トランスジェンダーを精神疾患とはみなさない 世界保健機構(WHO)の下した決断

    WHOは、新たな変更でトランスジェンダーの人々に対するスティグマと差別に立ち向かうことを目的としている、と語る。

    世界保健機構(WHO)は6月18日、「今後はトランスジェンダーを精神疾患と見なさない」という認識を発表した。WHOは、これがスティグマ(他者や社会集団によって押しつけられた烙印)に立ち向かう動きになれば、と考えている。

    WHOはこれまでずっと、「国際疾病分類(ICD)」の中で、「性同一性障害(gender incongruence)」を精神疾患として分類していた。しかし現在は、「性同一性障害」(性別違和:gender dysphoriaという呼び名のほうがより知られている)は、性的な健康に関する状態について新しくつくられた章に記載されている。

    性同一性障害は、生まれつき持っている性と、実際に体験している性が一致しないときに起こる。

    ICDは、世界中の健康機関によって手引きとして使われている、非常に影響力のある文書だ。病気を分類するための基準を定めており、保険関連の予算から研究費の使われ方まで、あらゆるものに影響を与えている。

    WHOによると今回の動きは、トランスジェンダーの人々が直面しているスティグマや差別と戦う助けになると期待されているようだ。

    WHOのリプロダクティブ・ヘルスと研究の部門でコーディネーターを務めるララ・セイ博士は、YouTubeに投稿した動画のなかで、こう語っている。

    「性別不合は、精神的健康に関わる疾患から外されました。なぜなら私たちは、性別不合が実際は精神の健康状態に関わるものではなく、これを精神疾患として分類していることがスティグマを起こしていたことを、よく理解していたからです」

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    「だから、必要な保険介入の道を確保しつつ、スティグマを減らすために、性別不合は別の章に記載されたのです」とセイ博士は述べる。

    トランスジェンダー・ヨーロッパ」は、この変更を賞賛しする声明の中で、「これは、世界のトランスジェンダー・コミュニティが何年もかけて勝ち取ろうとしてきたことであり、歴史的な偉業です」、「過去の不公平を償い、性別の多様性を称える新しい時代の土台となるものです」と述べている。

    同団体のエグゼクティブ・ディレクターを務めるジュリア・アートは声明の中で、以下のように述べている。

    「これは、世界中のトランスジェンダーと多様なジェンダーの活動家たちが、人間らしさを主張して懸命に努力してきた結果です。WHOが、ジェンダー・アイデンティティーの問題は精神疾患ではないと認めたことを、私はとても嬉しく思っています」

    ICDの新しい章に残っているということは、性別違和がまだ健康問題としてみなされているということだ。だからトランスジェンダーの人々は、今後もヘルスケアを受けることができるはずだ、とセイ博士は説明する。

    しかし、トランスジェンダーの人々がヘルスケアを受けようとするときには障壁があることを考えると、これで安心というわけではないかもしれない。

    WHOは大きく動いたが、ほかの組織は、まだ性別違和を精神疾患として分類している。たとえば、「アメリカ精神医学会」が出版し、アメリカで精神的健康を診断するための基準となっている『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)』では現在も、性別違和を「精神的健康に関わる状態」として記載している。

    ただしアメリカ精神医学会は、性同一性障害は、ジェンダーへの非同調性そのものではなく、ジェンダー・アイデンティティーの問題によって起こる苦悩のことであることを明確にしている。

    『精神疾患の診断・統計マニュアル』の最新版「DSM-5」は、14年かけて見直しを行い、2013年に改訂された。このマニュアルは、広く調査し、議論を重ねた上でのみ、変更が加えられる。1970年代までは、ホモセクシャリティもこのマニュアルに載っていた。

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan