NY警察の不正を許すな:重大な違反行為をしながら、職に留まる警官たち

ニューヨーク市警察(NYPD)の内部文書によれば、何百人もの職員が、陪審員への偽証や、罪なき人々への暴力といった重大な違反を犯しながら、仕事と年金、大きな権力を持ち続けていた。

    NY警察の不正を許すな:重大な違反行為をしながら、職に留まる警官たち

    ニューヨーク市警察(NYPD)の内部文書によれば、何百人もの職員が、陪審員への偽証や、罪なき人々への暴力といった重大な違反を犯しながら、仕事と年金、大きな権力を持ち続けていた。

    BuzzFeed Newsが入手した複数の機密文書によれば、ニューヨーク市警察(NYPD)では2011〜2015年の5年間で、少なくとも319人の職員が、解雇に値する重大な違反を犯しながらもその職に留まっていた。

    多くの警官が、市民に対して嘘やだまし、盗み、暴行などを働いていたことが判明している。少なくとも50人が、宣誓下での公式報告や内部調査で嘘をつき、38人が過度の実力行使や喧嘩、不必要な発砲で警察の懲戒審査会で有罪と認定された。57人は飲酒運転、71人は違反の見逃しで有罪となった。ジャレット・ディルという警官は殺しの脅迫を行い、ロバーソン・チュニスは同僚にセクシャルハラスメントを働き、不適切に体を触った。上司に盾突くなど、軽い違反で有罪となった者もいる。

    少なくとも20人以上の職員は、勤務場所が学校だった。アンドリュー・ベイリーは学校の女子生徒を車に乗せている時に彼女の太ももを触り、ほおにキスしたとして有罪となっている。レスター・ロビンソンは勤務中、学校の駐車場で女性にキスし、シャツを脱ぎ、下着まで脱ぎ始めた。フアン・ガルシアは非番のとき、おとり捜査官に対して処方薬を違法に販売した。

    いずれのケースでも、懲戒処分の最終権限を持つ警察委員長は「免職猶予」という決定を下した。事実上、ほとんど実態のない罰則であり、処分を受けた職員は同じ給与で働き続けることができる。残業時間は制限され、昇進もできないが、通常、その期間は1年限り。1年が経過したら、この猶予期間も終わる。

    現在も、こうした処分を受けた職員の多くが、街頭パトロールや人々の逮捕、その収監、刑事訴追での証言といった仕事を続けている。しかし、違反を犯した職員に逮捕された人々は、職員の記録にアクセスするすべがほとんどない。そのため、逮捕された側はほとんど何も知らないまま、法廷で戦うか、罪を認めるかといった、人生を左右する決断を下さなければならない。自分を逮捕した職員が以前に虚偽証言などで有罪判決を受けているかどうかは、陪審員の判断を左右する重要な情報であるにもかかわらずだ。

    BuzzFeed Newsは、数百ページ分の内部文書を入手した。NYPDは、あらゆる懲戒記録と同様に、これらを機密情報として扱っている。NYPDはその理由として「人事記録」に関する州法を挙げているが、この州法そのものが論争の的になっている。内部文書を提供してくれたのは、匿名希望の情報筋だ。内容の裏づけを取るため、100回以上の電話と自宅への訪問を通じて、NYPDの職員たちから聞き取りを行い、検察官や弁護士を取材し、数千ページにおよぶ裁判記録を調べた。

    BuzzFeed Newsは今後の数カ月で、免職猶予の処分を受けたNYPDの警察官と一般職員に関するデータベースを公開する予定だ。

    徹底的に隠されてきたNY市警最大の秘密がいよいよ明るみに出た

    今回入手した「免職猶予ファイル」は、2011〜2015年に処分を受けたすべての職員を記載しているわけではない。NYPDによれば、5万人以上いる職員と民間従業員のうち、少なくとも777人の職員と多くの民間従業員が、2011年からの5年間に免職猶予処分を受けているという。また同期間、懲戒処分が決定する前に、463人が職を追われるか、自ら辞職している。

    それでも現時点では、免職猶予の慣行が最も詳細に記録されているファイルだ。NYPDがかたくなに守ってきた秘密の一つを暴露するものであり、重大な違反を犯しながら警察権力を行使し続けている職員たちに関する情報が詰まっている。

    ニューヨークの公共ラジオ「WNYC」が2015年に行った調査によれば、警察の不正行為に関する記録が人目に触れないよう保護する法律が存在するのは、ニューヨーク、デラウェア、カリフォルニアの3州だけだという。世論の圧力が高まり、全米の警察が透明性を高めるよう求められているにもかかわらず、NYPDは近年、州法に基づく厳格な対応に、より一層力を入れている。

    BuzzFeed Newsが入手した情報によれば、免職猶予は職員を窮地から救うためだけでなく、自由裁量によって職員を罰するためにも利用されている。こうした場合の処分の理由は、内部における不正行為を報告した、上司の機嫌を損ねた、などがあげられる。

    人種差別を受けたとしてNYPDを訴えた、元監察官のダイアン・デイビスは「10人の警官が全く同じ悪事を働いたとしても、結果はすべて違います。もし不満があっても、忘れるしかありません」と話す。

    免職猶予ファイルの対象期間中にNYPDのトップである警察委員長を務めていたビル・ブラットンとレイ・ケリーに取材を申し込んだが、いずれも応じてもらえなかった(現在の委員長ジェイムズ・オニールは2016年に就任している)。

    BuzzFeed Newsは、この記事に登場するすべてのNYPD職員に対して、自宅への電話か手紙で接触を試みた。一部の職員は住所が変わっていたため、労働組合とNYPDの両方に名簿を送り、職員たちにコメントの機会を与えてほしいと依頼した。しかし、ほとんどの職員からは反応がなかった。

    NYPD内部の懲戒審査会において、訴追する職員を決定する立場にある内部審査局(Department Advocate’s Office)のケビン・リチャードソン副局長は、NYPDを代表する立場から、特定の職員についてコメントすることは法律で禁止されていると述べた。一方で一般論として、免職猶予には意味があると語った。

    リチャードソン副局長はBuzzFeed Newsに対して、「NYPDは、不要な懲戒免職を避けたいと考えています。私たちが重視しているのは、職員の雇用を維持し、ルールを守らせること、そして正しい行いをさせることです」と語った。「懲戒免職に値する過失があった場合、現在の委員長であれ、以前の委員長であれ、躊躇はしませんでした」

    リチャードソン副局長は、2014年にNYPDの一員になってから、より公正なプロセスの実現に尽力しており、不正行為で有罪判決を受けた職員への罰則を見直しているところだと言い添えた。ただしNYPDは、罰則を変更した例や、リチャードソン副局長の主張を裏づけるデータを提供していない。

    学校安全部門の労働組合トップを務めるグレゴリー・フロイドは、組合員の不正行為があったとすれば「容認できない」と述べた。

    NYPD最大の労働組合「パトロール警官慈善組合」の広報担当者アル・オライリーによるメッセージは異なる。「組合員の不利益になることを話すつもりはありません」

    元NYPD巡査部長のジョセフ・ジャカロンは、20年を超えるキャリアのうち2年間、内部監査を担当していた。「免職猶予は、何らかの大失敗を犯し、それが故意でない場合に適用される罰則です。簡単に言えば、うっかりミスということです」

    ただしジャカロンは、嘘や備品の窃盗といった重大な違反を犯した職員は解雇されるべきだと述べた。「なぜなら就任時に行った宣誓を破ったからです」

    「その件について話すつもりはまったくありません」

    NYPDの警官レイモンド・モレロは最初の6年間に、ある人物を激しく殴打し、別の人物を誤認逮捕し、別の人物に暴行を働き、さらに別の人物の証拠をでっち上げた疑いで起訴された。モレロは坊主頭で、ずんぐりした体型をしている。

    2008年2月、ブロンクス52分署に所属していたモレロは、ある女性を逮捕した。女性はモレロの動画を撮影していたが、それはモレロが自分のボーイフレンドに暴力を振るったためだ。モレロらは、女性の携帯電話を押収し、その後返却することはなかった。女性は、公務執行妨害、治安妨害、迷惑行為の嫌疑をかけられたが、結果はすべて無罪。女性は訴訟を起こしたが、ニューヨーク市は不正行為を認めることなく、女性に2万5000ドルを支払った。BuzzFeed Newsが入手したファイルには、モレロが懲戒処分を受けたという記録は残されていない。

    数カ月後の2008年4月、モレロはブロンクスにあるトヨタのディーラー前で駐車違反の取り締まりを行い、相手の男性と口論になった。モレロが男性を逮捕した理由について、裁判官は「信じがたい」と断じた。男性は後に、地面に投げつけられ、何度も頭を殴られたと主張している。ニューヨーク市が不正行為を認めることはなかったが、男性に対する嫌疑はすべて取り下げられ、50万ドルを支払って和解した。BuzzFeed Newsが入手したファイルには、モレロが懲戒処分を受けたという記録は残されていない。

    2009年前半には、NYPDのボランティアとして働いていたルイス・デルーカが、兄弟のガールフレンドである17歳の女性が痴漢行為を受けているところに出くわした。加害者の男性は友人たちとともに立ち去り、そこにモレロが現れた。「私は彼に対して『家族に痴漢行為を働いた男たちがいる』と言いました。『まだ近くにいる』と」

    デルーカによれると、モレロとその同僚は「黙れ」と言った。デルーカは驚き、「最低男」と言い返した。デルーカが後に起こした訴訟の記録には、モレロらはデルーカを地面に押さえつけ、逮捕したと書かれている。

    52分署に到着し、デルーカが車を降りると、モレロは警棒でデルーカを殴りつけ、デルーカは頭のてっぺんに深い切り傷を負った。モレロの相棒は出血がひどいと言い、2人はモップで血を拭いた。12針の重症だった。

    デルーカは宣誓供述書の中で、「街中であのような無礼は許さない」とモレロに言われたと振り返っている。デルーカは和解金として39万8000ドルを受け取り、モレロはそのうち4000ドルを支払うよう命じられた。

    有罪判決を受けた後も彼は街をパトロールし、多くの人を逮捕し続けた

    デルーカの逮捕から1年後、モレロと同僚が、手錠をかけられた囚人を押さえつけ、別の職員が囚人の頭を踏みつけるという出来事があった。モレロは内部調査で、3人とも暴力を行使していないという虚偽の供述を行った。

    結局、ニューヨーク市は2014年までに、モレロに対する複数の訴訟の和解金として約90万ドルを支払っている。

    モレロとニューヨーク市はいずれも、公には不正行為を認めていない。

    ただし、BuzzFeed Newsが入手したファイルによれば、その後、モレロはひそかに複数の罪を認めている。具体的には、「治安上の正当な目的なく」個人を殴打したこと、「不要な身体的接触を行った」こと、内部調査官の質問に対し、「不正確かつ不完全で誤解を招く回答をした」ことだ。

    それでも、当時NYPDの警察委員長だったケリーは、モレロを解雇する理由にはならないと判断した。結局、モレロは免職猶予を言い渡され、45日分の有給休暇の剥奪という処分が下されている。

    モレロは現在も仕事を続けており、2017年には、12万ドル近くの給与を受け取った。有罪判決を受けてからも、彼は街をパトロールし、多くの人を逮捕し続けている。

    BuzzFeed Newsはモレロに電話取材を申し込んだ。モレロは連絡をとろうとしてくれてありがたいと述べた上で、「その件について話すつもりはまったくありません」と答えた。

    1995年に設立された「警察汚職対策委員会」は、NYPDの懲戒プロセスをすべてチェックしており、その中にはモレロのケースも含まれている(報告書は匿名で記されているため、モレロの名前が出てくることはない。しかしBuzzFeed Newsは、免職猶予ファイルと民事訴訟の法廷文書を照合し、2009年1月にデルーカが逮捕されたケースが含まれていることを確認した)。

    警察汚職対策委員会はモレロの行動について、「警官に必要な特性を欠いている」可能性があると指摘。その上で、免職猶予ではなく免職に処されるべきだったと結論づけている。ただし、警察汚職対策委員会はNYPDの決定を覆す権限を持っていない。

    BuzzFeed Newsは、すでにNYPDのボランティアをやめたデルーカに、デルーカを警棒で殴った警官はまだ仕事を続けていると伝えた。デルーカはショックを受けた様子で、「冗談ですよね?」と問いかけてきた。「私は1000%確信していました。彼は職を失うと」

    デルーカは首を横に振り、こう述べた。「私には想像できません。彼はあれから何人に同じ行為をしたのでしょう?」

    「それはどういうメッセージを送ることになるのでしょうか?」

    NYPD警察官の不正行為が非公開であるのは、米国内でも特に厳しい法のためだ。ニューヨーク州の人権法第50-a節の草案が初めて作成された時、州議会議員たちは、刑事被告人の弁護士や検察官が重大な不正行為の記録を入手する必要性と、警察官のプライバシーを保護する必要性との間で、うまくバランスを取ったと考えた。だが、そううまくはいっていない。

    40年以上前にこの法案が議論されたとき、当時3000人いた地下鉄など公共交通部門担当の警官らを代表していたパトロール警官慈善組合の組合長ジョン・メイは、法案を支持しつつも、裁判において被告側の弁護士が、警察官に関する「根拠のない未証明の申し立て」や「機密情報や、特定の者しか知らない医療記録」を意図的に公開し、悪用していると申し立てた

    そこで州議会は、懲戒記録の公開・非公開の決定を、裁判官の手に委ねる法案を1976年に可決した。裁判官が自由裁量権を行使して、公益にならない記録は非公開にし、罪に問われている被告側が自己弁護に必要とする記録は公表するだろうと考えたのだ。

    この州法では、「警察官の個人記録は極秘扱いされる」と定められている。NYPDや他の部署、警察組合は、個人記録として認定される対象を拡大するため、長年にわたって闘ってきた。そしてほとんどの場合、その主張は裁判所に認められてきた。

    警察職員の懲戒記録の公開は法律に違反しているのか

    現在、ほとんどのNYPD警察官の弁護を行っているパトロール警官慈善組合は先日、ブロンクスで警察官と武装男性とが交戦して死者が出た事件の動画を公開したとして、NYPDを訴えた。ボディカメラの映像は、警察官の個人記録の一部なので極秘だ、と同組合は主張したのだ。NYPDに対するこの訴訟は、現在も係争中だ。いくつかの報道機関が、映像の一般公開を支持する申し立て書を提出したが、BuzzFeed Newsもその中に含まれている。

    懲戒審査会の結果は、数十年間にわたって、どこで探せばいいかわかっている者なら、NYPD本部庁舎の13階にあるクリップボードで閲覧できた。しかし、2016年5月、米国最大の公選弁護人団体「リーガル・エイド・ソサエティー」が、懲戒審査会の結果すべてについて情報公開の申請を行った時、このクリップボードは突然消えた。NYPDは当初、書類を保管していると主張していたが、現在は、懲戒記録を閲覧可能にするのは(たとえこれまでのように制限されたかたちであっても)、1976年成立の法に違反している、と主張している。リーガル・エイド・ソサエティーは情報公開を求めて訴えを起こし、現在も係争中だ。

    懲戒審査会は、名目上は一般公開されているが、その日程と場所は発表されないので、結果的には非公開だ。そうしたことから、本部庁舎の11階にある殺風景な小部屋で起きていることを、一般のニューヨーク市民が知る術は基本的にない。この部屋では、備品の窃盗や不当逮捕、過度の暴力といった、重大な不正行為で告発された警察官が弁明を行う。

    第三者による調査はほとんど行われていない。一部警察官がBuzzFeed Newsに語ったところでは、この懲戒審査会は単なる「つるし上げ」の場に過ぎず、えこひいきや人種差別、罪を認めよという圧力が横行しているという。さらに厳しい処罰を受けるのを恐れて抗弁しなかった、と語る者もいた。

    懲戒審査を監督するのは、独立した審査官ではなく、警察委員長の意向に沿って動く警察幹部だ。証言を聞いた後、警察官が罪を犯したと見るべきかどうか、どういう処罰を与えるべきか、審査官が非公開で勧告を行う。

    だが、勧告を受けてどう対処するかを決定するのは、警察委員長だ。その決定に適用される規則はない。審査官が、免職に値するほど重大な不正行為だと判断したとしても、警察委員長は勧告を無視できる。

    このように広範な裁量権を有するが、1988〜2002年に懲戒審査会を統括したレイ・コシェッツが言うには、不法薬物使用と、窃盗や汚職、殺人に関係するケースは、ほぼ確実に免職になるという。BuzzFeed Newsがコシェッツに対して、免職猶予ファイルには、薬物使用や窃盗、または「盗品と知りながらの所有」で有罪と認められた警察官が1年間の免職猶予処分にとどまった12件のケースが含まれていることを説明すると、同氏は驚き、懸念した。

    「それは他の警察官にどういうメッセージを送ることになるのでしょうか?」

    嘘をついたら、厳格な規則により、懲戒免職されることになっている。NYPDのパトロールの手引きによれば、「重要事項」について嘘をついた警察官は、「特段の事情」がない限り、免職されることになっている。

    NYPD内部監査局のリチャードソン副局長は、この嘘の証言は非常に重大な罪だと考えているが、必ずしも即時免職の理由にはならないと述べた。警察官が反省をしている場合など、特定の状況では「当該警察官や、それを見ていた他の警察官が、NYPDでは許されないことだと気づけるように、免職猶予処分」を選ぶという。

    免職猶予ファイルに記載されている警察官のうち50人以上は、公的な場において、あるいは大陪審や地区検事長、内部監査官に対して、誤解させたり「不正確な」発言をしたりしたと認められたのに、まだ罷免されていなかった。

    たとえば、当時ブロンクスの48分署に勤務していた警察官のリサ・マーシュは、犯罪をもみ消し、捜査に関連する偽造文書を提出していた。カルロス・レイドはマンハッタン地区検察局に対して、逮捕に関する「不正確な事実を提示した」。給与支払い名簿によると現在はブルックリンで勤務しているジーザス・ロルダン刑事は、大陪審に対する宣誓下での証言で「不正確な発言」を行った。

    嘘の証言は許されないというNYPDの公的立場にもかかわらず、これら3人の警察官全員が、まだ現場で働いている。3人にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

    「言語道断」

    警察官による偽の告発で、無実の人間が刑務所に送られる場合もある。たとえば、クイーンズのある刑事は2018年、薬物の証拠品をねつ造し、無実の人間を52日間刑務所送りにしたとして有罪判決を受けた。ブルックリンでは、殺人課の元刑事ルイス・スカーセラによる偽証と証拠改ざんの疑いにより、検察当局が40件以上の事件を見直す事態につながった。これまでに、スカーセラが扱った7件の殺人事件で有罪判決が覆されたが、そのなかには、ある男性が不当な有罪判決を受けて20年以上服役していた事件も含まれる。

    罪に問われたニューヨーク市民たちはふつう、法廷でのチャンスに賭けるか、減刑と引き替えに有罪を認めるか、どちらかの決断を迫られる。多くの場合は警察官の報告を疑問視する十分な理由がないので、被告側弁護士は、依頼人である被告に対して、司法取引を行うよう助言する。陪審員は、被告の言葉よりも警官の言葉を受け入れる可能性が高いためだ。州全体では、重罪で告発された者のうち98%以上が、結果的に裁判を受けずに有罪を認めている

    問題の警察官が偽証で有罪判決を受けたことを示す証拠があれば、そうした計算が変わってくる可能性がある。だが、そういった証拠は、被告が決断を下す前に入手することがほぼ不可能だ。

    連邦法により、検察官には、被告の潔白を証明するかもしれない証拠を引き渡すことが義務づけられているが、それに何が含まれ、いつ提出しなければならないかについては議論の余地がある。

    被告側弁護士が、警察官の懲戒記録の内容を自分の目で確かめたいと思っても、いくつかのハードルを越えなければならない。まずは、被告が問われている罪に直接関係がある内容が警察官のファイルにあることを、裁判官に納得させる必要がある。だが、ファイルを見ていないのに、そうした主張をするのは困難だ。そのため、わけもわからないまま準備を進めている、と被告側弁護士は述べる。刑事事件と人権を専門として2006年からニューヨークの法廷で仕事をしてきた弁護士ダン・マクギネスがBuzzFeed Newsに語ったところでは、その警察官に言及するニュース記事や訴訟がないか、ネットで検索して、何かが徐々に公になっていることを期待するしかできないという。「両手を縛られているようなものです」とマクギネスは語る。

    マクギネスの法律事務所の共同経営者であるアダム・パーマターは、「水面下には」多くの情報が存在する可能性がある、と付け加えた。

    被告側弁護士が、裁判官を説得して記録を調べることができたとしても、裁判官がその公開を認めるかどうか、という疑問がまだ残っている。

    裁判官が資料の引き渡しを命じたとしても、検察側はニューヨークの関連法の抜け穴を利用して、裁判の直前まで引き渡しを見合わせることも多い、と被告側弁護士は語る。

    そのため、情報の調査や証拠の見直し、証人の居場所特定と面談を行い、依頼人の無実を証明するのに役立つかどうかを判断する時間が、被告側弁護士にはほとんどない。

    「検察側は、待ち伏せ攻撃での裁判を求めている」と、リーガル・エイド・ソサエティーの弁護士ジョン・ショーファルは語る。

    警察の許しがたい行為の被害者は、それと同じ苦しい戦いに直面する。

    2015年、当時家政婦だったロージー・マルチネスは、尋問中に殴られたとして2人の警察官を訴えた。マルチネスの人権訴訟を引き受けた弁護士チームは、責任を負うべきだと彼らが考えた警察官たちの懲戒ファイルの閲覧を求めた。

    そのうちの1人であるジェイソン・フォージョン巡査部長は、違法捜査の隠蔽で免職猶予処分を受けており、その嘘は、次々と悪い結果を生んでいた。検察官は、重罪犯に対する訴訟の取り下げを迫られ、ニューヨーク市の納税者は、3万3500ドルの和解金を負担しなければならなかったのだ。フォージョンも、ニューヨーク市も、不正行為を認めなかった。フォージョンは今回の取材でコメントを拒否した。

    だが、裁判官の命令を無視して、市はそうした情報を引き渡さなかった。裁判官はそれを知ると、市の弁護士とNYPDを激しく非難した

    市の行為は「言語道断」であり、マルチネスが訴訟で闘う能力に取り返しがつかないほどのダメージを与えた、と裁判官は書いている。訴訟は現在も係争中だ。

    かつては警官を弁護する民事訴訟で市のために働き、現在は人権専門弁護士であるジョエル・バーガーは、「依頼人は2度、苦痛を味わいます。まずは、依頼人を虐待する警官の手によって苦しめられ、次に、市の法務部によって苦痛を与えられます。依頼人が向こう見ずに訴えを起こせば、苦況に置かれるのです」と語る。

    何が真実で、何が嘘なのか、判断することは非常に難しい

    虚偽の証言のような重大な犯罪を犯した警察官を免職しない決定によって傷つけられるのは、被告人や、警察の不正行為の被害者だけではない。

    警察官が嘘をつくことで、合法的な警察の仕事が危険にさらされたり、服役すべき者に対する訴訟の取り下げや棄却を、検察官や裁判官が迫られたりする場合もある。

    虚偽の陳述の記録は、「その警察官が関与したあらゆる事件を脅かしかねません」と語るのは、元連邦検事で現在はブルックリン・ロースクールに所属するベネット・ケイパース教授だ。「少なくとも検察は、過去の有罪判決を再審し、その警察官がどんな役割を果たし、それが過去の判決に対する信用に影響したかどうかを確認することが必要になる可能性があります」

    その一例が、NYPDの審査会で、嘘をついたと認定されたが、解雇されずに免職猶予処分を受けていた警察官のルイス・リオスだ。5年後にリオスは、懲役20年以上の刑に直面した麻薬密売人の訴訟で、その時の出来事について質問された。リオスは正直に答えなかった。

    「そのため裁判所は、リオスの証言のうちどの部分が真実と考えられるのか、まったく確信が持てない」と、裁判官は裁判所命令に書いた。リオスが唯一の証人となる告発はあきらめるしか選択肢がない、と裁判官は述べた。その結果として被告は、少ない罪状で1年の刑を言い渡された。

    コメントを求めたが、リオスは回答せず、現在もNYPDで働いている。

    警察官も犠牲に

    懲戒をめぐる秘密主義は、警察官にも被害を与えかねない。

    NYPDでは、公開での審査が行われず、不正行為を罰する基準もない。些細な違反をして警告で済む場合もあれば、重い処罰を科される場合もある。

    警察の組合は、署長の一方的権限を制限し、懲戒手続きをよりコントロールできるものにしようとしてきた。パトロール警官慈善組合の広報担当者アル・オライリーは、「現在の懲戒システムは行き過ぎで、きわめて厳しいと思います。しかし、警察は軍に似た組織なので、私達のこれまでの挑戦はすべて、『署長が最終的な決定者』という言葉でうやむやにされてきました」と語る。

    NY市警の懲戒処分には基準すら存在していない

    警察汚職対策委員会が匿名で言及したある警察官は、「シングルマザーなので、新しいポストに配属される前に保育の手配に2日必要だ」と上司に言っただけで、1年間の免職猶予処分と122日間の停職処分、30日間の減給処分になったという。

    現警察官と元警察官数人は、違法なノルマや差別的扱いを疑問視したところ、免職猶予処分を受けて異動になったと語る。ほとんどの者は、さらなる報復への懸念を表明し、匿名での情報提供を希望した。

    2013年にNYPDを去ったデイモン・ポーターは、インタビューを受けて懲戒ファイルのコピーをBuzzFeed Newsに提供することに同意した数少ない者の1人だった。

    ポーターは、19年におよぶ勤務のうちの5年間、他のラテン系警察官が起こした、差別的な懲戒基準をめぐる集団訴訟に加わったという。その後、上司は、ごく些細なミスや、相手が他の警察官ならよく無視している問題まで記帳し始めた、とポーターは語る。

    2012年5月、ポーターは、本部庁舎の審査室に呼ばれた。

    ポーターに対する告発の多くは「比較的些細なこと」だったが、ロバート・バイナル審査官は、「上司に対して失礼な態度を取り、ある事件の捜査を十分に行わなかったこと」を問題視し、問い質した。バイナル審査官は、1年間の免職猶予を勧告。その事件を一緒に担当したポーターの同僚が叱責処分を受けただけであることを考えると、これはあまりに重すぎる。だが、当時、警察委員長を務めていたケリーは、免職猶予処分では不十分だと考えた。ポーターが警官にはもう向かないと判断したのだ。定年の1年前だったため、ポーターは年金受給額が年1万ドル以上減額された。

    その9カ月後、ケリー委員長のデスクに、警官レイ・モレロの記録が届いた。

    モレロは、警棒で男性を殴打し、NYPDに嘘をついたと認定されていた。だが、ケリー署長は、モレロが第二のチャンスを得るに値すると判断し、免職猶予処分にした。

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:米井香織、矢倉美登里/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan

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