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セックスワーカー格差が広がる。生活苦の売春婦か、高級風俗嬢か

私はこれまでエスコート嬢(高級娼婦)として働くなかで、娼婦業界の「ヒエラルキー」に潜む汚名や不平等といったものが、ヒエラルキーの一番下にいる人たちに不利になるようにできている、というのを目の当たりにしてきた。

フロリダ州にある億万長者の街サラソタに住んでいたにもかかわらず、私の家庭は貧しかった。スティーブン・キングが所有しているビーチ直結の豪邸を見たことがあるし、トークショー司会者のジェリー・スプリンガーと奥さんを映画館で見かけたこともある。対照的に私は、10代のシングルマザーに、図書館で借りてきたレンタル映画とインスタント食品で育てられた。街の外れにある小さな自宅で、映画『マイ・フェア・レディ』をビデオテープが引きちぎれるまで何度も見た。

まるまるとした古めかしいブラウン管テレビの目の前に立って、オードリー・ヘップバーンがビー玉を口に入れてしゃべるセリフを真似た。10歳の時、母親にオペラに連れて行ってほしいとか、リッツ・カールトンでのエチケット講座を受けさせてほしいとお願いした。『マイ・フェア・レディ』の主人公イライザ・ドゥーリトルが花売りの娘からロンドン社交界の人気者へと遂げた変貌を分析して、私もああなりたいと願った。映画はイギリスの物語だが、ストーリーはアメリカン・ドリームそのものだ。大人になった今でも、私は階級社会というものに心を奪われてしまう。階級に関して私が学んできたことは、セックス労働者として勝ち残るためのスキルになった。

この業界において、エスコート嬢の階級はハリウッド映画の『プリティ・ウーマン』のビビアン・ワードから、フランス映画の『昼顔』まで幅広い。この文脈、そして本記事において「階級(クラス)」という言葉は、エスコート嬢の実際の経済状況を指すものではない。むしろ、エスコート嬢自身が外に向けて見せる経済状況を指す。それが、実際のものであっても、想像上のものであっても。そしてこの階級の全範囲が、顧客やその他のセックス労働者が理解する、「娼婦業界ヒエラルキー」と呼ばれるものだ。

娼婦業界ヒエラルキーにおいてセックス労働者は、広告の掲載場所や内容、登録している会社(他にどんなエスコート嬢がいるか)、そして個人的な好みによって分類される。例えば高級エスコート嬢は、24時間以上の事前予約でないと受け付けないかもしれないが、低クラスのエスコート嬢の場合、ホテルの部屋を最大限に活用するために、1日に複数の顧客を集めようと何時間もホテルで過ごすかもしれない。高級エスコート嬢なら、10枚の写真を撮るのにプロの写真家と撮影場所を使って1500ドル(約16万円)以上かけるが、低クラスのエスコート嬢は自宅の居間で自撮りした写真を広告に使うかもしれない。この構造は、文字通りの階級を表すには表すが、実際は業界内に存在する汚名や批判を表現するために使われる方が多い。

娼婦業界ヒエラルキーを理解するには、そして娼婦業界ヒエラルキーについてなぜこれほどまでに業界内で議論や争いがあるのかを理解するには、まず、メディアに頻繁に登場するセックス労働者にまつわる話を忘れることが大切だ。セックス労働者を被害者(たとえ自主的にこの仕事に就いていたとしても)として描く娯楽作品がいまだに登場する。例えば、テレビドラマ『The Deuce』(ザ・デュース)や映画『プリティ・ウーマン』だが、これらの作品の中で登場人物は、セックス業界にいた時ではなく離れた後に、活き活きし出すのだ。

こうしたストーリーは、セックス労働が「現実的な」仕事ではないと暗にほのめかしている。つまり、セックス労働が本物の労働でないなら、セックス労働者が稼ぐお金は、正当化できるものではないということだ。そして、特に女性はそもそもセックス労働などするべきではないというものだ。なぜなら、セックスは無料であげるもので、市場での需要に応えて経済的利益を上げるものではない、という考えがあるためだ。しかし現実は、米国のセックス産業において一番難しいのは、一般の人が議論しがちな「セックス労働者が被害者悪役か」という問題ではなく、お互いを評価し合う方法だったり、セックス産業で自分という商品を見せる方法だったりするのだ。

私は学位を持ってはいるが、多くのミレニアル世代の人たち同様、卒業後になかなか仕事を見つけられなかった。探し続けて半年経ったころ、ハーバード大学での楽だけど退屈な派遣の仕事を見つけた。時給はわずか12ドルだったが、自由時間には書き物ができた。夜は、高級ステーキ屋さんでホステスの仕事をすることにした。かろうじて生活費を払える程度だったので、収入に基づく奨学金返済計画を提出して、その年の返済を保留にしてもらった。

ステーキ屋さんでは、クロークで私に言い寄って来た50代の男性たちが、生牡蠣やキャビアが乗った3段重ねの大皿を注文し、帰りにはミンクのストールを自分の奥さんのためにクロークから受け取る姿を、私はいつも惨めな気分で眺めていた。奥さんたちのハイライトが入った髪は、ふわふわにきれいに仕上げられていた。あの人たちに給仕する立場じゃなく、あの中にいたかった。何よりも、物を書くための時間がほしかった。それで、行動を起こす決意をした。ステーキ屋さんでの仕事を始めて数カ月後、セックス労働者になった。今や私は、年間数十万ドル(数千万円)を稼ぐ。来年は、アイビーリーグの1つである名門大学院の学位に必要な学費を主に現金で支払うつもりだ。

この業界では大金を稼げるが、ベッドの中でただ寝っ転がっているだけではダメだ。どれほど成功できるかは、いろいろなことをどう決めるかによるし、トレーニング・マニュアルがあるわけではない。ルブタンのハイヒールを見せびらかすほうが、お金をかけていいところに広告を出すよりも多くの仕事につながるだろうか? たとえ素人っぽく見えたとしても自撮り写真の方が、プロに撮ってもらった写真よりも注目を集めるだろうか? 「高級クラス」っぽい外見で少ししか稼がないのと、「低クラス」な外見だけど大金を稼ぐ方、どちらがいいだろうか? 私は奨学金返済のためにセックス産業に入ったのであって、マンハッタン5番街の高級デパートで定期的に買い物するためではない。だったら、生活費を稼げる限り、何をそんなに気にする必要があるのだろうか?

私は、こうした力の関係が気になって仕方ないのだ。なぜなら、もっと大きな問題、つまり性的な好みは、豪華さとか、(それが現実のものであれ想像上のものであれ)階級などと互いに関係しているからだ。お金はものを言う。それがベッドルームの中ででもだ。そしてお金には、ある種のエロティックなパワーがある。これを分解して上回ろうとするのは難しい。努力はしているが、一番苦しい思いをするのは、貧しすぎて顧客を選べず、生活費を稼ぐためには全ての客を受け入れなければならない、生き抜くためにセックス労働をしている人たちだ。

つまり、中流階級という概念はほとんどの業界において浸透しているが、この業界だけはそうではないのだ。エスコート嬢は、概して高級または低級に分類され、中間はほとんど存在しない。そしてセックス労働が職業であり続ける限り、セックス産業における社会階級の境界線は最後まで残り続けていくだろう。


エリート・エスコート嬢になるための必須要件があるのなら、東海岸の家系出身で教養学部の学位を持っている履歴書であれば完璧だろう。どの種類のキアンティ・ワインを注文すべきか、そしてフランスの保養地リビエラで一番のビーチはどの街にあるかなどの知識は、友達や家族の間ではパーティーでのネタになるかもしれないが、この商売ではスキルになる。まさに、エチケットの権威だった作家のエミリー・ポスト並みの知識が必要だ。ツイッターなどのソーシャル・メディアで活動しているようなタイプのエスコート嬢も、一般的には存在する。彼女たちはそれほど頻繁に「接待」はせず、ホテル(5つ星のみ)の部屋代はクライアント持ち、1時間以上の予約を入れるよう求める時もある。30分の予約を入れるのは低クラスとされているし、1時間の予約が頻繁に入っているのも、あまりよくは見られない傾向にある。そして何よりも、エスコート嬢のステータスは、適切なウェブサイトに適切な方法で広告を出しているか否かで判断される。

恐らくインターネット上には、広告を載せられる場所が星の数ほど存在するが、主な選択肢(怪しいものから高級クラスに至るまで)としては、クレイグスリスト、バックページ、ジ・エロティック・レビュー、スリクサ、エロスなどがある。私の経験では、トップ・レベルのエスコート嬢は、スリクサとエロスにしか広告を打たない。スリクサの方が新しく、顧客が頻繁に使っているわけではないのだが、デザインはおしゃれで、他の広告サイトと比べ管理の透明性が高い。また、他の競合サイトよりセックスに対してポジティブで、女性にとって使いやすいと評判だ。エロスはかつてデザインが雑だった(かつ評判もバックページと変わらなかった)が、かなり前から業界のトップ・クラスに愛用されるようになった。

