中国系ニューヨーカーのルーツを掘り下げたフォトプロジェクト

    「展覧会の根底にあるのは、ニューヨークの移民、なかでも中国系移民の複雑な現実を知ってもらいたいという気持ちだ」

    ニューヨークの文化に深く根差しているのが、活気あふれる中国系米国人のコミュニティーだ。彼らは、数世代にわたってニューヨークで暮らし、起業家や地域社会のリーダーとして活躍している。チャイナタウン(中華街)は人気観光地としてよく知られるが、中国系移民のルーツははるかに深く、現在のニューヨークとって不可欠な存在だ。

    ニューヨーク市立博物館では、3月24日まで「Interior Lives: Contemporary Photographs of Chinese New Yorkers(内部から捉えた暮らし:現代を生きる中国系ニューヨーカーたちの写真展)」が開催されている。

    トーマス・ホルトン、アニー・リン、安許栄という3人のドキュメンタリー写真家の作品を紹介することで、中国系移民のルーツを掘り下げ、たたえる展覧会だ。3人の写真家は、コミュニティーとの個人的なつながりを武器に、中国系ニューヨーカーたちの印象的な私生活を見事に捉えている。

    ニューヨーク市立博物館で、印刷物と写真を担当するキュレーターのショーン・コーコランはBuzzFeed Newsに対して、この展覧会を開催した経緯と、写真の背景にある物語を語ってくれた。

    3人の写真家を一緒に紹介しようと思った理由は、アプローチの違いだ。1つの家族に焦点を当てた長期プロジェクトと、短期的な定点観測プロジェクト。そして、自由な形で自分を見つめ直す現在進行中のプロジェクトがある。

    トム・ホルトンは2003年から1つの家族を追い、子供の成長や夫婦の別れを写真に収めてきた。家族の人生を長期にわたって記録した、驚くほどプライベートで距離の近いプロジェクトだ。

    アニー・リンは1年余りをかけて、ニューヨーク最後の「下宿屋(ロッジング・ハウス)」の一つに暮らす人々を記録した。多くの移民たちは、中国の家族に送金するため、家賃の安い窮屈な部屋に住んでいる。住人同士の親しい間柄だけでなく、撮影者と住人たちの愛情に満ちた関係も伝わってくる。

    安許栄の写真は、進行中のプロジェクト「My Americans(私のアメリカ人たち)」から抜粋したものだ。中国系移民とその文化がアメリカに与えている影響を写真で見せるという取り組みだ。日常生活をほぼありのまま切り取った写真を通じて、アメリカにおいて中国文化が繰り返し抹消されてきた歴史に立ち向かおうとしている。

    この展覧会の意図は、被写体のコミュニティーと親密なつながりがある写真家の作品を紹介することだ。ホルトンは台湾にルーツを持つ。リンと安は、それぞれ台湾と中国本土からの移民だ。3人とも、被写体と、被写体が暮らす場所のさまざまな関係性を写真に収めることにこだわっている。3人の作品は、ニューヨークの街や公共空間、私的空間において、1人で、あるいは一緒にアイデンティティーや居場所を確立しているこれらのニューヨーカーたちに光を当てている。

    展覧会の根底にあるのは、ニューヨークの移民、なかでも中国系移民の複雑な現実を知ってもらいたいという気持ちだ。私たちは人々に、ニューヨークにはアジア以外で世界最大の中国人コミュニティーが存在することを思い出してほしい。マンハッタンの歴史ある中華街をはじめとして、ニューヨーク全域に50万人以上の中国系アメリカ人が暮らしている。

    3人の写真家はそれぞれ、中国系アメリカ人の悩みは、多くの点でほかのアメリカ人と共通していることを証明している。中国系移民たちは、家族関係の浮き沈みを経験し、事業を営み、地域社会のイベントに参加する。そして、多くのニューヨーカーがそうであるように、この街の不安定な住宅事情にしばしば悩まされている。

    人によっては、全く違う暮らしに感じられる部分もあるかもしれない。しかし、写真に切り取られたごく普通の暮らしを見れば、誤解や既成概念が消え去るのではないかと思う。

    私個人にとってこの展覧会は、アメリカにおける中国人の歴史的体験をより深く理解する素晴らしい機会になっている。必ずしも写真で明示されているわけではないが、私は背景事実を知るため、人種差別の歴史と、人種差別が移民法に与えた影響を調査した。

    中国系移民の歴史は1840年代までさかのぼることができるが、長い間、連邦法によって厳しく制限されていた。1882~1943年の「中国人排斥法」、1924~1965年の「出身国別割当法」などだ。

    しかし1965年以降、中国全域から何十万もの移民が到来し、ニューヨークに定住した結果、9つの中華街が形成された。そして、さまざまな言語、伝統、技能、文化を持つ移民たちが新しいニューヨーカーとなった。

    展覧会が始まって以来、来場者からは非常に肯定的なレスポンスを受け取っている。私にとって印象深いのは、人によってさまざまな捉え方がある点だ。家族関係やコミュニティーの連帯に心を打たれる人もいれば、住宅や社会正義の問題が印象に残る人もいる。来場者がさまざまな形で心を動かされていることはうれしい驚きだ。

    これから展覧会を訪れる人が、ニューヨークに住む中国系移民たちの多様な体験や、彼らがこの街に与えている影響を、より深く理解できることを願っている。


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan