Facebookがフェイクニュース一掃に本腰、しかし良質な情報が途絶える恐れも

    世界最大のSNSであるFacebookは、理想的で安全なサイバースペースへ戻りたがっている。つまり、度を超した党派性、偽情報、フェイクニュースと無縁の空間を作りたいのだ。そんなことは可能なのだろうか。

    Facebookが1月11日の夜に「ニュースフィード」機能の大規模変更を突然発表したところ、全世界のメディアおよび情報発信業界に激震が走った。ところが、Facebook社内の反応はまったく違っていた。見向きもされなかったのだ。ある社員はBuzzFeed Newsに対し、「ニュースフィードの変更など、誰も気にしていない」と話してくれた。

    ニュースフィード機能の変更は、Facebookの時価総額を250億ドル削り、情報発信業界に寝汗をかかせるほど不安な夜をもたらしたにもかかわらず、Facebookの平社員のあいだでほとんど話題にならなかったらしい。11日夜遅くの時点で、Facebookの社内Q&A掲示板にさえ、関連する投稿はなかった。掲示板は、Facebookの暗号通貨(仮想通貨)市場参入に関する見通しや、退職面接、AIチャットボットといった話で埋め尽くされていた。

    それに対し、Facebookを自分たちのコンテンツへの集客手段に使っている社外の人々にとって、この変更は激震になるだろう。Facebookは、大して意味のない小さな仕様変更を延々と続ける悪癖で知られるが、今回の変更は事業戦略の大転換になりそうだ。Facebookの中核機能であるニュースフィードが、当初の意図とまったく違う働きをしてしまった、ということを初めて認めたのだ。偽情報の拡散に乱用され、外国政府に選挙干渉手段として使われ、ユーザーを不快にした

    いろいろな意味で、計画中のこのニュースフィード変更は、Facebookがお膳立てしたオンライン広場の閉鎖へとつながる。Facebookによるニュースの大実験は、同社を世界でもっとも成功した情報発信者の1つとしたが、結局は失敗だったと暗に認めることになった。そして今Facebookは、理想的で安全なサイバースペースへ戻りたがっている。つまり、度を超した党派性、偽情報、フェイクニュースと無縁の空間を作りたいのだ。もっとも、20億人弱ものユーザーが拠点にするサービスに手を入れるとなると、変更は単純でない。Facebookは、素早く動き、物事を破壊し、世間による情報の生産/消費/共有方法を変えてしまった。10年以上かけて施された変更は、かつてないほど破壊的な社会実験の1つへと変化し、ちょっとした困難というレベルではなくなったらしい。

    Facebook says all that pesky news in your feed is making you cranky. Also, fake news is hard to fix. So let’s get r… https://t.co/Mayif8Cgqg

    Facebookは、みなさんのフィードに流れる迷惑なニュースがイライラの源、と言ってる。

    あと、フェイクニュース対策が難しい、とも言っている。それなら、フィードからニュースを一掃しよう!

    Facebookは、何度も、何度も、何度も過剰にニュース表示制御と我々の民主主義をこねくり回してばかりいる。

    Facebookは、これから実施するニュースフィード機能の変更により、コンテンツを「受け身」で消費する暇つぶしの場でなく、ユーザーが「関係を構築」できるより良い、より安全な場所になる、としている。CEOのマーク・ザッカーバーグ氏はニューヨーク・タイムズに、ただ時間を過ごすのでなく、「Facebookでより良い時間を過ごす」のだと説明した。同氏にとって、より良い時間を過ごすという意味は、家族や友人との交流を後押しするだけでなく、偽情報とフェイクニュースを減らし、そのうえで、議会による精査の回数も減らそうということだろう。ユーザーのかかわり合いの程度を示すエンゲージメントと、注目度を常に何よりも最優先する企業の立場としたら(同氏は11日、ニューヨーク・タイムズに、この変更が「短期的には会社の損失」になりうる、と述べた)、このような無私無欲な仕組み(我々は、ユーザーの利益になるなら注目を犠牲にしてもいいと考えているが)は、逸脱のように感じる。そして、かつての上級社員たちもまったく賛同しない進路変更だ。

    Facebookのある元上級社員は、BuzzFeed Newsにこう述べた。「Facebookは、利他的な場所であると認められたい願望が強過ぎる。私はこの変更を、フェイクニュース対策に注力するということよりも、Facebookを友人や家族と親しげに近況を報告し合える場所と見なしてもらおうとする最後のあがき、と理解している」

    複数のデータによって、Facebookの「友人や家族が情報共有」する場としての地位が、5年前からSnapchat、Instagram、iMessageといったソーシャルサービスより低くなっていることが示された。「Facebookユーザーの滞在時間はこの2年間、初めて短くなってきている。Facebookが調査したところ、友人や家族によるコンテンツの割合が下がり過ぎると、ユーザーはFacebookに価値をもう見いださない、という結果が得られた」(前出のFacebook元上級社員)。この元社員がFacebookの混乱に疑いの目を向けていることは、注目に値する。「今回の対応はうまく行かないと思う。それに、優れた報道で扇情主義者のニュースに対策しようとするやり方は、『一石二鳥』的な方法だろう」(同社員)

    複数の業界関係者が、これに同意している。ホワイトハウスの元最高デジタル責任者で、シリコンバレー経験の長いジェイソン・ゴールドマン氏はBuzzFeed Newsに対し、「この対応を、『Facebookは世界をより良い場所にしようとしている』のでなく、『Facebookは人々がかかわり合うための手段を増やさなければならない』ととらえれば、納得できると思う」と話した。

    情報発信業者にとって、この変更はきちんと検討されていない報いである。メディアおよびニュース組織が読者を集めて楽しませてきたこれまでの方法に、大きな変化が生ずる可能性がある。多くの場合、コンテンツの作り方と提示方法も変わるだろう。そして、大きな懸念激しい怒りから、気乗りしない楽観主義まで、実にさまざまな反応があった。

    I *still* don’t know what to make of the Facebook news. We’ve invested too much in this platform as a business to j… https://t.co/gMI6bgCida

    今後のFacebookニュースフィードについて、ザッカーバーグ氏は、ユーザーが目にする「企業やブランド、メディアによる投稿のような不特定多数向けコンテンツは減る」とし、「Facebookでの滞在時間は……減るだろう。同時に、Facebookで過ごす時間の価値が上がると思う」とみている。

    私は、※いまだに※今回のFacebookのニュースをどう判断していいのか分からない。一企業としてFacebookというプラットフォームに入れ込み過ぎた結果、軽くだまされた、で済ませられるレベルでなくなった。「我々に合わせろ」という方針は不十分だ。企業からのポストが減り、「Facebookでの滞在時間は減るだろう」とは、偉そうに。

    この変更は、間違いなく情報発信業者に激変をもたらす。しかし、Facebookの掲げる、知人のあいだで交わされる意味あるやり取りを増やすという最終目標が、フェイクニュース問題の解決につながる保証などない。変更によって、偽情報がたまたま表示される回数は減る可能性がある。ただし、情報の絞り込みを強めるだけだと、イデオロギーの似通った人々からのコンテンツであふれかえる。そして、ニュースフィードを減らし、閉じられたグループやコミュニティからの情報を増やすと、偽情報を目にする機会が増えかねない。ちょうど、あるプラットフォーム担当幹部が「(飛行機雲は陰謀によって散布されている有害な物質である、というケムトレイル説を信じ込んでいる)ケムトレイラーや反ワクチン派となってしまう人々は、友人やコミュニティに影響されて、そうなる」とBuzzFeed Newsに話したのと、同じことが起きる。

    米国成人の45%が何らかのニュースをFacebookで得ているという調査結果から、この変更は危険な変化になる可能性が予想できる。そして当然だが、ニュースの読者に意図しない影響をもたらしそうだ。米大統領選挙への干渉にFacebookが利用された2016年の騒ぎがそうであったように、Facebookはメディア体制を刷新しただけでなく、うかがい知れない方法で我々の生活を組み替えた。Facebookは、投票者への影響力と、伝統的な広告よりも強い力を発揮して、我々の政治に対する見方を一変させた。そのうえ、当時のドナルド・トランプ氏においては、大統領候補が大政党に頼る必要性を減らすこととなった。

    Facebookの別の元上級社員は、「世界中で社会不安が高まっている現在、報道メディアから発信されるコンテンツの優先度が下げられるとは、心配だ」とBuzzFeed Newsに述べた。「Facebookは、不特定多数に向けたコンテンツを流通させるインフラの必要不可欠な要素になったので、Facebookというプラットフォームの有用性を損なうものには警戒すべきだ。メディアは、現在あるさまざまな困難への対処方法を示そうと、最前線に立っている。Facebookには、ユーザーが友人とつながれるのと同じくらい容易に、ユーザーコミュニティが情報へアクセスできるよう、手助けする義務がある」(同元社員)

    Facebookが我々の生活の中心となり、巨大な文化となった今、オンライン広場の閉鎖は、無私無欲の行動というよりも、市民としての責任の放棄だと感じられる。もっとも、そのような責任など、Facebookは本心から求めたことなどないであろう。

    Facebookとニュースの関係は、以前から常にふらついている。ニュースがFacebookプラットフォームにとって都合良く機能するよう、何年も取り組んだ。例えば、話題のニュースキュレーターを雇ったりした。情報発信業者と協業し、有料でライブ配信コンテンツを制作してもらったり(BuzzFeedはFacebookと契約している)、記事を配信してもらったりした。それなのに、Facebookのニュースに対する取り組みは、「いいね!」とエンゲージメントを優先させるアルゴリズム的な手法が妨げとなってきた。この点で、ニュースは不快だったり、混乱させたり、論争になったりすることがあり、Facebookの目指すものと一致したことがなかった。人々は悪いニュースに「いいね!」しないし、議論を呼ぶ意見の共有はユーザーに不愉快な体験をもたらす。場合によっては、友達から外されてしまう。Facebookにしたら、これは最悪の結果だ。さまざまな点で、Facebookが11日に発表したニュースフィード機能の変更は、高まる不安と、最終的には絶望的になってしまった、ニュースに対する何年もの恋い焦がれた気持ちから導かれる、当然の帰結である。Facebookの別の元上級社員は、「Facebookは自分たちの配信するニュースに頭を痛めており、活用できていない」とBuzzFeed Newsに述べた。

    ニュースは不快だったり、混乱させたり、論争になったりすることがあり、Facebookの目指すものと一致したことがなかった。

    Facebookの社内関係者によると、Facebookがこのメディアゲームにどれだけ本気で取り組もうとしているのか定かでない、という。この人物は、「公共性の高いコンテンツは、もともとTwitterばかり痛めつけていた」と話した。Facebookからのアクセスを示す参照データから、このことは明らかだ。2013年終わりごろ、Twitterの株式公開(IPO)が実施される数週間前の時点から、Facebook経由でアクセスされた200個以上の情報配信業者サイトに対するトラフィックは、2013年8月から10月までの期間に69%増えた、とBuzzFeed Newsで報じた。この社内関係者が説明したとおり、このFacebookの強さは最終的にTwitterの息の根を止めたわけでなく、Facebookの意識を本来と異なる方向へ曲げてしまった。

    こうしたことから、2018年に実施されるニュースフィード機能の大幅刷新がFacebook本社内で話題にならないことは、驚くにあたらない。複数の元社員がBuzzFeed Newsに対し、この動きは社員に歓迎されるはずだ、と話してくれた。Facebookのある元上級社員は、BuzzFeed Newsに「フィードがニュースやセレブネタで埋め尽くされた状況は、人々を結びつけるというFacebookの主要テーマを常に邪魔していたと考えられている」と述べた。「パフォーマンス向上やPC向けサイトの表示乱れ対策、目立たない中核機能を改善する取り組みなど、やるべきことが山積みだった」(元上級社員)

    ある現役社員もこの見解に同意し、社内では変更が建設的な一歩だと見なされているとした。社員たちはBuzzFeed Newsに、「Facebookはご近所感を高めるだろう。結局のところ、人類にとってはこれが良いと思う」と話した。

    Facebookとその経営陣がこれまで何年も繰り返してきた大層な主張を考えると、やはり今回ニュースフィードに施そうとしている変更は、ニュースに対する新たな打開策を提供しようとした試みがやり過ぎで最終的に失敗だったと、自ら認めているとしか思えない。それどころか、ザッカーバーグ氏とFacebookの野望が全体的にしぼんでいるように感じる。ニュースを使って繰り広げられたゲームは、Facebookが抱えている危機の多くを生み出してきたし、悪質な報道を大量に発生させてきた。しかし、Facebookプラットフォームを何億人もの人々の生活の中心に据えるという、土台の役目も果たした。ニュースの優先度が下げられても、Facebookは地球上で最高の広告技術企業であり続け、多くの活気あるオンラインフォーラムの拠点であることに変わりはない。ここで生ずる疑問は、世界を根本から作り替えたいと望んでいる企業として、Facebookがその程度の役割で満足できるのだろうか、である。

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:佐藤信彦 / 編集:BuzzFeed Japan