再生回数、なんと40億回 YouTubeを蝕む陰謀論

    「YouTubeは、すでに陰謀論者を優遇させている。私はそう思う」

    大学教授でデータ・ジャーナリストでもあるジョナサン・オルブライト氏の最近の研究によると、YouTubeの陰謀論ビデオに関する問題は、これまで考えられていたよりも広範囲に及んでいる可能性がある。同氏がYouTubeのアルゴリズムを奥深くまで分け入ったところ、9000本弱の陰謀論ビデオによるネットワークの存在を確認した。そして、その再生回数は合計40億回近くあったという。

    フロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で現地時間2月14日に銃乱射事件が発生した後、YouTubeは、この銃撃から逃れた人々が「(何らかの目的で事件をでっち上げるための演技をした)クライシス・アクター」であると匂わせる内容の陰謀論ビデオを検索結果や急上昇ページの上位に表示させたまま放置しているとして、批判にさらされた。YouTubeはこうした不快なビデオの一部について削除を試みている。CNNによると、アレックス・ジョーンズ氏の運営している極右系「Infowars」チャンネルに対しても、YouTubeは陰謀論ビデオを理由に警告した。

    オルブライト氏が米国時間2月25日の早朝に自身のブログで公開した最初の研究結果からは、YouTubeが抱える陰謀論問題の広まり具合と根深さに対する新たな視点が得られる。まず同氏は「クライシス・アクター」に対するYouTubeのAPIを探し、各検索結果に関連付けられていた「次の」おすすめビデオを選んだ。そして最終的に、陰謀論がテーマのビデオ約9000本のリストを完成させた。これらビデオの一部を確認したところ、内容は成りすましの偽ビデオから性的コンテンツの配信まで多岐にわたる。同氏のピックアップしたレイプ被害者向けのある啓発ビデオには、「Truth or Dare(真実か挑戦か)」というパーティー・ゲームにちなんだタイトル「真実かレイプに対する挑戦か」が付いていた。

    オルブライト氏が作った9000本のリストには、大手報道機関によるビデオのほか、深夜テレビやコメディ番組の無害なビデオなども含まれ、それらすべてが陰謀論や不快な内容だったわけではない。しかし、大多数は陰謀論に関係すると思われる。こうしたビデオはいくつもの多種多様なアカウントから投稿や再投稿され、膨大な再生回数を稼いでいる。しかも、その多くがバズっていた。オルブライト氏の投稿によると、銃乱射に関連する陰謀論ビデオの上位50本を調べたところ、再生回数は合わせて約5000万回あったそうだ。

    オルブライト氏は2月25日午前、BuzzFeed Newsに対し、「暴き出されたYouTube検索の根深さに憂慮している」と語った。「我々が持つファクトチェック能力と虚偽の宣伝への対抗力は、反社会的なコンテンツというジャンルの拡大で急激に無力化される。私が今回見つけたYouTube検索の問題は、この拡大に拍車をかけている」(同氏)

    オルブライト氏から受け取った生データを見ると、YouTubeのおすすめアルゴリズムがどのようにユーザーを陰謀論の怪しい世界へ深く引きずり込むかよく分かる。同氏が最初に実行した「クライシス・アクター」ビデオの検索では、まずパークランドの高校で被害に遭った子どもたちに関するビデオが表示された。そこからさらに進むと、よく知られる陰謀論に関するビデオが、おすすめとして次から次へといくつも登場する。例えば、2001年9月11日の同時多発テロ、1963年のジョン・F・ケネディ大統領暗殺、2013年にテキサス州ウェーコ近郊の肥料工場で起きた爆発事故、1995年のオクラホマ州連邦政府ビル爆破事件、小児性愛に関する陰謀論「ピザゲート事件」、架空の秘密結社「イルミナティ」、飛行機雲が有害な人工物質であるとする陰謀論「ケムトレイル」、各種ワクチンに対する疑い、世界を支配していると噂される秘密結社「フリーメイソン」、2012年のコネチカット州サンディ・フック小学校で起きた銃乱射事件、2012年のコロラド州オーロラの映画館で起きた銃乱射事件、2017年のラスベガス銃乱射事件、といった内容だ。

    今回の研究結果から判断して、オルブライト氏は、陰謀論というジャンルがYouTubeのビデオ文化に深く根付いてしまっているため、根絶はほぼ不可能だろう、とした。

    オルブライト氏は、BuzzFeed Newsに対し「YouTubeは、すでに陰謀論者を優遇させている。私はそう思う」と述べた。「集計データ内にあった本物の暴露ビデオは、一握りだけだ。これでは、虚偽の主張と噂に関する数千本もあるビデオの埋め合わせにならない」(同氏)

    さらに、オルブライト氏は、こうしたビデオが急増すると、同様のコンテンツを作るほかの人々をさらに呼び寄せてしまう、という問題も指摘し、「YouTubeが、真実を犠牲にして、アルゴリズムと金銭面でこの種のコンテンツ作成を奨励している」とした。そして、「このことが、適度な状態で落ち着かせることを信じられないほど困難にしている」と主張した。「ジャーナリストと、被害者の親、生存者、事件現場に駆けつけた警官や救急隊員などの事件関係者が戦う相手は、YouTube上のコンテンツだけでない。YouTubeのアルゴリズムとも戦っている。最初の段階では『急上昇』段階で、続いて検索とおすすめの段階で戦う」(同氏)

    これら陰謀論ビデオのどれだけがYouTubeの広告プラットフォームで収益を上げているのかについては、今のところオルブライト氏のデータからではよく分からない。同氏はほかの研究者と協力して、陰謀論ビデオのマネタイズについて解明しようとしている。

    なお、2月25日時点でYouTubeからのコメントは得られていない。



    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:佐藤信彦 / 編集:BuzzFeed Japan