彼らは亡命することを希望してメキシコ国境の町で待ち続ける

    中米からの亡命を求め、アメリカ入国を待つ母親「子どもと引き離されるなら死んだ方がいい」

    国境に近いメキシコの町で、アメリカ入国の機会を待つ人々の間に緊張が高まっていた。トランプ政権の「ゼロトレランス(不寛容)」政策により、不法入国の家族に対して親子を隔離する措置が取られていると聞き、メキシコ側で不安と怒りが広がっていた。

    リオグランデ川をはさんで米テキサス州ヒダルゴと国境を接するレイノサは、メキシコでも有数の危険な町とされる。今回、この町の移民シェルターで4家族に話を聞いた。いずれも、一度失敗したアメリカへの入国を再度試みるか、あるいは別の道を探るかの決断を迫られている。身の危険を感じて祖国を逃れてきた人にとって、計り知れない重大な決断だ。

    レイノサとヒダルゴを結ぶ橋にあるメキシコの出入国管理所を通る際、クラウディアは「子どもを引き離されるから」引き返した方がいい、と言われた。米国へ入るときのために、兄弟が殺害されて家族の身に危険が迫っていることを示す証拠を用意してあった。(取材に答えてくれた人の姓は身の安全を考慮して伏せている)

    27歳のパトリシアは2週間前、7歳の息子とともに国境の橋を渡って亡命を求めようとしたが、米国の当局に却下された。理由は告げられなかった。

    夫のいとこ二人が殺されるのを目撃したピエダードの場合は、さらに大変だった。三人の子どもとともに米国の当局からメキシコ側に引き渡され、そこで一週間拘束された。

    彼らはみな、いわば煉獄にいるようなものだ。リオグランデ川まで歩いてすぐ、祖国のエルサルバドルやホンジュラスからは2400キロ離れたこの町で、トランプ政権がゼロトレランス政策を撤回するのを望んでいる。5月以降、同政策により2342人の子どもが親と隔離された。

    トランプ大統領の方針で影響を受けるのは、大半がこの家族と同様、中米から逃れてきた人々だ。中米では、ギャングが小規模ビジネスを営む人を恐喝する、12歳以下の子どもを強制的に違法行為や労働に従事させる、指示に従わなければ見せしめに家を焼き払うといった行為が横行している。ジェフ・セッションズ米司法長官は6月中旬、家庭内暴力やギャングによる暴力を理由にした亡命申請を認めない決定を出した。

    子どもたちは祖国で暴力にさらされ、メキシコ国境まで危険と背中合わせの道のりをたどり、すでに精神的に傷ついている。そして今度は、米国が管理する国境付近の収容所やテントで、親と離ればなれになる不安を抱いている。

    「子どもたちと引き離されたりしたら正気ではいられません」。シェルターの庭にある木の下でピエダードはそう言った。「子どもを奪われた母親に、何の意味があるでしょうか」

    もう一家族は、メキシコ湾岸に位置するメキシコのベラクルス州からやってきた。最近、夜中にボートでリオグランデ川を渡ったが、国境で拘束された。てんかんの持病がある14歳の息子と母マリアは別々に収容された。息子が服用している薬は移民局に捨てられたという。4日後、二人はレイノサへ退去させられた。夫は収容されたままだ。マリアは近いうちに再度、米国への入国を試みるつもりでいる(2017年4月以降、不法入国を繰り返す行為は重罪とされている)。

    「私が行動を起こすのはこのためです」。マリアが視線を落とした先には、息子の医療記録があった。地元の病院で処方された薬では効果がなかった、とマリアは言う。それもあり得ない話ではないだろう。ベラクルス州の前州知事は、公立病院に偽の医薬品を購入していたとして告発されている。

    現在、マリアの一家以外は家族が一緒にとどまっている。

    「息子を連れて行かれたら、私は死にます」とパトリシアは言う。バスの中で会った女性が出してくれた、国境の橋を渡る二人分の通行料10ペソ(約55円)を払い、米移民局の窓口を訪ね、亡命申請をしたいと伝えた。メキシコ側の担当者を呼ぶのでそこで待つようにと告げられた。言い争っても無駄だった、とパトリシアは振り返る。結局、橋を歩いてメキシコ側へ戻ったが、不安につぶれそうで落胆していた。

    シェルターの相部屋の外に座っていると、息子がおもちゃの車を欲しいと小さな声でせがむ。持っていなかったので、気をそらそうと小さな背中をたたいた。息子は顔を寄せ、まつげで母親のほおに触れた。

    パトリシアの目に涙が浮かんだ。息子と離ればなれになるなら、一緒に橋の下で暮らす方がいいと言う。

    シェルターにいる家族は、あえて外に出たりしない。犯罪ギャングが新しい標的はいないかと見張っているし、敵対するグループ同士の衝突が昼夜を問わず起きる。35度を超える暑さの中、日陰を求め、シェルターの部屋や食堂、小さな教会に身を寄せる。

    シェルターの中にいれば安全だが、その代わりほとんど情報に接することができない。プリペイド携帯電話の残高がつきている人が多く、ニュースを知る情報源だったFacebookをチェックできない。テレビもない。わずかに新しい情報にふれられるのは、電話で話す親類か、シェルターの教会にいる牧師夫妻を通してだ。

    「こうして今も子どもたちと一緒にいられるのは恵まれていますよ」。昨日の朝、牧師の妻は何人かの女性たちにそう声をかけた、とピエダードは言う。

    国境に近いこの町ではさまざまなうわさが流れる。クラウディアを国境の橋まで乗せたタクシーの運転手は、米当局は来たばかりの移民の子どもを引き離して養子縁組に出すらしいから気をつけた方がいい、とクラウディアに話した。無償で移民を支援している弁護士は、子どもたちは永久に引き離されるわけではない、保育所に連れて行くだけだ、と言った。

    「いろんなうわさが出回っていて、何を信じたらいいかわかりません」。クラウディアはそう話す。クラウディアはホンジュラスで織物工場に勤めていた。

    2週間前、橋を目指して歩いていたピエダードは楽観的だった。道中、メキシコ国内を途中まで一緒に移動した近所の人が電話してきて、子どもたちと一緒にテキサス州のヒューストンまで来ることができた、と言っていたからだ。

    だが運はピエダードに味方しなかった。米国当局からメキシコ側に引き渡されると、ピエダードと15歳の長男は別々の収容所に1週間入れられたという。ここで同じ部屋だった女性から、アメリカが強制的に親子を引き離していると聞いたのだった。

    こうした措置の緩和を発表する前だった取材当時、親子を隔離する政策には不法入国を考える人への抑止力の意味もあるのか、またそもそも親子の分離を定める規定が存在するのかを問われ、トランプ政権は苦境に立たされてきた。一方でトランプ大統領は6月20日のTwitterで、移民が「(害虫のように)はびころうとしている」と述べている。こうした脅威におびえる当事者もいるが、全体の流れは止まらない。

    マリアは米国側で拘束されている夫が解放され次第、すぐに家族3人でまたリオグランデ川を越えるつもりだという。

    「もう一度やってみて、国境パトロールに捕まらずに入国できれば、やっぱりやってよかったと思えるはずです」


    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan