちは命じられている。殺傷力のある武器を使用する権利もある。
「彼らはデモ参加者の扱いがとても上手でしたが、今は(郊外における)パトロールの悪習に影響され、市民と関係を築くのが下手になっています」
「アダマのための真実」のトラオレも、だからこそ今、黄色いベスト運動の中核を成す白人の中間層と郊外の移民が結束しているのだと考えている。トラオレは早い段階から抗議行動を支持している。そして、抗議行動の中に見られるという国家主義的、反ユダヤ主義的な動きは、「運動を乗っ取ろうとする少数派」によるものだと述べる。
「実際、郊外では、何年も前から黄色いベスト運動が行われてきました。私たち以上に失業や貧困のことを知っている人がいるでしょうか? 私たちは皆、システムと戦っています。弾圧的な警察、司法というシステム、さらには、すべてを否定する大統領と戦っているのです」