アメリカのイリノイ州シカゴ市に住む中村佐知さんは、2017年1月に不思議な封筒を2通受け取りました。
がんで亡くなった次女・中村美穂さんに宛てられた封筒。
中を開けると……
「19歳の美穂へ。元気?!調子はどう?」
娘が5年後の自分に向けて書いた手紙が入っていました。
届くはずのない手紙だったと佐知さんはBuzzFeed Newsに語ります。その理由とは——。
2015年4月、うつ病を克服した数ヶ月後に、スキルス胃がんを宣告された美穂さん。20歳でした。
娘の美穂さんについて、佐知さんは「とても活発で深く考える子だった」と振り返ります。
「すごく思いやりがあったけど、型にはまることのない子でした。別の言い方をすれば、母親としては決して扱いやすい子どもではありませんでした」
「でも、友人からとても好かれていました。いつも弱い立場の人や孤独な人たちの側にいたのです」
勉学にも励み、成績も優秀でニューヨーク大学の奨学金をもらっていました。
しかし、高校の頃から5年間ほどうつ病に悩まされていた美穂さんは、健康上の理由で1年半後に大学を離れました。
うつ病と闘った美穂さんは「苦しみや孤独のつらさも知っていた」と佐知さんは語ります。
1年半ほど自宅で休養してから、シカゴ市のイリノイ大学で新たな人生を歩み始めていた美穂さん。
しかし、その数ヶ月後にスキルス胃がんステージ4だと宣告され、11ヶ月後の2016年3月5日に21歳という若さでこの世を去りました。
うつ病を乗り越えて間もなく訪れたがんの闘病。愛する娘を亡くした佐知さんは、悲嘆に暮れました。
「彼女が夢描いていた未来や希望は、達成されることがなかった」
美穂さんが亡くなって10ヶ月後。とつぜん自宅に、美穂さんが書いた手紙が届きました。
今は亡きウォール先生の英語の授業で、美穂さんが5年後の自分へと、15歳、17歳と2度にわたって手紙を書いていたのです。
「手紙が5年後に生徒たちへ送られてくるはずだったのですが、先生が2013年に亡くなりました。オフィスかどこかに手紙が埋もれてしまったのでしょう、届くことはありませんでした」
届くはずのなかった手紙。奇跡的に誰かが発見し、ウォール先生の代わりに生徒の元へ送ったのです。
「手書きの文字を見て驚きました。この英語の授業の課題について知らなかったので、手紙が届くとは一切予想していませんでした」
恋愛、友人関係——。15歳の美穂さんが、19歳の美穂さんに向けて書いた手紙は「陽気で楽しそうだった」といいます。
15歳の時とは、少し違う17歳の手紙。
「苦痛が感じ取れる内容でした。もがきながらも、乗り越えようとしていたのです」
15歳と17歳で、違う形で自分と向き合っていた美穂さん。2通の手紙には、ひとつ共通していたことを佐知さんは知りました。
「両方の手紙には、将来やりたいこと、そして希望について書いてありました」
奇跡が重なって届いた手紙
佐知さんは、翌日Facebookに手紙について投稿したところ、周りの人々から温かいメッセージが寄せられました。
「『神さまからの贈り物』だと言う人が多く、私もそうだと思っています。ほろ苦い思い出ですが、美穂が亡くなった10ヶ月後に彼女の人生の一部を受け取ることができ、とても良かったです。ウォール先生も同じく亡くなっているので、さらに特別に感じます」
美穂さんの同級生からも、手紙が届いたと佐知さんに連絡がありました。
「ウォール先生の生徒たちにとって、この手紙は特別だったと思います。しかし、私にとってさらに特別に感じました。美穂は、もうこの世にいないので」
奇跡が重なって届いた手紙。美穂さんとウォール先生を思い出すことができた、と嬉しいながらも切ない気持ちを表す佐知さん。
「よく考えてみれば、そこまで奇跡的な出来事ではないのですが……でも、受け取ったら嬉しいですよね」