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これは本当の話だ。180人以上の女性があるマッサージ店で性的暴行を受けていた

全米に展開するマッサージ・チェーン「マッサージ・エンヴィー(Massage Envy)」では、手頃な価格で心地良さが得られ、しばし現実を忘れることができる。しかし、180人以上の顧客が、マッサージ・エンヴィーで、マッサージではなく性的暴行を受けたと言っている。しかし、10億ドル規模の売上があるこのマッサージ・チェーンは、「それは自分たちが解決すべき問題ではない」と主張。BuzzFeed Newsがこの件を調査した。

2015年5月2日、スーザン・イングラムは、米国ペンシルベニア州ウェストチェスターにある近所の「マッサージ・エンヴィー」でうつぶせになっていた。全米に展開する約1200店舗のうちの1つだ。店側から強く薦められたマッサージ師、ジェイムズ・デイターによる7回目のマッサージだった。7回目だったこともあり、イングラムはデイターを信頼し、目を閉じてリラックスしながら筋肉をほぐしてもらっていた。ところが、いきなりデイターは、彼の硬くなった性器をイングラムの体に押しつけてきた。そして、イングラムの胸を掴み、指を彼女の膣に何度も挿入したという。

イングラムは横たわったまま、恐怖と信じがたい気持ちに襲われ、マッサージのセッションが終わるまで動くことができなかった。泣きながら車を運転して帰る途中、店に電話をし、性的暴行を受けたことを伝えた。その時、デイターは別の女性客のマッサージ中だったが、マネージャーは「中断はできない」と言い、イングラムの電話を店のオーナーに取り次ぐことも拒否した。イングラムはショックを受けたという。

「私は彼女(マネージャー)に、こう言いました。『ニコル、彼は私の膣に指をつっこんだんです。それから1時間も経っていません』」。のちにイングラムは、法廷でそう証言した。イングラムは、デイターの客をすぐにマッサージ・ルームから出すよう、マネージャーに懇願した。「彼女は『それはできません』と言って、私がどんなサービスを受けたのか、詳しく話をしに来るよう言ったのです」

どうしようもなくなり、イングラムは警察に電話し、警察はその日の午後、デイターに事情聴取をした。デイターはすぐに、イングラムだけではなく、マッサージ・エンヴィーのほかの客も暴行していたことを認めた。「弁護士を頼みたい」と、デイターは罪を認めた。彼は翌年、マッサージ・エンヴィーで働いていた2014年秋から2015年春の間に、合計9人の女性に性的暴行を加えたという罪状を認めた

「ニコル、彼は私の膣に指をつっこんだんです。それから1時間も経っていません」

裁判記録によると、イングラムの前にも、2人の女性がデイターのことを店に報告していたという。イングラムが暴行を受けた3カ月前、1人の女性が、デイターに性器を触られたことを店に伝えていた。さらに、1カ月前には、別の女性がデイターに胸を触わられたと報告していた。しかし、店は2人の主張には信憑性がないと判断した。その理由として挙げられたのは、どちらの女性も、イングラムと同じように電話で訴えてきており、直接、話し合うために来店しなかったことだった。のちに弁護側は、この店のオーナーとマネージャーに、「なぜ、性的暴行を受けたとされる人が犯行現場に戻りたいかどうかで、訴えの内容を判断するのか」と質問している。

オーナーは、「私はマッサージ・エンヴィーの方針に従っていました。ですから、それが適切なやり方だと思ったのです」と答えた

マッサージ・エンヴィーは米国で初の、そして一番大きいフランチャイズのマッサージ・チェーンであり、手頃な価格で信頼できるサービスを約束する、10億ドル規模の売上をもつ企業だ。しかし、これまでに180人以上の顧客が性的暴行を受けたとして、店やその従業員、マッサージ・エンヴィーに対して訴訟を起こしたり、警察に届け出たり、各州の協会に訴状を提出したりしていることがBuzzFeed Newsの調査で明らかになった。イングラムのように、多くの顧客が、店の従業員やオーナー、マッサージ・エンヴィーの会社に訴えても、きちんと対応してもらえなかった、あるいは無視された、と語っている。

数十人の女性が、指や舌を挿入されたと報告した。オレゴン州のある女性は、膣にこぶしを無理やり入れられ、顔に射精されたと語った。フロリダ州の女性は、膣を舐められて、マッサージ師を押しのけようとした経験を語った。100人以上が、マッサージ師に性器を触られた、胸を触られた、あるいは明らかな性的暴行を受けたと報告した。カリフォルニア州の女性の場合は、マタニティ・マッサージの最中に目を開けたら、マッサージ師が乳首を吸っていたという。

「私はマッサージ・エンヴィーの方針に従っていました。ですから、それが適切なやり方だと思ったのです」

マッサージ・エンヴィーによれば、こうした訴えは、彼らのフランチャイズ店が提供してきた何千万回ものサービスから見ればほんの1部でしかない。それでも、被害を受けた顧客の弁護士たちはBuzzFeed Newsに対して、「女性がマッサージ師に性的虐待を受けたことを警察に届け出ても、誰も逮捕されないというケースがもっとたくさんある」と語った。また、時には、マッサージ・エンヴィーの店が、訴訟を起こされる前に和解を提示することもあり、そうすると公的記録は残らないという。統計によると、性的暴行の被害者のほとんどが、まったく届け出ない。マッサージ・エンヴィーの新しい従業員向けの教育マニュアルでさえ、顧客満足全般について取り上げる中で、「問題があったときに実際に文句を言ってくるのは、腹を立てた顧客の4%しかいない」と説明している。

マッサージ・エンヴィーはBuzzFeed Newsに対して、「係争中のため」、そして秘密文書が関係しているため、質問に「逐一答えるのは適切ではない」と語った。しかし、マッサージ・エンヴィー・フランチャイジングの法務担当役員を務めるメラニー・ハンセンは、「全体的に見て当社は、この業界におけるマッサージ師の雇用、審査、訓練を行う際の『最も厳しい方針』の策定に力を注いできました」と述べる。ハンセンはBuzzFeed Newsへのメールで、「フランチャイズのオーナーは、当社の方針に添うという責任を負っています。当社は、敬意をもって顧客を扱うこと、顧客に安全で専門的な経験を提供することが何より重要だと心から考えています」と説明した。

しかし、BuzzFeed Newsの調査では、「不適切な行為の報告」についての同社の方針は、顧客の苦情が適切に取り扱われるようにするためというよりは、会社のブランドを守るためだということが明らかになった。衝撃的な方法で暴行を受けた顧客たちは、自分たちの報告が無視されるのを経験してきた。その間、問題を起こしたマッサージ師たちは、何の影響も受けずに職業的地位を維持することを許されてきたのだ。

「当社は、敬意をもって顧客を扱うこと、顧客に安全で専門的な経験を提供することが何より重要だと心から考えています」

ほとんどの州で、マッサージ施設には、自分たちの施設内で起こった性的暴行の訴えを報告する法的義務はない。それでも、この業界の第一人者たちは、マッサージを提供する者は、自分の本来の職務を認識し、できる限り完全かつ迅速に事に取り組むべきだと述べる。アメリカ・マッサージ・セラピー協会は、「一線を超えて、不適切に顧客に触れたマッサージ師は、誰であれ、それに伴う法的な結果に向き合うべきであると強く確信している」と述べる。さらに協会は、どのような手続きを取るかは被害者が決めるべきだと強調しつつも、「不適切な行為があるかもしれないと感じたら、直ちに地元の警察に届け出ていただきたい」と促している。

反響を呼んだ『Ethics of Touch(タッチの倫理学)』の共著者ベン・ベンジャミンは、もっと率直だ。「もし『私の膣に指を入れた人がいる』と言う人がいたら、もちろん警察に電話してください」

マッサージの専門家は、顧客が犯罪の犠牲になっていたかどうかが定かではなくても、従業員はその顧客に対して、警察や州のマッサージ・セラピー協会に訴え出るよう、勧めるべきだと語る。被害者の権利を擁護する人々は、「施設は、報告に関する自らの方針を明確に提示し、もし犯罪が行われたという申し立てがあれば、特別に訓練された独立のコンサルタントを雇うべきだ」と主張している。

マッサージ・エンヴィー・フランンチャイジングは、各店舗に対し、こうした手順のいずれも要求していない。その地区の法律で求められているようなまれなケースを除いて、同社はフランチャイズ加盟店に対し、警察に届け出る、あるいは、何が起きたかを明らかにするために資格のある調査員を雇う、などの措置を強制してはいない。申し立ての内容が深刻かどうかは関係ない。例えレイプであっても、同じ姿勢なのだ。

この会社が、加盟店に対して、そのような申し立てがあった場合に「やらなければならない」と指示していることは、独自の「素早く公正で完全な」調査だ。しかし、どのように調査するかについては、ほとんど指標はない。

店ごとで経験は大きく異なるだろうが、カリフォルニア州からメリーランド州に広がるフランチャイズ店の元オーナーや元従業員は、自分たちでそのような問題を対処できるとは思えなかったと語る。

「正直言って、会社は、そこまで深刻なシナリオを想定した準備をさせているとは言えないでしょう」と明かすのは、2010年から2016年にかけて、オペレーション・ディレクターとして、マッサージ・エンヴィー傘下の12以上の店舗を監督していたケンドラ・シモーヌだ。従業員は、事件がネガティブな評判に発展しないようにする方法を学んだが、犯罪行為の可能性がある事柄を調査するやり方は学ばなかったという。

「調査方針は、会社を守るためにあるのです。事態を緩和して、顧客が警察に通報しないようにするための指針です」

社内調査の方針が「顧客を守るために設定されているのではありません」と述べるのは、2014年から2017年6月まで、モンタナ州の店で、受付として、その後クリニック・マネージャーとして働いていたケイト・ハーディだ。「調査方針は、会社を守るためにあるのです。事態を緩和して、顧客が警察に通報しないようにするための指針です。次の日に、パトカーが店に現れてほしくないですよね」

シモーヌは、自分のスパでは、顧客が性的暴行を訴えたことはなかったと語る。「もしそんなことが起きたとして、それぞれの店のマネージャーが適切に処理するか、そして、彼らがそのための適切なツールを持っていると確信できるかと問われれば、多分できないです」と彼女は述べる。

裁判の書類と声明書において、マッサージ・エンヴィーは、フランチャイズの取り決めの性質により、同社は、店で起こる性的暴行の責任を負わないと述べている。同社のハンセンによれば、各店舗は日常の業務を管理し、その中には、不適切な行為をどう調査するかというを決めることも含まれているという。

元顧客の弁護士たちは、異なる主張をした。各店舗は独立していても、マッサージ・エンヴィーの方針に則って従業員を訓練している。社内調査の必要性のような業務基準を設定し、そうした調査の進展を監視するのが親会社だとし、親会社はこれらの方針が機能しなかったことに対しての責任を負うべきである、と彼らは主張する。

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これまでマッサージ・エンヴィー・フランチャイジングは、同社の店舗で起きた性的暴行の被害者に対して公開法廷に出る必要はなかったようだ。しかし、1月に始まる予定のイングラムの民事訴訟では状況が変わるかもしれない。

一方、マッサージ・エンヴィーの店舗では、顧客たちが性的暴行を受け続けている。不適切な行為に対する複数の苦情を受けた後でも、問題のマッサージ師を雇い続けてきたスパもある。警察や州のマッサージ・セラピー委員会に犯罪を報告することなく、マッサージ師をクビにしたスパもある。そうしたマッサージ師は、犯罪履歴が残らずに、新たな仕事を得ることができる。

イングラムは今でも、自分が警察に通報すると決心しなかったら、デイターは今日もマッサージ師として働いているのだろうかと考えるという。

「マッサージ・エンヴィーは共犯者です」とイングラムは言う。「マッサージ・エンヴィーには、何度も彼を解雇する機会がありました。でも、そうしないことを選んだのです」

マッサージ・エンヴィーのはじまりは2002年。マッサージ師とフィットネスクラブ・チェーンの共同所有者が、「月ごとのメンバーシップ」というやり方をマッサージ業界に適用し、「贅沢な日帰りスパ」でも「みすぼらしい美容院」でもない、手ごろなサービスを提供できないかと考えたのがきっかけだ。その後10年間で、スパとウェルネスの業界は、数兆ドル規模のグローバルな市場へと急成長した。アメリカ人は現在、マッサージ・セラピーだけで120億ドル以上を費やしている。そしてマッサージ・エンヴィーは、世界最大のマッサージ・フランチャイズになった。

カールスジュニア(Carl's Jr.)やアービーズ(Arby's)のような有名なフランチャイズを多数所有する、未公開株式投資会社ローク・キャピタルは、2012年にマッサージ・エンヴィーを買収した。アリゾナ州を拠点とするマッサージ・エンヴィーは、今や合計2万人のマッサージ師を雇う。年間13億ドル以上の売上があり、米国中に160万人の会員がいる。最近はオーストラリアにも進出した。調査会社IBISワールドが行った2016年の調査によれば、マッサージ・エンヴィーは、競合は現れたものの、フランチャイズの日帰りスパ市場でまだ67%のシェアを持っている。「買うべき最優良フランチャイズ」のリストで常に上位にいる同社は、そのサービスを宣伝することによって、「セルフケア」という時代精神に、優れた投資を行っている。そのサービスには今、スキンケアも含まれおり、「高級感」の代わりに「ボディ・メンテナンス」という宣伝文句が使われている。紫のロゴがついたマッサージ・エンヴィーの店舗は、小規模なショッピングモールに欠かせないものとなっている。

2016年、1人の若い女性が、フロリダ州ウィンターパークにあるマッサージ・エンヴィーのフランチャイズ店を相手取った訴訟を起こした。担当のマッサージ師が女性の膣に指を入れたという訴えだ。女性は宣誓供述書の中で、マッサージ・エンヴィーというブランドを完全に信頼していたと述べている。

「マッサージ・エンヴィーは評判の良い企業だと思っていましたし、すでに何度かマッサージを受けたことがありました。スーパーマーケットの『パブリックス』のように、あちこちで見かける存在だということです」

マッサージ・エンヴィーは、将来のオーナーや投資家に向けて、数十億ドル規模の「急成長しているフランチャイズチェーン」だと宣伝している。同社のウェブサイトには、「今こそ、前例のない成長と需要に便乗する絶好のタイミングです」と書かれている。確かに、マッサージ・エンヴィーと競合各社はかつてないほど雇用を創出しているが、ある調査によれば、マッサージ師の資格を取得する人は減少しているという。その結果、フランチャイズ店はマッサージ師を選べる状況にないと、業界観測筋は口をそろえる。

マッサージ・エンヴィーによれば、各店舗の日常業務に対してあまり口を出さないフランチャイズモデルは、米国で「長く立派な」歴史を持つビジネスモデルだという。

同社のハンセンは、「世界的に有名なサービスブランドの多くは、フランチャイズモデルを採用しています。マッサージやスキンケア部門だけでなく、レストラン、ホテル、高齢者介護、保育所、教育、自動車修理、フィットネス、体重管理、ヘアケア部門も同様です」と指摘する。

しかし、ニューヨークのマッサージ師ジーナ・リカルドは、フランチャイズモデルはマッサージ業界にあまり適さないと考えている。「ファストフード店の経営と、人の体に手で触れる仕事を比べることはできません」

これまでにマッサージ・エンヴィーの何十店舗を訴えてきた弁護士アダム・ホロウィッツも、学校を出たばかりのマッサージ師を雇って、マッサージの経験がないマネージャーやオーナーの監督下に置くというのは、かなり危険な組み合わせだと指摘する。

「マッサージを受けるときは、無防備な状態になります。暴行されるとは思っていないためです」

カトリック教会を相手取った性的虐待の訴訟を何件も担当したことがあるホロウィッツ弁護士は、「性的関心を理由にマッサージ師の仕事を選ぶ人は、驚くほど多いのです」と述べる。「聖職者と同様に、マッサージ師にもそうした機会があります。マッサージを受けるときは、無防備な状態になります。暴行されるとは思っていないためです」

だが、米国東海岸にあるマッサージ・エンヴィー4店舗の事業責任者を務めていたケイラ・シーリーは、マッサージ・エンヴィーのビジネスモデルが特別なリスクをはらんでいるとは考えていない。「どの業界にも悪人はいます」とシーリーは話す。「100%有効な防衛策など存在しません」

シーリーは自身の体験として、マッサージ・エンヴィーの本社は最善を尽くして、マッサージ師が「すべての規約を徹底的に理解」できるようにしていたと振り返る。マッサージ師は全員、身元調査を受けたうえで、違反すると無条件で処分される事柄を教え込まれる。不適切なタッチ、「性的な暗示を含む」行為、「性的に露骨な」行為などだ。規約に違反したマッサージ師は社内データベースに登録され、再びマッサージ・エンヴィーの店舗で働くことができなくなる。

ただしマッサージ・エンヴィーは、こうした対策を講じても、性的暴行のリスクを完全に排除することはできないと認めている。「どのような企業であっても、従業員の法律違反を完全に阻止することはできません」とハンセンは話す。BuzzFeed Newsが入手したフランチャイズ契約書によれば、フランチャイズ店は保険に入る際、ある特約を付けることになっている。性的暴行で訴えられた際に店舗と本社を守るための特約で、少なくとも1年間に3件までは保証されるようだ。

「マッサージ・エンヴィーのブランドに悪影響を及ぼす可能性はあるか?」

フランチャイズ店で規約違反が起きた場合は、「通常、フランチャイズ本部としての権限は、フランチャイズ契約(と関連契約)に基づいて、契約上の権利を行使することに限られています。適切と判断すれば、フランチャイズ契約を解除することもあります」とハンセンは説明する。これまでに、規約上の不適切な行為を理由に、20以上のフランチャイズ契約を解除しているという。

マッサージ・エンヴィー本社の元従業員によれば、本社の幹部たちは長年、メディアが全米規模の問題に気づくのではないかと恐れていたという。この人物は退職時の契約で、同社の評判を落とすような発言をしないと誓約しているため、匿名を条件に取材に応じてくれた。この人物はさらに、「全米でどれくらいの性的暴行が起きているかを誰かに把握されたとき」に備え、幹部たちは対策を話し合っていたと振り返っている。

「しかし、私が退職する前に、彼らが解決策を思いつくことはありませんでした」

スーザン・イングラムの訴訟で最近行われた申し立てによれば、フランチャイズ店は少なくとも、あるリスク管理トレーニングにおいて、性的暴行の訴えを調査する際の目標は、「警察の介入を回避し、フランチャイズ契約を維持すること」だと言われている。

BuzzFeed Newsが入手した2014年のコミュニケーションガイドでは、潜在的な危機に直面した従業員は「責任は誰にあるのか?」「再び同じことが起きる可能性は?」「自分、自分の顧客/会員、店舗にどのような影響があるか?」といった問題を検討するよう指示されている。

その中に1つ、「重要」という印が付けられ、太字で書かれた問題がある。それは、「マッサージ・エンヴィーのブランドに悪影響を及ぼす可能性はあるか?」だ。

ダニエル・ディックは2015年10月、バージニア州のマッサージ・エンヴィーで性的暴行を受けた。マッサージ師に頭皮をつかまれ、口をふさがれたうえで、膣に指を入れられたという。その後、マッサージ師はディックに、「2人だけの小さな秘密」と言った。

ディックはすぐさま、受付係に性的暴行の事実を報告した。「彼女は明らかに、どうすればいいのかわかっていませんでした」とディックはBuzzFeed Newsに語った。「まるで車のヘッドライトに照らされたシカのようでした」

受付係はディックに、内部で問題を処理するので、警察に通報する必要はないと言った。そして翌日、店舗の従業員から電話がかかってきた。「マッサージに不満があった」ということで、今回は無料にするという内容だった。

「彼らは通常業務に戻り、私の人生は一変しました」。ディックは警察に通報した。マッサージ師は2016年、性的暴行の重犯罪で有罪判決を受けたが、マッサージ・エンヴィーはいまだに性的暴行「疑惑」と呼んでいる。ディックによれば、係争中の訴訟であるためだ。

ディックは10月、「Change.org」で自身の体験を語り署名運動を開始した。5万人以上の署名が集まった。その後、マッサージ・エンヴィー本社は地元メディアに、「彼女の懸念と考えをしっかり聞き、より良く理解するため」、ディックと接触したことを明かした。

ディックはBuzzFeed Newsに対して、マッサージ・エンヴィーが接触してきたのは体験談を公開した後のことであり、法的手段を検討していることも伝えられたと話している。同社のハンセンも、ディック側の提案を聞くため、11月中に会う約束をしているという。

その対話はどうなるだろうか。ディックはオンラインで次のように述べている。「私に対するマッサージ・エンヴィーの態度は、声明で適切な発言をしたのは企業ブランドを守るためであり、性的暴行の被害者を支援するつもりなどないことを間違いなく示唆しています」

マッサージ・エンヴィーの新人研修プログラムのひとつに、「扉の向こうで」というビデオがある。まず、ハンセンの写真が現れ、次のようなメッセージが伝えられる。「マネージャーとフランチャイズ店は、不適切な行為に関するクレームの処理方法を理解しなければなりません。この研修は、あらゆるクレームに対処する助けになるでしょう」

顧客がマッサージ師にとって不利な主張をしてきたときの短期的な目標は、「大切な顧客を引き止め、悪い意味での注目を避けるため、安全・安心な環境で」顧客の不安を解消することだと、ナレーターは説明している。

その際、マネージャーは顧客に水を提供して、「信頼の獲得につながる可能性のある態度や行動」を観察しなければならない。マネージャーが調査している間、規約違反に問われているマッサージ師は停職処分となる。

どのように調査を実施するかについては、ビデオでは言及していない。

調査の結果、規約違反があったと判断されれば、マッサージ師は解雇される。一方、「不確定」と判断された場合は、「この種の出来事が二度と起こらないよう」、マネージャーが何らかの対策を考えることになる。

規約違反のシナリオは3通り用意されている。1つ目は、顧客の「チャンドラー」がマッサージ師の「モニカ」に、背中を押す力が強過ぎると文句を言うケース。2つ目は、マッサージ師の「ロス」が、結婚式を控えた顧客の「レイチェル」に、ウェディング写真を撮ってあげると提案するケースだ。そして3つ目は、マッサージ師の「ジョーイ」が、営業終了後、顧客の「フィービー」に、「本当にセクシーだね」というテキストメッセージを送るケースだ。ビデオによれば、解雇に相当する違反は3つ目のシナリオだ。

これらのシナリオで、性的暴行の関連性を示唆するものはない。マネージャーたちがしばしば、誤った対応で非難されるのはそのためかもしれない。テキストメッセージを送った従業員に対処するのと、暗い密室での出来事を判断するのは、全く性質の異なる問題だ。後者は目撃者もなく、同僚の職、さらには逮捕が懸かっている。

「相手は毎日一緒に働いている同僚です。そのようなことができる人物だと考えるのは難しいでしょう」

米国西海岸にあるマッサージ・エンヴィーの複数店舗で働いたことがあるマッサージ師のクリスティーナは、「相手は毎日一緒に働いている同僚です。そのようなことができる人物だと考えるのは難しいでしょう」と話す。

しかもマネージャーたちは、告発者の信頼性を評価するための指導を受けていない。例えば、マネージャーたちは被害者のショックについて何も教えられていない。被害者は多くの場合、心的外傷を受けた直後には、一部始終を正確に説明できない。

マネージャーは、自動事件報告ツールを使い、調査報告書を提出することになっている。そして、フランチャイズ店の事業責任者、地域担当者、本社法務部にコピーが渡される。ハンセンによれば、本社がすべての事件報告を精査し、ブランドの基準に従っているかどうかを確認するという。

ハンセンはBuzzFeed Newsの取材に対し、「私たちはサービスブランドのフランチャイズ本部であり、犯罪捜査の専門家ではありません」と前置きしたうえで、本社は各店舗に対して、「調査に必要であれば、専門家の助けを借りる」ようアドバイスしていると説明した。ただし、このアドバイスは新人研修用のビデオでは触れられていない。

BuzzFeed Newsが入手した2017年の規約には、「特定の状況下」では、フランチャイズ店は地域の当局への報告を「検討すべきだ」と明記されている。ただし、調査中に報告を検討すべきだとは述べていない。何の例も提示されておらず、報告を義務づける現地法があれば順守すべきと述べているのみだ。

複数の専門家によれば、個室で、事実上の他人の裸に近い体を触らせるというマッサージの性質上、性的暴行の訴えを評価するのは特に難しいという。顧客がマッサージ師を不適切に触わることもあれば、従業員同士の事例もある。

性的暴行というよりはむしろ、個人の感度が関係している訴えもある。敏感な部分をマッサージされたことによる不快感などだ。虚偽と判明した訴えもある。カリフォルニア州マッサージ療法協会のアフモス・ネタネルCEOによれば、これらすべてを理由に、州の規制当局などは、事件に介入できるよう、特別な訓練を受けた捜査官を採用しているという。