興味深いことに、これは私が口コミだけで集めた情報で、私が知っている限り、ウィキペディアやグーグルの検索で見つけ出せるものではない。かつては良くない評判があったウェブサイトが、今や目の肥えたエスコート嬢が使う標準のものとなっているのは、階級がそうであるように娼婦業界ヒエラルキーも、常に揺るぎない土台の上に成り立っているものではないという最も説得力のある証拠だろう。この点に加え、エロスからのトラフィックは、単なる冷やかしが多い。予約を入れても実際には来なかったり、できるだけ長くメールでやり取りしようと少しずつしか情報を教えなかったりなどだ。

トラフィックがあまりよくないのにエロスで高い広告を載せるのは、直感に反することのように思えるかもしれない。しかし顧客は、1人のエスコート嬢について複数の広告サイトを見て、その女性が本当に存在するのか確認することが多い。また、1つのサイトに高い広告を載せておいて他ではそうでないと、複数のサイトに高い広告料を出すお金がないのでは、と勘ぐられてしまうかもしれない。そして高い広告料を払えるだけの稼ぎを上げられていないエスコート嬢ならばそのサービスにお金を払う価値はない、と思われてしまうかもしれない。私は、エスコート嬢を始めてまだ日が浅いうちにエージェンシーに入っておいてよかった、とよく思う。娼婦業界ヒエラルキーに関して学べたからだ。広告をどう出すかの助言がなければ、プロとしての評判や収入を永久に損なうようなことを、自分でしてしまっていたかもしれない。

セックス労働を始めたころ、クレイグスリストの「女性を求める男性」のコーナーで客を探して、初めて100ドルを稼げるようになった。仕事内容はヌード・マッサージとフェチ・プレイに限定し、200ドルの報酬とドリンク数杯を払ってもらえるよう顧客と交渉した。ハーバード大での仕事先で、上司が部屋から出て行くと、急いで自分の足の写真を撮ってフェチの人たちに売っていた。実名を使い、顧客を選り分けることは絶対しなかった。できるとは知らなかったし、そもそもそのような安全対策は、この業界に標準で組み込まれているとも知らなかった。

当時私はフルサービス(単にセクシーな仕事ではなく、文字通りセックスが絡む仕事)よりもこちらのほうが上だと感じたのだが、後になって、これは娼婦業界ヒエラルキーでは底辺と考えられていると知った。健康増進という意味で私はセックスが尊いものだと思うが、私の体は誰か1人のためだけにあるべきだという意味において尊いものとは思わない。フルサービスを出し惜しみするというのは、フルサービスをするよりもまだ「汚れ」が軽い気が当時はした。とはいっても今は、仕事でどう感じるかは概して、私の行為ではなく、私がどう扱われるかによって違うと分かっている。当時は、お金のためにセックスをすると、必然的に自分は「低クラス」になると信じていたのだ。

しかし代わりに、この業界内においては、顧客をクレイグスリストで見つけるのは、レジ打ちの仕事にとってのトイレ掃除またはそれ以下と同じだと見られることが分かった。顧客にとっては、クレイグスリストへの投稿は100円均一ショップで「値引きワゴン」を漁っているようなものだ。値引きされていて、ちょっと大丈夫かなと思わせる商品で、でも嫌なら捨てられる。バックページにも似たような評判がある。そしてつい最近まで、バックページの広告欄には「エスコート」というカテゴリーがあった。現在はセックス労働者のほとんどが、「男性を求める女性」のコーナーに広告を載せている。中には、クレイグスリスト(無料)かバックページ(投稿1件7ドル、約750円)にしか広告料を出せないというセックス労働者もいる。他の場所に広告を載せられるけれどもっと顧客を増やしたい人は、密かにここに載せている。

