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「11歳のドラァグスター」を襲う悪夢。それでもメッセージを伝え続ける

「デズモンド・イズ・アメージング」は最近、コンバース(CONVERSE)の「プライドコレクション」の広告に登場した。

ニューヨークのある一家が、児童保護局からの度重なる連絡に直面している。以前にも同じことがあったが、今回のきっかけは、ドラァグクイーンである11歳の息子が靴の広告に登場したことだった。

デズモンド・ナポレスは、その本名よりも「デズモンド・イズ・アメージング」というドラァグネームでよく知られている。デズモンドが最初にドラァグに夢中になったのは、母親のウェンディ・ナポレスと一緒に、テレビ番組『ル・ポールのドラァグ・レース』を見ていたときのことだった。

ウェンディはBuzzFeed Newsに対して、こう語る。「(番組に登場する人たちを)お姫さまか何かのように思ったみたいでした。それ以来、うちにあるわたしの服や何かを集めては、それを着て、家じゅうをランウェイみたいに歩きまわるようになったんです」と。

はじめのうちウェンディは、デズモンドの新たな興味の対象をどう扱えばいいのかわからなかった。だが、セラピストに相談したあと、デズモンドの好きにさせておこうと決めた。数年が経ったいま、デズモンドはみずからの力で小さなスターになり、(母親の監督のもとで)イベントに出演したり、ソーシャルメディアでファンと会話したりしている。

ウェンディは、「わたしたちは、『ほかの人たちがどう思うだろう?』という考えを手放す必要がありました。なんといっても、それ(ドラァグ)はデズモンドを幸せにしていましたから」と言う。

だが、デズモンドの人気が急上昇するのに伴い、ハラスメントの波が襲ってきた。デズモンドはすぐに、保守系メディアにとりあげられるようになった。そうした記事では、デズモンドのパフォーマンスが児童虐待、小児性愛、搾取とごちゃ混ぜにされていた。

「要するに、クィアの子は小児性愛やセクシャリティの範疇だと言っているんです。子どもをそんなふうに見るなんて、本当に最低です」とウェンディは言う。

「どんな理由だろうが、保守系メディアはことあるごとにデズモンドを標的にしてきました。それがなんであろうが、わたしたちが何をしようが、彼らはわたしたちを追いかけるんです」

それと同じころに、児童保護当局から電話がかかってくるようになった。ナポレス一家に会ったこともない、たいていは州外の人たちが、当局に通報するようになったのだ。

この問題は、複数の関係機関を巻き込むまでに膨らんだ。ウェンディによれば、一時期には、デズモンドに関する「継続調査」が200件にのぼっていたという。

通報はすべて当局に真剣に扱われるため、ナポレス一家は家庭訪問の対象になった。デズモンドも、調査員との面談のためにたびたび学校を早退するようになった。

そうした通報によって不正行為が見つかったことは一度もなかったが、2019年にデズモンドがコンバース(CONVERSE)の「プライドコレクション」のキャンペーンに出演すると、また電話がかかってくるようになった。

「同じような通報が来ています。当局はとても苛立ち、困惑しています」とウェンディは話している。

「わたしたちは、また同じ悪夢に襲われています」

通報者たちがなんと言うおうが、デズモンドのパフォーマンスは完全に子どもにもふさわしいものだとウェンディは述べる。あらゆる年齢の観衆に向けたもので、アダルトな要素はまったくない。チップをもらうこともあるが、デズモンドが受けとるそのほかのすべての報酬と同じように、18歳になったら引き出せる信託基金にそのまま預けられている。

「こうした子どもたちが出ているのは、どこからどう見ても、おとな向けのショーではありません。劇場やドラマの演劇クラスと同じようなものだと思っています」とウェンディは言う。

「なんの罪もないでしょう?」

デズモンドは、児童保護局への通報のほかにオンラインでも、殺害予告や家族の個人情報の公開といった深刻なハラスメントを受けている。ウェンディは、デズモンドがいつ自殺するかを賭けの対象にしている連中を目にしたこともある。

「わたしたちが受けている暴力のレベルはおそろしいものです」とウェンディは言う。「こうした人たちこそ虐待者です、本当に」

ドラァグの子どもがモラルパニックを引き起こしたのは、デズモンドが初めてというわけではない。オハイオ州に住む9歳のドラァグ・パフォーマー「ミス・メイ・ヘム(Miss Mae Hem)」も、保守系ウェブサイトでのゲイ差別的な書き込みの標的になった

ミス・メイ・ヘムの件では、共和党の州議員が、「子どもが性的行為を模倣する」パフォーマンスの上演を禁じる法案を出す事態にまで至った。ミス・メイ・ヘムの母親は、そうした見方はまったくの誤りだと述べている。

ウェンディはこれまで、インターネットやソーシャルメディアへのアクセスを監督することで、そうした誹謗中傷からデズモンドをおおむね守ることができていた。だが、児童保護局によるデズモンドの面談がはじまり、状況が変わった。

「彼らは、子どもにとっては本当につらい質問をするんです。家庭で虐待されているか、とか」とウェンディは話す。「あの子は一時期、自分が悪いんだと思うようになっていました」

ネットで攻撃してくる人たちは、デズモンドが目立つから標的にしているだけだとウェンディは考えている。だが実際のところ、ナポレス一家の問題は、LGBTや、既存のジェンダー分類に当てはまらないすべての子どもたちに関係するものだ。

そうした状況にも負けず、デズモンドはパフォーマンスを続けている。彼らのもとには、否定的な意見だけでなく、ほかの子どもたちからのメッセージが数多く寄せられているとウェンディは話す。カミングアウトする力になった、自信がついた、自殺願望を乗り越えられた、といったメッセージだ。

「あの子は、たくさんの人たちに勇気を与えていますし、そうした人たちから勇気づけられてもいます」とウェンディは言う。「それに、あの子はドラァグが大好きです。それがあの子のしたいことなんです」

この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:梅田智世/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan