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宇宙に行ったソ連の犬たち:その足跡をたどる写真集

「現代のすべての宇宙飛行士たちが、無重力空間での生存に関する知識を持っているのは……そうした宇宙犬たちが道を切り拓いてくれたおかげです。みずから望んだわけではなくとも」

アメリカが「人類にとって大きな飛躍」をするよりも先に、宇宙で歴史的な偉業を成し遂げ、人類が宇宙へ旅立つための道を敷いたのは、ソビエト連邦の勇敢な犬たちだった。

著名写真家のマーティン・パーと、ライターのリチャード・ホリンガムによる新著『Space Dogs: The Story of the Celebrated Canine Cosmonauts(スペースドッグ:誉れ高き宇宙飛行犬たちの物語)』は、20世紀半ばに有人宇宙飛行の先駆けとして宇宙へ送られたソ連の犬たちの知られざる物語をたどる本だ。

1960年に初めて地球軌道を周回して帰還したベルカやストレルカのような犬たちは、無重力環境で生物が生き延びる方法をめぐる理解を深めるために宇宙へ送られた。その小さな宇宙飛行士たちは、地球に帰還すると英雄として称えられた。同書が明かしているところによれば、その後数年の称賛ぶりは、ビートルズの熱狂的ファンたちに匹敵したという。

ホリンガムはBuzzFeed Newsに対し、かつてどんな犬も行ったことのなかった場所へ旅をした(もっと言えば、どんな人間も行ったことのなかった場所へ旅をした)犬たちをめぐる興味深い英雄譚を語ってくれた。

初期の宇宙旅行の理想的な候補とされたのは、どんな犬たちでしょうか?

リチャード・ホリンガム(以下RH):理解しておかなければならないのは、宇宙の無重力条件下で人間が生存できるかどうかということが、当時の人たちにはわかっていなかったことです。当時は、それが大きな問題点だったのです。

無重力では、加速度によって心臓が破裂してしまうのではないか、呼吸ができないのではないか、代謝全体が停止するのではないか、などと考えられていました。人類は、地球の完璧な1Gの環境で生きる生物として進化してきたのだから、重力がなければ人間の身体は機能しないと信じる人たちもいました。

第二次世界大戦のほぼ直後から、アメリカ、イギリス、ソ連は、接収したドイツの「V-2」ロケットを使った実験を開始し、自国のロケット技術の開発を進めました。ほどなくして、東西どちらの陣営も、そうしたロケットに動物を乗せるようになりました。どちらも相手のしていることを把握していたわけではなく、それぞれが別々にしたことです。

最初のうちは、昆虫が宇宙に打ち上げられました。あるいは、アメリカがしたように、マウスが打ち上げられることもありました。そうした動物たちはいずれも無傷で帰還しました。そこで次のステップとなったのが、もう少し人間に近い動物に宇宙が及ぼす影響を理解することでした。歴史的に科学実験に犬を使ってきたソ連は、その種の研究をする手段として犬たちに目を向けました。

最初の飛行は1940年代後半、スターリン政権下のソ連でおこなわれました。その時期に、最初のソ連版V-2ロケットが開発されたのです。要するに、V-2ロケットを分解し、自分たちの持つロケットに関する知見を注入して改良したわけです。そうして、本来なら爆弾が積まれる最上部の区画に犬を乗せて、ロケットを打ち上げるようになりました。

死んでしまった犬はいますか?

RH:実験の目的は、犬を絶対に死なせないことにありました。研究者たちは、モスクワの街をうろついていた犬をつかまえました。たいていは、メスが使われました。メスなら、排尿時に肢を上げる必要がないからです。カプセルの空間がきわめて限られていたので、そのほうが好都合でした。

犬たちは大切に世話されていました。愛されていた、と言ってもいいのではないかと思います。犬たちは徹底的な訓練をやり遂げ、小さな宇宙服を与えられ、その環境に順応しました。

しかし当然のことながら、かなりの数の犬が命を落としました。ロケットが爆発することもあったし、大気圏突入に失敗することもありました。宇宙へ行った犬の総数がわからないので、死んだ犬の正確な数は示しがたいのですが、およそ半数は生き延びられませんでした。とはいえ、それはけっして意図した結果ではありません。犬が死ぬことになるとあらかじめわかっていた事例は、ごくわずかでした。

宇宙から帰還した犬たちは、大衆にどのように受け止められましたか?

RH:とりわけ興味深いのは、帰還できないことが最初からわかっていたある犬のケースです。ライカという名のその犬は、地球軌道を周回した最初の動物になりました。

(1957年10月に)世界初の人工衛星「スプートニク1号」が打ち上げられたあと、ソ連は犬を宇宙に送り出せるようになりましたが、地球に帰還させる能力はまだありませんでした。そのため、(1957年11月にライカを乗せた)「スプートニク2号」のカプセルを閉じるときには、ライカが死ぬ運命にあることはわかっていました。

当初の計画では、ライカはカプセル内で穏やかに、苦しまずに死ぬことになっていました。しかし残念ながら、実際にはカプセルが過熱し、ライカはおそらく、ひどい苦しみを味わいながら死んだと考えられています。

私がこの話をした理由は、その後の文化におけるライカの描かれ方にあります。ライカはしばしば、ストイックに描かれます。ほとんど祖国の象徴のようになっているのです。ライカの絵はどれも、非常に高貴で真剣な雰囲気を湛えています。

しかし、(1960年に)ベルカとストレルカを宇宙へ送り出し、彼らが地球軌道を周回して無事に地球に帰還したときには、誰もがとにかく熱狂しました! ベルカとストレルカは、クリスマスの飾りつけや煙草のパッケージ、バッジや時計、宇宙船のおもちゃ、ソルトシェイカー、腕時計に登場しました。ものすごいセレブになったのです。

いまでも動物たちは宇宙へと送られているのですか?

RH:ここで心に留めておくべき大切な点は、犬たちの宇宙飛行が無駄ではなかったということです。ライカからベルカとストレルカ、そしてそのあと宇宙に送られた犬たちにいたるまでのすべて――そこから学んだことのすべてが、有人宇宙飛行計画の糧になったことはまちがいありません。現代のすべての宇宙飛行士が無重力空間での生存に関する知識を持っているのは……そうした宇宙犬たちが、みずから望んだわけではなくとも道を切り拓いてくれたおかげです。

とはいえ、いまではもう、どこの国でも、宇宙犬を打ち上げてはいません。アメリカがかつてしていたように、チンパンジーを宇宙へ送ることもしていません。ただし、マウスや昆虫はいまでも、しばしば宇宙で利用されています。

実際のところ、いまでは実験のほとんどが人間でおこなわれています。最近では、スコット・ケリーが国際宇宙ステーションで丸1年を過ごし、地上にいる双子のきょうだいと比較されました。宇宙にいる宇宙飛行士は全員、血液を採取され、筋生検を受け、研究に参加しています。つまり、現在の実験は、実際に宇宙にいる人間を調べる段階に移行しているということです。それでも、先駆者としての任務を果たした宇宙犬たちに人類が大きな恩義を負っていることは、ずっと変わりありません。



この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:梅田智世/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan