他人を笑い者にするために編集された「痛ビデオ」が流行、Youtubeは対処せず

    誰かを馬鹿にする目的で編集された動画なのだが、大量の再生回数を記録している。

    太っていることを受け入れたり、体形を前向きにとらえたりする内容の動画をYouTubeに投稿した影響で、ジュード・バレンティンさんは否定的なコメントを目にする羽目になった。それでも、自分の活動を止めることはない。

    バレンティンさんはBuzzFeed Newsに、「とりあえず誰だってスタートしなくてはいけないのだから、私は大声で主張するし、恥ずかしくもない」と話してくれた。

    ただし、状況は悪化した。バレンティンさんが公開した動画の1本に、普段と違ったとげとげしい内容のコメントがつき始めたのだ。当初は何が起きているのか分からなかったが、寄せ集め編集されたある動画に言及しているコメントの存在が目に留まった。

    そこで検索したところ、バレンティンさんのビデオブログに投稿してあった動画が「ぽっちゃりさん上等!ドン引き」動画で使われていることを発見したのだ。

    YouTubeでは痛動画(Cringe Video)と呼ばれるこの種の動画が流行しており、大量の再生回数を記録している。その多くは、映っている人の不格好さを見せて視聴者をドン引きさせることが目的だ。すべてが悪質ということではなく、ニュース番組やトークショーのNGシーンを寄せ集めたような無邪気なものもある。

    それ以外は、非常に残酷な内容だ。個人のビデオブログやSNSから集めた動画を使い、ある種の人々を標的にしている。狙われるのは、バレンティンさんのように太っていることを肯定的にとらえて活動している人が多く、フェミニストやトランスジェンダー、男女どちらでもないノンバイナリー、両性を揺れ動くジェンダーフルイドも対象だ。

    アニメオタクや擬人化動物好きのケモナー、熱心なTikTokユーザーなどもあざけりの対象になる。そして、痛動画の作者が「キラリと光る個性を持つ人物」だと思ったり、「社会正義の戦士」と見なしたりする対象のうち、その種の人にしては例外的に魅力的な人物が狙われやすい。

    標的が誰であろうと、痛動画の狙いははっきりしている。対象を馬鹿にすることだ。そして、痛動画を取り下げさせるために被害者がとれる手段はとても少ない。

    バレンティンさんの事例では、ビデオブログの動画が丸ごと痛動画に使われ、ほかの動画や異様な反応のGIFアニメとつなげられていた。

    「この件で一番がっかりしたのは、痛動画の作者に登録ユーザーが1万6000人もいたこと。私には2000人しかいない」(バレンティンさん)

    「必死に帳尻を合わせようとしていて、それが一番いら立たしい」(バレンティンさん)

    この動画の作者はBuzzFeed Newsに対し、映っている人たちは「自分で被害者と思っているらしい」が、「太った体形を受け入れる活動に対する認知」を高める目的で制作した、と話した。

    「映っている人を攻撃しろなどと、視聴者には一言も命じていない。煽ったりしていない。コメントでビデオに含めた動画のチャンネル名を質問されても、決して教えない。誰かを困らせるよう視聴者に指示することなどない」(痛動画の作者)

    直接YouTubeに問い合わせたバレンティンさんは、規約違反にまったく該当しないとの回答を受け取った。BuzzFeed NewsはYoutubeにコメントを求めたが、返答はない。

    「YouTubeは表現の自由に対する価値を理解しており、規約を強制的に適用する場合は細心の注意を払います。そのため、脅迫やハラスメントの基準を超えたと判断したコンテンツの配信停止は行いますが、否定的な動画やコメントのすべてが削除対象になるとは限りません」(バレンティンさんに届いたYouTubeからのTwitterダイレクトメッセージ)

    問題の動画がコメント攻撃へ直接つながったことを考えると、バレンティンさんはYouTubeの回答に納得できなかった。

    「確かに、あの作者は動画のなかで私に自殺しろと言っていないし、ハラスメントに関しては免責される。それでも、フォロワーが私のところにアクセスして嫌がらせすることを止めていない」(バレンティンさん)

    次にバレンティンさんが選べる対抗策は著作権侵害を主張することであるものの、これには困った問題がある。訴えを起こすと本名が動画の作者に知られてしまい、個人情報を勝手に公開されかねないのだ。

    「私たちはインターネットでひどく嫌われているので、積極に行動すると厳しい状況に陥る。みな個人情報をばら撒こうと意地悪に待ち構えているし、悪意にあふれていて、私たちを人間扱いしない」(バレンティンさん)

    バレンティンさんが巻き込まれたような寄せ集め動画は、手始めに一種の「フェアユース(著作権者の承諾がないままに著作物を利用しても、一定の条件のもとであれば「公正な利用」だと判断されること)」を主張することが多い。しかし、弁護士のレア・ノラドさんは、「有罪を回避する」カードにならないとした。

    エンターテインメント事業に関する法律問題を専門的に手がけるRomano Lawの副代理人であるノラドさんは、「『フェアユース』という用語は、本来の意味を理解する必要性がない人に乱用されている、一種のバズワードです」とBuzzFeed Newsに説明した。

    「防衛手段であり、権利ではありません」(ノラドさん)

    フェアユースと見なされるには、一般的に動画の引用は短くとどめ、最終的な映像が新たな制作物となるよう十分長いコメントを加えなければならない。

    「今回の動画では、10分ごとに作者がコメントしています」(ノラドさん)

    「この動画で使われたこの作者のやり方を踏襲すれば、映画の『アベンジャーズ エンドゲーム』を丸ごとアップロードして、私の「ブゥ」というコメントを間に挟めばよいことになってしまう」(ノラドさん)

    州によってはネット嫌がらせを法律で禁じるようになったが、寄せ集め痛動画はそれ自体が嫌がらせ行為に該当しないため、摘発の対象にならない。

    だからと言って、この種の動画が嫌がらせに該当しないわけではない。マギル大学の教授で、ネット上の嫌がらせに関する研究プロジェクト「Define the Line」のディレクターを担当しているシャヒーン・シャリフさんは、「こういった問題では、常に線引きから話を始めます。この件の場合、関係者は確実に一線を越えてしまっており、さまざまな法律を根拠に訴えられる可能性があります」と述べた。

    痛動画で笑いものにされた人たちにしたら、経済的な理由で提訴は難しいかもしれない。シャリフさんによると、このようなネット嫌がらせはオンラインで広がり始めている問題であり、多くの場合ずっと社会的に無視されてきた人々が標的になる。

    「突き詰めて考えると、以前から話しているとおりネット嫌がらせは教育欠如に起因し、私たちの文化や社会に深く根を張っています」(シャリフさん)

    ただし、この種の寄せ集め動画が作られるそもそもの理由については、コメントを避けた。

    ネット嫌がらせに関するウェブサイトを運営するCyberbullying Research Centerの共同ディレクターを務め、フロリダアトランティック大学の犯罪学教授でもあるサミール・ヒンデュラさんは、動画の作者には被写体の感情に対する配慮がほとんどみられない、とした。

    そしてBuzzFeed Newsに対し、「背後にある動機は、クリック数と視聴回数とフォロワー数稼ぎに過ぎないでしょう。ただし、有りと有らゆる痛みを与えてやろう、という動機だけで動画を作る人もいるかもしれません」(ヒンデュラさん)と述べた。

    ヒンデュラさんは、動画の作者は不安定な精神状態に突き動かされている可能性もあるとした。自分の生活がうまくいっておらず、自信たっぷりにしている他人の鼻っ柱を折ることで憂さ晴らししているというのだ。

    「このような行為は、一種の歪んだ精神的な浄化であり、不幸なことです。不幸なうえ、子供じみた対応でしょう」(ヒンデュラさん)

    バレンティンさんとしては、害された感情から立ち直るのに1日かかったが、さらに行動していこうと決心したことで、このような目に遭わされても活動をやめないそうだ。

    「私はやり過ぎて、行き過ぎたのだけど、私の世界にいじめっ子の手は出させません」(バレンティンさん)

    「何をしても嫌がらせされるでしょうが、私は負けっこない」(バレンティンさん)

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:佐藤信彦 / 編集:BuzzFeed Japan