「経験のあるプロが状況を調査し、客観的な結論を導き出してくれることは、すべての関係者にとって有益です」とネタネルCEOは話す。

あるマッサージ・エンヴィーの顧客は2016年1月、BuzzFeed Newsに対して、サクラメントの店舗でマッサージ師に胸と膣を触られたことを記事にしてほしいと接触してきた。この女性によれば、それは2日前の出来事であり、心の整理をする時間が必要だったという。女性はマッサージ・エンヴィーの本社に電話する方法がわからず、1月5日、「guestrelations@massageenvy.com」に電子メールを送った。マッサージ師に「暴行された」と思っているため、担当者から電話してほしいという内容だった。「ウェブサイトには本社の電話番号がなく、電子メールを送るようにと書いてありました」

女性に2ヶ月間に渡りの会費を請求したという。

1月12日になっても連絡が来なかったので、女性はカリフォルニア州マッサージ・セラピー協会に苦情を申し立てた。問題のマッサージ師は、まだその店舗で働いていた。それどころか、記録によれば、1月16日にも別の女性が、不適切な行為があったとしてそのマッサージ師を同協会に訴えていたという。にもかかわらず、マッサージ・エンヴィーの地域担当マネージャーは1月25日まで連絡をしなかった、と女性の弁護士は話している

さらに、マッサージ・エンヴィーは女性に2ヶ月間に渡りの会費を請求したという。二度と行きたくない、と担当マネージャーに伝えていたにもかかわらずだ。

マッサージ・エンヴィーによれば、通報が義務づけられていない司法管轄区では、フランチャイズに対して性的暴行の訴えの通報を求めていないという。同社はその理由のひとつとして、同社の顧問を務める専門家が、「重要な決断」の決定権を握るのは被害者であるべきだと主張していることを挙げている。マッサージ・エンヴィーの法務担当役員を務めるハンセンによれば、この方針は、「全米強姦・虐待・近親相姦ネットワーク」(RAINN)などの主要団体の見解に沿っているという。

だが、RAINNはマッサージ・エンヴィーと連携したことはないし、同団体の役員を務めるケイティ・N・レイクによれば、同団体の勧告はそれほど単純なものではないという。

「ゼロ・トレランス」(いっさい容赦しない)方針は重要だとレイクは言う。そして、考慮すべき要素はほかにも数多くあるという。たとえば、顧客が苦情を訴えやすくするために企業がどのような対策をとっているか、こうした問題の調査に関してマネージャーが十分にトレーニングされているか、といった点も考慮する必要がある。こういった問題の調査は、あらゆる関係者にとって難しいものだ。

「心の準備ができていない」と語るのは、かつてノースカロライナ州でマッサージ・エンヴィーのフランチャイズを経営していたアマンダ・オーエンズだ。「誰かが苦情を訴えたら、直後に何が起きるのか? 顧客にどう話をすればいい? 自分が女性で(そして訴えられているマッサージ師が男性である場合)、危険を感じずにその相手に話を持っていくには、どうすればいい?」

キャンディス・マテラーロは、ロサンゼルスにあるマッサージ・エンヴィーの店舗で受付を担当していた時に、マッサージ師に性的暴行を受けたと報告したことがある。だが、なんの措置もとられなかったという。

「担当のクリニック管理者が狡猾に問題を隠蔽しようとしていたのか、それとも、問題にどう対処すべきか本当に知らなかっただけなのか、私には判断できませんでした」とマテラーロは話している。

2017年9月17日、タラ・ウッドリーは転職を祝って、スウェーデン式マッサージでリラックスしようと、ワシントンDCにあるマッサージ・エンヴィーを訪れた。その月に提出された訴状によれば、ウッドリーが目を閉じていると、マッサージ師が膣に舌をあてて舐め始めたという。ウッドリーが跳び起きて身体を蔽うと、マッサージ師は彼女の手をつかんで許しを求め、こんなことをしたのは初めてだと訴えたという。

だが実際には、そのマッサージ師の行動を、ほかに2人の女性も店舗に通報していた。ウッドリーの事件の3カ月前、同じオーナーが経営するメリーランド州の店舗で、このマッサージ師が働いていた時、ある女性が不適切な触り方をされたと訴えていた。その女性がNBCローカル局に語ったところによれば、彼女は退会したいと要求したが、フランチャイズ側は儀礼的な「1日分の無料サービス」しか提供しようとせず、問題のマッサージ師はワシントンDCへ移ったと説明したという。

その後の9月5日にも、のちにウッドリーを担当することになるそのマッサージ師の不適切な行為を、別の女性が店舗に報告している。女性がのちに警察に提出した被害届によれば、マッサージ師は女性の下着をずらし、顔を膣に押しつけたという。にもかかわらず、問題のマッサージ師は同店舗で勤務を続け、9月17日にウッドリーを担当するに至ったのだ。

ウッドリーはBuzzFeed Newsに対して、「胸が張り裂けそうです。女性たちが経営側に報告し、状況を変えようとしていたのに、マッサージ・エンヴィーが見て見ぬふりをしていたなんて」と語る。ウッドリーが夫の説得ですぐに911に通報したあと、別の女性たちも被害を届け出た。「夫の説得がなかったら、私も、その女性たちと同じようにしていたかもしれません。そうなっていたら、将来、さらに多くの女性が彼に暴行されていたかもしれないのです」とウッドリーは言う。

マッサージ・エンヴィー・フランチャイジングは、性的暴行をめぐる方針に関して業界の最先端にいると自負しているが、裁判所に提出した書類では、同社はフランチャイズ契約の販売者であり、個々のマッサージ師の雇用者ではないため、クライアントの性的暴行訴訟に関してはいっさいの責任を負わないと主張している。こうした訴訟については、厳密な秘密条項のもとで和解が結ばれるため、どのように解決されたかを知るのは困難だ。

だが、1月に法廷で争われる予定の訴訟により、ある程度の光が投じられる可能性はある。

スーザン・イングラムはほかの7人の女性とともに、暴行を受けたウェストチェスターにある店舗とマッサージ・エンヴィーを相手どって訴訟を起こした。マッサージ師の施術の中断をマネージャーが拒んだとされている店舗だ。マッサージ・エンヴィーは不適切行為の調査には関わっていないと主張しているが、イングラムの弁護士によれば、実際、調査の実施方法や追跡方法を指示し、その進捗状況を監視しているという。ウェストチェスターの店舗が本社に報告したのは、それまでに出ていた複数の苦情のうちの1件だけだが、マネージャーが証言録取で述べたところによれば、地域担当の管理者はフランチャイズ店の対応策を承認し、警察に通報しろとは言わなかったという。

マッサージ・エンヴィーと仕事をしたことのあるフランチャイズ・コンサルタントは、同社の立場はきわめて微妙だと語っている。

「フランチャイズ加盟店での問題発生を防ぐ手段はない」ことは、そのコンサルタントも認めている。「けれども、ここで問題になっているのは、全米的なブランドの店舗で、薄暗い部屋の施術台の上で性的暴行を受けた人たちの話です」

「何よりもまず、人間的にならなければいけません」とコンサルタントは続けた。「自分の娘や母親、叔母、祖母が同じようなことを訴えたら、どう反応するでしょう? それを考えなくてはいけません」

昨年、イングラムの協力を得たペンシルベニア州選出のパット・ミーハン連邦下院議員(共和党)により、マッサージ店のオーナーと従業員に対して、性的暴行の申し立てを警察に通報することを義務づける超党派の連邦法案が提出された。「暴行の申し立てを通報すれば、捜査の要請や、告訴などの権利や、有効な手段を被害者が知るのに役立ちます」とミーハン議員は言う。この法案では、マッサージ店のオーナーに対して、性的暴行の予防と対応に関するポリシーの開示も義務づけられている。

この法律が成立すれば、「マッサージ・エンヴィーのような10億ドル規模の企業が過ちを犯した場合に、女性たちを守る」ことができるとイングラムは言う。

イングラムはほぼ毎日、彼女が暴行を受けたマッサージ・エンヴィーの店舗の前を車で通り過ぎる。

「あの正面玄関から乗りこんでいって、なぜ、こんなことが起きるのを放っておいたの? と問いつめたい。その衝動を抑えるのに、とても苦労しています」とイングラムは言う。「何度も何度も同じことが起きているのに、なぜいまだに放置しているのでしょう?」

この記事は英語から翻訳されました。翻訳:浅野美抄子、米井香織、梅田智世/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan