銃を3Dプリンターでつくれるソフト、ネット公開を一時的に差し止め その背景とは

    「政府が国民にダウンロードの権限を与えるとなると、全国が危険に晒されることとなるでしょう」

    アメリカ・ワシントン州シアトルの連邦地方裁判所は7月31日の午後、3Dプリントで製造する銃の設計図のダウンロード許可を一時的に差し止めると発表した。犯罪者やテロリストの手に渡ることを恐れたのが理由だ。

    ダウンロード許可の差し止めは、設計図がネットで公開される数時間前に実行された。

    そもそもこの公開は、ネットでの銃設計を手がけている団体「ディフェンス・ディストリビューテッド」とアメリカ合衆国連邦政府との和解の上で確立したことである。

    「ディフェンス・ディストリビューテッド」のサイトでは、誰でも簡単に銃の設計図をダウンロードでき、また、個人で設計したモデルのアップロードも可能にする予定だったという。

    「ディフェンス・ディストリビューテッド」の代表者、コーディ・ウィルソン氏は過去にも3Dプリントで製造した銃を公開しており、その設計図を提供するサイトを削除するようにとアメリカ国務省に命じられていた。

    ウィルソン氏はこの件について、個人が武装する権利を認める合衆国憲法修正第2条は、銃の情報に対する権利も保障しているとし、「言論の自由」に反すると国務省を提訴している。

    ウィルソン氏は「提訴がはっきりするまでコメントできない」とBuzzFeed Newsにコメントを控えた。

    「政府は全米を深刻な危機に陥れた」

    多数の司法長官が、プラスチック銃の設計図を公開することは、安全性において大きな問題があると訴えている。3Dプリンターさえあれば、ディーラーを通すことも身元調査もなく、誰もが簡単に銃を所持できるようになるからだ。

    また、この3Dプリントされた銃の素材はすべてプラスチックであるため、金属探知機にも極めて反応しにくい。

    アメリカ政府は当初、全米の安全性を担保する規制が必要であると述べていた。金属探知機に反応しない、恐ろしい凶器が犯罪者やテロリストの手に渡ることを恐れたからだ。しかし、今年の夏、政府は前触れもなく主張を翻した。

    ワシントン州の検事総長は裁判所の文書にこう記した。

    「政府は全米を深刻な危機に陥れた。なぜこのような危険に私たちを晒したのか理由は明確ではないが、追跡もできない、金属探知機にも反応しない恐ろしい銃を作ってしまったことは確かである」

    「ディフェンス・ディストリビューテッド」が銃の設計図の公開を発表してから、各州の司法長官らが訴訟を起こそうとした。

    長い間議論されていたが、現時点ではアメリカの地方裁判所刑事ロバート・ラズニク氏が、設計図のダウンロード許可を保留することを認めることになった。

    ラスニック氏は「もし差し止めが実行されずに、銃の設計図が公開されたら、全米に負の影響をもたらすだろう」と述べた。

    ウィルソン氏が主張する「ゴースト・ガン」

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    「ディフェンス・ディストリビューテッド」はYouTubeで動画を配信しており、「ゴースト・ガンナー」という3D銃製造プリンターでウィルソン氏が実際に銃を製造している様子が撮影されている。

    メーカーから購入した銃には通常、シリアル番号が付いているが、個人で作ったものには付いていない。よって、法執行機関に追跡されなくて済むのだ。

    このような”隠れて持つ銃"を「ゴースト・ガン」と呼ぶ。

    「ライフルを持っているということを知ってほしくないという気持ちは、携帯やメールでのやり取りを第三者に見られたくないと思うのと同じだ」とウィルソン氏はYouTube動画で語っている。

    この件について、トランプ大統領は31日に「すでに全米ライフル協会(NRA)とは協議している。この3Dプリントされた銃は、あまり意味を成さないと思うが!」とツイートしている。

    また、NRAは、特定の量の金属を使うことによって、プラスチック製の銃でも探知できるようにしなければならないことは、すでに法で定められていると反論。

    審理の詳細が発表されるのは、8月10日。ニュージャージー州でもまた、設計図のダウンロード差し止めをめぐる住民運動が起きている。

    これに対してウィルソン氏は、言論の自由に反すると抗議している。

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:日比友紀子