ニューヨーク・タイムズ紙など大手ニュースメディアがマーケターによるリンク乗っ取りの被害に。

    「感動したよ」。SEOマーケターを介してニューヨーク・タイムズ紙の被リンクを手に入れることができて満足したという利用者は、レビューにそう書き込んだ。

    エンターテインメント情報誌「ハリウッド・レポーター」は2012年2月、ウォルト・ディズニー・カンパニー元代表取締役ロイ・ディズニーの最初の妻パトリシア・ディズニーが死去した際、彼女の慈善事業への取り組みを称える追悼記事を掲載した。そこには、敬意を表したい読者がチャリティーに寄付できるようにと、彼女を記念するサイト「WeLovePatty.com」のリンクが貼られていた(現在は削除済み)。

    しかし、BuzzFeedがこの記事を執筆した時点でそのリンクをクリックすると、大麻をテーマにしたブログ「blaze4days.com」が開いた。そこには「ハイな気分のときに見る動画(2019年傑作選)」と題されたコンテンツなどが並んでいた(その後、アーカイブは正しい寄付先への案内文に差し替えられた)。

    パトリシア・ディズニーの遺族は、いつのまにか「WeLovePatty.com」を閉鎖し、ドメインネームへの支払いを終了していたようだ。そのため、寄生的なデジタルマーケターがそのリンクを乗っ取ることが可能となっていた。彼らはそうやって、ときとして怪しげな製品やサービスを販売するサイトへと、読者を巧みに誘導しているのだ。

    検索結果を操作しようとする検索エンジン最適化(SEO)コンサルタントたちは、まずは、著名ニュースサイトに貼られている有効期限切れのURLを手に入れる。そしてそのドメインから、自分のクライアントが所有するサイトへとリダイレクトされるよう細工する。

    BuzzFeed Newsの調査から、ニューヨーク・タイムズ紙、ガーディアン紙、フォーブス、ハフポスト、CNN、BBCニュース、ブルームバーグなど、少なくとも10の大手ニュースサイトからのバックリンク(被リンク)を獲得するために行われた「リンク乗っ取り」の事例が多数見つかった。

    この調査結果は、グーグルなどの検索エンジンが、世界中のいかがわしいSEOコンサルタントやマーケターなどによってかなり大掛かりに操作されている実態を示す一例にすぎない。そういったコンサルタントやマーケターは、有効期限が切れたドメインを乗っ取ったり、かつては信頼を得ていたウェブサイトを購入したりスポンサー非公開のコンテンツを掲載したり広範囲に操作活動を展開したりするなどして、自分たちのコンテンツが検索結果で上位に表示されるよう仕向けている。

    こうした手口によって最も大きな影響を被っているのがフォーブスだ。BuzzFeed Newsは、乗っ取られたリンクが含まれたフォーブス掲載記事を15件特定した。それらのリンクは、医療用品の販売サイトや、格安ホテルの予約サイト、オンライン決済サービスサイトにリダイレクトされるようになっていた。

    フォーブス広報担当者の声明によれば、同社はリダイレクトされたリンクを削除したという。また、「サイトが目的通りに機能するよう、今後リダイレクトされるリンクをチェックするための方法を模索している」と述べた。

    ニューヨーク・タイムズ紙とガーディアン紙も、BuzzFeed Newsからの問い合わせを受けて、こうした問題の存在を認め、解決策を講じるべく努めていると述べた。

    BBCニュースには、少なくとも10本の記事にバックリンクが貼られており、オンラインカジノや、ユタ州の破産専門弁護士との無料相談を謳う広告のほか、中国がインターネット閲覧規制のために構築したファイヤウォールを回避できるプライバシーブラウザへリダイレクトされた。BBCの広報担当者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。同社サイトには免責事項として、「外部サイトのコンテンツに関して当社は責任を負いません」と書かれている。

    今回の調査では、BuzzFeedあるいはBuzzFeed Newsのリンクを販売するマーケターなどは一切確認できなかった。

    悪意あるSEOサービスを提供する業者がはびこるクラウドソーシングサイト「ファイバー(Fiverr)」でバックリンクを販売しているのは、インドやパキスタンを拠点とするオンラインマーケターたちだ。冒頭のハリウッド・レポーター追悼記事内のリンクは、「maryfarrow」というハンドルネームのベンダーによって乗っ取られていた。このベンダーは現在、最高価格215ドルで、ニューヨーク・タイムズ紙やインデペンデント紙、テクノロジーメディア「Mashable(マッシャブル)」のバックリンクを 販売している

    BuzzFeed Newsがそうしたベンダー複数に話を聞いたところ、なかには、500ドル以上の料金を請求するベンダーもいた。自称「SEO専門家」たちによると、リンク切れを探す際には、ネットオークションサイトをチェックしたり、リンク情報を収集する強力なクローリング用ソフトウェアを導入したりするなど、さまざまな手段を使っているようだ。

    リンクを販売するベンダーのひとりで、「Your Trustful Technical SEO Lady(信頼できるテクニカルSEOレディ)」という宣伝文句を掲げているインドの女性業者は、スクリーンショットを送ってくれた。それを見ると、彼女がオンラインツールを使ってニューヨーク・タイムズ紙のリンク切れを探し出し、そこから、クライアントが運営するサイトへとリダイレクトさせる方法が見えてくる。リダイレクト先は、怪しげなインドのAndroidアプリストアだった。

    同じくインドを拠点とする別のベンダーは、インタビューを申し込むと、BuzzFeed Newsに有料で記事を出したいと申し出てきた。

    ファイバーでは、インドのデリーを拠点とするSEOエージェンシー「LinkVidya」も目についた。このエージェンシーは、最高価格260ドルで、BBCニュースやガーディアン紙、ハフポストといったサイトのバックリンクを見つけ出しているようだ。

    LinkVidyaは2019年に入ってすでに、2015年にフォーブスが掲載した記事の有効期限切れリンク1件を別のリンクと入れ替えている。その記事は、フィナンシャルアドバイザーのメーガン・メイソンがメーガン・マットという名前で執筆したものだ。ビジネス手法の倫理性向上をテーマにしたこの記事には、すでに閉鎖されたメイソンの会計サイト「Books Right」へのリンクが貼られていた。しかし今は、そのリンクをクリックすると、サンディエゴにあるじゅうたん清掃会社サイトへとリダイレクトされる。

    BuzzFeed Newsがメイソンに対し、かつて彼女が運営していたウェブサイトの末路を明かすと、「本当に残念な話です」と語った。

    メディア倫理の専門家で、非営利組織「ポインター・インスティチュート(Poynter Institute)」のシニアVPを務めるケリー・マクブライドによると、パブリッシャーにも外部の脅威から読者を守る責任が多少はあるが、こうした不正なリンク手法は、グーグルが検索結果をランク付けする方法に関連した、より大きな問題を象徴するものだという。

    マクブライドはBuzzFeed Newsの取材に対して、「インターネット上には驚くほど多くの詐欺が横行しています。その大半は、何らかのサービスが提供されるのだと巧みに思わせて、ユーザーを利用しようとするものです」と語った。「不正なリンク手法も、そうした詐欺手口のバリエーションにすぎません。インターネットの構造が抱える、より大きな問題の一部なのです」

    グーグルによれば、同社は検索結果の質を確保するためにガイドラインを強化しており、不正なSEO手法を特定・一掃するアルゴリズムを導入するなど多様な対策を取り入れているという。

    BuzzFeed Newsは以前、凄腕だと評判のコンサルタントたちが、偽サイトやソーシャルメディアの偽アカウント、リンクネットワーク(リンクを相互交換して、グーグルの検索ランキングを不正に操作するブログの集まり)を利用し、自分たちのクライアントに関する肯定的なコンテンツを宣伝する一方で、犯罪歴など否定的な内容が含まれたページが検索結果に表示されないようにしているやり方を報じた

    たとえば、とあるSEO企業が、ペイデイ・ローン(次回の給与を担保にお金を借りる短期・高金利の小口ローン)詐欺で有罪判決を受けたエイドリアン・ルービン(Adrian Rubin)の報道を巧みに隠蔽するべく、彼の名前を使って偽のオンラインペルソナ(ネット上の偽の人物像)を複数作成していたケースがあった。

    リダイレクト用のバックリンクには、まったく異なるテクニックが使われているが、グーグルが提供する「ウェブマスター向けガイドライン」では特に言及されていない。

    グーグルの広報担当は、BuzzFeed Newsが報告した事例は現ポリシーに違反しているとみなされると述べたが、ファイバーでサービスを販売するオンラインマーケターには、怯む様子は見られない。最近のレビューを見た限りでは、リンクのリダイレクト業界は活況を呈しているようだ。

    ニューヨーク・タイムズ紙への被リンクに加え、通信社ロイターのリンクも手に入れて満足したという利用者はレビューに、「感動したよ」と書き込んだ。「チップを払ってもいいくらいだ!」


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:遠藤康子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan