アメリカの首都ワシントンで1月6日(現地時間)、トランプ大統領の支持者らが議事堂に侵入し暴徒化した。大統領選の結果を正式に確定する上下院合同会議中だった。
同日、保守系紙ワシントン・タイムズが「議事堂に押し寄せた人々の中にアンティファのメンバーがおり、顔認証システムが特定した」(ANTIFA:anti-fascist、反ファシズム運動を展開する勢力)と報じたが、これは「誤り」だ。
記事で名前が挙がった顔認証システム会社「XRVision」は、記事の撤回と謝罪を同紙に求める声明を発表。
数時間後、記事内には「XRVisionはアンティファのメンバーを特定していません」と、内容が誤りであったことを認める訂正文が書き加えられた。
記事の見出しからも「アンティファ」の言葉は消え、「顔面認識技術で過激主義者が侵入」に改められた。「過激主義者」が何を意味するかは特定していない。
日本でもワシントン・タイムズの当初の記事をニュースソースとして、この情報が拡散した。
計測ツールBuzzSumoによると、まとめサイト「アノニマスポスト」の該当記事はSNS上で12000回以上シェアされている(日本時間1月8日午後3時時点)。
元の記事に追加された訂正文は、8日午後3時時点でアノニマスポストの記事では触れられていない。
ワシントン・タイムズは当初、「XRVisionが自社の顔認証システムで検証した結果、フィラデルフィアのアンティファメンバー2人と、暴動に参加していた2人の男性が一致した」と報じた。
「ひとりはスターリン主義のタトゥーがある人物、もうひとりは欧米諸国で気候問題に対するデモやBlack Lives Matter運動に参加している人物」としたが、氏名は出していない。また、彼らがアンティファの一派で数々の抗議デモに参加してきたという証拠もない。
「全くの虚偽」弁護士が抗議声明
XRVisionの代理人弁護士によると、同社は2015年にシンガポールで設立されたという。この弁護士はワシントン・タイムズの記事に反論する声明を出した、とBuzzFeed Newsに明かした。
声明によると、同社のソフトウェアは、ネオナチ組織のメンバー2人と、親トランプ派のQアノン信者を実際に特定したという。
ワシントン・タイムズは当初、 XRVisionの分析結果とアンティファのメンバーが一致している写真を「ある元軍人」から提供されたとしていた。
しかしXRVisionは声明で、「元軍人」にもワシントン・タイムズにも情報を提供しておらず、記事化の前にワシントン・タイムズ側から同社に内容の確認を求める取材もなかった、と説明している。
「XRVisionは、ワシントン・タイムズや『元軍人』のために合成画像や検出画像を作成しておらず、公表する許可もしていない」
「暴動が始まってから画像を解析して数人を特定し、情報を米国治安当局に提供した」「我々が実施した画像解析は、情報のセンシティブさから公開を意図したものではなかった。我々は技術の精度に誇りを持っている。ワシントン・タイムズに掲載されたものは全くの虚偽であり、誤解を招く中傷行為だと考えている」
弁護士はXRVisionのシステムを用いて明らかになったというあらゆる分析結果を取り下げ、謝罪するようワシントン・タイムズに求めたという。
配信からおよそ5時間後、ワシントン・タイムズは問題となった記事の該当箇所を削除し、元の記事内容が誤りであったことを認め、XRVisonに謝罪する文章を付け加えた。
日本語圏では訂正されないものが多く
米国では元の記事が訂正されたものの、日本語圏では先のまとめサイトを筆頭に、SNSで大きく拡散されたツイートも多くが訂正・削除されずに残されている。
拡散した人の中には現職の地方議員もいたが、この議員はのちに、情報を訂正するツイートをしている。
アメリカ大統領選を巡っては、11月の投票・開票時にもネット上に大量の誤情報や、根拠のない情報、さらにはミスリーディングな各種の情報が拡散した。
日本国内でもまとめサイトやインフルエンサーなどを通じて広がりを見せており、注意が必要だ。
この記事は英語から翻訳・編集し、日本国内の情報を加えました。 翻訳:髙橋李佳子
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