韓国社会にも「#MeToo」の波 しかし、フェミニストたちへの攻撃も

    「#MeToo運動」は韓国でも、女性の権利に関する議論を巻き起こしている。同国のフェミニストの多くは変化に備えているが、韓国は準備ができているのだろうか。そして耳を傾けるつもりはあるのだろうか。

    「アナ」と「キム・モン・ダン」は、ネットでは本名を使っていない。ネットで「荒らし(トロール)」のターゲットにされるのを恐れてのことだ。

    2人は、ゲーム愛好家のフェミニスト団体「Famerz」に所属している。Famerzはこの1年で、韓国の若いフェミニストたちにとってますます重要なものになってきた。彼女たちはいま、前の世代がやらなかったことをやっているのだという。

    Famerzは2016年の終わり頃、当時の朴槿恵大統領に対する抗議行動のさなかに設立された。そのころの韓国は、フェミニストにとっては困難な時期だった。韓国初の女性大統領が汚職事件に関与したことは、韓国中の女性にとって非常に不利なこととみなされた。

    とはいえ朴前大統領は、決してフェミニスト団体に受けが良かったわけではない。朴前大統領率いる保守政権は、女性の権利改善にほとんど貢献しなかった。デモ行進に参加した女性たちは、朴前大統領が弾劾されるのは彼女の行いのせいであって、彼女が女性だからではない、と懸命に主張した。

    Famerzは、設立当初は「4DVa(フォー・ディーバ)」という名前で活動を行なっていた。デモの際、参加者は旗やバナーを持って通りを練り歩いたが、ある旗には白いウサギが描かれていた。ビデオゲーム「オーバーウォッチ」に登場する韓国女性のキャラクター「D.Va」(ディーバ)のシンボルマークだ。

    このキャラクターは、オーバーウォッチにおける女性初のプロ・プレイヤー、キム・"ゲグリ"・セヨン(Kim "Geguri" Se-yeon)が好むキャラクターとして有名になった。彼女は2016年、テクニックの高さゆえにほかのプレーヤーからハラスメントを受け、フェミニズム運動の象徴となっていた。

    活動家たちはその旗のもとに集まり、ビデオゲームについて語り始めた。ビデオゲームは韓国で極めて人気が高い。

    そして数カ月前、団体の名称は、オーバーウォッチ以外のゲームやキャラクター、ゲーマーも含まれるよう、「Famerz」に変更された。Famerzでは、約25ドルの入会金を払うと、フェミニスト限定のゲームスペースやオフ会への参加、グッズの割引などさまざまな特典を受けることができる。

    2018年の数カ月で「#MeToo運動」は韓国中に広まり、韓国の映画界政界文学界から、非常に多くの女性たちが、自分も性的虐待や嫌がらせを受けたと名乗り出ている。「2018年に女性であるとはどういうことか」を示したい若いフェミニストが集まるFamerzのような団体は、この機会を利用して、韓国における女性の権利に関する問題の実態を世界に知らせてきた。

    現在、Famersや韓国をリードするフェミニストたちの声は、ジェンダーに関して過熱するオンライン論争の中に、参加しやすい場をつくろうとしている。

    24歳のキム・モン・ダンは、「ソウル女性プラザ」と呼ばれるイベントスペースのビルにある小さな会議室でBuzzFeed Newsに対して、「最近のフェミニズムへの動きでは、女性が初めて実際に声を上げていると感じます」と語った。「シニア世代は、若いフェミニストたちが『確固たる孔子の教え』に従っていると思っていません」

    儒教は、韓国の第1世代のフェミニスト活動家たちに強い影響を持っていた。彼女たちは、平等を強く求めることが正しいと信じながらも、伝統的なジェンダーの役割を重んじていた。キムは、「シニア世代は若いフェミニストたちにも、自分たちのようになってほしいのです」と語る。

    25歳のアナは、「私にはお手本とする人はいませんでした」と言う。

    「年配の女性たちは、若い世代によるフェミニズムの解釈の仕方を批判しています」と、Famerzのメンバーたちは語る。

    しかし彼女たちは、年配の世代が、2018年の韓国で若い女性でいることがどういうことかを理解しているとは思っていない。

    フェミニスト限定のゲームスペースは、Famerzの鍵となる魅力だ。韓国では、ビデオゲームをやる人はたいてい「PCバン」に行く。「PCバン」は、備えつけのパソコンがあるインターネットカフェのようなもので、いつでもプレイが可能だ。しかし、韓国のゲーム文化では、女性がPCバンに入ろうとすることは時に悪夢となる。

    PCバンの中には、アカウントを登録するために電話番号を要求するところもある。これを利用して女性の電話番号を手に入れ、しつこく電話をかけてくる店員もいる。PCバンで、男性に近すぎる席に座ると、スクリーンネームを見られて、メッセージが来るようになってしまう可能性もある。

    さらには、ゲームを始めても、明らかに女性だと分かるスクリーンネームだったり、ヘッドセットをつけてプレイしていてほかのプレーヤーに声を聞かれたりすると、好ましくないコメントや侮辱的な言葉を浴びせられることになる。

    「私たちは、女性ユーザーを守ることができるコミュニティをつくろうとしています。一緒にプレイしたり、自分たちでゲームをつくったり、嫌な思いをした経験を語り合ったりしているのです」とアナは説明する。しかし、より大きな問題が出てきたときには、彼女らができることは限られているという。

    そのような問題の1つが、「荒らし」による攻撃的な嫌がらせだ。BuzzFeed Newsが2人に会ったとき、アナはチョーカーを、キムはベレー帽を身につけていた。どちらにも「feminist」という文字が書かれていた。彼らは、すれ違う人がどう思うかは怖くないという。

    「私たちの写真を撮って、『Ilbe』(イルベ:韓国の電子掲示板)に載せて、『メガリアン』と呼ぶ男性はいるかもしれません」とキムは言う。

    Ilbe」は、「Ilbe Storehouse」とも呼ばれ、韓国版の「4chan」(英語圏を対象とした画像掲示板)のようなものだ。「Megalia」または「Megalian.com」は、Ilbeに対抗する過激なフェミニストのサイトだ。Ilbeのユーザーは、右派で国家主義者で反フェミニストの若い男性が大半だ。サイトができて10年ほどになるが、その間、意見の合わない相手に対する荒らしや嫌がらせで悪評を買ってきた。

    彼らは、西洋の文化を崇拝し、物質的な楽しみを好む韓国人女性を「kimchi bitches(キムチ・ビッチ)」と呼ぶ。韓国ではポルノは違法だが、Ilbeは、女性のきわどい画像の巨大ハブになっている。

    その多くは、本人の承諾なしに撮られたものだ。また、韓国の女性に対するオンライン・ハラスメントの大半はIlbeで始まっている。彼らはフェミニストのことを「メガリアン」と呼ぶ。

    「Megalia」は、Ilbeを生んだような「ミソジニー」(女性嫌悪)に対抗してつくられた。2015年に韓国でMERSコロナウイルスが大流行した際、電子掲示板「DC Inside」で、「隔離された2人の女性は、買い物旅行で香港に行っていた」というが流れた。その噂に反論し、噂が嘘であることを証明するため、女性グループがMegaliaというフォーラムを立ち上げたのだ。

    Megaliaは、過激なフェミニズムを標榜することで悪名を馳せるようになった。より過激なユーザーは、切断されたペニスの写真を公開するヘッドラインをつくり、いつもゲイやトランスジェンダーに反対する言葉を使い、「ミラーリング」と呼ばれる荒らしのスタイルを採用した。「ミラーリング」は、Ilbeの男性たちと同じような書き込みをして、彼らを貶めるやり方だ。

    Megaliaのユーザーは、交戦する男性たちと同じくらい過激であることで批判を浴びた。2016年はじめ、ゲイに反対する中傷が糾弾されるとMegaliaは分裂し、大多数のユーザーはMegaliaを離れた。そしてそのほとんどは、「WOMAD」というコミュニティに移った。

    Ilbeの荒らしは、数々の著しい成功を収めてきた。2016年、ビデオゲームの声優キム・ジャヨンが「Girls do not need a prince.(女の子に王子さまは必要ない)」と書かれたTシャツを着た自身の写真を公開した。そのTシャツはMegaliaで売られていたものだ。当時彼女が声を担当していたゲーム「Closers」のファンから、クリエーターのところに非難が殺到した。

    ゲームの制作に関わった会社は、このために彼女が仕事から外されたことを公に認めた。キムに対する扱いは、一部から、韓国版の「ゲーマーゲート」(ゲームにおける女性差別に端を発するアメリカでの一連の騒動)だと言われた。

    最近では2018年2月、K-POPグループ「Apink」のメンバー、ソン・ナウンが、「GIRLS CAN DO ANYTHING(女の子は何でもできる)」と書かれたスマホケースを持つ写真を公開して、非難が殺到した事件があった。ソンの写真にはたばこの箱も写っており、ネット荒らしはこれにも飛びついた(K-POP業界は、韓国で最もポピュラーなエンターテインメント輸出業界だが、業界内のセクハラ問題に悩まされてきた。公に届け出る被害者は、まだ1人もいないのだが)

    しかし、戦いはオンラインだけではない。2年前、地下鉄江南駅付近の公衆トイレで、若い女性が殺害された。捕まった犯人は、これまでずっと女性たちに無視されてきたと感じたため、殺害したと語った

    女性活動家たちは、自分が暴力や虐待を受けた経験をポストイットに書き、駅の出口いっぱいに貼った。韓国ではよくあることだが、そうした彼女らの努力は、「差別されているのは自分たちだ」と信じる男性たちによる反対抗議行動を引き起こした。

    「#MeToo運動」が韓国に広がるにつれ、女性に対して嫌がらせや暴力を加えてきた人たちの名が暴露されてきている。2017年12月、映画監督のキム・ギドクは、自分の作品『メビウス』で、女優に平手打ちを食わせて彼女に濡れ場を強要したため、罰金を命じられた

    しかしキム監督が、2018年2月に「#MeToo運動」を公に支援する映画祭に招待されたため、その女優が匿名で声を上げた。この論争を皮切りにして、ジェンダーの不平等で知られる韓国で、激しい「#MeToo運動」が始まった。

    こうした成り行きにもかかわらず、誰もが自由に発言できると感じているわけではない。非難されるのを恐れる多くの女性が匿名で、またはアプリを介して、自分の体験談を打ち明けている。

    職場の男性たちが、セクハラしたと訴えられたくなくて自分を避けている、と報告した人もいる。性的暴行の被害に遭った若い男性たちも、「#YouToo」というハッシュタグを使い始め、性的被害に遭った男性の声が聞こえてこないと主張している。

    さらに彼らは、「#MeToo運動」は、ほかの人たちが「セクハラした」と訴えられるのを見た無実の男性たちに二次的なストレスを与え、彼らを傷つけていると批判している。

    さらに事態を複雑にしているのが、2018年3月、俳優のチョ・ミンギが、講義を行っていた清州大学校で学生に対してセクハラをしたと告発され、自殺した事件だ。

    男たちはフェミニズムを責め、女たちは彼の死を責めた。

    「あなたたちは、『#MeToo運動』に参加する前にもっと慎重になるべきだった」

    ある人はそう訴えた。これに対抗して、オンラインでは「死んでもあなたの性犯罪が消えるわけではない」という意味のハッシュタグが使われた。

    女性のためのNGOとしては韓国で最も古い「韓国女性ホットライン」のソン・ランヒ事務局長は、「私たちは今、状況がこれほど悪化していることに打ちのめされています」と語る。ソウル市プルグァンドン近くにある同NGOのオフィスでインタビューに応じてくれた彼女は、「韓国の女性が直面している大きな問題は何か」という質問に対し、自嘲気味に笑った。「たくさんありすぎます」

    韓国では中絶は今も違法で、レイプによる妊娠、先天異常、母体に危険がある等のケースを除き、最長1年の禁固刑になる可能性がある。人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、韓国では、ほとんどの職場で性差別が蔓延しており、性別による賃金格差は37%あるという。また、2017年に韓国刑事政策研究学院が実施した調査では、調査対象となった男性のほぼ70%が、交際相手の女性を身体的または精神的に虐待したことがあると回答した。

    「韓国女性ホットライン」のソン事務局長はオフィスで、韓国における女性の権利の移り変わりについて語った。彼女の考えでは、1990年代以降、状況は良くなってきていたが、2000年代中頃の保守政権により改善は鈍化した。それ以降、韓国では男性が権利を求める動きが強まり、状況が厳しくなったという。

    「今では手がつけられない状態になっています」とソン事務局長は語る。

    ソン事務局長は、Ilbeのような団体が問題の一端を担っており、韓国における男らしさについて、より大きな問題を表面化させていると認める。彼女のNGOでは、性的嫌がらせや性差別に遭った女性に対してホットラインで支援をする一方、法改正にも力を入れている。しかしソン事務局長は、Famerzのような若い活動家たちが取り組んでいることを楽観する姿勢も見せる。

    「彼女たちは、最初のフェミニストたちの娘です」と彼女は言う。「私たちは彼女たちをサポートする必要があります」

    しかし、韓国の「#MeToo運動」で物議を醸している若いフェミニストは、Famerzだけではない。「メガリアン」側のもっと過激なところにいるのが、K-POPの練習生だったハン・ソヒだ。彼女は、韓国や欧米で、荒らしたちの格好のターゲットとなっている。韓国のフェミニストを批判する「4chan」のスレッドには、ハン・ソヒの写真が載っているし、反フェミニストのアジア人男性向け「subreddit」(ソーシャルニュースサイト「Reddit」のサブフォーラム)である「/r/Hapas」でも、ハン・ソヒのことが話題になっている。

    ソウルの江南地域にあるカフェでインタビューを受けたハン・ソヒはBuzzFeed Newsに対して、「もし(K-POP界で)私が男だったら、こんなハラスメントには遭わなかったでしょう」と語った。

    「私は男性のオンラインコミュニティから、ひどいセクハラを受けてきました」と、彼女は言う。「私が使っている化粧品のことでまで攻撃されたのです」

    ハンは2016年、K-POP練習生のときに大麻を吸って逮捕され、話題になった。それ以後、フェミニストを公言し、Megaliaにつながる過激なフェミニズムに同調してきた。

    2017年11月には、自分のInstagramに、シドニー大学のエリザベス・グロスツ教授の「トランスジェンダーの女性は女性ではない」という趣旨の言葉を引用した。

    「ときどき人に言われます。『あんたなんか、フェミニストじゃない。ただのあばずれ。フェミニズムという言葉を使うのはやめなさい。ただの犯罪者でしょ』。でも、フェミニストになるための資格なんてないのに、おかしいでしょ。誰だってフェミニストになれるのに」とハンは述べる。

    2017年、ハンはK-POP界を離れた。彼女の世界観や行動に対して圧力がかかったからだ。業界内部の人間が、彼女がフェミニズムに関心を高めるのを喜ばなかったのだ、とハンは言う。だから業界を離れ、Instagramを使ってファンに語りかけ、自分のフェミニストとしてのメッセージを広め始めた。

    「女性には、自分の経験を語り、批判を表現する機会があります」と彼女は述べる。「とはいえ、このような動きは心配でもあります。女性を侮辱する男性がいて、女性が深く傷つけられることがあるからです」

    ハンの過激なフェミニズムは、運動のリーダーとしての彼女の立場を難しいものにしてきた。2017年11月、韓国の俳優カン・ヒョクミンが、ソーシャルメディアでハンのことを「彼女は韓国の『フェミニズム』の意味を汚している」「彼女はまともじゃない」と書いた。それに対してハンは、ヒョクミンを「練習生の強姦犯」と呼んで応酬した。ヒョクミンは2018年1月、ハンと、侮辱するコメントを書き込んだ1万人を告訴したと発表した。ハンはこの件についてコメントを避けた。

    好戦的なハンのアプローチはニュースになるかもしれないが、一方でFamerzも、韓国の男女不平等をめぐる議論で活動を広げている。彼らは、メンバーに向けて「ドラァグ」などについて教えるセッションを開き、「クィア」のイベントや、ソウルで開催された自転車版の「スラットウォーク」(性暴力に抗議する女性差別反対運動)である「スラットライド」に参加してきた。

    またFamerzは、ハンと比べると、「#MeToo運動」が韓国で持つもっと大きな可能性について、より熱心に取り組んでいる。

    「『#MeToo運動』は『ミソジニー』を大々的に暴き出しています」とアナは語る。「ハッシュタグを介して、人が人のことを明確に話題にすることは重要です。『ミソジニー』を持つ文化を暴露するのですから」

    彼女たちは、女性がハラスメントについて語るためにハッシュタグを使うのは、韓国では新しいことではないと指摘する。Famerzが活動を始めた頃に行ったことの1つは、別のTwitterアカウントを立ち上げて、ビデオゲームをしているときに嫌がらせをされたことがある人の経験談を公開することだった。

    朴槿恵前大統領弾劾の抗議行動と同じころ、「オタク」による性的暴行を受けたたくさんの被害者が、「オタクが性的暴行」という意味のハッシュタグを使って、自分たちの経験をシェアし始めたが、弾劾運動の最中だったため、集まるはずの注目が集まらなかった。しかし今、「#MeToo運動」は、ハッシュタグへの関心を呼び戻した。

    一方、Famerzのキムは、「韓国女性ホットライン」はFamerzにとって真に尊敬できる組織の1つだと語る。このNGOのように、Famerzも、「#MeToo運動」を取り巻くエネルギーをどう使えば、現実に韓国の文化を変えることができるかということに最も関心を寄せている。キムもアナも、自分たちの世代がそれを実行するだろう、と楽観視している。

    Famerzは3月、新メンバーの歓迎セッションを開き、ビデオゲームのトリビアクイズやボードゲームを行った。現在彼女たちが取り組んでいる大きな問題は、「合意」だ。セックスについて積極的に話すことを阻む、韓国の保守的な姿勢を批判する人は多い。つまり韓国では、「合意」のような話題を公の場で話すのは悪夢だということだ。

    「性犯罪が起きたときはたいてい、酔った男性はより軽い罰を受け、酔った女性はより重い罰が与えられます。多くの男性は、『女性と酒を飲むこと』イコール『合意』だと考えています。酔った女性とセックスすることを、レイプだとは思っていないのです」とアナは説明する。「酔った女性の『合意』の問題は注目されています。私たちは夜に抗議行動を行っています。私は道を安全に歩きたいし、自分の好きなように酔いたいですから」


    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan

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