クレイグスリストで顧客から現金を集められるようになると、外食が増えるようになった。特に、ボストンのニューベリー・ストリートにあるレストランに通うようになった。そこで私はバーに座って、40代の億万長者を引っ掛けていた。週に1度そこで食事をしたのだが、私が何をしようとしているかを多かれ少なかれ知っていたバーテンダーが、その店の常連になったばかりの客を毎回紹介してくれた。これは気晴らしだったのだが、クレイグスリストでの冷やかし客に嫌気が差したとき、2つのプロジェクトを組み合わせて、本気でエスコート嬢としてやっていく決意をした。セックスが好きだったし、年上の男性に魅力を感じもした。そしてもっと現金が必要だった。ということで、エージェンシーに入ることにしたのだ。

1人で営業するよりもエージェンシーに入ることにしたのは、私が自分で決めたことだが、ともすれば大失敗となり得る決意でもある。娼婦業界ヒエラルキーの中では、エージェンシーに属している女の子たちは、ビジネスの才覚がないとか、薄汚れている、ドラッグ漬け、頭が悪い、見境がない、などと思われることが大半だ。最悪のエージェンシーは、現代のポン引きのような感じで、女の子1人あたり1日12時間の労働をさせ、市内最低料金で少なくとも6人の相手をさせる。中には、数をこなすために顧客の審査をないがしろにする悪評のあるエージェンシーもある。

私はあまり目立たないエージェンシーを選んだのだが、幸運なことにそこは雇用主というより、アシスタントの役をしてくれるようなところだった。顧客や他のエスコート嬢とのメールでのやり取りでも、そのように受け取られていた。エージェンシーの女性は私の写真代を支払ってくれ、ホテル代は割り勘で、広告費は全て持ってくれ、稼ぎからの彼女の取り分は標準的な50%ではなく30%だった。もし顧客が現れなければ、ホテル代を返金してくれた。彼女自身もエスコート嬢で、ここ10年間はいろいろなレベルのサービスを提供していた。顧客をどう選りすぐるか、なぜ選りすぐるかを教えてくれ、私が独立すると決めたときは、ウェブサイトを作る手伝いもしてくれた。あまり顧客が集まらないと、彼女がバックページに私のために広告を載せてくれたこともあったのだが、私の評判を落とさないように違う源氏名と写真を使ってくれた。


「高級クラス」のエスコート嬢として始めるための諸経費(広告代と写真代)は、平均で数百ドル(約数万円)ほどだ。エステとジムの他、ホテル代、ウェブサイト管理費、写真代、税金の処理をしてくれる会計士や弁護士へのコンサルタント料、その他雑費で、私の場合は毎月2000ドル(約21万5000円)ほどかかる。エージェンシーなしにこの業界で仕事を始めるのは無理だったと思うし、自力で始めるセックス労働者のほとんどは、最初からある程度は経済的に恵まれている人なのだと思う。

初めから経済的に自由が利くことを最も端的に示す例は、「少量」として広告を打つエスコート嬢だ。「少量」とは、「1日1人の顧客しか取らないもの」とネットの掲示板やその他で緩く定義されている。この言葉から、エスコート嬢がどの程度働く必要があるかがうかがえる。少量のエスコート嬢は通常、1時間当たりの単価が高く、1回のデートは最低でも2〜4時間となる。その収入だけで生計を立てているか(私がこれまで見た中で最高額は1時間当たり2000ドル、約21万5000円)、または昼間の仕事からの収入が他にあり、セックス労働は趣味としてやっているものだ。少量のエスコート嬢は通常、学士以上の学位を持っており、例えば「女子大生」のように自分を売り込むネタとしてそれを使うことが多い

対照的に、私は通常、1日に1〜3人の顧客を週3日取る。予約が1時間だけだったり、顧客がフルサービスを求めなかったりする場合は特にそうだ。一部の顧客とエスコート嬢にとって、この考え方は相反するものだ

(高級エスコート嬢の多くがエージェンシーに抱く嫌悪感を物語る)「量」に対する汚名は、問題をはらんでいる。この汚名は、セックス労働をまるでレジャー・アクティビティの1つであるかのようにこなしたり、少なくともそうであるかのように振る舞ったりする人よりも、生き残るためにこの仕事をしているセックス労働者や、単に多くの量をこなしたいセックス労働者の社会的な立場を低くするからだ。つまりこれは、大人向けのサービスが意図的に金銭と交換される業界においてさえも、女性の性的なパートナーの数が、いまだにその女性の価値を決めることを示唆している。この汚名は、セックス産業という文脈でのアメリカン・ドリームにある矛盾を物語っている。達成とキャッシュフローは同等に見られるのに、不特定多数を相手にした乱交は嫌がられるのだ。

私は現在、自ら選んでセックス労働を主な収入源としている。年収は6桁、数十万ドル(数千万円)だし顧客を選り好みできるだけの貯金はあるが、それでも「少量」になるには心の中に抵抗がある。少量になることを考えると、母親が台所で小切手帳を計算しながら、お金を節約するためにあれこれ工夫しようとしている姿を思い出すのだ。研究によると、私のこの恐れは実質的なものというより心理的なものだ。私が金銭的なリスクをあまり負わないのは、できないからではなく、育ってきた階級の一面が、私の中に組み込まれてしまっているからなのだ。


この仕事を始めて数カ月経ったころには、どこに広告を載せるべきか、載せないべきか、はっきりと理解できるようになっていた。支援グループやイベントを毎月主催する活動組織である、セックス労働者支援プロジェクト(SWOP)という団体に加入することにした。こうしたイベントでは、この業界でいかにさまざまな人が働いているかがより明確になる。SWOPに加入申し込みをした時、あらゆる経済階級および社会階級のセックス労働者を歓迎する旨が明確に伝えられた。もし自分がいかに恵まれているかを受け入れられないなら、この団体は私には合わないだろう。

SWOPが言わんとしたことは、イベントに来るセックス労働者の全てが、必ずしも両親が揃っていたり、定住地があったり、自宅があったりした環境で育ったわけではない、ということだ。大卒の人もいれば高卒認定資格を持っている人もいたし、自宅を所有している人もいればホームレスもいた。この類の多様性を懸命に隠そうとするのではなく、これだけ表立って誇りにするのを私が見たことがあるのは、セックス業界で唯一、ここだけだ。

「ある支援グループでは、高級ハイヒールのジミーチュウについての話で会話を独占していった女の子たちがいた」と聞かされた。「それって、ホームレスの人やホームレスになりそうな人にとっては、すごくつらい話なの。分かると思うけど」

SWOPは、候補者と公共の場所で会って加入の審査をする。私がパメラに会ったのはその時だ(プライバシーを守るため本記事に登場する人物の名前は変えてある)。ハーバード・スクエアの高価なカフェで一緒にカプチーノを飲みながら、パメラが組織のイベントや任務について説明してくれた。パメラは人見知りをしていたが、明らかにそれを悟られないようにしていた。お互いに自分について話をするようになると、パメラは自分が10代の時にホームレスだったことや、15歳で売春を始めたことを話した。クレイグスリストで仕事を見つけたこと、そこで見つけた顧客が選別のためのチェックをなかなか受け入れてくれないことなども説明してくれた。パメラはまた、BBW(業界用語で、大柄の美しい女性)として事業を拡大するのがなかなかできなかった。私たちの会話はやがて、ザ・エロティック・レビュー(TER)の話になった。

TERは、エスコート嬢を評価するレビューサイトのようなものだが、人をモノ扱いする人たちの温床となる

TERは、エスコート嬢を評価するレビューサイトのようなものだ。理屈では便利そうだが、実際には、人をモノ扱いする人たちや、ミソジニー(女嫌い)、人種差別、ネットでよく聞かれる多数の「~主義」みたいなものの温床となる。このサイトにうまく対処するのは難しい。というのも、このサイトがセックス業界の中心となっているためだ。広告は無料だし、法律に関して重要な情報がときどき掲示板に載っていることもある。問題はそのレビュー・システムで、エスコート嬢のパフォーマンスと外見について、1〜10でランクづけしていることだ。

エスコート嬢が受けられる点数は、1)舌を使ってキス、2) コンドームなしのオーラルセックス、3) バイセクシャル、4) アナルセックス、5) 同時に複数の男性(顧客が男性との前提で)と参加する、などをしない限り、最高で7点だ。エスコート嬢は各サービスで1ポイント獲得できる。自分が持っている限界を超えない限り10点満点を獲得するのは不可能なケースもあり、また、生まれながらの性別と現在の性別がどちらも女性だとはっきり示さない場合は、紛らわしくなることも多い。さらに、評価点は顧客がつけるのではなく、顧客のコメントを読んでTERの管理者がつけるのだ。

つまり、顧客が10点満点の経験をしたと思ってもあまり多くを語らなければ、TERスタッフ(匿名ではあるが、全員がストレートの男性だと思われる)が10点中7点もしくはそれ以下の経験だった、と解釈するかもしれない。生まれた時は女性ではなかったエスコート嬢にとって、このような男性限定の視点からの評価では、高い得点を定期的に獲得するのは無理だと想像できる。特に、トランスジェンダーのセックス労働者は「トランスセクシャル」カテゴリーの下、別枠の広告スペースに掲載される場所(TERとエロス)ではなおさらだ。このような予測不可能な評価システムの結果、多くの高級エスコート嬢が、TERから広告を取り下げるか、実質的にはこのサイトでの広告掲載が禁止となる「レビューなし」ポリシーを採用している。こうしたエスコート嬢にとって、大した問題ではないのだ。しかし生活のためにセックス労働をしている人にとってこれは、自滅行為だ。

「本当に、そこに載せてもらいたいの」とパメラが言った。「でもウェブサイトが必要。エージェンシーに入りたいところだけど、BBWを採用してくれるところがないの」

TERに載せてもらいたいという彼女の熱意に驚き、また、エージェンシーは応募して来た人全員を採用するわけではないと知って驚いた。私は背が高くて痩せているため、エージェントを見つけるなんてずっと簡単だったのだ。これもまた、恵まれたエスコート嬢の特権の1つだ。私のエージェントが後に説明した話によると、毎月そこそこの応募があるが、電話できちんとした会話ができる人で、エージェンシーの中にすでに似たようなタイプがいない場合しか採用しないという。そのエスコート嬢を使う最初の週に、エージェンシーは常連客に新人を試して報告してほしいと依頼する。反応が悪ければ、その女性はクビだ。例えばルシアは、とにかく言葉遣いを直せなかった。

「ルシアは言葉尻すべてに『くそ』をつけないとしゃべれなかったの」とエージェンシーは、ランチ・ミーティングでタルタルステーキを私とシェアしながら、白目をむいたあきれ顔で話してくれた。「それで言ったの。『お客さんにそんな言葉遣いで話さないでね』って」。

エージェンシーは結局、ルシアをクビにした。これは、エージェンシー全員が理解していることの意思表示だった。かわいいだけではダメということだ。


私がこの仕事を始めたばかりのころ、自分で髪を赤く染め、ネイルも自分で塗って、顧客と会う時は持っていた中で一番良いドレスを着た(アン・テイラーの中古ワンピース)。昔の女友達がくれたヴィクトリアズ・シークレットのランジェリー上下セットを1つだけと、コンビニで買った太ももまでのストッキングを何足か持っていた。最初の1カ月は恐らく、まるでテレビドラマの主人公のように派手な服装をしていたと思うが、他にどんな格好をしてよいかなんて分からなかった。今の私はお金を払えるので、プロのネイリストにお願いできるし、ヘアサロンに行けば女性が数百ドルで私の髪をジャッキー・Oみたいにカットして染めてくれる。それに、デザイナー・ブランドの品物をたくさん持っている。マノロ・ブロニクの青いスウェード・パンプス、クリーム色のパテントレザーでできたプラダのハイヒール、高級ランジェリー・ブランド「エージェント・プロヴォケーター」のランジェリー・セットとキューバンヒールになった太ももまでのストッキング、ビンテージもののミンクのストール、そしてノードストロームで買ったいろいろな物。話し方をソフトにするためにフランス語のレッスンを受けているし、ザ・プラザでエチケットの再教育講習も受けている。

今になってみれば、こうした社会ステータスを物語るものによって、顧客の私への印象が変わるというのが分かる。しかしお金を手にした大人になってみないと、なぜそれが必要なのかは分からなかった。10代のころは、祖父母に車で旅行に連れて行ってもらったが、道中はホリデー・インに泊まったものだった。現在は、インターコンチネンタルやザ・タージなどの高級ホテルを仕事に使っている。これらは高くつくが、高級な雰囲気を保つには必要だ。顧客にモエ・エ・シャンドンをプラスチックのコップで飲んでほしくないし、4つ星や5つ星のホテルと比べてロビーを慎重に監視する傾向にある家族向けの宿泊施設で、受付の列に巻き込まれてほしくない。ホリデー・インやマンダリン・オリエンタルのカスタマー・サービスには大差がないというのは時に本当だ。しかし同じサービスでも、5つ星ホテルの方がより良いものに感じられる。

外見的な見かけにお金をかければかけるほど、顧客はより多くのお金を私につぎ込んでくれるようになる。私は顧客とのデートには、比較的長い時間を設定している。最初のころはたまたま裕福な地主や建設管理者が多かったが、今は通常、エンジニアリングやテクノロジー業界の顧客に会うようにしている。どの特権に属するかを裏付けるものや好みは簡単に偽造できるものではなく、顧客もそれを分かっている。映画『マイ・フェア・レディ』でイライザ・ドゥーリトルがアスコット競馬場に行った時、イライザの外見は息をのむほど美しく仕上げられていたのに、言葉遣いや好みで身分がバレてしまったのだ。


公立学校での性教育のように、セックス労働者にとって明確で正確な情報は常に簡単に手に入るわけではない。また、マーケティングや経済のような科目の高い学位を持ったセックス労働者たちが、レディットのスレッドから公知の秘密を持ち出すのではなくて、正式な場で情報を標準化しようと懸命に働きかけている。数字やマーケティングの情報はスリクサのブログなどで見つかるし、中にはローラ・ダヴィーナ著の『Thriving in Sex Work』(セックス労働で成功する)のようなガイド本も存在する。しかしこうした情報源は完璧なわけでも包括的なわけでもなく、誰もが手に入れられるわけでもない。

エロスもスリクサも、エスコート嬢に対して限定的な人口統計データしか提供しておらず(サイト利用者の平均年齢や平均収入など)、こうしたものはこの業界では非常に入手しにくい情報だ。それでも、自分の広告が何度見られたかなどの情報は、他にたくさんある競合の広告と比較でもしない限り、役には立たない。そしてその情報は、他のエスコート嬢に聞かない限り知り得ないが、エスコート嬢は体裁的に教えたくないと思う可能性がある。さらに、広告掲載料は広告の場所やサイズにもよるが、どちらのサイトも月当たり100〜400ドル(約1万〜4万3000円)が必要となる。言い換えれば、生き残るためにセックス労働をしている人は、高級エスコート嬢が持っているような同じ情報にアクセスできない可能性が高く、それは両者の間の溝をさらに深めることになる。

外見の維持にこれほど必死になる業界において、性的な社会的ヒエラルキーの大部分が、観察から学ばなければならないものというのは、ショックである。学ぶか痛い目に遭うかだ。つまり、例えばホテルの部屋が自分の職場となる場合、他のエスコート嬢と繋がる方法を見つけることが、必要不可欠ということだ。TwitterやSWitter(「セックス・ワーカーのツイッター」)ではこうした密かな情報交換がなされ、セックス労働者がたびたび存在感を主張する場所だ。エスコート嬢のパーティや慈善活動イベントへの招待状はここで配布され、ダイレクト・メッセージ(DM)ではゴシップ話に花を咲かせる。

この情報は大抵あまりにも私的なもので、DM外で他のエスコート嬢に詳しく話すのは不適切のように思える。セックス労働者同士の暗黙の了解を破るような感じなのだ。自分の身を守るという意味で情報を明かしたくないという欲求は理解できるが、お互いに知らせないことで、この「階級」(または接近性)の問題は、永遠に続くものになってしまう。

『マイ・フェア・レディ』の最後のシーンで、イライザは新たに得た知識からして、自分より身分の高い人との結婚もできるだろうし、ヒギンズ教授が教えてくれたように音声学を教えることもできるだろうと言う。この発言にヒギンズ教授はひどく気分を害し、次のシーンではその胸の内を歌う。ヒギンズ教授は、イライザがどれだけ学んだかにもかかわらず、もともとの社会階級に属し続けるべきだと考えているのだ。

「私が教えたことを教えようとするのか」と言って、ヒギンズ教授は嘲笑する。まるで、同じ情報でも、自分の口から出たものの方がイライザの口から出たものよりも大きな力を持っていると言わんばかりだ。

しかしイライザのアイデアはそこまで不合理なわけではなく、ヒギンズ教授の怒りは、イライザの知識が自分の知識に太刀打ちできると考えていることを示唆している。当初はヒギンズ教授の方が優れているかのように思わせた彼の知的能力と社会的権力が、実は周囲の状況に付随するものだったと示唆しているのだ。特権を分解する方法は、単にこれまで失われていたとか手に入らないと思っていた情報を掘り起こす中にあるのかもしれない。特権的な情報がある場所には、バランスが失われた権力がある。そしてこのもろいヒエラルキーの崩壊する様をただ何もせずに見ているより、積極的に分解したほうがいいと私は考えている。


エミリー・スミスは、ボストン在住の作家兼活動家。


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この記事は英語から翻訳されました。
翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan


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