核への不安とトランプ政権。最悪の場合に何が起きるのか。

    何十年にもわたる核の恐怖、セミナー、学校での訓練にもかかわらず、最悪の事態が起きたら、アメリカ人の多くは放射性降下物から身を守る基本も知らず、米保険当局は痛ましいほど負傷者に対処する準備ができていない。

    ハワイでの弾道ミサイル警報の誤報、核被害に関する全国セミナーのキャンセル、北朝鮮に向けたツイートをやめられない大統領。考えもしなかったことを考えさせられるようになってきた。アメリカに対する核攻撃だ。

    16日、米国疾病管理予防センター(CDC)は何か月も前から予定していた発表を突然キャンセルした。「原子力災害における公衆衛生対応」という発表で、インフルエンザに関するセミナーと差し替えられた。この差し替えのあと、多くの報道機関がこの出来事と、13日にハワイで発生した弾道ミサイル発射の誤報に注意を促した。この緊急警報にはハワイの住民、核専門家が震え上がった

    The risk of accidental nuclear war is not hypothetical - accidents have happened in the past, and humans will err a… https://t.co/laAiUOrn8L

    ウィリアム・J・ペリー(元米国防長官)

    偶発的核戦争のリスクは仮説ではない。偶発事故は過去に起きており、人類は過ちを繰り返す。多くの命が危険にさらされているとき、過ちが起きないことを祈る以上のことをしなければならない。

    核に対する強い恐怖心は冷戦時代の特徴だが、長い週末の間に、トランプ政権のもうひとつの特徴へと発展した。16日、北朝鮮の核戦力を抑制する外交施策を協議するために、カナダとアメリカは外相会議をバンクーバーで開催した。北朝鮮の核戦力は、この1年間で憂慮するほど増強している。11日、さらに核ミサイルを増やすという米国防総省の計画の漏洩を、ハフィントンポストが報じている。そして先月、連邦政府の予算には合意できないのに、アラスカなどにおけるミサイル配備を増強する40億米ドルの追加予算を、議会はあっけなく承認した。

    そのような攻撃をどの程度正確に展開できるのか、確度がそこまで高いのかについては、BuzzFeed Newsが取材した核安全保障の専門家の間でも意見が分かれる。だが、もし実際に弾道ミサイルで攻撃を受けた場合、最悪の事態が起きたら、何十年にもわたる核の恐怖、セミナー、学校での訓練にもかかわらず、アメリカ人の多くは放射性降下物から身を守る基本も知らず、米保険当局は負傷者の数、重症度に対応する準備が痛ましいほどできていない。そして、「核の秋」による環境への影響で、膨大な数の人が餓死する。

    米国科学者連盟の推定によると、北朝鮮は現在、10~20の組み立て済み小型原子爆弾を保有している可能性がある。漏洩した米国防情報局の分析では、北朝鮮は現在、合わせて60弾分ほどの爆弾の材料を保有しており、ミサイルに搭載して打ち上げる小型の弾頭を製造したと、昨年夏に結論づけられている。誇大妄想をした北朝鮮政権がアメリカの侵略と勘違いして、核兵器を使用する危険がある、と分析するものもいれば、核兵器は元来、使用するには危険であるという核の抑止力の理論に、金正恩は従う可能性が高い、と主張するものもいる。

    そんな不透明な状況の中、私たちは計画を立てている。

    9・11以降、核を使用したテロリズムは、民間防衛計画の中心をなしており、米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)は、テロリストによる簡易原子爆弾の起爆を、全国規模の民間防衛、災害対策の基盤となる国家計画シナリオにおける最重要事項としている。弾道ミサイルの起爆は、リストには載っていない。

    米国土安全保障省の核爆発への備えを促すウェブサイトでは、この考えを上手くまとめている。「アメリカに対する大規模且つ戦略的な核攻撃は、今日では可能性は低いと専門家は予測している」恐ろしい核爆発の写真の下には、「だが、テロリズムというものは、元来、予測不能」とも書いてある。

    緊急時用の備蓄と核シェルターを見つけるように促す呼びかけに加えて、公衆衛生当局は、10年以上にもわたり、核爆発について医療従事者を教育する報告書を作成し、16日にキャンセルしたセミナーと同様のものを開催してきた。米国疾病管理予防センター(CDC)が最後に核関連のセミナーを開催したのは、2010年である。原子灰の降下地域、爆発した地域の外にある病院に対して、何万もの熱傷、圧挫傷、放射線中毒の被爆者の処置をする上での助言が、その主な内容だ。

    だが、計画に含まれている情報の多くは、古いもので、北朝鮮への対応には適していない。例えば、国家計画シナリオでは、TNT換算で10キロトン相当の爆発を想定している。これは、おおよそ、広島を破壊した爆発の規模であるが、昨年、金正恩は、最低でもこの10倍の規模の核爆弾、弾道ミサイルもアメリカ全土に届くものを実験している。

    「100キロトンの爆弾3つがワシントンD.C.に及ぼす影響を真剣に考えたら、その規模に愕然とするでしょう。対応する計画があるとは想像できないでしょう」と、ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのジェフリー・ルイス氏は、BuzzFeed Newsに話す。

    「爆発で死ねる人は運がいいです。他の人はゆっくりと死んでいきます」とルイス氏は言う。「核戦争の恐怖に正面から向き合っている人は多くないですが、いままさに話しているような事態が本当に起きた時に身を守るために、民間防衛でシェルターを呼びかけているのです」

    このような不備に反抗して、核兵器専門家らは独自の最悪のシナリオを発表し、議員が脅威の重大さに対峙するよう願っている。

    例えば、昨年の12月、アメリカの軍事演習のさなかに、韓国の旅客機を北朝鮮が打ち落とし、パニックに陥った北朝鮮が核兵器を起爆させる、というシナリオを、ルイス氏はワシントン・ポスト紙に寄稿している。まずは、ソウル、東京、釜山への短距離ミサイルから始まり、ニューヨーク、ワシントンD.C.の外側へ長距離ミサイルを撃ち込み、合わせて2百万人が死亡する。「1945年に広島や長崎でそうであったように、医療施設に人が押し寄せる」と、ルイス氏はこの要約版のシナリオで書いている。

    被爆の度合いにより、急性放射線中毒で数時間から数日で死ぬ可能性がある。腸や骨髄の分裂が速い細胞を殺すのだ。生存する可能性がある人を見分けるために、すべての医師、病院関係者、政府当局、民間ボランティアによる大規模で迅速な負傷者の分類(トリアージ)をする必要がある、とハーバード大学医学大学院のデヴィッド・ウェインストック氏は、BuzzFeed Newsに語った。同氏の考えでは、米国疾病管理予防センター(CDC)のセミナーがキャンセルされたのは価値があった、という。

    簡単な基本を周知させるには、学校教育も重要、と米国科学者連盟のハンス・クリステンセン氏は、BuzzFeed Newsに話す。原子灰が落ちる地域の人たちが密閉された地下に数日非難していたら、被爆はかなり減らせる。

    「核兵器がどこで、どのように爆発するかによって、周辺地域における基本的な注意事項の知識があることで、多くの人の命を救うことができます」と、クリステンセン氏は語る。北朝鮮のミサイルはとりわけ正確ではないからだ。

    向こう5年間、北朝鮮が核開発を続けたら、ルイス氏が描いたものより、さらに恐ろしいシナリオが可能、とラトガース大学の大気科学者アラン・ロボック氏はBuzzFeed Newsに語った。パキスタンとインド間における核戦争が起きた場合の被害予測に極似するだろう。約100の弾頭によるこの規模の戦争では、核爆発自体で2千万人を殺し、煙と灰で太陽の光が覆われ、気温が下がり、地球規模で農業が何年にもわたり麻痺して10億人が餓死するだろう。ロボック氏らは、北朝鮮とアメリカの核戦争が起きた場合の大気への影響を完全にシミュレーションする3百万ドルの取り組みを始めている。

    ロボック氏のシナリオでは、アメリカから北朝鮮に向けられたミサイルを、中国かロシアが自国の核兵器庫への攻撃と勘違いして、大量の非常に強力な水素爆弾を本格的に発射し、人類を壊滅させる、と同氏は加える。

    東海岸へ向かう途中で大気圏への再突入に耐えられる弾頭を、北朝鮮がすぐに開発できるかについては、ルイス氏よりも、クリステンセン氏の方が懐疑的である。「だが恐らく、それも時間の問題だ」

    北朝鮮に平静を乱されてはいるものの、アメリカは、1947年からロシア、1964年からは中国からの核の脅威に実際にさらされてきた。北朝鮮は新しい心配事ではあるが、民間防衛において完全に目新しいわけではない、と同氏はつけ加える。

    「鍵となるのは、過剰に反応して大騒ぎし、核を使ってしまう方向へエスカレートしないようにすることだ」とクリステンセン氏は話す。「あるいは、北朝鮮へ予防措置として攻撃を仕掛けて、報復として北朝鮮が核兵器を使わないようにすることだ」

    誤って警報を発した危機管理当局の職員の名前は明かされていないが、現時点では配置転換されている。「今日、ハワイで発生した誤った警報が、私たちすべてにどんな影響を与えたのか、私はよく理解しています。誤報が招いた痛み、混乱に対しまして、深くお詫び申し上げます」とハワイ州知事のデービッド・イゲ氏は声明で述べた。

    We must also do what we can to demand peace and a de-escalation of tensions with North Korea. Again, on behalf of… https://t.co/FmY2Ot1AGG

    向こう数日の間、私は緊急準備チームと絶え間なく会い、ひとつひとつの世帯に確実に届くように、ハワイ州にいる家族、個々の人びと、リーダーに直に話し続けます。

    同時に、北朝鮮との平和と緊張緩和を要求すべく、できることをしなければなりません。ハワイ州を代表いたしまして、昨日の出来事、このことがみなさん方、ご家族、みなさんが愛する方々に与えた苦難とご不便にお詫び申し上げます。

    ハワイ州知事 デービッド・イゲ

    北朝鮮への緊張が高まる中、ハワイは12月に核警報システムを再開していた。

    「民間防衛は奇妙なものです」とルイス氏はつけ加える。冷戦時代の「かがんで頭を覆う」学校での訓練から始まり、核戦争に対する計画や注意喚起には常に不確実なものがつきまとうが、全人類に対する脅威は何とか打ち負かせそうなことを歴史は示唆している。

    予防措置や戦争ゲームの計画はすべて、「そもそもどうしたら核戦争を避けられるかを批判的に考える練習なのです」とルイス氏は語る。


    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan